
派遣20年の風景|Excelを教えてくれた人
20年前。外資系の会社で、初めて派遣で入った職場だった。
左隣の席に、30代後半の男性上司がいた。
ポロシャツにチノパン。中肉中背、身長175センチくらい。
座るとき、背中を丸めて画面に顔を近づける人だった。
パーティションにはお子さんの写真が貼ってあった。

その人が、私にExcelを教えてくれた。
教え方が独特だった。
私のモニターじゃなく、自分のモニターで実演する。マウスは自分で握ったまま。
私は身体を左に傾けて、その画面を見つめながら頭の中で映像化していた。
「できますよー、簡単でーす」
何かを教える前に、必ずそう言う人だった。
Excelの関数も、ファイル整理のコツも、面倒な定型業務の片付け方も、全部「簡単でーす」から始まった。
実際には、簡単じゃなかった。
少なくとも当時の私には。
でもその人は、こちらが分からない顔をしても、急かさなかった。
雑談を挟みながら、もう一度同じ操作をする。
昨日見たドラマかお笑いの話をしながら=VLOOKUPと打つ。
私は身体を左に傾けたまま、横目で盗む。
気がつくと、画面の中では数字が揃っていた。
メモなんか取れなかった。
雑談の合間に操作が終わってしまうから、目に焼き付けるしかなかった。
そうやって、目で見て覚えるというやり方が、その後の派遣人生でスキルになろうとは。
その職場には4年半いた。
2年目のことだ。
正社員のオファーがあった。
ただ、2年先輩の派遣の人が先で、その人が断らなかったから私には回ってこなかった。
当時はそういう謎ルールがあった。
別の派遣先に移ってからも、誰かの画面を見ながら、新しいスキルを盗む。

20年経った今でも、Excelを教えてくれた左隣の人には、感謝しかない。