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旦那様は神様|親子サークルで出会ったカルト地獄

    「旦那様は神様」
    ——あの瞬間、笑うしかなかった。

    当時、私は育休中。
    夫の仕事の都合で、某・僻地に住んでいた。
    それはもう、紛うことなき田舎だった。
    至るところに蜘蛛の巣、そして見たことのない虫。
    虫のサイズは、映画『ミスト』やゲーム『地球防衛軍』レベル。

    そんな異世界で、もうすぐ1歳になる娘・ちび雲と日中は二人きり。
    知り合いゼロ。孤独と虫に震えて暮らしていた。

    当然、支援センターと公園のヘビーユーザーである。

    ある日、まだ歩けないちび雲を抱っこ紐に入れて、スーパーで買い物をしていた。

    「すみませーん、ちょっといいですか?」

    振り向くと、普通の主婦っぽい人が立っていた。

    地元だったら“訳ありの野犬”くらいに警戒していた私だが、
    転勤先のこの異世界では、地域全体がファミリー。
    みんな挨拶してくれるし、他人との距離が近い。

    ……ちょっと、うれしかった。

    聞くと、「今度、親子サークルがあるんです」とのお誘い。
    0〜1歳児を親子で遊ばせるらしい。

    孤独で心がカッサカサになっていた私は、
    もちろん快く承諾した。

    そう…まんまとホイホイ承諾してしまったのだ。

    親子サークル当日。
    思ったより大勢の親子が集まっていて、感動すら覚えた。
    「同志がこんなにいたなんて……!」

    入り口では、個人情報を記入させられた。少し違和感。
    でも「どうせすぐ引っ越すし」と本名と住所を書いた。

    リトミックにふれあい遊び。みんな笑顔。
    だが途中から、なぜか娘と私は引き離された。

    弾ける笑顔のスタッフが、ちび雲を抱っこして隣の部屋へ。
    赤ちゃんたちがまとめて預けられ、
    まるで託児所のような光景になっていた。

    ……まぁ、みんないるし、いいか。
    とそのときは思っていた。

    次のプログラムは「先輩ママのお話コーナー」。
    先輩ママが次々と登壇し、計90分の地獄が始まった。

    「育児がつらいとき、“先生”にお話を聞いてもらって幸せになったんです」
    「夫を最優先するようになってから、息子の持病が治ったんです」

    ……話が長い。気絶しそうだった。
    そして、なにかがおかしい。

    全員が「夫を神のように崇めれば幸せになる」と語りだす。
    話の内容と比例して暗いオーラを纏っていた。
    声は弱々しかったが、本気の熱量を感じた。

    ……これ、宗教じゃん。

    安心させるためのリトミック。
    狙いは産後、孤独や不安を抱えてるママ。
    油断させるための“親子分断”。
    ゾッとした。

    もう私は、心のシャッターを助走をつけて思い切り閉めた。

    そのタイミングで、隣の部屋からちび雲の泣き声と共に戻ってきた。
    「ママぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

    ナイス判断。
    0歳児より危機管理能力が劣る私。
    ごめんね、ちび雲.…。

    そして最後は「質問コーナー」。
    各スタッフが一人ずつ付いて、
    「悩みを話してもいいですよ」とにっこり。

    あったとしても、お前らに話す気にはなれん。

    だがせっかく宗教の現場に紛れ込んだのだ。
    取材するつもりで、楽しむことにした。

    「実は、夫の転勤先についていくか、地元に戻るか迷ってて……」
    とだけ話してみた。

    さて、どう出るか。

    スタッフの顔色が変わった。
    「旦那さんについて行かないなんてとんでもない!」
    「先生にも相談しますけど、きっと同じ答えですよ!」
    「旦那さんを最優先してください!」

    ……うん、圧がすごい。
    というか、そんな質問をした時点ですごく哀れみの目で見られた。

    会が終わり、なぜかLINE交換を求められた。
    どうせすぐ引っ越すし、まぁいいかと応じた。

    数時間後、LINEが届いた。

    「先生に相談したところ、やはり旦那さんについていかないと大変なことになります。
    次のサークルでは先生も来るので、ぜひお話を聞いてください。」

    2人とLINE交換したのだが彼女たちのアイコンは、
    どちらも真っ黒な背景に、子どもの顔写真が浮かんでいた。
    ホラー映画『シャイニング』のスチルかと思った。
    この界隈のテンプレだろうか。

    センスを疑うと同時に、
    その世界が、私を静かに手招きしているようだった。

    ……ちなみに、ブロックはしていない。
    だって、彼女たちの生態は私にとって未知だ。
    返信はしないけど、読む。
    読み物として、興味深い存在だ。

    活気のある絵文字を多用しながら、今日も「正しさ」を布教している。
    自分こそが幸せの代弁者だと信じながら。

    数ヶ月後、私は“旦那様”と“ありがたいお言葉”をまとめて置き去りにして、
    ワンオペママとして、颯爽と地元で新生活を始めた。

    今のところ――
    とんでもないことにはなっていない。

    ※信仰心を笑っているわけではありません。ただ、現場がすごすぎた。


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    あまりにも眩しすぎた


    ▼モラハラ男のことを綴ったシリーズエッセイ

    ▼違和感とかいじっちゃうまとめ

    ▼人間関係ってむずいよねーをまとめた


     
     
    3歳児とのカオスな日常を、漫画にしています。 育児のズレや違和感、 たまに人生のややこしさを、 だいたい笑いに変換。 育児漫画|コミックエッセイ|イラスト ご連絡は X(@nejigumo)または mail(nejigumo.wrk@ジーメール)

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