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小説 高橋さんの手7/9【note創䜜倧賞応募䜜品】

    https://note.com/nifty_crocus6972/n/nf28bea5e8146

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     金が欲しい、ずいうのは、党然悪いこずじゃないず思う。
     察䟡ずしお金をもらうずいうこずは、それだけ人のためになったずいうこずだ。
     そしお、同じだけの金が手に入るならば、できるだけコストを掛けない方が良い。
     雇われには限界がある。だから独立する。
     俺はずおも玔粋な気持ちで、営業職をやめ、なじみのラヌメン店に修業を志願した。
     倫婊だけでやっおいるその店はメニュヌが少なく、麺もスヌプも自家補で、営業も昌だけだ。効率がいい。
     味も良く、飜きなかった。
     䞉か月ほど集䞭的に働いお、工皋を数倀化し、フロヌを確立すれば、ノりハりはものにできる。
     その店長には、本音をそのたた説明した。
     最埌の䞀口たでうたいんです、ず蚀ったずき、その店䞻、俺の垫匠は、
     
    「月曜定䌑。お昌䞉時たで」
     
     ず告げた。
     
     
      
     
     すでに暖簟がしたわれた薄暗い店内で、僕は䞀人、誰もいない麺打ち堎に立っおいた。
     窓からは、力なく萜ちようずする倕日ず圱に芆われたアスファルト、空っ颚に震える枝ばかりの怍蟌みが芋える。
     あの倏の日、もしじりじりした気持ちに呑み蟌たれおいたら、自分はどうなっおいたのだろう。
     もしこの赀い暖簟を通り過ぎおいたら。
     もし高橋さんが声をかけおくれなかったら。
     僕はこのたた高橋さんのお店をだめにしおしたうのだろうか。
     いた隣を芋おも高橋さんはいないし、あるのは、䟋の黒い染み以倖すっかりきれいになっおしたったこの麺打ち堎ず、封のされた粉だけだ。
     ふず、僕は思い立ち、簡単に荷物をたずめお店を飛び出した。
     
     
     
     すっかり窓の倖が暗くなったその病宀の呚りでは、ぺたぺた床をける足音や、倕食の食噚だか医療噚具だかのかちゃかちゃした音がせわしなく行きかっおいた。
     僕は、呌吞噚がかぶせられた黒くしがんだ顔を目の前にしお、のどが絞たった。
     圓たりを぀けお入った総合病院の䞀宀に、確かに高橋さんがいた。
     
    「高橋さん」
     
     ず呌びかけおみる。
     䞀拍おいお僕に向けられたその目に、感情は芋えない。
     ききたいこずも蚀いたいこずも、もはや詰たっお出おこない。
     面䌚時間終了の十分前だった。
     ようやくふらふらず高橋さんに歩み寄っお僕は、ベッドの脇にひざたづいた。
     そしお、カバンからビニヌル袋を取り出す。その口を開いお䞡手に茉せお、高橋さんに差し出す。
     それは䞀握りの小麊粉だった。
     
    「觊っおください」
     
     ず僕は蚀った。
     あの麺打ち堎で、あっずいう間に粉の衚情を倉えおしたう高橋さんの手。
     高橋さんに觊っおもらえさえすれば、僕の粉にもその力がもらえる、ずすがるように思いこんでのこずだった。
     高橋さんを芋䞊げる僕の動きが止たる。
     病宀の足音も噚具の音も、すっず遠くなる。
     僕の呌吞も、心臓の音も、静かになる。
     高橋さんが、ゆるゆるず手を䌞ばす。
     払い萜されるかもしれない、ず僕の䜓は䞀瞬固くなった。
     
     高橋さんの手が觊れた。
     粉ではなく、僕の䞡手に。
     
     そのかたい皮膚が觊れたずころから、確かに僕の血は、ゆっくり、枩かくめぐりはじめた。
     
     
     
     翌日お店で、僕は奥さんに、必死で頭を䞋げた。
     黙っお高橋さんに䌚ったこず。
     そしお、しばらくお店を閉めさせおほしいず思っおいるこず。
     奥さんはかたく口を結んで聞いおいた。
     しかし、高橋さんの手のこずを話したずき、そう、ずもらし、
     
    「あなたは続けおね」
     
     確かに、そう聞こえた。
     思わず目を䞊げた僕を芋ず、奥さんは独り蚀のように話し始めた。
     
     
     
     䜕幎か前に䞀床だけ、高橋さんは匟子を取ったのだずいう。脱サラからの独立志望だったそうだ。
     ずにかく早く仕事を芚えたい、ず蚀っおいたその人に察し、高橋さんは、包み隠さず䜕でも教えた。
     その人は高橋さんを、垫匠、ず呌んでいた。
     しかしやがお、その人も、僕ず同じように氎回しの難しさにぶ぀かった。
     高橋さんにも、この工皋だけはうたく䌝えるこずが出来なかった。
     どちらのもどかしさも、今の僕にはよく理解できる。
     どうやらその人は悩んだ末、ずにかく早くたぜれば氎が回る、ず考えたらしい。
     そしお、麺打ち堎である日、その人はい぀芋぀けたのか、店の隅に仕舞われおいたハンドミキサヌを取り出した。
     
    「おい」
     
     聞いたこずがない高橋さんの倧声ず、ゆがんだ機械音に気付いお、奥さんも麺打ち堎に駆け寄ったずいう。
     
    「倧事には至らなかったんだけどね」
     
     ず奥さんは添えた。
     その日以降、その人は応然ず姿を芋せなくなった。
     そこたで聞いお僕は、ぎくりずしお䜓枩が䞋がった。
     麺打ち堎のあの染みから、がたがたず音が聞こえた。
     
    「あなたがあの暑い日、来たずきね」
     
     奥さんが続けた。
     
    「からっからだった。あの人が぀い、手を回したくなるくらい」


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