【雲間月怪異譚】 第36話

【雲間月怪異譚】第36話 付喪神


※注意※
本作『雲間月怪異譚』には、
怪異・都市伝説・因習・和風ホラー表現が含まれます。

薄暗い話や、
“じわりと嫌な感じ”のする話が苦手な方は、
どうか無理をなさらず回れ右でお願いします。

それでも覗いてくださる方は――
どうぞ、雲間の怪異譚へ。

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付喪神というものがいる。

長い年月、人間に使用されてきた道具などに精霊や魂が生じると言われてきた。だが実際は…

本日は、古民家の衣替えといえば、聞こえは良いが、
実は、お風呂隣の脱衣室にカビが生じて、潔癖症のクロウがキレたのが原因である。

梅雨時は、仕方なくない?

「梅雨の合間の晴れ間に終わらせます!」

「ついでに春物と夏物もやっちゃってください」

クロウの宣言の元、始められた掃除&衣替え。

ノアールとジョリィは、消えている。

「あいつら、蔵に逃げたな。」当たり前である。

「うわぁ、カビカビ〜」

僕が押し入れから運び出した荷物を見て思わず声を上げる。

母屋は、男二人暮らし。

普段の掃除ぶりがよく分かる。

「カビたものは、捨てます!後で仕分けしますから、場所決めて纏めておいてください」

押入れの奥を見れば、骨董品や掛け軸の箱まである。

「爺ちゃんも結構こう言うの持ってたんだな」

壺や皿は、ともかく、掛け軸や書物類は、怪しいと一つ一つ開いていく。

掛け軸は、壁にかけて、本は虫干し。

裁縫箱に行李(こうり)まで。こちらは婆ちゃんのかな?

祖母は、保が幼い頃に亡くなった。

裁縫箱には、指貫、糸切鋏に裁ち鋏、針山に糸とすぐに使えそうな道具ばかりだ。

行李(こうり)を開いてみると、着物ではなく端切れがいっぱい入っていた。

古い生地ばかりだ。でも、端切れなんだよなぁ。

僕は、秋野さんに電話した。

「あ、秋野さん?三日月です。自宅で大掃除してて、押入れから祖母が使ってたと思う行李が出てきたんだけど、着物じゃなくて端切れなんだよね。どうすべきと思う?」

普段おしゃれに着物を着こなしている秋野さんなら何か良いアドバイスがあるかと思い、電話してみたのだが

「行きます!すぐ行きます!」なんか、凄い食いついた。

ものの数十分で秋野さん到着。クロウが何故?って顔してた。

「古民家の大掃除って感じですよね?」

「古民家の大掃除そのままです」

クロウが大掃除途中だからと、秋野さんにまで箒を渡したら、
嬉々として始めている。

「好きなんです!古民家とか古いものは。普段着ている着物だってアンティークなんですよ?」

秋野さんは、ちゃんと掃除も想定してたのか、三角巾に白い割烹着まで持ってきていた。

「すみません。掃除手伝わせちゃって」

「いえいえ、参加したかったし、それに後で色々と見させてくださいね」

ひとり、心強い助っ人にこの梅雨の合間の大掃除は思いの外、進んだ。

⸻

ワイのワイのと掃除していると、何やら違和感が生じる。

「あれ?」保は、視界の端に動くものを感じた。

「ニャー」っとノアールがやってきて、掃除の合間を走り回る。

「虫でも出たのかしら?」

「Gは、勘弁して」クロウは、青くなる。

カタカタカタ…コトン、コトン…とほんの小さな音がする。

行李の奥からもガサゴソと音がする。

「マジで何かいるのかな?」

行李を弄ってみた。端切れの奥に小さな小さな着物たち。

秋野さんも覗きにきた。

「人形のお洋服?」

「そうかな?婆ちゃんてば、そんな趣味があったのかな?」

そんな事を話していると、さらに視界の側の黒い影がこそっと
行李に滑り込んだ。

「何だ?」恐る恐る行李の中身を移動してみる。

中に居たのは、裁縫箱の道具達。

でも、様子が違う。針山や指貫、糸切鋏がそれぞれ着物を着ている。しかもふらふらと動いている。

「え?これって」

「まさか?」

僕と秋野さんはびっくりして固まっている。そこへクロウがやってきた。

「何サボってんだよ」ポコっと僕の頭を叩く。そして、行李の中を見た。

「ああ、付喪神になったんだなお前ら」

「「付喪神?」」

「長く使われたり、古くなった道具は魂を宿すって言うだろう?」

「100年とか過ぎないとだろう?それだって絵空事だ」

「うーん。この道具達は、保の爺様が奥さんにって買ってきた道具だから普通じゃないんじゃない?」

クロウは、何事でもないように、掃除の続きーって僕たちを引っ張って行った。

お昼になり、クロウが炊き立てのご飯でおむすびを拵えてくれた。

塩結びにはじまって、シャケにシーチキンマヨネーズ、味噌焼きにしそ巻きまで。

「美味しい!」僕も秋野さんも舌鼓である。

「あら、さっきの付喪神いなくなってるわね?」

秋野さんも驚きは静まったらしい。当然と言った風で聞いてくる。

「おそらく、蔵に居ますよ。」と、クロウが蔵を指差した。

「蔵の掃除の時も是非読んでくださいね」

「そう言えば、端切れとか持っていく?僕が持ってても仕方ないし」

「うーん。欲しい気持ちはあるけれど、彼らの着物になるって思ったら持っていけないわ。三日月先生が是非、お裁縫覚えてね」

「無理無理無理〜針で指差すのがオチ!」

そんな和やかに大掃除は過ぎて行った。

⸻

夜、蔵の中にて

囲炉裏に雲外鏡爺が炭に火を起こす。

「今日は、賑やかなだなぁ」

囲炉裏の縁に、並ぶ着物を着た付喪神達

昼間の掃除で見たお裁縫箱の仲間達とは、また別に道具達が増えている。

「付喪神って居たんだね」

「どこにでもいたさ。人間が見なくなっただけだ」

「見られなくなった子達はどこにいくの?」

「付喪神って言われる存在も神の眷属だ。時期がくれば、出雲に出立するさ」

「神様の国ってあるの?」保は聞いた。

「どうだかな。わしは行ったことがないし、妖怪が行けるかも知らん。この世がわしには楽しすぎるからな」

と言って、酒の肴とお気に入りの大吟醸に悦に入っていた。


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