
超短編小説 「妻とつくる」
妻とつくる
智(とも)
僕の妻はバンドを組んで歌っている。オリジナルをやる。曲はギターの男性が担当し、歌詞は妻と僕とでつくる。曲が先にでき、妻がそれを聴いたイメージを僕につたえ、僕が言葉にする。妻は、「あなたはわたしのアイディアを詞にしているだけだ」などと言ったりもするので、「アイディアなんてものはそれだけあっても作品にはならないんだよぉ」と僕も言い返す。僕の本職はフリーのライターで、雑文全般を引き受けている。想像力、は自分で言うのもなんだがあんまりないようだ。だから妻の奇抜でカラフルなイマジネーションにはじっさい舌を巻いている。たしかに妻のアイディアを僕は言葉にしているだけなのだ。彼女がそのハスキーな声で歌うと、単語の一つ一つがきらめき、躍動するのがわかる。ステージで輝いている妻を見るのが、僕の生きがいだったような気がする。
だから妻が自動車事故で死んでしまったとき、生きていく気力を失ってしまった。雑文書きの仕事もみな断った。音楽仲間との関係も断った。一日中ベッドに潜りこんでいた。際限もなく僕は眠りつづけた。
ちょうど半年が過ぎたころだ。突然、頭のなかに奇抜でカラフルなイメージが舞い降りてきた。なんだこれはと思った。イマジネーションは止まらなかった。一つ一つが青や黄色や緑の光を放っていた。それはひどくなつかしい、いとおしいものだった。布団を蹴って跳ね起きた。パソコンに向かった。イメージにかたちを与えた。言葉にした。出来上がったものを読んでみた。あぁ、と思った。これは、と気づいた。机の引き出しの奥から携帯電話を取り出した。半年ぶりに音楽仲間へメールを打った。また、書かせてもらえないか、と。
斬新でカラフルなイメージはいまも来つづけている。新しく入った女性ヴォーカルが歌詞となったそれらの言葉を歌っている。いろいろな歌手がカヴァーもしてくれるようになった。だけど僕の耳の奥では、妻がハスキーな声で幸せそうに歌っている。
僕たちふたりでつくる、僕たちふたりの歌を。