
性悪♡悪役令嬢アンネリーゼですが、前世はお局おばさん(天野ミツコ)でした 皇宮
前話→性悪♡悪役令嬢アンネリーゼですが、前世はお局おばさん(天野ミツコ)でした 嵐の前|にがよもぎあんこ
4頭建ての優雅な貴族馬車は、皇都ヴェルセリアの大街道を滑るように進んでいた。
アンネリーゼは車内の豪奢な座席に腰を下ろし、窓のカーテンを少しだけ開けながら魔晶端末を操作していた。
「えい……そこ! 避けなさいっ!」画面の中では自機が必死に丸い弾幕をくぐり抜けようとしているが、相変わらず苦戦中だ。
ニガヨノートマータの弾幕死にゲーは續いている。
ピュンピュンと派手な効果音が馬車内に小さく響きながらも、外の景色は次第に華やかさを増し、晴れやかな皇都ヴェルセリアの街並みが広がっていた。
青空の下、活気あふれる商人たちが露店を並べ、色鮮やかな布や魔晶細工を大声で売り込んでいる。
親子連れが手を繋いで笑いながら歩き、少年が魔力で浮かぶ玩具の馬を追いかけている。
たくましく明るい人々の笑顔が、皇国の力強さを体現するかのようだった。
やがて街道が山裾を上り始め、緑深き山々の天然の要害が姿を現す。
切り立った岩壁と深い森に守られるように、皇宮がその威容を現した。天を穿つような白い塔が何本も屹立し、陽光を受けて輝いている。
難攻不落の軍事大国として知られるヴァルデンシュタイン皇国は、皇帝ミカドを中心とした絶対帝政の集権体制を敷いていた。
未だかつて他国を侵略したことはない。ただ自らの領域を強固に支配し、守り抜くのみ——それが皇国の鉄則である。
アンネリーゼは魔晶から一瞬だけ目を離し、窓の外を眺めた。
「……相変わらず、圧倒的な存在感ですわね」
皇宮の最奥、高い場所に位置する女神ルミナスの地上宮(ルミナス宮)は、塔の影と地形の影響でほぼ見えない。
白い壁の向こうにぼんやりとその気配を感じる程度だ。
それがかえって神聖さと神秘性を高めている。
その時、丸い弾幕が急激に密度を増し、自機があっという間に包囲される。
「待てや!!!!、ちょっ……このタイミングで!?」ドカァァン!!
【てめぇの命はなくなりまちた。】
【死亡ペナルティ適用中…】
「もうっ! 皇宮の目の前で謎効果適用中だなんて、冗談じゃないですわよ!!」アンネリーゼは魔晶を膝の上で握りしめる。
馬車はちょうど皇宮正門をくぐり抜け、広大な前庭へと入っていくところだった。
車内に差し込む光が、アンネリーゼの横顔を照らした。
疲れと意地と、わずかな好奇心が入り混じった表情で、彼女は皇宮の白い塔を見上げた。
白い近衛兵たちが騎乗したまま、整然とランスを携えて並び、巨大な洋風の狛犬が静かに佇んでいる。この狛犬達も魔力で駆動する傀儡である。
執事長ワルターが馬車の外から落ち着いた声をかけた。
「アンネリーゼ様。皇宮に到着いたしました。」
アンネリーゼは深呼吸をし、魔晶端末をスカートの内ポケットに押し込んだ。
ドレスの裾を整え、微笑みを浮かべる。
「……ありがとう。」
馬車が停止したと同時に、ドアが開かれ、皇宮の冷たくひんやりした空気が車内に入り込んでくる。
(つづく)
