
山崎さんと山口さん | 脳内行動派! #22
自宅から一歩も外に出ない日常を書いています。
驚くべきことに、マガジンにまとめるという愚行を始めました。
前回はこちら
ジリジリ、ジリジリと、ダイヤルを回しているのに時間表示が進まない。
時計まわりに進めているのに4分と3分を行ったり来たり。
デジタルの多機能だと言っても、安物だからなんだろうか。
昔の電子レンジは頑固一徹の職人気質。
パンを焼くなんてナヨナヨした仕事は門前払いしていた。
ダイヤルだって頼もしかった。
しっかりとした手ごたえ、そして、一寸の迷いもないメモリ位置。
「何も足さない。何も引かない。」
そう言って押し通す、苗字を付ければ間違いなく山崎さんだ。
これに対して最新の電子レンジはフラフラしている。
「広場で遊ぶ?それとも絵本にする?」
「うーん。どれでもいいんだけどさ。あとでいいかしら?」
このごろ少し変なのだ。
まずは選ぶ。
それからがようやくお仕事。
どこからどう見ても山口さんだ。
「醒めよ人!舶来妄信の時代は去れり」
などと声高らかに叫んだ山崎さんは、むしろ酔わせて醒めさせない。
仕方がない。
山崎さんは職人なのだ。
職人はひとつのことを徹底して身に着けている。
醒めさせない。
その姿はまさに一所懸命。
武士のようにストイックだ。
一生懸命、いろいろやります。
などとあいまいなことを言っている山口さんとは一味違う。
大事にしていた三輪車を雨ざらしにするようなことなど、何があってもしない。
「おはよう」
に返事がないのは、「男は、語らない」を体現しているに過ぎないのだ。
かと言って、山口さんがダメなのかといえば、そんなことはない。
「ただいま」
のひとことさえあれば、山口さんだってたちまち元気になっちゃうのだ。
ピッピッピ
というタッチしたときの音も軽快だ。
田舎のおみやげを楽しみにする心情を感じさせるものだ。
「なんでこんなに便利なんだ!」
山崎さんだって悔しがるだろう。
「世界にはばたくのは、こんな若い世代なのかも知れない」
レンジの中に光が射した。
「日本で作られた、日本人のための本物なんだ!」
山崎さんは、なおも叫ぶ。
ダイヤルも、ボタンも、武骨なものだった。
誤操作しようがない。
ひとつの機能を突き詰めた姿だ。
そもそも、デジタル表示など飾りなのだ。
「山崎さん、そんなアナログの細かい時間設定、必要ですかね」
「いやいや山口さん。この微妙な目盛りの指定ができると、使う人それぞれの好みで微調整ができるのですよ」
「時代は効率化とマニュアル化ですよ。山崎さんは古いんですよ」
効率化ってなんだろうって思った。
「スチーム13番とか選べてしまうのは、かえって非効率なんじゃないの?」
「確かに。でも、よく使うトーストなんかは専用ボタン付けてたりするんです」
これは確かに便利な気がする。
「ポチっと押したら出力も時間も設定できる。そんな機能、山崎さんは持ってますか?」
「確かにそんなものはないね。あらゆる物に同じ操作。なにせレンジしかできないんだから」
その代わり、どでかいボタンは押しやすい。
考えてみれば、どちらもひとつの長い夢の中の出来事だ。
電子レンジとしての機能を突き詰め、極める。
その先で、オーブンやトースターの機能を詰め込む。
「日本的であるほど、それは世界的になる。」
そんなごちゃごちゃしたことをして喜ぶおかしな民族は、日本人くらいなものだ。
冷食のラーメンをどんぶりごとレンジに突っ込む。
デジタルで9分を指定するダイヤルが、うまく進まずイライラする。
あたためるボタンを押しながら、飲めもしないウィスキーを思い出し、山口さんちのツトムくんを口ずさんだ。
📖 エッセイ
ガンプラ、紡ぐ、家族
どうやら私は、ひとりだけ別の世界に住んでいるようだ (全4話)
📖 短編小説
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