
経営の意志を現場の言葉に翻訳する。 わたしが研修で「目的をさかのぼる」ことにこだわった理由。
先日、とある企業さんでVE研修を実施しました。 その時のことを少し書いてみようと思います。
あの研修の、その先で
今回の研修は、以前noteに書いた受講者の方とのご縁から繋がったものでした。
あのときの種が、こんなふうに芽吹くとは……。想像もしていなかった、嬉しい再会からのスタートです。
きっかけは、その企業の社長からいただいたご相談でした。
「来期の事業計画を社員に説明するのに、VEの考え方を使いたい。ぜひ研修をお願いできないか」
テーマは確かにVE。でも、お話を聞いた瞬間、わたしの心にはひとつの直感がありました。
「これは、VEの『手法』を教える場ではないな」と。
上司と打ち合わせをした際も、同じ感覚を共有しました。
目的はVEを理解してもらうことではなく、事業計画と、日々の現場の仕事をつなげること。
そこがずれてしまうと、せっかくの時間も「ただの勉強会」で終わってしまう気がしたんです。
何を足すかではなく、何を残すか
その前提に立つと、これまでの研修設計を一度白紙に戻す必要がありました。
知識を積み上げるのではなく、何を残して、何を削るか。
そこで決めたのは、「VEとは何か」という説明を限界まで削ることでした。
「必要最低限」よりも、さらに思い切って。
ただ、いざやってみると「削る」のは想像以上に勇気がいる作業でした。
短くするだけなら簡単です。でも、削るということは、単に量を減らすことではありませんでした。
全部は置けないからこそ、わたしはVEの何をいちばん大切にしているのか。
何を「核」として渡したいのか。
その取捨選択は、そのまま、わたし自身のVE観を問われているようでもありました。
迷いの中で選んだ「いつもの話」
構成を練り直すなかで、導入の例え話についてもかなり迷いました。
「スーパーマリオの話に置き換えようかな?」と考えたこともあります。
マリオの真の目的は、クッパを倒すことではなく、キノコ王国の平和を取り戻すこと。
「倒す」のは手段であって、目的ではない。
そのほうが、伝わりやすいかもしれない、と。
実際に資料も作りかけました。でも、最後はやめました。
新しく見せることよりも、参加者の皆さんと一緒に「何のため?」をちゃんとたどれることの方が、今のわたしにはしっくりきたからです。
結局、導入はこれまで使い続けてきた「釣り」の例えに戻ることにしました。
目的を二つさかのぼる
その「釣り」の話は、こんな内容です。
釣りをしている人に「何をしてるんですか?」と聞きます。
「魚を釣りたい」という答えなら、アドバイスは「エサを変えよう」「竿を変えよう」といった釣りの技術論になります。
でも、一歩踏み込んで、その人が「魚を獲りたい」と考えていたら?
網を使ったり、罠を仕掛けたり、釣り以外の選択肢がどんどん広がります。
さらに、「魚を手に入れたい」という目的だったらどうでしょう。
魚屋で買う、お店で食べる、誰かに譲ってもらう……。
「釣りをしている」という目の前の光景に縛られず、「何のため?」と目的をさかのぼってみる。
すると、本質的な目的が見えてきて、驚くほど自由にアイデアが湧いてくる。
目的がわかると、自分の仕事の見え方変わります。
見え方変わると、「あ、今のやり方じゃなくてもいいんだ!」と、固定観念の枠がはずれて、仕事のやり方が変わる。
これが、VEが大切にしている「機能(目的)思考」の世界です。
経営の「空中」と、現場の「地面」
なぜ今回、ここまで「目的をさかのぼる」ことにこだわったのか。
それは、経営が描く言葉と、現場の言葉が、どうしても切り離されてしまいがちだからです。
経営層が語る事業計画は、高い場所から見渡す地図のような、美しい「空中の言葉」。
対して、現場の皆さんが向き合っているのは、足元の石ころや土の感触のような、手触りのある「地面の言葉」。
地図だけでは歩けないし、足元ばかり見ていてもどこへ向かっているか分からなくなる。
今回の研修では、まず事業計画を「目的(機能)」という構造に落とし込み、現場の仕事を「何のため?」でつなぎ直していく作業を行いました。
それは、空中の言葉を地面の言葉へと着地させる、「翻訳」のような時間だったのかもしれません。
VEを説明する場ではなく
研修の初日、参加者の皆さんに自分の業務を一つ選んでもらい、「その目的を二つ、さかのぼってみてください」とお願いしました。
提出されたメモを見て、わたしはハッとしました。
同じ部署、同じプロジェクトに関わっていても、一人ひとりが見ている景色が、驚くほど違っていました。
でも、それでいいと思いました。まずは「それぞれが、こんなに違う世界を見ているんだ」と知ることからしか、本当の共有は始まらないと思うからです。
そのバラバラな視点を、一つの「機能系統図」という地図の上に並べて、みんなで眺めてみる。
「あ、そこを目指していたんだね」という静かな納得が、会場に広がっていくのを感じました。
2日目の最後には、各グループで「明日から取り組むこと」を決めて発表してもらいました。
参加者の中心は、組織の要である中間管理職の皆さん。
経営の思いを受け取り、現場の言葉に置き換えていく。
この層の人たちが「翻訳者」になれたとき、組織はどれほどしなやかに、強くなるだろう。
事業計画をもとに、ああだこうだと議論する。
実は、その「時間そのもの」を創り出すことこそが、研修のいちばんの価値だったのかもしれません。
削ることは、自分のVE観を問われることだった
振り返ると、削るというのは、単に余計なものをなくすことではありませんでした。
何を削るかより、何を残すか。
そして、その判断には、自分がVEをどう捉えているかが、そのまま出ます。
VEの説明を減らしているはずなのに、むしろそのほうが、自分のVE観がはっきりとした輪郭を持って見えてくる。
少し不思議で、おもしろい感覚でした。
「VEは、経営の意志を現場の言葉へと翻訳するツールにもなれる。」
今回、わたし自身もVEの新しい可能性を、皆さんから教えていただいた気がします。
この研修の実現につながった受講者とのお話は、こちら。