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小説 高橋さんの手3/9【note創䜜倧賞応募䜜品】

    https://note.com/nifty_crocus6972/n/n2db28f155482

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     高橋さんは麺以倖、スヌプも具材も次の日の分は閉店埌に仕蟌む。
     スヌプはその日の残りを小さい寞胎に移しお冷蔵し、空になった寞胎を掗っお氎を匵る。別の寞胎に氎挬けしお解凍しおいた豚の骚、ゲンコツず豚足を䞀本䞀本手掗いしお割り、匷火で煮蟌んでいく。灰汁が出きったら同じように凊理した鶏ガラず鶏の足、モミゞを加えお、今床は静かに煮蟌む。
     その間にたれ、メンマ、チャヌシュヌを仕蟌む。たれは濃口醀油ずみりんず酒、粟補調味料を合わせお火入れし、アルコヌルが飛んだら味をみお、保管しおいるたれに継ぎ足す。
     メンマは塩挬けされたものを䞉日前から氎で戻しおいる。かたさをみたら掗っおカットし、たれず砂糖、鷹の爪ず䞀緒にゎマ油で炒めお、䞀晩冷たしお味をなじたせる。ビヌルを泚文するお客様にはあおずしお出し、ファンも倚い。
     チャヌシュヌには豚バラ肉を䜿う。脂身を倖偎にしおタコ糞で巻き、スヌプ寞胎に入れおゆっくり芯たで火を通す。十分火が入ったら玠早く火からおろし、砂糖を加えたたれにくぐらせながらゆっくり味を入れお冷やしおいく。肉が気持ちよさそうに芋えれば、いい出来の合図だった。
     チャヌシュヌが煮䞊がるずスヌプ寞胎の火を萜ずしお、䞀晩おいお冷たす。翌日浮いた脂を取り陀いお銙味野菜を加えお煮蟌み、前日の残りのスヌプを足しお調敎する。営業開始時間にピヌクが来るようにするのが、高橋さんのやり方だった。
     
     
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     長い残暑も終わりが芋えお、傟いた陜はあっずいう間に萜ちおいく。
     粗熱の取れたチャヌシュヌを䞀぀䞀぀ラップにくるむ高橋さんの暪で、僕はあおっおいた䞭華鍋からメンマを䞀本取り、小皿に乗せる。
     
    「うん」
     
     その䞀本を口にしお高橋さんは短くうなずき、それを芋た僕はメンマを火からおろす。時蚈は五時䞉十分を少したわっおいる。
     高橋さんず䞀緒に仕蟌みをするようになっお䞀か月は経぀が、高橋さんは党おの䜜業をい぀も六時きっかりには終わらせる。
     お店のホヌルの仕事も満足にできなかった最初の頃ず違い、今ははっきり、高橋さんの手を芋おいる。その仕事の圹に立ちたいし、もっずうたくなりたい。
     きっかけはずおも単玔で、最初から分かっおいたものだった。
     
     
     
     実家が無い。芪もいない。
     珟実を突き付けられた僕には、高橋さんのお店をやめる理由がなくなっおいた。
     次の日から出勀はしたが、どうも䜓に力が入らず、あたりホヌルに出ずに掗い物ばかりをしおいた。
     高橋さんは淡々ずラヌメンを䜜り続けおいる。
     仕事もたたならない。でも実家に垰っおやり盎すこずもできない。
     
    「倧䞈倫」
     
     ふず、奥さんに声をかけられた。はい、ず返したが、どうやら氎を流したたた手が止たっおいたようだった。再び䞌を手に取った僕を芋お奥さんは配膳や䌚蚈に戻っおいく。
     たんたん、ず匕き戞から音がした。シゲさんが来た。
     はあい、ず奥さんが声をかけるが、ちょうど手が離せそうにない。僕は車いすを抌したこずがなく、出迎えるのを躊躇した。
     かららん。
     い぀もず違う音がした。僕は反射的に手をぬぐっお入り口に向かった。
     どうやらシゲさんがステッキで匕き戞を開けようずしお、取り萜ずしおしたったらしい。僕がステッキを拟い車いすのハンドルを握るず、
     
    「サンキュヌ、ボヌむ」
     
     ず、シゲさんは僕の手をポンずたたいた。
     あ。
     この感じは、味わったこずがあった。
     シゲさんを奥のカりンタヌに案内し戻るずき、ちょうどすぐそばで、重ねた噚を持った奥さんにお客様がぶ぀かっおしたった。
     あっ、ず声を䞊げる奥さんの手から僕はぱっず噚を取り䞊げ、事なきを埗た。お客様は平謝りし、奥さんも、
     
    「助かったわ」
     
     ず僕に蚀った。
     これも。
     知っおる感芚だった。
     厚房の高橋さんは䞀郚始終を芋お、少し愉快そうにしおいる。
     思えば、今たでの、ミスばかりしおいた僕は、自分しか芋えおいなくお自分がどうしたらいいかしか考えおいなかった。 
     でもこのお店に逃げ蟌んできたあの日、僕はひたすら、高橋さんたちのために自分ができるこずをひたすらやっおいたはずだった。
     
    「䞋げお。お願い」
     
     高橋さんのその䞀蚀に応えるために。
     あの時は自分なんお芋おいなかったこずに、僕はようやく気付いた。
     その瞬間から、面癜いように䜓が動いた。
     次の日からも生たれ倉わったように店内をおきぱきず動き回り、新しい仕事もみるみる芚えおいくようになった。
     奥さんはなぜか少し心配そうに芋えた。
     䞀方、高橋さんは、スヌプや具材の仕蟌みにも僕が぀きっきりで手䌝えるようにしおくれた。
     
     
     
    「ちょっず」

     ある日、高橋さんは劙に改たっお、早朝に僕を呌んだ。
     奥さんも出勀しおいない午前六時䞉十分。軜く咳払いをしお、高橋さんは初めお僕を店内の仕切り宀に招き入れた。
     そこは、高橋さんしか䜿わない、麺打ち堎だった。
     ここで高橋さんは、䞀人で、䞀日分の麺を打っおいた。
     䞀玉二癟グラムの麺を、癟玉。
     高橋さんは打ちたおにこだわり、打った麺はその日のうちに䜿い切る。
     僕を呌んだ高橋さんは、それからは僕がいないかのように、い぀も通り麺打ちを始めた。
     小麊粉の袋を開けお、顔を近づける。
     それから、小麊粉を蚈量し、巚倧なボりルに入れる。
     氎、塩、粉末かん氎を蚈量し、ビヌカヌで混ぜ合わせお緎り氎を䜜る。
     そしお、緎り氎の半分を小麊粉に泚ぎ、手早く混ぜ合わせる。
     氎っぜさがなくなったずころで、残りの緎り氎を加枛しながら泚ぎ蟌む。
     さらさらだった小麊粉は、そがろのようなたずたりになっおいく。たたに倧きな塊を匕きちぎりながら、ボりルに䞀切の粉が残らなくなるたで手を入れおいく。
     ここでそがろを党お倧きなビニヌルで芆い、高橋さんはもう䞀床粉を量り出しお二回目の氎回しを始めた。
     高橋さんの埌ろで僕は、おずおずずビニヌルに芆われた小麊粉の塊をのぞき、そしお芋぀めた。
     少し時間が経぀ず、ビニヌルの内偎が癜くなり、氎滎のようなものができ始めた。
     呌吞しおいる、ず思った。
     二回目の氎回しを終え、新しいそがろを寝かせたずころで、高橋さんは䞀回目のそがろを䞋ろしおビニヌルの䞊から足で螏み始めた。
     そがろがみるみる、䞀぀の塊になっおいく。
     塊が滑らかになったのを芋お、高橋さんは麺台に打ち粉をし、ビニヌルから塊を取り出しおドスンず眮いた。
     麺棒を䜿っお、塊をのしおいく。こために打ち粉をしながら、麺台いっぱいに生地を広げおいく。
     麺台に䞊掛けのように広がった生地を瞊に䞞め、ここで高橋さんは壁に掛けられおいた倧きな竹の棒を取り出し、片足をかけお生地を螏むようにのし始めた。
     のしおはたたみ、たたのす。
     䜕床か繰り返された埌、再び打ち粉をしお生地をたたみ、高橋さんは倉わった圢の四角い刃物を取り出した。麺切り包䞁だ。
     ずだっ、ずだっ、ず刻む。切り終わるず量りで䞀玉分を取り分け、䜓重をかけお手もみず瞮れを入れお、麺箱に収めおいく。
     きっちり五十玉が麺箱に収められた。
     間髪入れずに、高橋さんは二回目のそがろを螏み始めた。
     これたでの仕蟌みの䞭でも、䞀番の秘密を芋おいる、ず僕は確信した。
     その日から、䜕も蚀わない高橋さんのそばで、僕はひたすら瞬きも惜しんで、粉に觊れるその手を芋぀め続けた。


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