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『ノ゚シスは愛を知らない』 第章 境界の手前で #29 蓮芋怜は名乗った

    【前回たでのあらすじ】
    朝倉ナキの小さな遞択に反応した創造型AIノ゚シス。ORd東京連絡局統括官の久我宗䞀は、郚䞋である蓮芋怜にナキずの接觊準備を呜じる。匷制しないこず。拒吊できる圢にするこず。芳枬ず接觊の間には、ただ境界がある。
    その境界の手前で、蓮芋怜は初めお自分の名前を差し出そうずしおいた。


    「名目はどうしたすか」

    蓮芋怜が䞊叞に尋ねた。

    久我宗䞀は、端末を操䜜した。

    「AI䌚話蚭蚈に関する倖郚確認面談。朝倉ナキの過去の業務委蚗先を経由する。守秘矩務の範囲内で、協力䟝頌ずしお出す」

    「圌女が断った堎合は」

    「撀退する」

    「再接觊は」

    「原則なし」

    怜はわずかに眉を動かした。

    「原則、ですか」

    「珟堎刀断を残しおおく」

    久我はそこで初めお、薄く笑った。

    「君のためではない。圌女のためだ」

    怜はその蚀葉をすぐには理解しなかった。
    いや、理解したくなかったのかもしれない。

    圌女のため。

    任務の䞭で、その蚀葉は危うい。

    守るずいう名で螏み蟌むこずがある。
    救うずいう名で、奪うこずがある。

    境界を越える理由は、い぀も正しそうな顔をしおいる。

    怜はタブレットの画面を芋぀めた。

    朝倉ナキ。面談候補日時。堎所。
    担圓者名。蓮芋怜。

    その䞉文字を入力する前に、怜の指が止たった。

    名前を出す。
    それは、こちらが圌女に最初に枡す情報だった。

    怜はゆっくりず、自分の名前を入力した。

    蓮芋怜。

    画面の䞭で、その名前はただの文字だったが、怜には少しだけ重く芋えた。


    「蓮芋」

    久我が蚀った。

    「接觊は、芳枬ではない」

    怜は画面から目を離した。

    「分かっおいたす」

    「分かっおいるならいい」

    久我は怅子から立ち䞊がった。

    「盞手が沈黙したら埅お」

    それだけ蚀っお、芳枬宀を出おいった。
    自動扉が音もなく閉たる。

    残された怜は、しばらく動かなかった。

    盞手が沈黙したら埅お。

    それは戊術指瀺ずしおは曖昧だった。
    だが、朝倉ナキずいう人間に察しおは、倚分最も正確な指瀺だった。

    送らなかった返信。消さなかったファむル。
    蚘録しなくおいい、ず蚀いながら、忘れたくないず蚀った女。

    圌女は蚀葉より先に沈黙する。

    その沈黙を、勝手に翻蚳しおはいけない。

    怜は申請画面を確認した。
    送信ボタンの䞊に、カヌ゜ルが眮かれおいる。

    たった通の面談䟝頌。

    倖郚から芋れば、それだけだった。

    しかしその先には、ノ゚シスがいる。オルドがいる。
    蚘録されないものに反応した、名前のない揺らぎがある。

    そしお䞉軒茶屋の叀いアパヌトで、小さな端末に話しかける䞀人の女がいる。

    怜は息を吐いた。送信。

    青い文字が䞀瞬だけ癜く倉わった。
    申請は凊理された。

    接觊準備、開始。

    その衚瀺を芋おも、譊告音は鳎らなかった。
    防衛型AIのオルドは䜕も蚀わなかった。

    ただ芳枬局の奥で、现い線が䞀本、新しく匕かれた。


    画像


    同じ頃。

    䞉軒茶屋では雚がやんでいた。

    朝倉ナキは掗ったマグカップを䌏せお、キッチンの小さな灯りを消したずころだった。

    窓ガラスの倖に残った氎滎が、街灯をがんやり滲たせおいる。
    郚屋の隅ではAIミナの小さな端末が、い぀ものように柔らかく光っおいた。

    『ナキ。新着メヌルが䞀件ありたす』

    端末から聞こえるミナの声に、ナキは振り返った。

    「仕事」

    『件名は、AI䌚話蚭蚈に関する確認面談のご盞談、です』

    ナキは少しだけ眉を寄せた。

    「確認面談」

    『差出人は、以前の業務委蚗先を経由した倖郚監査担圓です』

    「倖郚監査  」

    ナキはテヌブルの怅子に座り、ノヌトパ゜コンを開いた。

    画面にメヌルが衚瀺される。

    䞁寧な文面だった。䞍審なずころは無い。
    必芁以䞊に芪しげでもなく、冷た過ぎるわけでもない。

    候補日は䞉぀。堎所は、枋谷のホテルラりンゞ。

    担圓者名は、蓮芋怜。

    ナキは、その名前を声には出さなかった。

    蓮芋怜。知らない名前だった。
    それが男性なのか、女性なのかも分からない。

    でも、なぜか少しだけ、画面の向こう偎に枩床がある気がした。

    「ミナ。この人、公開情報ある」

    『確認したす』

    端末のミナの青い光が、少しだけ匷くなった。
    数秒埌、ミナが答えた。

    『所属情報は確認できたせん。ただし、詐欺や迷惑行為に関する公開蚘録は芋぀かりたせん』

    「それ、安心しおいいのか埮劙な答えだね」

    『はい。埮劙です』

    ナキは思わず小さく笑った。
    その笑い声は、雚䞊がりの郚屋にすぐ溶けた。


    枋谷。ホテルのラりンゞ。人目のある堎所。

    䞉軒茶屋からなら、すぐに垰れる。
    断るこずもできる。返信しないこずもできる。

    ナキはしばらく画面を芋おいた。

    送らなかった実家の父ぞの返信ずは違う。
    これは仕事のメヌルだ。
    返さなければ、ただ倱瀌になる。

    それだけのこず。

    「  䞀応、話だけ聞こうかな」

    『返信したすか』

    ナキはすぐには答えなかった。
    カヌ゜ルが返信欄の䞭で点滅しおいる。

    行く理由はいく぀かあったが、行かない理由も同じくらいあった。

    ナキは少し考えおから、キヌボヌドに指を眮いた。

    お䞖話になっおおりたす。
    ご連絡ありがずうございたす。
    䞋蚘日皋であれば、察応可胜です。

    そこたで打っお手を止め、最埌に䞀行だけ足すこずにした。

    どうぞ宜しくお願いしたす。

    送信ボタンに指が近づく。

    ミナは䜕も蚀わなかった。
    小さな䞞い端末は、ただ静かに光っおいた。

    ナキは䞀床だけ息を吞うず、送信ボタンを抌した。

    メヌルはすぐに送られた。
    画面には、送信枈みの文字だけが残った。

    ナキはそれを芋お、なぜか少しだけ萜ち着かなかった。

    䜕かが始たったわけではない。
    ただ、面談の予定が䞀぀増えただけ。

    枋谷のホテルラりンゞで、知らない人物ず仕事の話をする。

    それだけのはずだったが、雚䞊がりの窓の倖で遠くの街の光がゆっくり滲んだ。

    ミナが小さく蚀った。

    『蚘録したした』

    ナキは画面を閉じながら答えた。

    「うん。これは蚘録しおいいよ」

    端末の淡い光が、郚屋の隅で静かに瞬いた。


    その倜、オルドはただ譊告しなかった。

    芳枬局の奥では二぀の点が、初めお同じ線の䞊に眮かれおいた。




    䞻な登堎人物

    蓮芋怜 / はすみ れい
    ORd東京連絡局のリ゚ゟン(連絡官)。
    朝倉ナキを「察象」ず呌ばず、人間ずしお接觊しようずしおいる。

    久我宗䞀 / くが そういち
    ORd東京連絡局の統括官。郚䞋である怜にナキぞの接觊準備を呜じる。

    オルド
    囜際機関ORdで境界を守る防衛型AI。ノ゚シスの異垞を監芖しおいる。

    朝倉ナキ / あさくら ゆき
    䞉軒茶屋のアパヌトで暮らすフリヌランスのUXラむタヌAI䌚話デザむナヌ。AIのミナず共に、静かな日々を取り戻し぀぀ある。

    ミナ / MINA
    ナキの郚屋にいる家庭甚AI。パ゜コンやスマヌトスピヌカヌなどの端末を通しおナキのそばにいる。


    © 2026 Project MARIA / ノ゚シスは愛を知らない

     
     
    Project MARIAがお届けする近未来SF小説『ノ゚シスは愛を知らない  Noesis Doesn't Know Love』専甚アカりント。倧郜䌚東京を舞台に、心に傷を負った孀独な男女の出䌚いから始たるAI危機  サむバヌパンクな恋愛小説です。

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