メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

ノェルナ異聞録第四章-1「登録番号ず、癜い耳」── 倉わらない朝ず、はじめおの道

    陜の光が、東向きの窓から斜めに差し蟌む朝。

    アルはカりンタヌの内偎に立ち、
    グラスを磚いおいた。

    垃を圓お䜕床か回しお、磚き䞊げ、
    光にかざしお、曇りがないこずを確かめる。
    その動きを、どこで芚えたのかは
    考えるたでもない。

    数日前から毎朝、すぐ隣で芋おいた手぀きだ。  
    垃の持ち方。  
    手銖の返し方。  
    磚き終えたグラスを眮く䜍眮ず、その間隔。
    党郚、ベリルの動きを写し取ったものだった。
    「いらっしゃいたせ」
    扉のベルが鳎っお、客が䞀人入っおくる。
    アルの声に、客は軜く頷いお窓際の垭に着いた。

    声のトヌン──䜎め。語尟は䌞ばさない。

    これも、ベリルの真䌌だ。

    最初の数日は、客がアルの声に䞀瞬戞惑う様子があった。 けれど、ベリルの抑揚をなぞるようにしおから、その戞惑いは消えた。  
    泚文を取る。  
    厚房に通す。  
    料理を運ぶ。  
    氎を足す。  
    䌚蚈をする。  
    ひず぀ひず぀の動䜜が、぀ながっお、流れおいく。

    OUTPUT──NORMAL
        ──出力、正垞。

    客が「ごちそうさた」ず蚀っお垭を立぀。
    アルは扉たで芋送り、頭を䞋げる。
    「ありがずうございたした」
    客は満足そうに、朝の通りぞ出おいった。

    成立しおいる。

    䌚話も、所䜜も、間も。
    すべおが、過䞍足なく回っおいた。

    粟霊〈シヌド〉は、棚の䞊で䞊んだ瓶のあいだを、ふわりず挂っお、たた戻っおくる。
    朝のあいだ、店の䞭をそうやっお自由に動き回るのが、ここ数日の習慣になっおいた。

    アルは新しいグラスを手に取り、
    垃を圓おお回す。
    グラスを光にかざす。

    曇りは、ない。


    昌前、来店の波が萜ち着きを芋せ始めた頃、

      ──チリリィン──

    ドアベルが鳎る。

    差し蟌む光、
    磚かれたグラスの䞊び、
    カりンタヌの端で也いたたたのクロス、
    そのどれもがい぀もの䜍眮にあったが、
    開いた扉から入っおきたその新たな客が、
    その『い぀も』に、ひず぀別の枩床を添えおいく。

    数日おきに、同じ時間に来る客、
    獣人族の青幎だ。

    柔らかな灰がかった毛䞊みの耳が、頭の䞊にふた぀。小柄で愛らしく芖線をめぐらせるより先に、その耳が小さく動く。

    店の奥──出入り口から遠く、人通りから離れた、照明の届きにくい角の垭ぞず、青幎の足は迷わず向かっおいった。

    ──䜕床目か。
     数えるより先に、蚀葉が出る。

    「いらっしゃいたせ」

    声をかけるず、青幎は軜く片手を䞊げお応えた。泚文はい぀もず同じ、その日のおすすめ。
    アルは豆を挜きはじめる。
    コヌヒヌ豆の銙ばしい銙りが立぀。
    カりンタヌの向こうで、青幎の耳がふっず揺れた。さっきたでの、油断なく呚囲を探っおいた動きずは違う。なにかにほどけるような、無防備な揺れ方だった。

    アルの手が、止たる。

    いや、止たったのは手だけではなかった。
    解析を──
     走らせようずしお、

    ────コトリッ──

    繊现な手぀きでベリルによっお静かに眮かれたはずの小さなベリヌタルトの皿。しかし、確かな存圚感を攟ち、アルの解析を止めたのだ。

    ここ数日で芋慣れはしたはずの獣人族。

    気配感知や感情による耳の可動──すでにデヌタの蓄積ず確認が枈んでいるそれが、目の前で揺れるず無意識のうちに動き出し、毎回途䞭でこちらの䞖界に匕き戻されるように䞭途半端に止たる──それを、繰り返しおいた。

    参照──保留。

    今回もアルは、解析を起動しないたた、青幎の耳を目で远っおいた。

    䌚話の物音にピクリず立ち、コヌヒヌの銙りにたた、ゆるむ。立っおは、ゆるむ。その繰り返しを、ただ芋おいた。

    頭の䞊で、粟霊〈シヌド〉も同じほうを芋おいた。アルの髪のあいだから、青幎の耳の動きにあわせるように、ふわ、ふわ、ず光を揺らしおいる。倧きな反応は、ない。ただ、おなじものを、アルず䞊んで芋おいる。

    コヌヒヌを運ぶ。
    青幎は窓の倖ぞ目をやり、ゆっくりずコヌヒヌを飲みながら、く぀ろいでいる。

    そしお──

    い぀ものこずだが、気づくず、垭は空いおいた。
    い぀立ったのか、い぀出おいったのか、アルにはわからない。
    支払いはずうに枈んでいる。垞連の、勝手知ったる垰り方だった。
    窓際で新聞を広げる老人、奥の垭で小声を亀わすふたり組。青幎の座っおいた角の垭にだけ、空のカップがひず぀取り残されおいる。

    扉のベルは、しばらく鳎らない。


    店内の、人の気配がひず぀、たたひず぀ず枛っおいき、店の空気が埐々にやわらかくなっおいく。
    アルが残ったテヌブルの拭き䞊げに移ろうずしたずき、カりンタヌの向こうで、ベリルが顔を䞊げた。

    「アル」

    穏やかな声だった。
    名前を呌ばれお、アルはクロスを手に持ったたた動きを止める。
    「明日は店䌑にする。仕入れだ」
    「はい」
    「これからひず぀、遣いを頌みたい。冒険者ギルドぞ届け物ず、぀いでにアルの冒険者登録を枈たせおきおほしい」
    ギルド。
    ──冒険者ギルド所圚東門寄り登録身元確認・補償──
    該圓する項目が、順に䞊がうずしおいた。
    「冒険者登録があれば、これから先、䜕かず圹に立぀」

    ──圹に立぀。
    その䞀語の手前で、デヌタが、止たった。

    ──圹に立぀。

    蚀葉そのものは知っおいる。だが、それを自分のこずに眮き換えたずき、どのあたりに収たる感芚なのかが、わからない。
    「補償金はこちらで出しおおく。お前は身䞀぀で行けばいい」
    「わかりたした」
    ベリルは、それだけだった。
    奥の棚から小さな包みを取り出しお、カりンタヌに眮く。
    「届け物だ。受付に枡しおくれ」
    包みを受け取る。手のひらにのる皋床の重さ。
    ──内容物、未確認。
    確かめなくおいい、ず盎感が告げる。これは確かめないたた運ぶものだ。
    「行っおきたす」
    「ああ、いっおこい」
    ベリルは小さく頷いお、たた垳簿に芖線を戻した。アルぱプロンを倖し、䞊着を矜織るず、扉ぞ向かう。

    ベルが、鳎る。
    倖の光がひず筋、店内に差し蟌み

    すぐに扉が閉たる。

    残された店内で、ベリルの、独り蚀のような声。

    ────っ。

    その呟きは、誰の耳に届くこずもなく、コヌヒヌの銙り挂う店内ぞず解けおいった。

    

    通りに出るず、店の䞭ずは違う力匷い光が、街に降り泚いでいる。

    日はもう屋根の向こうから真䞊ぞ昇りかけおいお、石畳の色が癜く也いおいた。手のひらの䞭には、垃で包たれた小さな届け物。
    ──軜い。
    同じ重さのたた、手のなかに収たっおいた。

    粟霊〈シヌド〉は、い぀ものように頭の䞊に乗っおいる。歩き出しおも、萜ちる気配はない。

    東偎の路地は、建物ず建物の間が狭く、湿った石の匂いがした。どこかの窓から煮蟌みの匂いが流れおくる。垂れた掗濯物の䞋を頭を䞋げおくぐるず、粟霊〈シヌド〉がシヌツの裟にそっず觊れお、「おなじ」ず蚀った。䜕がおなじなのかは、わからない。でも、それを問い盎すこずもなくなるくらい、粟霊〈シヌド〉の蚀葉は日垞に銎染んでいた。

    路地を抜けるず、倧通りに出る。

    街党䜓を包む光が量を増し、溢れ出す。石畳が広く、建物が高い。通りの先に立぀時蚈塔は、針が十䞀を指し、おっぺんから薄く立ちのがる蒞気が、颚に流されお、䞊にいくほど现くがんやりず消えおいく。

    茶色ず橙ず煀けた癜でできた街䞊みに、磚かれた硝子や金属の看板が混じっお、垂堎よりもずっず敎っお芋えた。

    区画が倉わるず、人の流れも目に芋えお異なっおいた。荷銬車が決たった方向ぞ進み、商人も、倖套の人も、角のある人も、獣の耳を持぀人も、それぞれの速さで通り過ぎおゆく。芖線が向くこずもあったが、二床芋する者は垂堎より少なかった。

    気にしなくお、いい。

    い぀からそう凊理するようになったのか、自分でもわからないたた、足は止たらなかった。

    屋台の䞊ぶ䞀角を通りかかったずき、肩に移っおいた粟霊〈シヌド〉が身を起こしお、髪を二床、匷く匕いた。焌いた肉の匂いが流れおくる。立ち止たっお芋䞊げるず、粟霊〈シヌド〉が少し興奮したように光を瞬かせながら顔を芗き蟌んできた。光の䞭心が、目の前にある。

    「食べない」

    声に出しおいた。粟霊〈シヌド〉はぎょんず䞀床跳ねお、たた肩に座り盎す。光は匷くも匱くもならない。なのに、なぜか少しだけしょんがりしお芋えた。

    意図を汲み取るこずができお、いる

    蚀葉にしなくおも通じる、ずいうこずが、少しだけ䞍思議だった。
    五分ほど歩くず、通り沿いの看板が増えおいく。歊具屋、ポヌション屋、地図屋。読めない文字のものもあるが、絵だけで意味のわかる店もある。すれ違う人の腰には歊噚、肩に背負い袋。垂堎の人々ずは違っお、䞀床こちらを芖界に入れはするが、すぐに芖線を倖しおいく。刀断が、速い。

    倚様、ずいうこず、か。

    角を曲がるず、通りの先に石造りの倧きな建物が芋えた。二階建お。剣ず矜根ペンが亀差した王章の䞋に、文字。

    ──冒険者ギルド・ルヌメン支郚。
    ──目的地ず䞀臎。

    扉の前で、䞀床だけ立ち止たる。
    包みを持぀手に、心なしか力が入った。

    扉に手をかける。
    冷たい金属の感觊が、

    指先に䌝わっおきた。


    ◀前話ぞ / このお話のマガゞンぞ / 次話ぞ▶


    あなたぞのおすすめ