メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

小説 高橋さんの手4/9【note創䜜倧賞応募䜜品】

    https://note.com/nifty_crocus6972/n/n6554658b7eac

     
     
     
     僕が十四歳の時、父芪が亡くなった。
     詳しくは芚えおいないが、病気だったのだず思う。
     残された僕ず母芪は、それたで䜏んでいた䞀軒家から公営䜏宅に匕っ越すこずになった。母芪は仕事を始め、僕は䞀人で過ごすこずも倚くなった。高校には普通に進孊し、䜕ずなく倧孊を受隓した。
     高䞉の倏䌑みあたりから、母芪がうるさくなった。勉匷しろ、くらいは聞き流せたが、悲劇のヒロむンのように䞡手を胞元に圓お、あなたのためにこんなに苊劎しおるのに、ず蚀われるのは心底我慢ならなかった。
     結局、受隓はすべお倱敗した。
     僕はすぐ、ちょっずした手続きで入孊できる地方の専門孊校に進むこずにした。
     䞀刻も早く、ここから抜け出したかった。
     最埌に芋た母芪はどんな顔だっただろうか。
     入孊匏の日、䞍栌奜にスヌツを着た僕にその手を䌞ばしおきたこずは芚えおいる。ネクタむを盎そうずしたのか、ゎミを取ろうずしたのか。
     僕はその手を振り払っお家を出た。
     最埌に母芪に呌びかけたのはい぀だっただろうか。
     
     
      
     
    「これ、䞀キロ」

     ある日の麺打ち堎で、高橋さんはそう蚀っお粉の入ったボりルず緎り氎の入った小さめのビヌカヌを僕に差し出した。
     そしお、い぀もより少し脇にずれお、い぀もの䜜業を始める。
     急に、僕は胞がいっぱいになった。
     さっそく僕は高橋さんの隣で緎り氎を粉に加え始める。
     高橋さんの手を目で远っおは、手元の粉をちたちたずいじる。しかし、党然うたくいかない。䞀方その十倍はあるであろう高橋さんの粉はみるみる滑らかになっおいく。
     汗ばかりかいお䞀向に粉に氎が回せない僕はみじめな気分になった。僕の手は行き詰たり、動きも鈍くなっおいく。
     そのずき、䞍意に、高橋さんが僕のボりルに手を入れた。
     反射的に僕は手を匕っ蟌める。
     高橋さんの手が、僕のボりルの粉を觊る。
     䞀分もしないうちに、ただらに氎の入ったボりルの粉は、生き物のようにそがろがそろい、やがお芋お分かるほど、䞀粒残らず氎が回り切っおいた。
     高橋さんはそれをそのたた自分の粉に加え、目ず口を䞞くした僕に空になったボりルを、がん、ず手枡す。
     僕から取り䞊げられた粉は高橋さんの粉ず䞀緒にビニヌルにくるたれ、仲良く寝かせに入っおいった。
     高橋さんは䜕事もなかったかのように二回目の粉を量り始める。
     空のボりルを持った僕は、ただ立ち尜くすしかなかった。圧倒的だった。
     自分には無理なのか。
     そう思いながら、ふず僕はビニヌルが掛けられたばかりのそがろに目をやる。
     あ、ず声が出そうになった。
     䌑たせたばかりのそがろは党䜓ずしおあたり芋た目が倉わらなかったが、ずころどころ、やたらに癜く氎滎を吹いおいる。
     ひたすら萜ち着き、じっくり汗をかくのを埅぀ような他の郚分をよそに、少しでも呚りに远い぀こうずぜいぜいず息を぀いおいるような箇所が確かに芋えた。
     思わず高橋さんを芋る。高橋さんはすでに二回目の粉を量り終え、緎り氎を䜜っおいた。
     お願いしたす、ず僕は頭を䞋げながら空のボりルを高橋さんに差し出した。
     
     
     
     次の日から少しず぀、高橋さんは麺打ちの工皋を䞀通り僕に手䌝わせおくれた。
     い぀も初めの䞀玉分は僕に切らせおくれ、それを自分でゆでたものが僕の賄いになる。
     自分で切っおみるず、高橋さんの麺のランダムさず統䞀感のバランスが、すべお織り蟌たれおいるものだずいうこずを改めお思い知る。
     倪すぎるず火が通らず、现すぎるず柔い。かずいっお幅がそろっおいるず、今床は食べおいお面癜味が無い。終盀には皆同じように䌞びお、食べきるのが぀らくなる。
     タむマヌを䜿わない平ざるでの麺䞊げも、この麺には必芁だった。
     麺は毎日の気枩や湿床、粉の状態を芋お、加える氎を加枛するので、毎日同じゆで時間になるこずはあり埗ない。
     麺になった小麊粉は火を通せば旚みが出るが、ゆで過ぎればこしが倱われる。
     それで、ゆでる麺はその郜床、手の感觊で䞊げるタむミングを芋極めなければならない。
     麺䞊げには、テボず呌ばれる、かご状のざるを䜿わないのも高橋さんのやり方だ。
     ゆで湯に麺を広げるように攟っお泳がせ、平ざるですくえば、党䜓に火が通るし、時間も早い。
     慣れおしたえば、かなりの玉数を䞀床にゆでられるし、お客様を埅たせずに枈む。
     それに、音を立おお平ざるで麺をたたき、湯を切る工皋は、しっかり仕䞊げおいるこずをお客様に芋おいただく品質保蚌の機䌚でもある、ず思えるようになった。
     
     
     
     壁の月めくりがい぀の間にか最埌のペヌゞになり、気づけば僕は䞉か月以䞊も、高橋さんのお店で過ごしおいた。
     幎の瀬ず蚀っおもやるこずは倉わらなかったが、肉屋さんやらがカレンダヌをもっお挚拶がおら、幎末幎始の䌑業予定などを知らせに来る。
     この数か月で、僕はずっず高橋さんに匵り付きながら、具材やスヌプの仕蟌み、そしお麺打ちの䞀通りを身に着けおきた。
     特に麺に぀いおは、竹の螏み方や生地の䌞ばし方、切り出し方やゆで方にもかなり手ごたえがある。
     最近は高橋さんも、僕の䜜業が入った麺を麺箱に収めおくれおいる。それは玠盎にうれしい。
     ずはいえ、その䞭で、どうしおも僕にはうたくいかないものがあった。
     氎回しだ。
     盞倉わらず、高橋さんは僕よりずっず倚い粉を觊っおいるのに、僕よりも圧倒的に早く、そしお隅々にたで氎を行き枡らせおいる。
     僕も同じように粉に氎を回しおいる぀もりなのに、うたくそがろにたずたらなかったり、べちゃ぀いたりする。
     い぀も僕には、あの時のこずが思い出される。
     僕の持぀ボりルに高橋さんの手が入った瞬間、粉の衚情が倉わったあの光景。
     あの氎回しのコツさえ぀かめれば、僕でも高橋さんず同じような麺が打おるようになるんじゃないか、ず考えおいた。
     高橋さんは間違いなく、僕のこずを目にかけおくれおいる。
     そしお、きっず今ならその技術を少しは理解できる。
     その日も、僕は高橋さんず䞀緒に麺打ち堎に入った。
     い぀も通り、粉の袋を開けるずころから始めおいく。
     毎日同じ光景を隣で芋おいたが、実はそれたで、高橋さんから麺の打ち方に぀いお䜕かを聞いたこずは䞀切なかった。
     高橋さんも、蚀葉で僕に教えるこずはなかった。
     この日も䞀キロの粉が入ったボりルを枡された僕は、思い切っお、そしおなるべく䞋手に出ようず思っお、高橋さんに話しかけた。
     
    「そろそろ氎回しのコツを教えおくださいよ、垫匠」
     
     高橋さんは、ぎたりず動きを止めた。
     それから僕に背を向けお、残念そうに麺台に䞡手を぀いた。
     そしお、ため息亀じりに口を開いた。
     
    「どうしお垫匠なんお蚀うんだろうか」


    #創䜜倧賞2026 #お仕事小説郚門 #ラヌメン

     
     
    矀銬を䞭心にラヌメンの魅力をお䌝えしたす。 I am a ramen recommender, especially for Gunma's. ラヌメンデヌタベヌスにもレビュヌしおいたす https://gunma-ramendb.supleks.jp/u/188486.html

    あなたぞのおすすめ