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PROTOTYPE14:大炎上/水魑(みずち)

    「チッ、ちょこまかと……!」
    お七が忌々しげに吐き捨てる 真田の郷の鬱蒼とした暗がりの奥、闇に紛れて肉薄してくるのは、近代的な武装を一切持たない『アナログ忍者』たちだった 電子部品を身につけていない彼らは、NEONの通常センサーには映らない 夜闇と木の葉の擦れる音に完全に同化し、音もなく暗殺の刃を突き出してくる

    だが、彼らは致命的な計算違いをしていた 対するNEONは、単なる高性能AIではない 臨機応変に戦術を書き換える『実戦適応型AI・プロトタイプ』なのだ

    「──索敵モード切り替え 可視光線をシフト 蛍光毒霧、散布」
    PSSSHHH !  NEONの口元から、超微細な特殊蛍光粒子を含んだ毒霧が勢いよく噴射され、周囲の闇を紫色に染めていく
    「ふん……毒など、我らには効かない……!」
    霧を浴びたアナログ忍者の一人が、冷酷に、不敵に言い放った 肉体を極限まで鍛え上げ、子供の頃から毒を飲んで耐性を作った彼らにとって、近代兵器の毒ガスなど恐るるに足りない だが、NEONの狙いはそこではなかった 毒霧に含まれる蛍光粒子が、彼らの衣服や肌に容赦なく付着していく
    暗闇の中で、彼らのシルエットが怪しく発光し始めた
    「毒を効かせるためじゃないわよ!……消し飛びな!」
    お七の指先から放たれた火球が、光るシルエットを正確に捉え、次々と爆砕していく 電子の目を欺いたつもりの忍者たちは、NEONのアナログな機転によって、ただの「光る標的」へと成り下がった

    しかし、敵の数は執拗だった 倒しても倒しても、闇の奥から次なる影が湧き出てくる じりじりと包囲される
    「上等じゃない……! だったら、まとめて焼き尽くすまでよ!」
    ストレスが頂点に達したお七の魔力が、一気に膨れ上がる 彼女の周囲の地面がドロドロとマグマのように溶け始め、真田の郷の木々が内側から発火していく
    「お七、出力が強すぎる 周囲への被害が──」
    ムオンの制止の声など、もう彼女の耳には届かない

    「うるさい! どいつもこいつも、アタシの前に立ち塞がるなァァーーッ!!」
    『大炎上!!』

    お七の絶叫とともに、文字通り天地を覆うほどの巨大な火柱が爆発的に燃え上がった 周囲のアナログ忍者たちは悲鳴を上げる暇もない 真田の郷の深い森は、一瞬にして一切の生物を拒絶する紅蓮の地獄へと変貌した
    「ハァ、ハァ、ハァ……!」
    肩で息をするお七の目の前で、すべてが真っ赤に燃えている この火力だ いくら伝説の武人・真田幸村といえど、ひとたび巻き込まれればただでは済まないはず──

    パチパチ、と爆ぜる炎の壁 その向こうから、一人の男が平然と歩いて出てきた 衣服の端すら焦げていない 男──真田幸村は、燃え盛る業火をまるで心地よい夜風であるかのように受け流しながら、不敵な笑みを浮かべていた

    「クックック 豪快な花火だな だが、少し騒がしすぎる ……で? 甚八から、どうやってこの場所を聞き出した?」
    幸村の放つ圧倒的なプレッシャーに、お七が思わず一歩身を引く 張り詰めた沈黙の中、NEONが「──話し合いだ」
    お七とムオンは、思わず顔を見合わせて絶句する
    「……」

    「ハハハ! 話し合い、か! 面白い人形だ ……だが、お前たちのその優秀な『目』でも、私の気配は捉えられなかったはずだが?」
    幸村が、迫り来る炎の熱風を浴びながら、ゆっくりと柄に手をかける その刀の鞘には、びっしりと不気味な呪言が書き込まれた『禁忌呪符(きんきじゅふ)』の御札が、何重にも巻き付けられていた
    「実はこの村正、持つと誰か斬りたくなって正気を失うのでな 頑丈に『封印』しておいたのだが……」

    幸村の言葉と同時に、NEONの網膜ディスプレイに、凄まじい速度でエラーログが走り始めた
    『WARNING: 対象の生体エラーが解消──合致』
    『ANALYSIS: 対・真田幸村 索敵エラーの原因を特定』
    『REASON: 妖刀【村正】に施された「禁忌呪符」による波長遮断』

    幸村は片手で柄を握り、もう片方の手で、鞘の禁忌呪符をペリペリッと無造作に引き剥がした
    ──その刹那、御札という「重石」を失った世界の空気が、一変した
    『WARNING: Suppression Released(警告:抑え込み解除)』
    『Demon Blade: Unsealed(妖刀:封印解除)』

    「お主ら、村正の試し斬りにしてやろう」
    幸村が刀を抜いた瞬間、鞘から溢れ出したのは、光を一切反射しない「漆黒の濁流」だった それは意思を持つかのようにのたうち回り、巨大な大蛇の姿を形作っていく 凄まじい怨念と冷気が、お七の作った紅蓮の地獄をチリチリと侵食していく
    「……ッ!? なによ、これ……!」
    お七の顔から血の気が引く
    「──水魑(みずち)」
    幸村が静かに呟くと同時に、漆黒の水大蛇が咆哮を上げた お七が放った絶対的な熱量──
    『大炎上』の炎が、その水の大蛇が激突した瞬間、まるで最初から存在しなかったかのように
    一瞬で、冷徹に、完全に飲み尽くされ、消火されていく

    暗闇と圧倒的な冷気が、再び真田の郷を支配する 蒸気が立ち込める中、妖刀を構えた幸村の瞳が、狂気を孕んで爛々と輝いていた

    審判の日(2029年8月29日)まで残り156,662日

    長野の地に潜み、400年以上の時を超えて回り続けていた真田の執念の歯車が、今、幸村の手によって『禁忌呪符』とともに解放された この果てしない日数の先に待つ結末とは一体何なのか……

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    【歴史データの取り扱いについて】
    本記録(ログ)に含まれる歴史的事件、人物、および事象に関する記述は、NEONが観測・抽出したデータに基づく再構成ストーリーです。作中の描写は実際の歴史的事実(史実)と異なる場合がありますが、それは「歴史のノイズ」あるいは「修正の結果」としての演出であり、特定の史実を否定するものではありません。
    【観測上の注意】
    この物語はフィクションです。登場する人物、団体、名称、および「A.I.D.A.」を含む設定はすべて架空のものであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。

     
     
    歴史SF小説【PROTOTYPE】 完璧な知能(A.I.D.A.)が犯した たった一つのバグ 私は「NEON」 滅びへと向かう歴史のノイズを修正し 人類存続の価値を証明する ここは私が観測した「正しい未来」への 記録(ログ)を記す場所 Now Loading...

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