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【自作小説】ホワイトケイク②

    ◯前へ


    街は白く包まれていく。
    雪は淡い僕たちの心ごと真っ白に染め上げる。
    それらはゆっくりと地上に降り立ち、僕たちに何を残してくれるだろうか。
    マイペースな氷の粒は、まだ、何も答えてはくれなかった。

    11月5日(火)

    先週、俺たちの街で初雪が降った。例年よりも早いらしい。
    とは言ってもその日降っただけなので、雪は積もらず、俺は今日も自転車で登校してきた。
    しかし気温に関して言えば週末で一気に寒くなり、昨日から手袋やらカイロやらを持っていくのが習慣となりつつある。
    自転車を置いて息を吐いてみる。
    まだ白くはなっていない。
    まだまだ本番はこれからかな、と一人呟き乾いた空を見上げながら教室へ向かった。

    「三学期は3年生0学期と言われて、みんなが勉強を始める頃ですが、それでは全国のライバルに追いつけないので、今回の定期考査からー…」
    HR中、担任教師が二週間後の中間テストの開催を告げていた。
    受験ねー。
    大学など、いまだに他人事のように捉えている俺は、ペンを回しながら昨日やるのを忘れた数学の宿題に取り組んでいた。
    …が、全く手が進まなかった。
    無論、何をどう解けばいいのかわからないのである。
    最近、AIにその問題について、5、6回以上説明してもらわなければわからないということが増えてきた。
    俺は確実に危機的状況の中にいるのだ。
    「…勉強、するか…。」
    その日、放課後に学校に残ることに決めた。

    「と、言うことで…勉強教えてくれっ。この通りだっ!」
    昼休み、気づくと俺は天才少女、関根浜子に頭を垂れていた。
    「えー!?ちょっとちょっとっ。そんなことしなくていいって!普通に手伝うよー!」
    浜子は、屈託のない笑顔で快く承諾してくれた。
    俺は、なんて恥ずかしいやつなんだ…。
    その後、情けなくひっそり昼飯を食べる俺の姿があったとさ…。

    放課後になり、俺と浜子は空き教室で一緒に勉強することになった。
    俺がわからないと言った箇所を丁寧に教えてくれるそうだ。
    たった今化学を始めたのだが、俺はすぐに浜子にSOSを出した。
    ウサインボルトよりも早かった(「速かった」の方がいいのか?)。
    「なあ、浜子よ。この、『平衡が移動する』というのはどういうことだ?」
    「んー?どれどれ〜?」
    そう言い、天才女は肩を寄せて問題文をのぞく。
    「えーとねぇ、まず、ルシャトリエの原理ってわかる?」
    「全然わかりません」
    「じゃあそこからだね」
    浜子は自身のノートを取り出して、文字やら図を書き始めた。
    その動きはまるで工場の溶接ロボットのようだった。
    「とりあえず、最初に平衡ってゆーのは、バランスが保たれてるってイメージを持って!」
    「ふむ」
    「で、例えばなんだけど、このHIの生成の化学式で、これのおかげで発熱反応が起こるよね。この時、温度を上げたらどうなると思う??」
    「?HIがより増えるのか?」
    「違う違う!ほら、さっきの『バランス』!」
    「ん。ああ、暑さがこう…なんというか…えと…」
    俺は両腕でシーソーを作る。
    熱量が偏っていることを表現したかった。
    「あはは!うんうん!そうだよ、そういうこと。」
    滑稽だったからなのかイメージがつたわったからかわからないが、浜子はにこにこわらった。
    「でさ!それをバランスよく戻すにはどうしたらいいかな?」
    「温度を下げる」
    「そーそー!そういうことだよ、トーマくん!」
    今度は満面の笑みを見せてくれた。
    「反応は温度を下げる向きに変わるから、HIの生成の反対の、元のHとIの分解反応が起こるんだよ。」
    「吸熱ってやつか?」
    そーそー、と浜子が大きくうなずく。
    「これが、ルシャトリエの原理で、平衡の移動だよ!平衡状態のバランスを整えるために起こるのが、この移動ってやつなんだよ」
    「なるほど!感謝するぜ」
    「あ、でも、問題では必ずしも量が増えると明記されてないからね!そこは自分で考えるんだよ!」
    「おーけぃ!さあ、さっさとこのワークを終わらせるぜっ」
    俺は颯爽と解答欄に鉛筆を走らせていく。
    今の俺を誰も止めることはできない…!
    「(3)は、えーと…え、何。圧力が…え?」
    突如として手と頭が止まる。
    『問題では必ずしも量が増えると明記されてないからね!そこは自分で考えるんだよ!』
    「…。」
    何秒か前の浜子の言葉が体中に響く。
    「浜子さん…助けてください…」
    俺はすっと手を挙げ涙を浮かべながら助けを求めた。
    でも、流石に今回はウサインボルトに追い越されたんじゃないかな。ははは…

    その後も俺は天才少女を奴隷のようにこき使い、彼女の時間と気力を浪費し続けた。
    浜子が絶えず笑顔でいたのは、とても心苦しかった。
    …じゃあ、もっと遠慮しろということなのだが…。
    辺りも暗くなり、俺は申し訳程度に今日のMVPにドリンクを奢った。
    彼女はブラックコーヒーが好みらしい。
    別れた後、俺もホットコーヒーを買ってみる。
    「うぇぇ…くそまじい…」
    俺はどこまでもカッコ悪かった。

    11月6日(水)

    「…以上で持ち物の方は大丈夫かしら。」
    「おっけー!」
    「いいと思いまーす」
    毎週水曜の探究学習だが、今日は以前話していた通り、北環境大学へ取材に行くこととなった。
    もちろん、授業中は話し合いや準備のみである。
    「次に役割の確認ね。そうね、関根さんと私が大学の人たちに質問していくわ。北沢君はメモ取りなさい。」
    「いいんちょー、俺だけほぼ雑用じゃありません?もしかしてハブリ?イジメ?あーあ、先生に報告しちゃおったかなー。」
    俺はわざと声を張り上げ煽りにかかる。
    いつも馬鹿にされてる分を返させてもらうぜっ。
    「えー?トーマ君、アタマ悪いし質問無理でしょーハハハー!」
    突如、天才少女があらぬ方向からフックを仕掛けてきた。
    そういや、俺、こいつのこといっつも小馬鹿にしてたな…。
    思わぬ報復にまだ混乱している。
    「どうやら、私が出るまでもなかったようね。」
    雪菜さんは、その凜とした鼻の穴が見えるくらい角度をつけて顔を上げて、俺を見下ろし嘲る。
    どうやらこの班の中では圧倒的な階級差が存在するらしい。
    …これを読んでる暇人の方々、代わりに俺用に市民革命起こしてくれませんか?

    放課後、俺たち3人は大学に訪問した。
    北環境大学の偏差値はちょうど中くらいらしい。
    俺の前を悠々と歩いている女王二人には何とも思われないような難易度であろうが、俺にとっては東京の都京大学(偏差値72)も同然なのである。
    じゃあ都京大学は何と肩を並べいるのか、という問いは御法度だぜ、はは。
    徒然なるままに歩いていき、俺たちは大学の中へと入って行った。
    「徒然なるままに」は最近国語で習ってとても好きなフレーズになった。これからもまた使う予定。

    「初めまして、第三台地高校の槙野です。本日はよろしくお願いします。」
    さっきまで恐怖政治を行なっていた委員長が、教授らしき人物に、先陣を切って挨拶をする。
    「こんにちは、私は社会学部で教授をやっています、外崎です。」
    「今回は、かくかくしかじか…」
    「わかりました。では、あちらの、かくかくしかじか…」
    雪菜さんと教授が何かの打ち合わせをしている。
    俺は下を向いて、床の絨毯の模様を見ていた。
    その後、俺たちは奥の部屋に呼ばれた。
    そこでは、何人かの生徒たちが地図やらグラフやらを見ながら真剣に話し合っていた。
    「今、生徒を呼んできますので、少々お待ちください。」
    やがて教授が一人の女学生を連れてきた。
    彼女は、黒髪のローポニーテールで、冬場に反してグレーの肩出しトップスを着ている。
    「内田優子です。大学三年生です。よろしくね。」
    優子さんは柔らかい笑顔で迎えてくれた。
    「めっちゃきれーじゃん、あの人!」
    浜子が耳元でこそこそ話す。
    「優子君はここの観光について調べていてね、きっと力になってくれると思うよ。」
    教授がさらに優子さんについて紹介してくれた。
    それを聞いたのち、よろしくお願いします、と俺たちは挨拶をした。

    「へー、そっかー。君たちも観光問題について調べてるんだ。」
    「はい、そこであらかた資料の読み込みや聞き取り調査などをおこなったのですが、もう少し深く切り込んで行きたいと思いまして…。」
    「何かアドバイスありますかねー?」
    女性たちが有意義な話し合いをしている。すごくいい匂いがする。
    俺はというと3歩離れてメモを取り続けているばかりなのである。
    優子さんはとても美しかった。
    高校生男子が憧れを抱く女子大学生のイメージのど真ん中みたいな人だった。
    俺は紙と睨めっこをしていた合間に彼女を見つめていると、ふと優子さんと目が合った。
    俺が固まっていると、また優しい笑顔が返ってきた。
    「君は何か質問、ある?」
    彼女がポツンといた俺に語りかけてくれる。
    「えーと…」
    俺は重い口を開き、言葉を続ける。
    「シャンプーとか何使ってるんですか?」
    一瞬で場が凍ったのがわかった。
    周りにいた大学生は口をあんぐりとあけ、雪菜さんと浜子は目を点にしながら俺を睨みつけた。
    あはははっ、と言われた本人は笑ってくれた。唯一の救いだった。

    その後の話し合いは何事もなく終了した。
    今後もまた優子さんらが協力してくれるそうだ。
    俺たちは感謝を述べて大学を後にする。
    帰り道、というか優子さんが校舎に戻った後、俺は委員長と天才児から強烈な粛正タイキックを受けた。
    すごく、痛かった。

    11月7日(木)

    キーンコーンカーンコーン。
    無機質なベルの音が授業の終わりを告げる。
    俺はジャンバーを後ろから取って、机から教科書とプリントを出してバックに突っ込む。
    「さようなら。」
    HRが終わり、バックを背負う。
    「おい、冬馬。」
    少し強めに肩を叩かれる。
    話しかけて来たのは、長田絆人だった。
    彼は、去年からクラスが一緒の友人であり、たまに一緒に下校したり遊んだりしている。
    今日もおそらく遊びの誘いだろう。
    「今日さ、カラオケ行かね?」
    「悪いな絆人。俺は今、金がない。」
    「えぇ?嘘つけ、月の始まったばっかだぜ?お小遣い貰ってんだろ。」
    「お前に使う金がねえの。今、節約中。」
    けっ、と口を尖らせて睨んでくる。
    むかついたので、俺も舌を出して対抗した。
    「で?なんか欲しいものでもあんの?」
    「ゲームだよ、ゲーム。ほら、これ。」
    俺はスマホで気になるものを見せる。
    「うわ。お前、これエロゲーやん。」
    「はぁ〜!?ちげえよ、この野郎」
    けっけっけっ、と小馬鹿にして笑ってくる。
    絆人はこういうものは詳しくないので、にわかな知識でバカにしてくるのだ。
    「全く、迷惑なヤローだ…」

    下駄箱から靴を出し絆人と共に玄関を出る。
    すると、すぐそこに見知った顔があった。
    「あ!トーマ先輩ー、オーサー!」
    元気ハツラツ少女、朝日奈星菜が校門の前に立っていた。
    「おいこら!また俺には先輩呼びなしかよ!」
    絆人は彼女に指を差しながらしかめっつらで迫る。
    でも、ほんとわかんねえな。
    星菜が絆人を先輩呼びしないのは本当に謎である。
    まあ、お調子者のやつには丁度いい名なんだがな。
    「先輩たちは、もう帰りですか?そうなら、一緒に着いて行ってもいいですか?」
    星菜が俺たちに提案してくる。
    俺はいいと思ったが、絆人は、こいつ自分の話を無視しやがった、と言わんばかりにまだ訝しげな顔をして俺を見ている。
    「…まあ、いいだろう。そのかわり、少し寄り道させてもらうぞ?いいな」
    「えー!いいですね!どこ寄るんですか?」
    「えっ、おい、そんなの聞いてねえぞ」
    絆人の急な予定変更に俺は困惑する。
    こいつ、普通に女子と遊びたくなったな?このすけべぇめ…。
    「じゃあヨーヨードーいくぞ!」
    「おー!」
    俺は仕方がなく陽気な二人についていくことにした。
    ヨーヨードーは、学校からだいたい徒歩5分くらいのところにある複合施設だ。
    実は、その中にフードコートがあるので、しばしばそこで食事を済ますことがある。
    俺たちは中にあった店でハンバーガーを買って、席で談笑し合った。

    街が赤く染まり始めた頃、俺たちは解散することとなった。
    絆人は俺たちと反対方向に帰って行った。
    「先輩!今日は楽しかったですね!」
    星菜は身体を前に傾けて、隣で歩く俺の方を向いた。
    「最近部活とかどうだ?勉強はキツくないか?」
    「はい!部活、楽しいです!今サーブ練習してるんですよ!でも…勉強はちょっとですねー…」
    「あーな。ほんと勉強きついよなー。」
    「本当ですよー。この前の英語だって62点で…」
    「…」
    俺は去年のテストが40点くらいだったのを思い出し、何も言うことができなかった…。
    「先輩はどうなんですか?恋愛事情とか聞きたいですー!」
    「ふむ…。俺は全くだぜ、ほんと」
    えー?、と彼女がわざとらしく残念がる。
    「先輩、もうすぐ受験生かー」
    「今のところ、受かる大学無さそうだけどな。」
    二人でささやかに笑い合う。
    「先輩は、夢、ありますか?」
    星菜は夕日を背中にして立ち止まり、俺に身体を向けてそう言った。
    「俺は…そうだな…」
    空気が冷たくなる。
    暖かな赤い光を受けていても、両手は凍ったように動かない。
    「俺はさ、幸せになりたいんだ。例え、貧乏でもさ、上手くいかないことが多くてもさ、結局自分が幸せに感じられたら、めっちゃいいと思わないか?」
    気がつくと俺は、咄嗟に、訴えかけるように未来を語っていた。
    星菜はそれを聞くと一度驚いた顔をしてから、目を細めて優しく微笑んだ。
    「そうですか…先輩らしくていいですね。」
    それから、俺たちは自分たちの家へと別れた。
    頭の中には、彼女の初めて見た表情が離れずにいた。
    夕飯を食べている時も、風呂に入っている時も、寝る時も、あのシーンが反芻していた。

    11月8日(金)

    本日、金曜日、正確には昨日の夜から雪が降り道路は白く染まった。
    学校では雪が積もってからは自転車での登下校は禁止されているので、今日は電車での通学となった。
    無論、それに従うのは俺だけではなく、車内には大勢の学生が互いの体を押し合いながら乗っていた。
    なにせこんなにも人混みができていて、中がとてもむし暑くなっているので、鼻水を垂らしたり腹をくだしたりする心配は無さそうだ。
    途中、黒のブレザー、他校の制服を着た女子が降りたが、座っていた席にハンカチが落ちていた。
    「あっ、ちょっと、」
    声をかけたがもうすでに彼女は遠くに去って行った。
    黒の滑らかな生地のハンカチだった。
    俺は仕方なくそれを持っていることにした。
    落としていったのは、黒髪でボブカット、でかいマフラーをしたやつだった。

    今日の学食は変わったことに、米、焼き魚、味噌汁、納豆と、まるで朝食のようなメニューだった。
    誰だ、こんな世間知らずな料理をするやつは。
    まあ、美味ければなんでもよいのだが。
    俺は屁理屈を垂れながら納豆をかき混ぜていく。
    しかし、遠心力かなんかで数粒がテーブルに溢れた。
    「あっやべ」
    すぐさま、ハンカチを取り出しきれいにする。
    俺は黒くて綺麗な見覚えのないハンカチで拭いていた。
    「これ落とし物のやつじゃん…」
    その後昼飯を食い終わると同時に水道で念入りに洗った。
    教室に戻ろうとした時、扉の前に関根浜子が佇んでいた。
    「あ!トーマ君だ!ねぇ見て見て!」
    そう言うと自身のツインテールを回し始める。
    「タケコプター2個付け!」
    俺は黙って教室に入った。

    帰りの電車待つ俺を冷たい風が横切る。
    放課後の予定は人それぞれらしく、駅は早朝ほど混み合ってはいなかった。
    キィィと鳴きながら電車は俺たち乗客の前に停まる。
    車内もそれほど人が大勢いるというわけではないらしい。
    しかし、席は一つも空いていなかったので仕方がなく吊り革に掴まり、電車は動き出した。
    俺の目の前に座っていたのは、ボブカットの他校の生徒だった。
    「いた」
    俺は思わず声を出していた。
    今朝ハンカチを落とした女子だった。
    彼女はこの沈黙を切り裂く声に反応してこちらを見上げる。
    「なんですか?急に」
    その女生徒は警戒しているというわけではなかったが、ブラックホールのような目でこちらを見つめていた。
    「えっと…今日の朝、ハンカチ落としませんでした?」
    「え?あぁ、無くなってましたね。それが?」
    俺はポケットに入れておいた彼女のものと思われる落とし物を取り出す。
    「もしかして、これじゃないですか?」
    彼女は、こくりと頭を振る。
    そして、ありがとございます、とぼそっと呟いた。
    これで無事、ほんの小さいが、事件を解決することができた。
    すると、前の女子はハンカチの匂いを嗅ぎ始めた。
    「なにこれ…臭い…」
    「なにぃっ!?」
    今度は俺を明確に睨みつけていた。
    おそらく、その臭みの正体は俺が落とした納豆だ。
    どうやらあらぬ疑いをかけられているようだ。
    何も悪いことはしていない、いや勝手に使用するのは悪いだろうが、しきりに冷や汗が出始める。
    「いやっ、それはっ!俺が間違えて納豆をそれで拭いてですねっ…!」
    俺は必死に無実を訴える。
    彼女はじぃっとこちらを見つめた後、はぁとため息をついた。
    「まあ確かに、納豆みたいな匂いしますね、これ。」
    どうやら納得してくれたらしい。本当によかった。
    「でも普通、人ので汚いのを拭きます?」
    「は、はぁ…それはごもっともで。」
    正論を言われてしまった。
    俺が始めた物語なので、何も言い返せなかった。
    「でも…ありがとうございました。」
    それでも彼女は感謝を述べてくれた。

    やがて電車を降りる頃になった。
    俺が扉から出ようとすると、先程の女子から声をかけられた。
    「ねぇ、一応名前聞いていいですか?私、冨岡花音、高二です。」
    「俺は北沢冬馬、高二っす。」
    「なんだ、同い年だったんだ。」
    彼女は紹介を聞き終えると肩の力が抜けたように見えた。
    「じゃあ、わかんないけど、またね。」
    花音さんは小さく手を振った。
    彼女をまだ乗せた電車が凍てついた空気を突き抜けるように走り去っていった。

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