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#2「ブルーアイド・ピーチファズ」

    第一話

    第二話

    高羽大翔は焦っていた。
    高羽がいつも通り学校についたとき、明らかにクラス中が騒がしいことにすぐに気づいた。聞きたくもなくてもすぐにその原因は耳に入ってくる。

    「古典の大倉先生が、死んだらしい」

    それを聞いた瞬間、高羽は立ち上がり別のクラスへと向かった。
    教室に入る前に、中にいた北原征矢と目が合った。北原は友人との会話をやめ、すぐに立ち上がり廊下に出てきた。

    「大倉先生の件、聞いた?」
    「当たり前だ、こんだけ噂になってる」
    「…どうする?」
    「…どうするも何も、放課後また集まって話すしかないだろ」
    「あのメンバーで?」
    「それ以外に何があるんだよ」
    「わかった」

    北原はすぐにスマホで連絡をした。
    『放課後、2-A教室に集合で』

    「これでいいだろ、今は話せない。あとは放課後な」
    「…わかった」

    放課後になり高羽は2-A教室に入ると、すでに北原征矢、東美羽、宮本結衣、成本樹、奥野莉子の5人は集まっていた。

    「遅かったな」
    「ごめん、うちだけホームルームが長くて」
    「まぁ、とりあえず座れよ」

    しばらくの沈黙のあと、北原が話を切り出した。

    「なぁ、大倉先生が死んだのは聞いただろ。…しかも発見場所は体育備品倉庫だって」
    「…」
    「俺たちが昨日話してた、完全犯罪のプランと同じだ」
    「…」
    「だから…」
    「つまりお前が言いたいのは、この中の誰が大倉先生をやったのかってことだろ?」

    成本がぶっきらぼうに言い放った。

    「言っておくが俺じゃないぞ」
    「俺だって…!」
    「私も…やってない」
    「私も」
    「私だって」
    「僕もやってない」
    「…じゃあなんだ、誰がやったっていうんだよ。この中の人間以外であの方法を思いついて実行したやつがいるってのか?」
    「…事故って可能性も」
    「事故なわけないだろ? なんで俺たちが考えた方法と全く一緒の死に方をしてるのに、事故だなんて言い切れるんだよ」
    「でもなんで…」
    「知るかよ」

    成本はため息をつきながらそっぽを向いた。
    東がそれを見ながらつぶやいた

    「…私たちどうなるんだろう」
    「どうなるってのは?」
    「…もし、警察が事故じゃなくて殺人だと疑って捜査を始めたら?」
    「それは…」
    「ずっとそれが不安だったの。…調べたら、共謀罪とか、殺人ほう助とかになるのかもって」
    「どういうこと?」
    「…ここにいる人、全員が捕まる可能性があるってこと」
    「ふざけないでよ!」

    宮本が立ち上がる。

    「そんなの納得いかない…関係ないのに!」
    「関係ないはないだろ、お前だって昨日楽しそうに考えてたじゃんか」
    「だからって…」

    また沈黙が流れる。
    言いにくそうに、奥野が話しはじめる。

    「ご、ごめん。このあとバイトがあって…行かないと」
    「行ってる場合かよ!」
    「でも…」
    「…しょうがないだろ」
    「この状況だぞ?」
    「俺だって陸上に顔出さないといけない。…それにここで今話しても、解決しないだろ」

    成本は舌打ちをする。

    「…とりあえず、みんな何もなかったようにこのまま過ごすしかないんじゃない?」

    高羽の言葉には誰も返さなかったが、沈黙が同意だった。
    申し訳なさそうに奥野がまず帰り、そのまま全員はゆっくりと別れた。

    奥野莉子は恐怖していた。
    バイトに向かう道すがら、これからどうなるのかと不安に思っていた。
    何より、古典の大倉が死んだという事実を知った”母親”がどんな感情になっているか、それを心配していた。
    バイト先のファミレスに着き、制服に着替えてもその不安はぬぐえなかった。

    「奥野さん、今日いつもよりぼーっとしてるよ? 大丈夫?」
    「あっ、すみません」

    バイト歴の最も長い黒沢さんの嫌味にも、うつろな状況は変わらなかった。
    耐えるように仕事をしていると、古びたコートを着たおじさんが現れた。そのおじさんは手帳を見せながら

    「すみません、店長さんですか? 私刑事の高田というものです。ここに奥野莉子さんって方働いてらっしゃいますかね」
    「あぁ、はい、いますけど」
    「ちょっとお話お伺いしたいんですがよろしいでしょうか? 別に彼女が何かしたってことではなく、ある事件のことでお伺いしたいことがありまして」
    「わかりました、奥野さん!」
    「…はい」
    「こちら、刑事さん。ちょっと話聞きたいんだって」
    「…はい」

    奥野は逃げ出したかった。

    「あそこの席、空いてるんで使ってください」
    「すみませんね」
    「いえいえ」

    店長が去ったあと、高田という刑事は、その古びたコートを雑にたたんでボックス席に投げた。

    「さぁ、座って座って」
    「…はい」
    「ごめんね、急に押しかけて」
    「いえ…」
    「あなたが、奥野莉子さんだよね」
    「はい」
    「ちょっと聞きたかったのはね、あなたの学校の古典の先生の大倉亘さんが亡くなってたってのは、聞いてるよね」

    奥野の心臓は叫びだしそうなほど震えていた。

    「…はい」
    「そのことで、ちょっと聞きたいことがあって」
    「…なんですか?」
    「あのね、あなたのお母さんと、大倉先生が交際してたってのは、知ってる?」
    「…はい」
    「…何か、二人の間でトラブルとかは、なかった?」
    「…トラブル、ですか?」
    「うん、喧嘩とか、何か」
    「…なかったと思いますけど、どうしてですか」
    「いや、昨日の事件、事故だと思うんだけど、どうにも引っかかることがあってね」
    「それって…殺人とかって…ことですか?」
    「違う違う、まだわからないんだけど。もちろん事故じゃなくて自殺とか、そういうことも含めて広く捜査してるのよ」
    「…そうなんですか」
    「うん、それで、例えば喧嘩してた、とか。何か些細なことでもいいんだけど教えてもらえないかなって」
    「特に…なかったと思います。私の知る限りでは」
    「そうか…。大倉先生は家に来てたの?」
    「…はい」
    「…ごめんね、わかった。何か思い出したらここに連絡して」

    高田は名刺を差し出した。

    「じゃあ、また何かあったら」

    高田は、店長にお礼を言って去っていった。
    奥野は出たのを確認すると、はぁーっとため息をついた。
    どう対応すれば正解だったのか、とりあえずの正解は出せたのか、が頭のなかでぐるぐるしていた。

    その日はその他にあまりお客さんは来ず、黒沢さんからまた2、3口嫌味を言われ、バイトを終えた。
    家に帰ることも、それはそれで憂鬱の種だった。

    家に着くと、物が散乱したリビングに母親が泣きながら床に座っていた。

    「…ただいま」
    「…ただいまじゃないわよ、知ってるでしょ?」
    「…うん」
    「…うんじゃないわよ、なんとか言いなさいよ!」
    「…ご、ご愁傷様―」
    「そんなこと聞きたいわけじゃない!」

    母親は近くにあったティッシュ箱を投げた。
    が、外れてカウンターキッチンの上に置いてあったガラス細工が落ちて割れた。
    ぱりん、という音のあと、母親はまた声を上げて泣き始めた。
    奥野は黙って割れたガラス細工を拾い上げた。
    その瞬間、指を切ったが何も言うことはできなかった。
    ガラス細工をまとめてゴミ箱に捨て、絆創膏を取って黙って自分の部屋に向かった。

    自分の部屋に入り、またはぁーっとため息をついた。
    涙は出なかった。

    次の日、学校に行きクラスに入ると、普段と違う目線が刺さってきた。
    それを無視して黙って自分の席に向かい、準備をしているとその目線を向けていた高崎が近づいてきた。

    「ねぇ、奥野さん昨日刑事に事情聴取されてたってほんと?」
    「…え?」
    「いやファミレスで昨日大倉先生のこと調べてた刑事から事情聴取うけてたの見たって子がいてさー。ほんとに?」
    「…うん」
    「え、なにどんな質問されたわけ?」
    「…いや、何か大倉先生のことで知ってることはないかって」
    「違うでしょ?」
    「…え?」
    「聞いてるよ、あなたのお母さんと大倉先生付き合ってたんでしょ?」

    クラスにどよめきが起きる。

    「ねぇ、そうなんでしょ?」
    「…知らない」
    「しらばっくれないでもいいじゃん。てか、事情聴取されたってことはさ」
    「…」
    「大倉先生殺したのあんただったりしないの?」
    「…」
    「なに、なんで黙ってんのよ」
    「おい、言い過ぎだろ!」
    「…なによ」

    それを見ていた男子の釣埼から止めが入る。
    奥野に、それを聞く余裕はなかった。
    奥野は急に立ち上がる。

    「…なによ」

    そのまま奥野はクラスを出ていった。
    目的はなかった。
    ただそこに居たくなかった。
    居る場所がなかった。

    奥野はそのまま屋上に上り、寒空の下で立っていた。
    家にも、学校にも、バイト先でもどこにも居れないなら、消えてしまえばいいと思った。

    『屋上から事故に見せかけて落とす?』

    屋上から落ちる想像をした。
    思っていたより、恐怖がなかった。

    「おい、待ってよ」

    奥野は声に驚いた。
    振り向くと、屋上の入り口に高羽が立っていた。

    「ねぇ、早まらないでよ」
    「…なにが?」
    「なにがって…」
    「わからないでしょ? 私の気持ちなんて」
    「…さっき、クラスで高崎さんが言ってたこととかは聞いてた」
    「…ここから落ちたらどうなるのかなって考えてた」
    「…」
    「死ぬかもしれないし、雪に埋まって、そのままゆっくり凍って死んじゃうかもって」
    「…」
    「大倉先生もゆっくり死んだのかなぁ、とか、そんなことを考えてた」
    「…」
    「私もゆっくり消えてなくなりたい」
    「奥野さん」
    「…」
    「奥野さんのせいじゃないよ」
    「…なに?」
    「奥野さんのせいじゃないんだ」
    「…なんなの、それ」
    「だってそうだから」
    「…」
    「…だから、奥野さんが一人で抱え込んで、死ぬ必要はないよ」
    「なにそれ」

    奥野は涙を流していた。

    「…なにそれ」

    奥野は崩れ落ちた。
    高羽は走って寄り添い、着ていたアウターをかけた。

    放課後になり、同じ教室で6人は集まっていた。
    高羽が一番に話し出した。

    「ねぇ、もっとみんなで団結する必要があると思うんだ」
    「団結? 誰が殺したかわかんねーんだぞ」
    「それはわかってる。わかってるけど」

    成本の攻撃的な意見を聞き、高羽は奥野を見ながら

    「それでも、僕らは話し合わなきゃいけない」
    「…」
    「だって、僕ら全体にも責任は少なからずあるから」

    6人は顔を見合わせた。

    「だから、話し合おうよ。それぞれにもし、大倉先生を殺す理由があるのなら」

    6人は黙りこんだ。
    その瞬間、高羽のスマートフォンが鳴った。
    高羽が見ると、一通のメールが届いていた。

    『あなたたちが大倉先生を殺したんでしょ?』

    その一文だけのメールが届いていた。

     
     
    脚本家(Colorful Holiday所属)。冬に雪でトウセツと読みます。最近スリーカードプレイというしばりを設けた脚本制作をやってます。

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