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何者でもない私からのメッセージ | 人生のやることリスト#6

    学生の頃から

    私は何者かになりたかった。

    同級生の佐藤はスポーツで全国大会へ出場した。

    田中は動画配信を始めて、登録者は十万人を超えた。

    鈴木はイラストが上手くて、企業から仕事を受けていた。

    山本は小説を書いていたが、卒業前にラノベを出版した。

    私の周りは、みんな何者かになっていった。

    私だけは、何者にもなれなかった。


    私は進学しても、
    何者にもなれなかった。

    就職したけど、
    何者にもなれなかった。

    転職しても、
    何者にもなれなかった。

    気付けば三十歳を過ぎていた。

    SNSを開くと

    結婚報告。

    出産報告。

    起業報告。

    受賞報告。

    私の目に映る人たちは、みんな何者かになっていく。

    私だけが、何者にもなれなかった。


    今日もまた、誰かがSNSでバズっていた。

    釣り上げた魚が、新種の魚で自分の名前が付くんだとか。

    そんなニュースを眺めていた時に、スマホの着信音が鳴った。

    父が死んだ。

    母からの連絡だった。

    葬儀の日。

    親戚が言った。

    「良いお父さんだったな」

    私は曖昧に頷いた。


    父はいたって平凡な男だった。

    仕事から帰るのはいつも遅かった。

    夜遅くに帰ってきては、

    リビングのソファーに寝込んでしまう父はいつも酒臭かった。


    運動会に父は大きなカメラを持ってきた。

    張り切って写真を撮っていたが帰宅後。

    ファインダーにカバーが付いたままだったことが判明した。

    母は笑った。

    私は怒った。

    父も笑った。


    スマホの使い方も分からなかった。

    母によく怒られていた。

    そんな父でも私は嫌いになれず、好きだった。

    大人になるにつれ、何者でもない父に少し軽蔑することもあった。

    こんな父だから。

    私も何者にもなれないんじゃないか。

    そんなことさえ思った。


    葬儀が終わった後。

    私は父の部屋で遺品整理をしていた。

    腕時計。

    老眼鏡。

    ボロボロの財布。

    ボールペン。

    引き出しの奥から一通の封筒が出てきた。

    私の名前が書いてあった。


    娘ちゃんへ

    お前は昔から

    『何者かになりたい』

    と言っていたな。

    実は父さんもそうだった。

    若い頃は有名になりたかった。

    誰かに認められたかった。

    世界に何かを残したかった。

    でも結局、

    何者にもなれなかった。

    歴史にも残らなかった。

    世界も変えられなかった。

    我ながら平凡な人生だったと思う。

    だけどな。

    一つだけ。

    一つだけ特別なことがあった。

    お前の父親になれたことだ。


    手紙はそこで終わっていた。

    私はしばらく動けなかった。

    『終わった?』

    気づいたら母が後ろに立っていた。

    「うん」

    そう返して立ち上がる。

    部屋を出る前。

    私はもう一度だけ父の机を見た。

    何者でもないと思っていた。

    でも。

    少なくとも私にとっては、

    素敵な父だった。

    完

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    何者でもない私からのメッセージ

    【前日談】ナニモノにもなれなかった人生は、自分らしく生きた証明である。/人生のやることリスト #7




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    #創作大賞2026 #エッセイ部門

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