
【創作大賞2026応募作品】AIジーン 第0話 プロローグ
駅前の花壇に、小さな花が咲いていた。
白い花だった。
少女はその前でしゃがみ込んでいる。
通勤の人たちが、すぐ後ろを通り過ぎていく。
誰も声を荒げない。
誰も立ち止まらない。
信号は乱れず、車は静かに流れ、人の列は決められた線の内側を進んでいく。
「どうしたの?」
母親が声をかける。
少女は花を見たまま、少し首を傾けた。
「この花、かわいそう」
母親は少女の隣にしゃがむ。
花は折れていない。
踏まれてもいない。
水も足りている。
「どうして?」
少女は黙った。
小さな指が、花びらに触れそうになる。
触れない。
「……わからない」
母親は微笑んだ。
「そういうこともあるよ」
少女はもう一度、花を見る。
それから立ち上がる。
母親の手を握り、
歩き出す。
花は、風もないのに少しだけ揺れていた。
世界は今日も、正しかった。
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