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【随筆】日曜日が成立する3点セット

    日曜日だった。

    川沿いの農道を、特に目的もなく歩いている。
    こういうとき、だいたい僕は歩きながら空想をする。
    いや、空想なんて上品なものじゃない。
    正確には、妄想だ。

    僕は妄想を
    立派な趣味だと思っている。

    歩く、見る、妄想する。
    この三点セットがそろうと、日曜日はだいたい成立する。

    そんなことを考えながら歩いていたとき、
    ふと、足元に視線が落ちた。

    ガードレールのポールが立つ、縁石のわずかな隙間。
    コンクリートとコンクリートの、
    「そこ、空いてますよね?」と言いたげな場所に、
    紫色の小さな花が咲いていた。

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    すみれちゃん

    すみれだった。

    その瞬間、妄想脳が起動する。
    スイッチは早い。
    ほぼ反射だ。本能に近い。

    すみれちゃん物語。

    すみれちゃんのお父さんも、きっとこうだったに違いない。
    散歩の途中で、足元に咲くこの可憐な花に気づき、
    「ああ、なんて健気なんだ」と、
    少し胸を打たれたのだ。

    そして家に帰って、
    「すみれって、いい名前だな」
    そんな一言から、すべてが始まった。
    たぶん、そんな感じだ。

    家に帰ると、
    かわいい奥さんがいた。

    何気ない顔で、
    でも内心はもう、妄想が暴走している僕は、(いつの間にか僕に置き換わる。)
    少し間をおいてから、こう言う。

    「ねえ、もし我が家に女の子が産まれたらさ。
    きっと君に似て、可愛いんだよね。きっと」

    奥さんは、
    はいはい、という顔でこちらを見る。

    「で、その子にはさ、
    すみれ、って名前をつけようよ。
    きっと女の子だから」

    すると奥さんが、
    一拍おいて問い返す。

    「じゃあ、男の子だったら?」

    僕は、
    待ってましたとばかりに即答する。

    「そりゃもちろん、すみお」

    奥さんは一瞬黙り、
    それから、ふっと笑う。

    ああ、
    すみれちゃん一家は、
    きっとこんな、ほのぼのした家庭なんだろうな。

    紫色の小さな花から、
    一家団らんの食卓まで、
    話が飛ぶのに、距離なんてない。

    妄想脳とは、
    際限なく広がる宇宙だ。

    この小さな花が、
    僕ら人間に与えてくれる、この想像力。
    この、妙に話を広げさせる力。
    まさに、神秘だ。

    そして、ふと、よぎる。
    いったい、どこから運ばれてくるんだろう。

    そう思った瞬間、
    もう、調べずにはいられなくなった。

    散歩を切り上げ、
    少し早足で、いや小走りモードで帰宅する。
    妄想は、調査フェーズに入ると厄介だ。

    百科事典には、こう書かれていた。

    スミレが繁殖域を拡大するとき、
    アリが大きく関与している、と。

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    あり

    種には栄養分がついていて、
    それをアリが巣へと運ぶ。
    結果として、スミレは人知れず、
    少しずつ、生息域を広げていくのだという。

    なるほど。
    理屈はわかった。

    でも、
    ここで僕の妄想脳が黙っているはずがない。

    ということは、だ。

    すみれちゃんに、
    働きアリ君たちは、
    メロメロにされている、ということじゃないのか。

    あの小さな紫色に、
    栄養分という名の魅力をぶら下げられて、
    気づいたら巣まで運んでしまう。

    働きアリ君たちも、
    きっと今日の僕みたいに、
    歩いている途中で、
    ふと妄想していたんだろう。

    「この種、かわいいな」
    「なんか放っておけないな」

    そんな感じで。

    もはやこれは、
    生態学というより、
    宇宙を飛び越えたミステリーだ。

    別に、
    アリたちに嫉妬するわけじゃない。

    でも、
    あそこのガードレールの下に咲く、
    あのすみれだけは、
    ちょっと独占したい気持ちになる。
    今すぐに、ガードレールまで戻って、働きアリたちを踏み潰してやろうか!そんなサスペンス的な衝動さえ、よぎる。

    人もアリも、
    どうやら同じようなところで立ち止まり、
    運ばされ、
    そして勝手に物語をつくっているらしい。

    日曜日というのは、
    だいたい、そういうものだ。
    今日も、歩く、見る、妄想する。
    この三点セットがそろい、日曜日は成立する。

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    はじめまして。妄想が趣味です。 どうでもよさそうなことが、なぜか気になります。 気になったら調べます。そして、だいたい余計なことを考えます。 詩を書いたり、物語を書いたり、料理をしたり、酒を飲んだり。 宮古島生まれ、沖縄在住。

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