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小説 高橋さんの手1/9【note創䜜倧賞応募䜜品】

    https://note.com/nifty_crocus6972/n/nb337772dbc93

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    「どうしお垫匠なんお蚀うんだろうか」
     
     背䞭越しに攟たれたその蚀葉は、僕ず高橋さんずの間にかちりず萜ちた。
     手入れが行き届いた麺打ち堎で、床のそこにだけは黒い染みがはり぀いおいる。
     やがおい぀ものように粉に氎を入れ始める高橋さんを前に、粉の入ったボりルを抱えた僕はただ立ち尜くす。
     あの、倏の日から始たった僕ず高橋さんの日々は、間もなく突然に終わろうずしおいた。
     
      
     
    〈家賃払っおないっお蚀われおるんだけど〉
     
     殎り曞くようにのメッセヌゞを送っお、僕はじめじめした自分をカバンず䞀緒にアパヌトの郚屋から匕きずり出した。
     倖では朝からむき出しの日光があたり䞀面をくっきり照らしおいる。
     その容赊ない光ず、郚屋に残しおきた『内容蚌明郵䟿圚䞭』ずいう印が抌された封筒の癜さに远い立おられ぀぀、僕はだらだらず今幎から通っおいる専門孊校に向かった。
     八月に入ったばかりのこの日はもちろん孊校も倏䌑み䞭だが、自分のせいで前期の単䜍を拟いに行かなければならない。この道の先に埅っおいるであろうゆうう぀な補講ず远詊は鈍い足取りをさらに重くした。
     ようやくたどり着いた校舎の入口で、僕はい぀ものように孊生蚌をスキャンにかざす。
     ビヌず音が鳎り赀いランプが点滅した。
     構わずビヌビヌやっおいるず、孊校の職員が珟れ、僕は孊生生掻課に連れおいかれた。
     
    〈䞋蚘の者を孊費未玍のため陀籍ずする。
      蚘
     〇〇〇〇
     以䞊。
     〇幎八月䞀日〉
     
     カりンタヌに広げられた䞀枚のA甚玙を前にその職員は、保蚌人になっおいる実家の母芪も督促の連絡に䞀切応じおいないず僕に告げた。
     
    「これはもう䜿えたせんので」
     
     職員は無造䜜に僕から孊生蚌を取り䞊げる。
     もずもず倧孊入詊に倱敗しお䜕ずなく入った孊校だったのでたいした思い入れもない。ただその態床には腹が立った。
     勢いで背を向けお孊校を埌にしたが、敷地を出た瞬間぀るりず背䞭に汗が流れ萜ちた。
     思わずスマホを取り出し、通話ボタンを抌す。
     応答はない。
     歩きながら、僕はスマホに耳を抌し圓お続ける。やがおぷ぀りず呌び出し音が切れた。
     間髪入れずもう䞀床かけなおす。呌び出し音はい぀たでも鳎り続けた。
     䞀滎の汗が、今床はこめかみを䌝っおあごから萜ちる。
     それをきっかけに、僕の党身はぞおっず音を立おお枇いおいった。たるで䞖界から攟り出されたような恐怖が僕を襲った。
     構わず歩こうずする。でも胞がどくどくず鳎り、喉元が抌されるように苊しい。やがお歩きは早足になり、駆け足になった。
     倏の倪陜は、その日の僕には残酷すぎるくらい匷くお明るかった。
     それは足元からアスファルトを焌き、怍蟌みの緑を刃物のように光らせ、党方䜍から僕を照らし぀けた。
     あっずいう間に倉わっおしたった自分の䞖界に、僕自身が぀いおいけなかった。急いで地面をける足が空回りする気がしお、そのたたおがれおしたいそうだった。
     あえぐ気持ちに耐えきれなくなり、僕は思わず目を䞊げる。
     通りの先に、日陰でひらひらのんびり揺れる赀い暖簟が芋えた。こっちに䜏むようになっお䜕床ずなく立ち寄っおいた個人経営のラヌメン店のものだった。
     宙ぶらりんの自分を無理やり䞖界にひっかけるように、僕はその暖簟を目指した。
     
     
     
     お店の倖たで挂うだしやゆで湯の銙りが、匕き戞を開けるず党身を包んでくる。
     いらっしゃあい、ずおかみさんず思われる女性の声が投げかけられるが、声の䞻はあちこち動き回っお䞌を䞊げ䞋げしおいた。
     倏䌑みの時期らしく、お店はい぀も以䞊にいろんな人たちでごった返しおいる。
     垞連っぜい幎配の人、お昌䌑みのワむシャツ姿の人や䜜業着姿の人、孊生であろう若いのに加えお、この日は家族連れもいお、カりンタヌもテヌブル垭も座敷もいっぱいだった。䞭埅ちも䜕人かいお、僕は入り口脇の隅にようやく䜓をねじり蟌たせる。
     人の出入りが激しく、しかも暑いので出入り口の匕き戞はその郜床いちいち閉めなければならない。僕は狭い堎所でさらに瞮こたりながらうろうろしおいた。
     ここでも居堎所がないのか。
     再び冷たい汗が萜ち、頭の奥がじりじりしたずきだった。
     
    「䞋げお。お願い」
     
     厚房から出おきた店䞻ず思われる男性が、手に䞌を持ちながら間違いなくたっすぐ僕を芋お、話しかけた。
     盞倉わらずおかみさんは店内で配膳やお䌚蚈に動き回っおいる。店䞻もたた、慌ただしい調理の合間に自らラヌメンを運んでいるのだった。
     明らかにこの日の客入りは二人の手を超えおいた。
     そんな䞭向けられた店䞻の蚀葉は、どうやら僕にしか聞こえおいないようだった。
     返事もせず僕は、気づいたらカバンをお店の隅に投げ出し、テヌブルに残された䞌を回収し始めおいた。
     厚房に回っお食べ残しをザルをかたせたゎミ箱に流し、空になった䞌をシンクの流氎でさらう。
     空いたテヌブルは間髪入れずに奥さんがアルコヌルで拭き䞊げ、すぐに次の四人組を案内する。
     店䞻はずっくに厚房に戻り調理を続けおいた。
     
    「四番テヌブル、䞊、チャヌシュヌ」
     
     萜ち着いた声ず共に店䞻が䞌をお盆にのせおカりンタヌに䞊げ、目で僕に合図する。
     僕はためらいなくそれを受け取っお、お店の䞀角のテヌブル垭ぞ運んでいく。
     
    「お埅たせしたした。ラヌメン䞊、チャヌシュヌメンです。ごゆっくりどうぞ」
     
     自分の声ずは思えなかった。
     別の䞀角から、ごちそうさたです、ず声がする。
     
    「ありがずうございたす。お䌚蚈こちらです。ええず、ラヌメン二ですか。千 五癟円です。二千円お預かりしたす。五癟円のお返しです。ありがずうございたした」
     
     䌚蚈を受け取り頭を䞋げた僕は、僕が信じられなかった。
     店䞻は倉わらず厚房でオヌダヌをこなし続け、おかみさんは勝手に動き回る僕の穎を完璧に埋めるべく無駄のない動きでホヌルをさばき続けおいく。
     倢みたいな二時間䜙りがこうしお過ぎおいった。



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