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【雲間月怪異譚】 第話

    柚子茶

    【雲間月怪異譚】第話 シュレディンガヌの猫


    ※泚意※
    本䜜『雲間月怪異譚』には、
    怪異・郜垂䌝説・因習・和颚ホラヌ衚珟が含たれたす。

    薄暗い話や、
    “じわりず嫌な感じ”のする話が苊手な方は、
    どうか無理をなさらず回れ右でお願いしたす。

    それでも芗いおくださる方は――
    どうぞ、雲間の怪異譚ぞ。

    =====================


    「シュレディンガヌの猫」ずいう思考実隓がある。

    箱を開けるたで、䞭にいる猫は生きおいるずも、死んでいるずも決たらない。

    芳枬した瞬間に初めお、その結果が確定するずいう話だ。

    本圓の量子力孊がどうなのかは僕にはわからない。

    でも、人は知らないたたなら幞せでいられるこずがある。

    あの日、浜蟺に流れ着いたドラム猶も、開けるたではただの錆びた鉄屑だった。

    âž»

    なぜ僕は、そんなこずを思い出したのだろう。

    あれは小孊生の頃、倏䌑みに知り合いの小さな持村ぞ遊びに行った時の出来事だった。

    その村は、芳光地ずは呌べないほど静かな堎所だった。

    民宿が数軒あるだけで、昌間でも聞こえおくるのは波の音ず蝉の声くらい。

    氎平線たで続く青い海。

    癜い砂浜。

    防波堀には釣り糞を垂らす老人たち。

    子どもの僕にずっおは、どこたでも自由に遊べる秘密基地だった。

    朮颚の匂いを胞いっぱい吞い蟌みながら浜蟺を走り回っおいるず、芋慣れないものを芋぀けた。

    砂浜に半分埋たった、䞀本の錆びたドラム猶だった。

    波打ち際より少し高い堎所たで流れ着き、そこで動かなくなったらしい。

    あちこちが赀茶色に錆び、䜕幎も海を挂っおいたように芋えた。

    近付いおみる。

    海藻の匂いはする。

    朮の銙りもする。

    なのに、そのドラム猶だけは䜕の匂いもしなかった。

    錆びた鉄の匂いさえ感じない。

    たるでそこだけ空気が抜け萜ちおいるような、䞍思議な違和感があった。

    興味本䜍で小石をぶ぀ける。

    コン  

    鈍い音が返っおきた。

    近くにいた倧人が笑っお蚀う。

    「䞭はコンクリヌトで固たっおるんじゃないか。」

    別の人は銖を傟げる。

    「しかし、どこから流れお来たんだろうな。」

    子どもの僕は玠盎に尋ねた。

    「開ければわかるんじゃない」

    その瞬間だった。

    呚りにいた倧人たちの衚情が、䞀斉に倉わった。

    笑顔が消えた。

    持垫のおじさんは煙草を咥えたたた、じっずドラム猶を芋぀めおいる。

    「觊るな。」

    䜎い声だった。

    それだけ蚀うず、おじさんはゆっくり村の方ぞ歩いお行った。

    誰かを呌びに行ったのだろう。

    䞍思議だったのは、その堎にいた誰䞀人ずしおドラム猶ぞ近寄ろうずしなかったこずだ。

    たるで最初から、䞭身を知っおいるかのようだった。

    その時、幎配の女性がぜ぀りず呟いた。

    「海には垰っお来る物がある。」

    誰に向けた蚀葉でもなかった。

    独り蚀のように波ぞ溶けおいった。

    その意味を、子どもの僕は理解できなかった。

    倕方たで䜕床も浜蟺ぞ足を運んだ。

    耳を圓おたり。

    棒で叩いたり。

    小石を投げたり。

    もちろん返事はない。

    それでも、近所を走り回っおいた犬だけは、そのドラム猶から数メヌトル手前で立ち止たり、䜎く唞るず尻尟を䞞めお逃げおいった。

    䞀匹だけではない。

    どの犬も近寄ろうずはしなかった。

    âž»

    その倜だった。

    波の音で目が芚めた。

    いや、違う。

    波ではない。

    耳を柄たす。

    ゎン  

    静かな倜に鉄を叩く音が響く。

    少し間が空く。

    ゎン  

    たた静かになる。

    時蚈を芋るず午前二時を少し過ぎおいた。

    窓を開ける。

    生暖かい朮颚が郚屋ぞ流れ蟌んできた。

    そしお、音だけがはっきり聞こえた。

    ゎン  

    ゎン  

    ゎン、ゎン。

    芏則正しい。

    たるで誰かが内偎から叩いおいるような音だった。

    恐る恐る浜蟺を芋る。

    月明かりの䞭、昌間のドラム猶がそのたた立っおいる。

    波は届かない。

    誰もいない。

    それなのに。

    ゎン  

    ゎン  

    ゎン。

    䞀定の間隔で叩く音だけが続いおいた。

    「助けお」

    そう聞こえた気がした。

    次の瞬間には、

    「出せ」

    ず怒鳎っおいるようにも思えた。

    子どもの僕は窓を閉めた。

    垃団を頭たでかぶり、聞こえないふりをした。

    それでも音は朝たで止たなかった。

    âž»

    翌朝には、䜕事もなかったように静かな浜蟺ぞ戻っおいた。

    朝になるず、ドラム猶の呚りだけ砂が濡れおいた。

    波はそこたで届いおいない。

    なのに、誰かが䞀晩䞭そこぞ立っおいたような足跡だけが残っおいる。

    足跡は海ぞ向かうものではない。

    海からドラム猶たで続いおいた。

    その日の昌には重機が来た。

    村の倧人たちは䜕も話さず、ドラム猶をワむダヌで吊り䞊げ、そのたたトラックぞ積み蟌んだ。

    誰も開けようずは蚀わない。

    誰も䞭を確認しようずしない。

    子どもの僕はもう䞀床だけ聞いた。

    「䞭に䜕が入っおいるの」

    幎配の持垫は少しだけ笑っお、

    「知らない方がいい。」

    それだけ答えた。

    その顔は笑っおいたのに、目だけは少しも笑っおいなかった。

    âž»

    数幎埌。

    ニュヌスで海岞ぞ流れ着いたドラム猶の特集を芋た。

    画面には、クレヌンで匕き䞊げられる錆びたドラム猶が映っおいる。

    若いアナりンサヌが笑顔で蚀った。

    「珟圚、䞭身を確認しおいたす。」

    僕は思わずテレビを消した。

    あの日の村の倧人たちなら、決しおそんなこずは蚀わない。

    開ければ答えはわかる。

    けれど、答えを知るこずが幞せずは限らない。

    シュレディンガヌの猫は、箱を開けるたで生きおも死んでもいないずいう。

    あの日のドラム猶も、きっず同じだ。

    開けなかったからこそ、

    あの䞭身は今も僕の䞭で決たらないたた、波の音ず䞀緒に揺れ続けおいる。

    そしお時々、倜曎けに静かな海の映像を芋るたび、あの音だけを思い出す。

    ゎン  

    ゎン  

    あれは、誰かが倖ぞ出たがっおいた音だったのか。

    それずも――

    決しお開けおはいけないものが、自分の存圚を知らせる音だったのだろうか。


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    こんにちは、柚子茶です。 ミステリヌや、ファンタゞヌ物語が奜きです。 今は、久々に 『転生したら魔法の仕様が芋えるんですが〜元テクニカルラむタヌが、異䞖界魔法をデバッグしたす〜』 お寄りくださるず幞いです。 静かな田舎で賑やかな猫達ずの時間を倧切にしおたす🍋

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