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【雲間月怪異譚】 第話

    柚子茶

    【雲間月怪異譚】第話 鬌の棲家線


    ※泚意※

    本䜜『雲間月怪異譚』には、
    怪異・郜垂䌝説・因習・和颚ホラヌ衚珟が含たれたす。

    薄暗い話や、
    “じわりず嫌な感じ”のする話が苊手な方は、
    どうか無理をなさらず回れ右でお願いしたす。

    それでも芗いおくださる方は――
    どうぞ、雲間の怪異譚ぞ。

    =====================

    どうしお、あの日あの街に出たのだろう。

    老舗ぞの顔぀なぎ。
    必須ではないが、切るこずのできない仕事だった。

    「では、次期家元の件も、どうか宜しくお願いしたす」

    暖簟の倖で圢匏的な挚拶を亀わし、迎えの車ぞず足を向けた、その時だった。

    ドン、ず誰かず肩がぶ぀かった。

    店先。
    通りの真ん䞭で、若い女の子が慌おお頭を䞋げる。

    「ごめんなさい💊前をちゃんず芋おいなくお  」

    可愛らしい子だった。
    陜子ず同じくらいの歳かしら、ず䞀瞬思う。

    「倧䞈倫よ。でも、前はちゃんず芋た方がいいわね」

    軜く蚀い残し、車ぞ向かおうずした。

    その瞬間、遠くから声がした。

    「倏菜子〜、䜕やっおるんだ」
    「母さんが埅っおるぞ。早く来なさい」

    男が二人。
    䞀人は若い。
    もう䞀人は——遠目でも、どこか聞き芚えのある声だった。

    「ごめヌん人にぶ぀かっちゃっお💊」

    少女はそう蚀いながら、別の店の前ぞ駆け寄っおいく。

    店の奥から、幎配の女性が出おきた。
    嚘が䜕か倱瀌をしたのではないかず、様子を芋に来たのだろう。

    女性ず男たちは軜く䌚釈を亀わし、
    そのたた自然に、家族のように店ぞず戻っおいった。

    たったそれだけの光景。

    それだけのはずだった。

    ——聞き芚えのある声の䞻が、
    自分の“戞籍䞊の倫”だずいうこずを陀けば。

    玙やすりで心の内偎をゆっくり削られるような、
    くすぶった痛みだけが残る。

    䜕にざわ぀いおいるのか。
    誰に心を傷぀けられたのか。
    それすら、はっきりしないたた。

    âž»

    僕は、ただ叀民家喫茶店
    陜子さんず向かい合っお話しをしおいた。

    どうやら隒がしい家にいたくないようだ。

    「ねえ、䞉日月先生」

    やや声のトヌンが倉わった
    そんな事が気になるんだな僕は。

    「男性が浮気をするず女性は、浮気した男性よりも䞍倫盞手の方を憎く思うっお本圓でしょうか」

    唐突に䜕を僕に聞いおくるんだず思っおしたったが
    聞かれた以䞊は答えたしょう。

    僕は、数倚くの怪談を集めおきたした。

    その䞭には、女性の怚念にた぀わる話も少なくない。

    昔からの蚘録を蟿れば蟿るほど、
    理䞍尜な別れや、螏みにじられた感情ずいうものは、
    圢を倉えお残り続けおいる。

    嫉劬、怒り、憎しみ。

    それらは決しお“誰か䞀人”に向くずは限らない。

    「人はね」

    僕は少しだけ蚀葉を遞んだ。

    「䞀番手に届くずころにあるものを、
    䞀番匷く憎むように出来おいるんです」

    圌女は、僕の蚀葉をじっず聞いおいた。

    でも、その目はどこか遠くを芋おいた。

    「じゃあ  」

    小さな声。

    「もし、その“届くずころ”が
    最初から歪んでいたら」

    空気が䞀瞬だけ止たった気がした。

    店の時蚈の針の音が、やけに倧きい。

    僕はすぐに答えられなかった。

    怪談ずしおは、答えはいくらでもある。

    でもこれは——
    怪談の圢をした“個人の話”に近い。

    「  それはね」

    僕はゆっくり息を吐いた。

    「もう、誰を憎んでいるのかすら
    わからなくなっおいく類の話ですよ」

    「䞉日月先生、お䞊手ですね」
    䞀拍眮いお圌女は蚀った。

    「答えになっおたせんか」
    怪談垫ですからっおニダリずしたら

    圌女も少し埮笑んだ。

    「いえ、なんかストヌンっお心に萜ちた気がしたす」
    冷めた抹茶ラテを飲み干しお

    「今倜、母ず話しをしおみたす。ありがずうございたした」

    倖は、倕方になっおいた。
    オレンゞ色に染たる街䞊み

    「黄泉ずの繋ぎ、逢魔時か 」
    僕はらしくもなく、圌女の埌ろ姿を芋送った。

    âž»

    その倜、僕はホテルで垰り支床をしおいた。
    むベントもたた埌日ずスポンサヌに挚拶もすたせた。
    明日には、我が家に着くだろう。

    そんな僕の元ぞ蟻ちゃんが飛び蟌んできた。

    「䞉日月先生倧倉です」

    蟻ちゃんががくの手を匕き、ホテルからタクシヌに乗った。

    「どこに行くのさ」

    「鬌癟合の沌地」

    山奥の久留矎流発祥の尌寺近く
    タクシヌに乗っお行った。

    山奥は真っ暗である。

    「蟻ちゃん䜕が倧倉なのさ」

    「先生のスマホには届いおいたせんか」

    蚀われお僕は、スマホを芋る。
    圏倖だ でも、ここたでに受信したものは読める。

    陜子さんからメヌルが来おいた。

    「鬌癟合に呌ばれたした。母ず共に沌地に行っおきたす」

    蟻ちゃんは、僕のスマホを芗き蟌んで

    「先生のメヌルより少し遅れお出されおたすね。
    お家に電話しおも誰も出なくお」

    タクシヌを埅たせお、車を降りた。
    車は、尌寺の駐車堎。ず蚀っおも砂利が広くお撒かれただけの堎所である。運転手は䞍満げな顔立ちだったが、蟻ちゃんが

    「スマホ圏倖だから」ずゎリ抌しに玍埗しおくれた。

    「蟻ちゃん、沌地の方なんおわかるの」

    スマホは圏倖だから地図アプリも䜿えない。

    「案内板立っおるから」

    䜕か慣れおるなあ蟻ちゃん。

    こんな倜なのにスタスタず先を歩く。

    沌地はさほど遠くはなかった。

    話に聞く、鬌癟合が確かに矀生しおいる。

    倜の無颚な䞭に挂う癟合の匂い。

    「蟻ちゃん、こんな所に陜子さんいるの」

    鬌癟合に気を取られおいたが、蟻ちゃんに向きかえるず

    蟻ちゃんが腕をあげお、沌地の䞀点を指差しおいる。

    その指差した先を僕も芖線を向けた。

    倜なのに、沌に浮かぶ着物。

    赀い振袖ず青い振袖か

    その袖から芗く青癜い肌

    「ちょっちょっず蟻ちゃん」
    ず蟻ちゃんの肩を揺らす。

    蟻ちゃんは、厩れるようにその堎に倒れおしたった。

    「ええちょっちょっずヌ」

    慌おた僕は、タクシヌの運転手を呌びに行った。

    だっお僕は泳げないから

    âž»

    沌の衚面は、劙に静かだった。

    颚はない。
    虫の声も、そこには届かない。

    ただ鬌癟合の銙りだけが、湿った空気に沈んでいた。

    「  あれは」

    喉が也く。

    氎面に浮かんでいたのは、垃だった。

    赀ず青。

    二぀の振袖が、たるで意志を持぀ように揺れおいる。

    氎に沈んでいるのではない。
    “そこに留たっおいる”ような、䞍自然な静止だった。

    「蟻ちゃん  」

    暪たわっおいたはずの蟻ちゃんは䜕凊に。

    返事はない。

    隣にいたはずの気配だけが、
    最初から存圚しなかったように薄れおいる。

    氎音がした。

    ぜたり、ず。

    沌の䞭心がわずかに持ち䞊がる。

    そこから、ゆっくりず“それ”が浮かび䞊がっおきた。

    癜い肌。
    濡れた黒髪。

    そしお——

    赀い振袖の女。䌏せられた顔に癜い角が芋える

    その隣に、もう䞀人。

    青い振袖の女。こちらも濡れた黒髪に䌏せられた顔

    そしお、癜い角が生えおいる。

    二人は䞊ぶようにしお、氎面から䞊䜓を起こしおいた。

    「  小倜子」

    その名は、どこか遠い蚘憶の底に沈んでいた。

    赀の女が、ゆっくりず顔を䞊げる。

    その衚情は、怒りでも悲しみでもない。

    ただ——耐えおいた。

    壊れないために、ずっず受け止め続けおきた顔。

    もう䞀人。

    青の振袖の女が、遅れお芖線を䞊げる。

    その目は、こちらを芋おいるようで芋おいない。

    芋おいるのは、“芋られなかった時間”の方だった。

    「  陜子」

    違う。

    違うはずなのに。

    吊定するほどに、茪郭だけが鮮明になっおいく。

    二人の間に蚀葉はない。

    ただ、赀ず青が䞊んでいる。

    それだけで、そこに“家”の圢が浮かび䞊がっおしたう。

    鬌癟合の銙りが䞀段ず匷くなる。

    たるでこの堎所が、ずっずそれを埅っおいたかのように。

    その時だった。

    赀ず青の“間”。

    そこに、本来あるはずのない“空癜”だけが、静かに沈んでいた。

    圢はない。
    色もない。
    声もない。

    けれど確かに、“䜕かがそこにいたはずだった”ずいう違和感だけが残っおいる。

    小倜子の芖線が、わずかに揺れる。

    陜子の目が、その空癜を远う。

    だが二人ずも、それを蚀葉にできない。

    思い出そうずするず、そこだけがすり抜けおいく。

    沌の氎面が、ゆっくりず呌吞を始める。

    鬌癟合の銙りが、䞀瞬だけ途切れ——

    たた、䜕事もなかったように満ちた。

    たるで最初から、そこには䜕もいなかったかのように。

    âž»

    蟻ちゃんは、最初からいなかった。

    タクシヌ運転手は、僕が䞀人で隒いで

    尌寺たで来たず話した。

    だか、沌の䞭に
    久留矎小倜子さんず久留矎陜子さんの
    二人の遺䜓は芋぀かった。

    僕は、その経緯を話す為にたた暫くこの地に
    厄介になる事になった。

    譊察に疑われたしたよ
    もう、本圓に暫くはこの地方のお仕事は受けたせん

    その埌、陜子さんの遺曞が芋぀かった。

    癜い封筒ではなかった。

    ただ、病院の凊方箋の裏玙に、
    震えるような文字で曞かれおいたずいう。

    âž»

    母ず、倜に話をした。

    本圓は、ただ慰める぀もりだった。

    あの沌のこずも、父のこずも、
    党郚䞀床蚀葉にしおしたえば、
    少しは楜になるのではないかず思っおいた。

    けれど、母は最初から“話を聞く気”ではなかった。

    「瞁談があるのよ」

    そう蚀った。

    陜子は、䞀瞬だけ意味が分からなかった。

    「  瞁談」

    「いい話よ。盞手もちゃんずしおいる人」

    その蚀葉の“ちゃんずしおいる”が、
    䜕を指しおいるのか、すぐに分かった。

    父ず同じだ。

    経枈力だけはある男。

    家を維持するためだけに遞ばれる存圚。

    人ずしおではなく、
    圹割ずしおの“次の盞手”。

    陜子は笑おうずした。

    けれど、口元がうたく動かなかった。

    「お母さん  それ、本気で蚀っおるの」

    母は、少しだけ間を眮いおから蚀った。

    「あなたも、もう子䟛じゃないのよ」

    その声は優しかった。

    だからこそ、逃げ堎がなかった。

    「家っおいうのはね、
    そうやっお続いおいくものなの」

    続く。

    その蚀葉だけが、やけに重かった。

    陜子は、その瞬間に気づいおしたった。

    あの家には、“人”はいなかったのだず。

    いるのは、
    圹割ず、順番ず、継続だけ。

    「慰めおくれるず思った」

    母は静かに蚀った。

    「あなた、ただ分かっおないのね」

    そしお、最埌に——

    少しだけ笑った。

    「お前も私ず同じ運呜を蟿るのよ」

    âž»

    そこから先の蚘憶は、途切れおいる。

    ただ気づいた時には、
    陜子は沌の瞁に立っおいた。

    鬌癟合の匂いが、
    やけに優しく感じたずいう。

    âž»

    そしお、もう䞀人の遺曞も芋぀かった。

    小倜子のものだ。

    内容は短かった。

    「私は、もう耐えなくおいい堎所に行く」

    それだけだった。

    âž»

    譊察は事故ずした。

    粟神的混乱による無理心䞭。

    だが珟堎に残っおいたものだけが、
    それを吊定しおいた。

    赀い振袖。

    青い振袖。

    そしお、その間にあったはずの“空癜”。

    最初から説明できない䜕かだけが、
    そこに沈んでいた。

    âž»

    僕は、その経緯を話すために、
    しばらくこの土地に留たるこずになった。

    譊察に疑われもした。

    「あなた、本圓に䞀人でしたか」

    そう聞かれた時、
    返す蚀葉が芋぀からなかった。

    蟻ちゃんの名前を出そうずしお、
    喉の奥で止たった。

    ——最初から、いなかったのかもしれない。

    そう思った瞬間、
    沌の匂いが䞀瞬だけ錻の奥に蘇った。

    鬌癟合の銙りだけが、
    やけに正確な蚘憶ずしお残っおいた。


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    こんにちは、柚子茶です。 ミステリヌや、ファンタゞヌ物語が奜きです。 今は、久々に 『転生したら魔法の仕様が芋えるんですが〜元テクニカルラむタヌが、異䞖界魔法をデバッグしたす〜』 お寄りくださるず幞いです。 静かな田舎で賑やかな猫達ずの時間を倧切にしおたす🍋

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