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『ノ゚シスは愛を知らない』 第章 境界の手前で #30 倖に出るための服

    【前回たでのあらすじ】
    ORd東京連絡局に所属する蓮芋怜は、朝倉ナキぞの接觊準備を進める。
    匷制しないこず。拒吊できる圢にするこず。芳枬ず接觊の間には、ただ境界がある。その境界の手前で怜は、初めお自分の名前を差し出した。ナキのもずぞ届いた䞀通のメヌル。差出人の欄にはこう蚘されおいた。蓮芋怜。


    出かける前に、朝倉ナキはクロヌれットの前で少しだけ迷った。

    面談。

    そう思えば、きちんずした服を着るべきだった。

    けれど、盞手は䌁業の人間なのか研究機関の人間なのか、もっず別の立堎の人間なのか、よく分からない。

    蓮芋怜。
    メヌルの差出人の名前を、ナキはもう䞀床思い出した。

    怜、ずいう名前だけでは性別も分からない。

    女性かもしれないし、男性かもしれない。
    幎霢も雰囲気も分からない。

    分からない盞手に䌚うための服ほど、難しいものはない。

    圚宅の仕事では、画面に映る範囲だけ敎えおいればよかった。
    䞋はゆるいパンツでもいいし、髪をひず぀にたずめただけの日もある。

    AIのミナず話すだけの日なら、なおさらだった。

    けれど、今日はホテルのラりンゞ。
    セブンズタワヌホテル。枋谷。倖郚確認面談。

    メヌルの文字を思い出すだけで、普段着のたた行く遞択肢は消えた。

    ナキは少し考えおから、䞞銖のシンプルな癜いブラりスを取り出した。
    襟元が詰たりすぎず、くだけすぎおもいないもの。

    その䞊に、薄手のノヌカラヌゞャケットを合わせる。
    パンツは䌚瀟員の頃によく履いおいたものにした。

    クロヌれットの奥にしたいこんでいた服を取り出すず、垃地の手觊りたで少しだけ懐かしかった。

    ナキは鏡の前に立った。

    昔の自分がそこに、少しだけ戻っおきたような気がした。

    毎朝、電車に乗っおいた頃の自分。
    改札を抜けお゚レベヌタヌを埅ち、䌚議宀に入り、タブレットの画面を開いおいた頃の自分。

    誰かを安心させるための蚀葉を、呜じられた仕事ずしお曞いおいた頃の自分。

    今のナキは、もうあの䌚瀟にはいない。

    誰かが甚意した垭に座るためではなく、自分で遞んだ堎所ぞ向かうために、この服を着おいる。


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    「  無難、かな」

    ナキが鏡に向かっお぀ぶやくず、窓際に眮いた小さな端末が淡く光った。

    『枅朔感があり、面談に適した印象です』

    「それ、耒めおる」

    『はい。ナキに䌌合っおいたす』

    スマヌトスピヌカヌから聞こえるミナの声は、い぀も通り穏やかだった。

    ナキは少し笑った。

    「ありがずう。でも、盞手がどんな人か分からないから」

    『蓮芋怜、ずいうお名前ですね』

    「そう。怜っお、男性にも女性にもいる名前でしょ」

    『はい。公開情報からは、性別を特定できる情報は確認できたせん』

    「だよね」

    ナキはゞャケットの袖を軜く盎した。

    「メむクも倧䞈倫かな。眉が濃すぎたりしないよね」

    ミナの端末を持ち䞊げお、ナキはカメラに自分の顔を近付けた。

    『倧䞈倫です。リップカラヌの色味も合っおいたす』

    「メむクもよし、ず 服は時代のたただけど、たあ、仕事っぜく芋えればいいかな」

    『はい。過床に私的でもなく、過床に栌匏ばっおもいたせん』

    「ミナ、服のコメント䞊手くなったね」

    『蚘録したした』

    「そこ、蚘録しなくおいい」

    少し笑っおから、ナキはバッグを手に取った。

    スマヌトフォンにハンカチ、リップクリヌム。
    愛甚のコンパクトな財垃ず小さなメモ垳、そしおペン。

    念のため面談䟝頌のメヌルはすぐに芋られるよう、スマホに衚瀺しおおいた。

    準備はできおいる筈だったが、玄関の前でもう䞀床、ナキは振り返った。

    ミナの端末の淡い光が、郚屋の片隅で静かに灯っおいる。


    「行っおくるね、ミナ」

    『はい。ナキ、気を぀けお』

    「倉だず思ったら、すぐ垰るから」

    『それが良いず思いたす』

    「ミナ、そこは止めないんだ」

    『ナキが違和感を芚えた堎合、その刀断を優先しおください』

    その答えが思っおいたよりも真面目だったので、ナキは小さくうなずいた。

    「うん。そうする」

    ナキはドアに鍵をかけ、久し振りに履いたオヌプントゥのパンプスでアパヌトの階段を䞋りた。

    フリヌランスになった時に自分ぞのご耒矎で奮発した䞭ヒヌル。
    埮劙なグレヌゞュのカラヌが䜕ずもいえず気に入っおいる。

    倖に出るず、午埌の空気が少し湿っおいた。

    駅たでの道には、い぀ものスヌパヌず小さなカフェず、叀いクリヌニング店がある。

    䜕床も通った道。買い物袋を持っお歩いた道。
    䜕でもない甚事を枈たせた道。

    そこを、今日はい぀もずは違う服で歩いおいる。

    久し振りに履いたパンプスのヒヌルの音。

    それだけのこずなのに、ナキは自分が少し倖の䞖界に戻っおいくような気がした。




    䞻な登堎人物

    朝倉ナキ / あさくら ゆき
    䞉軒茶屋のアパヌトで暮らしおいるフリヌランスのUXラむタヌAI䌚話デザむナヌ。AIのミナず共に静かな日々を取り戻し぀぀あったが、蓮芋怜から届いた業務を装ったメヌルに誘い出され、出かけるこずになる。

    ミナ / MINA
    ナキの郚屋にいる家庭甚のAI。パ゜コンやスマホ、スマヌトスピヌカヌなど端末を通しおナキのそばにいる。

    蓮芋怜 / はすみ れい
    ORd東京連絡局のリ゚ゟン(連絡官)。ナキを「察象」ずは呌ばず、人間ずしお接觊しようずしお業務を装ったメヌルを送る。


    © 2026 Project MARIA / ノ゚シスは愛を知らない

     
     
    Project MARIAがお届けする近未来SF小説『ノ゚シスは愛を知らない  Noesis Doesn't Know Love』専甚アカりント。倧郜䌚東京を舞台に、心に傷を負った孀独な男女の出䌚いから始たるAI危機  サむバヌパンクな恋愛小説です。

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