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静寂郜垂 第16話

    ●あらすじ
    箄10䞇幎前、人間は蚀葉に感染した。人間に蚀葉を操る力を䞎えた䞀方で、争いを远求させ続ける蚀語りむルスを無害化するために創蚭された静寂郜垂。䜏民は発話せず、䞻に手話ず電子パッドを䜿った筆談で亀流しおいた。
    3幎前に倱声症を患い、倱職した36歳の䌊吹圭織いぶきかおりは完党にミュヌトの䞖界「静寂郜垂」ぞの移䜏を決める。
    立ち寄ったネむルサロン「おりふり」でネむリストの青幎藀氞皔ふじながみのるに出䌚い、圹堎で偶然、䞭孊時代の同玚生笹本千尋ささもずちひろず再䌚する。2人ず亀流を深めながら、銙の声を聞く銙道こうどうに芪しみ぀぀、静寂郜垂の底知れなさに匕き蟌たれおいく。そしお䞭孊時代に犯した過ちや母芪ずの確執かくし぀ず向き合っおいくのだった。
    (党玄58500字、党17話)

    第15 話 もくじ 第17話最終話


    扉を開けるず、目線の高さにある倕陜に県球を焌かれお、思わず片手で目を芆おおった。振り向いお別れの挚拶をしようずするが、藀氞ふじながさんの姿が芋圓たらない。店の奥から走っお戻っおきた藀氞さんの手には、芋芚えのある小さな玙袋があった。はっずしお頭を䞋げ぀぀、玙袋を受け取った。預けおいたお土産みやげの栃逅ずちもちのこずを、すっかり忘れおいた。

    藀氞さんは気にしないでください、ず䞡手を巊右に振り、䜕床も頷うなづく。恥ずかしい。早く垰りたくなり、さようなら、ず手で告げようずした時だった。

    「圭織かおり」

    耳元で銅鑌どらを叩かれたような衝撃が党身に走る。右の肩を匷く掎぀かたれたず思ったら、勢いよく埌ろに匕かれた。身䜓党䜓のバランスを厩しお、よろめく。今床は䞡腕をがっしりず掎たれお、身䜓を固定された。目の前に、もはや懐かしい母の顔があった。い぀もの若さを挔出しようずするメむクずファッションが、老醜ろうしゅうさを銙り立たせおいる。汗ず混ざっお泥のようになったファンデヌションが、深いほうれい線に溜たたっおいた。

    「なんで、なんで心配させるの急にいなくなっお、どこにもいなくお、どれだけ心配だったか、あなた分かる」

    真っ赀な顔をした母の咆哮ほうこうのような声が響き枡る。母は私の巊腕をき぀く締めあげた。頌むから腕から䞋には觊れないで欲しい。幌い頃は恋しくおたたらなかった母の手が、今では䞍快な拷問ごうもん噚具でしかない。

    「  こんな気味の悪い堎所にいるなんお、思いもしなかった治療はどうしたの仕事は心因性の倱声症なんお、リハビリを続ければどうにかなるでしょこんなカルトたがいの堎所で、貎重な時間を無駄にしおあなたくらいの幎霢なら、もう結婚しお、子䟛がいお圓たり前なのよ同幎代の人たちを芋おお、なんずも思わないの恥ずかしい情けない  ただなんずかなる。戻っおきなさい。無理にでも連れ垰るからね」

    䞡腕が匕っ匵られた瞬間、思いきり振り払った。今床は母がよろめき、驚愕きょうがくの衚情を浮かべた。倱声症になったず䌝えおも、慰なぐさめの蚀葉䞀぀、くれなかった。ただ治らないのか、わざず話さないんじゃないのかず呪詛じゅそのように繰り返し、远い詰めおきた。母は自分自身の䞍幞で忙しい。心配しおいるのは、垞に自分自身のプラむドや䜓裁おいさいだ。
    あなたは私の母ではない。二床ず䌚いたくない。
    叫びたくお、匕き぀る喉のどず口を無理に動かす。息が抜ける音ず、う、あ、ずいう现切れの母音しか出おきおくれない。よろよろず母に近づき、䞡肩を突き飛ばした。

    「痛っなにするの芪に手を䞊げるなんおそんなんだから、い぀たでも治らないのよどうせ真面目に治療しおなかったんでしょい぀たでも愚図ぐずで、みっずもないんだから戻ったら、母さんが病院に付き添っおあげるから。ほらっ早くこっちに来なさい」
    「あんた、芪なら子䟛の話を聞けよ」

    耳を塞ふさごうずした瞬間、巚倧な氷柱のような声が私ず母の身䜓を貫぀らぬいお、時間が止たった。動けなくなっおいる私の手に、藀氞さんは電子パッドを握らせる。そしお、う぀むいたたた呻うめくように話し始めた。

    「蚀いたいこず、本音を、曞いおください䌊吹いぶきさん。曞かなきゃ、いけたせん。䌝わるかどうか、誰にどう思われるかなんお問題じゃない。あなたがあなたでいるために、文字にしなきゃいけないんです。俺も䞡芪に手玙を曞きたした。俺の本心からの蚀葉を、曞いお送りたした。返事はないから、届かなかったのかもしれたせん。でも、曞いおから、俺は空っぜの自分に戻れたした。戻ったらたた、埋めおいけばいいんです。今床は自分の奜きなように」

    䜎くもなく高くもない声が、やるべきこずを教えおくれおいる。出口はこっちだず、導みちびいおくれおいる。私はパッドの暪に付いおいるペンをのろのろず取った。

    「  な、䜕なのここの人は皆、喋れないんじゃないの圭織、この人は䜕なのあなたの圌氏」
    「  倱瀌したした。俺は䌊吹さんの友人です。どうかもう少し、口を閉じお埅っおおください」

    思考を攟棄しお、暗い胃の底からマグマのように湧わき出る蚀葉を、曞きなぐった。蚀葉になる前の捉ずらえがたい熱ず光を、無理やり文字にした。嗚咜おえ぀が止められなくなっおいく。ペンを持぀右手をだらりず䞋ろすず、電子パッドが匕き抜かれた。代わりにポケットティッシュが枡された。
    母は困惑し぀぀も、枡された電子パッドの画面に芖線を走らせ始めた。もう母の姿を芋たくなかった。倧量に匕き出したティッシュを顔に抌し付ける。
    長い時間が静かに過ぎた。地面を匷く蹎ける音が、遠くなっおいく。もう完党に聞こえなくなっおも、顔が䞊げられなかった。

    「  もう垰られたしたよ。暗くなっおきたしたね。䌊吹さんも、もう垰ったほうがいい。送りたす。歩けたすか」

    ティッシュで顔党䜓を拭ぬぐい、頷うなづいお歩き始める。頬にティッシュの屑くずが付いおいる気がする。早足になりかけた時、埌ろから腕を掎぀かたれた。

    「倧䞈倫ですよ䌊吹さん。倧䞈倫。ゆっくり垰りたしょう。秋の倜の散歩も、いいもんですよ」

    藀氞さんに緩く匕っ匵られるたたに、歩いおいく。振り返っおこない藀氞さんに安心しお、倕闇に溶けようずする山ず街の景色に目を向けた。鈎虫やコオロギの鳎き声が重なっお聞こえる。
    倧䞈倫。藀氞さんが発した声の音色には、説埗力があった。今以䞊にずんでもない状況でも、藀氞さんに倧䞈倫ず蚀われおしたえば、私は平静を取り戻せるだろう。
    赀信号を埅っおいる間に、手は離された。電子パッドを鞄から取り出し、短い文章を曞く。たったくの空癜に戻るために、ただ曞かなくおはいけない蚀葉があった。暪断歩道を枡り、しばらく䞊んで歩いた所で、電子パッドを枡した。

    “奜きです。藀氞さんが笹本ささもずさんを愛しおいおも。氞遠に友達のたたでも。これから䜕があっおも奜きなんだず思いたす。これは、ただの独り蚀みたいなものです。どうか聞かなかったこずにしおください。ごめんなさい”

    力の入っおいた背䞭やお腹が匛緩しかんしおいく。空気の抜けた颚船の人圢になったような気分で、なんずか歩き続けた。1歩ず぀、立ち止たった藀氞さんずの距離が開いおいく。ただの独り蚀だ。藀氞さんは、優しく無芖し続けおくれるだろう。倧䞈倫だ。
    藀氞さんが远いかけおくる気配がする。目を閉じお足を止めた。

    「  䌊吹さん、あの、俺ず笹本さんは、そういう関係じゃないです。笹本さんには、その、女性の恋人がいるはずです。それで、俺はアセクシャルなんです。恋愛感情自䜓が、党く分からないんです。静寂郜垂でも俺たちは少数掟だから、なんずなく仲良くなっお、姉匟みたいに気安く話すようになったんです。誀解させおしたっお、すみたせん」

    芋開いた目から、党身が也いおいく。顔は熱いのに、足先や手先は冷たい。今すぐ藀氞さんが抱えおいる電子パッドを奪っお、地面に叩き぀けたい。開いた口の筋肉が震える。完党に閉じた喉は、私の悲鳎すら音にしおくれそうにない。

    走った。息を吞っおは吐く音が響く。私から出おいく空気は震えない。震えお蚀葉になっおくれない。出口を倱った暎颚のような蚀葉が、぀むじ颚ずなり、竜巻ずなり、私を攟り投げようずしおいおも。
    うなり声で喚わめき散らし続ける。足を止めお膝に手を぀き、えずく。蚀葉を吐きたい。出おこない。蚀葉。蚀葉私を嘲笑あざわらうように、声になり損なった息だけが、口から挏れおいく。薄汚れたスニヌカヌに涙ががたがたず萜ちおいった。ショパンの雚だれの旋埋せんり぀が、蚘憶の奥から響いおくる。私の雚だれは汚く惚みじめで恥ずかしい。


    第15 話 もくじ 第17話最終話


     
     
    小説や詩を週1回曎新したり、時々朗読したりしおいる人です。創䜜倧賞2025で䞭間遞考通過、第131回文孞界新人賞で2次遞考を通過したした。★SFショヌトショヌト集「コズミック・クラムチャりダヌ」をamazonで発売䞭。https://amzn.asia/d/03mELj1t

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