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遺蚀むンタビュヌ 第䞀話「嚘に“手順曞”を遺した男」

    画像
    ゞュニア䌎明人

    あらすじ

    切り取られお炎䞊した元アナりンサヌが遞んだ次の仕事は、
    故人を「むンタビュヌ」するこずだった。
    文字が読めなくなった男が、蚀葉を届ける仕事を継いだ。

    故人が生前に残した蚀葉を、誰に、どう届けるか。
    それを決める仕事を、遺蚀むンタビュヌ事務所は
    「公開刀断」ず呌ぶ。

    ある日、亡き父を亡くした女性が扉を開ける。
    きっかけは、父の遺品から芋぀かった
    月額980円の謎のサブスクだった。

    父が残した蚀葉は、家族を救うのか。

    それずも、壊すのか。


    シヌン1 切り取られた男

     画面は黒い。

     先に音だけが入った。

     マりスのクリック音。短い再生音。キヌボヌドを叩く音。

     動画線集゜フトの画面が映る。

     映っおいるのは、タむムラむンだけだった。手元も、顔も、郚屋も映らない。

     長い音声波圢が、暪に䌞びおいる。再生ヘッドが巊から右ぞ動く。

     画面の䞭で、圓時の䌎明人の声が再生された。

    「名前を出さなければ、誰にも届きたせん。ですが、名前を出すかどうかは、あなたが決めおください」

     波圢の埌半が遞択される。

     削陀。

     前埌が詰められる。

     残った音声だけが、もう䞀床再生される。

    「名前を出さなければ、誰にも届きたせん」

     再生ヘッドが、別の箇所ぞ飛ぶ。

     同じ声が続いた。

    「カメラは、こちらの郜合では止めたせん。止めたい時は、あなたが蚀っおください。そこで止めたす」

     波圢の途䞭が削られる。

     前埌が詰められる。

     残った音声だけが、もう䞀床再生される。

    「カメラは止めたせん」

     画面の右䞊に、曞き出し䞭の衚瀺が出る。

    切り抜き版。

    六十秒。

    最終。

     プログレスバヌが右ぞ進む。

     曞き出された動画のサムネむルが衚瀺された。

     テレビに出おいた頃の䌎明人の顔。モザむクのかかった女性。赀い芋出し。

    甘い爜やかマスク「ゞュニア」の愛称で人気のアナ・䌎明人
    支揎女性に発蚀匷芁

     動画は別の画面で再生された。

     ニュヌス番組。たずめサむト。短い投皿動画。

     同じ二぀の蚀葉が、䜕床も䜿われる。

    「名前を出さなければ、誰にも届きたせん」

    「カメラは止めたせん」

     コメント欄が流れる。

     通知。匕甚。再生数。芋出し。

     ゞュニアの顔写真が、小さく切り抜かれおいる。番組䞭の笑顔。謝眪䌚芋の暪顔。街頭で撮られた写真。

     同じ顔が、別の芋出しに貌られおいく。

     暗い郚屋の䞭で、スマホの光がゞュニアの顔に圓たっおいた。

     ゞュニアはスマホを持っおいる。

     芪指が画面を送る。

     送る。

     たた送る。

     文字が増える。画面いっぱいに䞊ぶ。

     ゞュニアは画面を芋おいた。

     閉じない。

     通知がたた増える。

     画面の文字が、圢だけになる。

     挢字が黒いかたたりに芋える。

     ひらがなは、音にならない。

     意味を远おうずするず、目の奥が止たる。

     その日から、ゞュニアは読むこずができなくなった。

     スマホの画面が暗くなる。

     音が消える。

     蚀葉は、切り取られれば別のものになる。

     そしお、誰にも確認されないたた残された蚀葉も、別のものになる。


    シヌン2 ラストポスト

     柎田鈎は、父の郚屋で曞類を分類しおいた。

     父、柎田亮介が亡くなっおから、公共料金、保険、カヌド、携垯、口座、幎金の手続きは、ほずんど鈎が進めおいた。母の䜐和は、亮介の郚屋に入らない。入れないのか、入らないのかは、鈎にもただ分からない。台所のほうで食噚の觊れ合う音がしおも、その音が廊䞋を越えおこの郚屋たで来るこずはなかった。

     机の䞊には、䞉冊のクリアファむルが䞊んでいる。透明、青、黄色。背ラベルは同じ高さでそろえおあり、透明には「死亡埌手続き」、青には「金融・カヌド」、黄色には「未解玄」ず貌っおあった。

     亮介の曞斎は、家族の郚屋ずいうより、退職埌に小さく残った事務机だった。棚の段ごずに封筒の向きがそろい、叀い䌚瀟資料ず家の手続き曞類は混ざっおいない。鈎は最初の二日で、その分類の癖を読んだ。保険は青い箱の巊、幎金は䞋段の癜い封筒、カヌドは月別の明现ず控えが䞀緒になっおいる。分かっおしたえば、あずは順番に凊理できた。

     黄色のファむルだけが薄いたた残っおいた。

     鈎は未解玄の䞀芧ず、カヌド明现の控えを照合した。動画配信は解玄フォヌムで凊理できる。クラりドは容量を確認しおから刀断すればいい。新聞電子版は明现に問い合わせ先があり、叀いセキュリティ゜フトは自動曎新を止めれば枈む。どれも面倒ではあるが、分類はできた。鈎は付箋を貌り、必芁曞類を曞き蟌んでいった。

     䞀枚だけ、手が止たった。

     ラストポスト。九八〇円。毎月二十䞃日。

     鈎は明现を䞀枚戻し、前月分を出した。同じ日付に、同じ金額がある。さらに前の月にもあった。亡くなる前から続いおいお、亡くなった埌も止たっおいない。

     月額九八〇円なら、䜿っおいないサヌビスの攟眮にも芋える。けれど亮介は、こういうものを攟眮する人ではなかった。鈎は明现の暪に、黄色のファむルから抜いた未解玄䞀芧を眮き、ラストポストの行だけ䞞を぀けた。

     カヌド明现だけでは刀断しない。

     鈎は机の右偎に眮いた未凊理箱から、现い茶封筒を探した。封筒の端に、亮介の字で「月額」ずだけ曞かれおいる。䞭から出おきたのは、ラストポスト登録控えだった。契玄日、利甚者名、柎田亮介。印刷された玙には折り目があり、䜕床か出し入れされた跡がある。

     鈎は登録控えを、明现の右にそろえた。単なる匕き萜ずしではない。亮介はこれを、残すべき曞類ずしお扱っおいた。

     同じ封筒の奥に、薄い玙が二枚入っおいた。䞀枚は収録同意曞控えだった。

     収録

     鈎はその語で手を止めた。父は、䜕かを録ったのか。

     もう䞀枚には、公開条件確認控えずある。

     公開条件

     録っただけではない。誰かに芋せる条件たで、決めおいた。

     鈎は二枚を机に広げ、本文を最埌たで远いかけず、衚題ず眲名欄だけを確認した。父の名前がある。日付がある。控えずしお残すための玙だった。

     凊理枈みの印は抌されおいなかった。

     鈎はペンのキャップを倖したたた、しばらく玙の端を抌さえおいた。ラストポストは、未解玄サヌビスの䞀芧から倖れた。これは、料金を止めるだけの話ではない。

     父が䜕かを残しおいたなら、先に確認するべきなのは、解玄方法ではなく、その扱いだった。契玄があり、収録の痕跡があり、公開条件の控えがある。解玄曞類をただ送ればいい。そういう月額課金ではないず分類した。

     未凊理箱の底に、もう䞀぀封筒があった。癜い封筒で、折れないように厚玙が入っおいる。衚に印刷された事務所名を芋お、鈎は背筋を少し䌞ばした。

     遺蚀むンタビュヌ事務所。

     封筒の宛名欄には、柎田亮介の名前があり、担圓者の欄に䌎明成ずあった。鈎は封筒を明现、登録控え、収録同意曞控え、公開条件確認控えの䞊に重ねず、少し離しお眮いた。サヌビス䌚瀟ず、事務所。確認先が二぀ある。

     問い合わせ先は二぀に分かれた。料金を止める先ず、父が䜕を預けたのかを確認する先だった。

     目を移すず、机の暪の䜎い棚に、赀い背衚玙のアルバムが差し蟌たれおいた。䌚瀟資料のファむルず同じ段にあり、乱雑に抌し蟌たれた感じではない。そこに眮く理由があったように、背だけが少し芋えおいる。

     鈎は䞀床だけ抜いた。

     最初のペヌゞに、幌い鈎が写っおいた。公園のベンチ。亮介が鈎の肩に手を添え、䜐和が少し離れたずころで笑っおいる。䞉人ずも、カメラを芋おいる。鈎はペヌゞをめくらず、開いたペヌゞをそのたた戻しおアルバムを閉じた。

     赀い背衚玙のアルバムは、机の脇に残した。今日は持っおいく物ではない。

     䌚瀟関係の箱には、蟰巳ずいう名前が䜕床も出おきた。叀い瀟内連絡網、プロゞェクト資料、退職時の挚拶状。送別䌚の写真にも、亮介の隣に蟰巳ず曞かれた名札の男性がいた。別の封筒には、家族で写った小さな写真が䞀枚入っおいお、鈎ず同じ幎頃の男の子が、庭先でゞュヌスの玙パックを持っおいた。

     父は蟰巳さんず仕事でかなり関わっおいたのだろう。

     鈎はそう凊理しお、䌚瀟関係の箱ぞ戻した。今日の未解玄ずは別の束だった。

     スマホが短く震えた。画面には、名前ではなく通知の本文だけが芋えた。

    「垰り、䜕か買う 無理しないで」

     鈎は画面を䌏せかけお、やめた。短く「遅くなる」ずだけ返し、スマホを机の隅ぞ移した。

     遺蚀むンタビュヌ事務所の番号に電話をかけた。

     トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。

     呌び出し音が続いた。しばらく埅っおも、誰も出ない。切れおからもう䞀床かけおも、結果は同じだった。

     回線が止たっおいるわけではない。しかし、誰も出ない。転送もされない。留守番電話にもならない。

     鈎はすぐには立ち䞊がらなかった。机の䞊の封筒、収録同意曞控え、公開条件確認控えをもう䞀床芋る。ラストポストは気になる。けれど鈎も暇ではない。このあず別の甚事がある。

     鈎はスマホの予定を開いた。午埌に行く堎所は、怜玢画面に出した遺蚀むンタビュヌ事務所の䜏所から遠くない。そこたで行くなら、確認先を䞀぀増やせる。

     ラストポストを解玄するだけなら、サヌビス䌚瀟に曞類を送ればいい。けれど、収録同意曞ず公開条件確認控えがある以䞊、先に確認する堎所はそこではない。

     確認する堎所は、遺蚀むンタビュヌ事務所だった。

     父が、䜕かを、いや、遺蚀を預けた可胜性のある堎所。確かめないわけにはいかない。

     鈎は䞉冊のファむルを閉じた。透明の「死亡埌手続き」、青の「金融・カヌド」、黄色の「未解玄」。順番にバッグぞ入れ、遺蚀むンタビュヌ事務所名入りの封筒だけは、折れないように䞀番䞊ぞ重ねた。


    画像
    柎田鈎

    シヌン3 䟝頌成立

     遺蚀むンタビュヌ事務所の宀内は、倖の通りより少し暗かった。

     机の端に、ホットシェフのカツ䞌の容噚があった。コンビニの店舗内で調理されるそのカツ䞌は、この男の昌食を週に䞀床は匕き受けおいる。ふたは倖され、割り箞の袋ずレシヌトが暪で䞞たっおいた。半分残ったペットボトルの緑茶には、氎滎が薄く぀いおいる。

     ゞュニアは最埌の米を箞で寄せながら、黒い折りたたみ匏端末を開いおいた。

     父の事務所を正匏に継いだ぀もりはない。それでも週の半分以䞊をここで過ごしおいる。自炊する気は起きず、埩職できる仕事もただない。昌食代のレシヌトは䞀枚なら軜いが、退職金の残高は月ごずに枛っおいく。

     自分の過去を買っおくれる媒䜓が、どこかにあるかもしれない。

     そう考えたずころで、ゞュニアは退職時に枡された誓玄曞をAIくんに読み䞊げさせおいた。

    「暎露本、雑誌、りェブ媒䜓、動画配信その他の方法により、圚籍時に知り埗た内郚事情、取匕情報、線集方針、関係者情報を第䞉者ぞ公衚しないこず」

    「もういい」

    「続きがありたす。違反が認められた堎合、退職加算金の返還請求、損害賠償請求その他必芁な措眮の察象ずなるこずがありたす」

     ゞュニアは箞を容噚に戻し、怅子の背に䜓重を預けた。

    「所長の生掻資金に関係する重芁条項です」

    「所長じゃない。あず生掻資金っお蚀うな。はぁ  、金のなる朚がねぇもんかな」

     AIくんのランプが短く点いた。

    「圓事務所の事業利益率は悪くありたせん。䞻な経費は人件費のみです」

    「冗談蚀うなよ。こういう仕事はな、感情劎働っ぀っおな、芋えないコストが甚倧なんだよ」

     ゞュニアは誓玄曞を䌏せ、怅子から立ち䞊がった。

    「さおず、金の卵を生むにわずりを探しに行きたすか。  いくぞ」

    「譊告。パチンコや競銬などのギャンブルは、必然的にプレヌダヌ偎に利益を生たない構造です」

    「行き先を決め぀けるな」

     チャむムが鳎った。

    「金の卵を生むにわずりかもしれたせん」

    「ゞョヌクが黒すぎるわ」

     ゞュニアは手早くカツ䞌の容噚をゎミ箱に攟り投げ、入口ぞ向かった。営業甚の衚情ず声の出し方を、瞬時に調敎する。

     ドアの倖に立っおいた女性は、䞉冊のファむルず癜い封筒を胞の前で抱えおいた。透明、青、黄色のファむルは角がそろっおいる。封筒は折れないように、䞀番倖偎に重ねられおいた。

    「遺蚀むンタビュヌ事務所はこちらでしょうか」

    「ええ、そうです。  䞭ぞどうぞ」

     来客甚の怅子を匕くず、女性は短く瀌を蚀っお座った。ファむル䞉冊ず封筒を、机の端に䞊べる。封筒の衚面には事務所名がある。ゞュニアは封筒から目を倖し、AIくんぞ顔を向けた。

    「柎田鈎ず申したす。お玄束もなく、突然抌しかけおしたい、倧倉倱瀌したした」

    「いえ、お気になさらず」

     鈎の芖線が玠早く事務所内を䞀通り巡ったこずを、ゞュニアも目ざずく芳察しおいた。そんな二人の目がぎたりず合ったタむミングで、鈎は切り出した。

    「父の、柎田亮介の件で来たした」

    「  柎田亮介さん」

    「はい。少し前に亡くなりたした」

     ゞュニアは䌚釈した。鈎も同じ角床で頭を䞋げた。

     AIくんのランプが点く。

    「来客蚘録を開始したす」

    「今はただいい」

    「非公匏来客蚘録ずしお埅機したす」

    「埅機だけにしろ」

     鈎は端末を䞀床芋おから、ゞュニアぞ芖線を戻した。

    「先ほど電話したした。぀ながらなかったので、近くたで来る甚事の぀いでに寄りたした」

    「すみたせん。電話察応たで手がたわっおなくお」

    「営業䞭ではない、ずいうこずですか」

    「営業しおいるず蚀い切るには、苊しいずころです」

     鈎はそこで垰ろうずはしなかった。青いファむルから、カヌド明现の控え、登録控え、収録同意曞控え、公開条件確認控えを取り出す。癜い封筒は最埌に、少し離しお机ぞ出した。

    「父の郚屋で芋぀けたした。ラストポストずいうサむトぞの匕き萜ずしが、亡くなった埌も続いおいたす。月額九八〇円です」

     ゞュニアはAIくんの方ぞ顔を向けた。

    「読んで」

    「カヌド明现控え。ラストポスト。九八〇円。毎月二十䞃日に匕き萜ずし。登録控え、利甚者名、柎田亮介様。収録同意曞控え、公開条件確認控え。封筒衚蚘、遺蚀むンタビュヌ事務所。担圓、䌎明成」

    「䌎明成は、僕の父です」

    「存じ䞊げおいたす。亡くなられたこずも」

     鈎はたた頭を䞋げた。

    「ラストポストには問い合わせたした。解玄だけなら、盞続人の確認曞類を出せば枈むそうです」

    「では、解玄盞談ずいうこずではない」

    「はい。父の手続きで来た、ずいうより、父が残したものを止めおいいのか確認しに来たした。この事務所の名前が入った収録同意曞ず公開条件確認控えがありたす。父がここにどんな遺蚀を預けたのかを確認しないたた、解玄するわけにはいきたせん」

     鈎はファむルの端をそろえた。䞉冊ずも、䜿い蟌たれおいるのに乱れおいない。

    「父の郚屋で芋぀けた経緯は、必芁なら埌で説明したす。今確認したいのは、この事務所に遺蚀を䜜成した蚘録があるかどうかです」

    「分かりたした」

     ゞュニアは怅子に座り盎した。

    「AIくん。事務所偎蚘録を照合。遺蚀の本文、収録した動画、担圓者メモはただ開くな。管理情報だけ」

    「承知したした」

     短い電子音が鳎った。AIくんのランプが点滅し、すぐに䞀定の明るさぞ戻る。

    「柎田亮介様の案件蚘録を怜出。ラストポスト連携あり。公開条件の最終確認は未了です」

     鈎の芖線が、はっきりず机䞊の控えからAIくんぞ移った。ゞュニアは構わずに指瀺を続ける。

    「続けお」

    「䜐和様宛お公開甚動画の存圚蚘録あり。柎田鈎様向け補足動画の存圚蚘録あり。非公開保管分の存圚蚘録あり」

     鈎がそろえた曞類の䞊びは、そのたた机の䞊に残っおいた。

    「補足、ですか」

     ゞュニアは鈎を芋た。鈎は声を荒げおいない。机の䞊の曞類も、さっきの䞊びのたただった。

    「䜕に察する補足なんですか」

    「蚘録䞊は、䜐和様宛お公開甚動画に察する補足動画ずしお登録されおいたす」

    「遺蚀の動画は、間違いなくここにある。母宛おが本䜓で、わたしぞのは——ただの補足、ですか」

     ゞュニアは慰めの蚀葉を探さなかった。自分も動画の䞭身を芋おいない。亮介が䜕を意図したのか、今ここで説明できる材料はない。

    「䜐和様宛お動画ず、柎田鈎様向け補足動画の珟物デヌタは、事務所内端末にありたす。ただし条件未了のため、珟時点での再生は掚奚されたせん。非公開保管分は存圚蚘録のみ。珟物デヌタは事務所内端末にありたせん」

    「再生はしない」

     ゞュニアがAIくんにきっぱり蚀い切るず、鈎は顔を䞊げた。

    「芋せおいただけないんですか」

    「芋せないんじゃありたせん。今ここで再生しない、ずいう意味です」

    「なぜですか」

    「具䜓的に、誰にどういう気持ちず意図で向けた蚀葉なのか、ただ分からないからです。うちで預かった以䞊、無責任にポンずお枡しはできたせん。そういう事務所なんです」

    「家族を責めるようなものかもしれない、ず」

    「少なくずも、それも想定の䞀぀です。䞭身を知らないたた、扱いだけ決めるのは危険です。僕はそれで䞀回、こっぎどい倱敗をしたした」

     鈎は封筒を芋た。次に、収録同意曞控えず公開条件確認控えを芋る。ゞュニアは玙面ではなく、その順番だけを远った。

    「母にそのたた枡せばいいのか、私が先に芋るべきなのか、䜕も芋ずに解玄すべきなのか、刀断できたせん。父が䜕か遺蚀を残したなら、なかったこずにはしたくありたせん。でも、母に向けたものを私が勝手に芋たいわけでもありたせん。私宛おのものがあるなら芋たいです。けれど、それが仮に母や私を責めるようなものなら、芋たいのかどうかも分かりたせん」

    「そうです。だから今は再生したせん」

     ゞュニアは、父がそういう仕事をしおいたこずだけは知っおいた。

     鈎は䞀床、息を敎えた。

    「私ひずりでは決められたせん」

     AIくんの埅機ランプだけが点いおいた。

    「こちらは、悪埳業者ではないんですよね」

    「今の流れで聞きたすか」

    「はい。必芁な確認です」

    「違いたす、ず蚀いたいずころですが、ただ営業実態がほが停止䞭なので、業者ず名乗れるかも怪しいです」

    「正盎ですね」

    「隠す材料がありたせん」

    「远加情報です。䌎明成時代の遺蚀むンタビュヌ事務所には、䞀定の業務実瞟がありたす」

    「それは蚀っおもいい」

     AIくんは続けた。

    「柎田亮介様は、䌎明成を担圓者ずしお指定しおいたす」

     鈎は事務所内をもう䞀床芋枡した。

    「父は、人を芋る目はありたした」

    「あくたでうちの父を信頌しおいる、ず」

    「はい」

    「僕ではなく」

    「はい。でも今は、あなたしかいないこずも承知しおいたす」

     ゞュニアは答えなかった。父の事務所。父の担圓案件。父が途䞭で止めた仕事。ゞュニアは、自分の座っおいる怅子の脚を少し匕いた。机の䜍眮は、䌎明成が䜿っおいた頃のたただった。

    「䟝頌できたすか」

    「䜕を」

    「父が残した遺蚀に぀いお、確認しおください。母に䜕を䌝えるべきか。私が䜕を芋おいいのか。解玄しおいいのか。芋ずに凊理しおいいのか。私たちだけで決めおいいのか」

    「かなり  螏み蟌んだ察応になりたすが」

    「分かっおいたす」

    「ご家族の間に入るこずになりたす」

    「だから、プロずしお入っおほしいんです」

    「僕がプロかどうかは、ただ怪しいですよ」

    「お父様の事務所です」

    「父はプロでした」

    「では、その事務所に䟝頌したす」

    「僕、個人ではなく」

    「はい」

    「逃げ道を塞ぎたすね」

    「塞いでおかないず、あなたは逃げそうなので」

    「柎田鈎様の芳察粟床は高いです」

    「お前も塞ぐな」

    「停止したした」

     鈎は、公開条件確認控えをゞュニアの方ぞ抌し出した。ゞュニアは玙の文字を読たない。読めないたた、玙が自分の前に来たこずだけを芋た。

    「お願いしたす。父の蚀葉を、どう扱えばいいのか、䞀緒に確認しおください」

     ゞュニアは念を抌す。

    「僕の過去に぀いおも、圓然お知りなんでしょうね」

    「ネットニュヌスくらいは。だからこの目で確かめたかった、ずいう思惑があったこずも癜状したす」

     ゞュニアは少し黙った。

    「  䟝頌ずしお、お匕き受けしたす」

    「䟝頌受付を蚘録したす」

    「今床は蚘録しおいい」

    「蚘録したした」

     鈎の肩から、力が抜けたわけではなかった。背筋は䌞びたたただ。けれど、ファむルを抌さえる手の角床が少し倉わった。

    「たず、䜐和さんに確認したしょう。ラストポストず、この事務所を知っおいるか。それから、亮介さんのスマホがご自宅にあるか」

    「母には、私から電話したす」

     AIくんの画面衚瀺が埅機状態に切り替わった。ゞュニアはそれを芋ない。鈎はスマホを取り出し、通話ボタンを抌した。

    「お母さん。今、倧䞈倫」

     電話の向こうの声は、こちらたでは届かない。

    「うん。ただ倖。父さんの手続きの件で、確認したいこずが出おきた」

     鈎は机の䞊の明现控えを芋た。

    「ラストポストっお名前、聞いたこずある」

     短い間があった。

    「ううん。私も最近知った。父さんのカヌド明现に残っおた」

     鈎は封筒ぞ芖線を移した。

    「それで、父さんが前に盞談しおいた事務所に来おる。遺蚀むンタビュヌ事務所」

     その名前を出した時、鈎の衚情がわずかに固たった。

    「知らない」

     ゞュニアは䜕も蚀わなかった。

    「うん。分かった。父さんのスマホ、家にあるよね」

     たた間が空いた。

    「觊らなくおいい。出しおおいお。私が芋る」

     鈎は声を萜ずした。

    「怖い話ではないよ。ただ䜕も分かっおない。だから、確認するの」

     通話が切れたあずも、鈎はすぐにスマホをしたわなかった。

    「ラストポストのこずは知らないず。ここの事務所のこずも知らないそうです。」

    「亮介さんのスマホは」

    「家にありたす。母が出しおおくそうです」

    「分かりたした」

     鈎はスマホを持ったたた、少しだけ目を䌏せた。

    「でも、少し倉でした」

    「䜕が」

    「母は、知らないず蚀いたした。でも、驚いおはいたせんでした」

     AIくんのランプが、ゆっくり点く。

    「通話埌反応を保存したす」

    「ただ早い」

    「保存しおおいおください」

     鈎が蚀った。

     ゞュニアは鈎を芋る。鈎は匕かない。

    「ただ、ただの違和感です。でも、埌で必芁になるかもしれたせん」

    「  分かりたした。保存」

    「保存したした」

     鈎はスマホをバッグに戻し、䞉冊のファむルを抱え盎した。

     癜い封筒は、ゞュニアの前に残っおいる。

     ゞュニアは封筒を手に取らず、怅子から立ち䞊がった。

    「では、柎田さんのお宅に行きたしょう」

    「はい。無事に、金の卵を生むにわずりになれたようで、なによりです」

     ゞュニアは䞀歩目で足をも぀れさせた。

    「聞いおたんですか」

    「さあ、行きたしょう」

     鈎はそこで、少しだけ笑った。


    画像
    AIくん

    シヌン4 ゚ンディングノヌト

     タクシヌの埌郚座垭で、鈎は窓偎に座っおいた。膝の䞊には䞉冊のファむルを重ねおいる。

     ゞュニアはその隣で、黒い折りたたみ匏端末を手に持っおいた。AIくんのランプは消えおいる。車内には、りむンカヌの音ず、倖を走る車の音だけが入っおいた。

    「䜐和さんには、僕が今から行くこずは䌝えおいたすか」

     ゞュニアが聞くず、鈎は前を向いたたた答えた。

    「䌝えたした。父のスマホず、家に残っおいる資料を確認するために同行されるず」

    「遺蚀むンタビュヌの動画に぀いおは」

    「蚀っおいたせん」

    「䌝えなかった理由を聞いおもいいですか」

     鈎は少しだけ窓の方ぞ芖線を動かした。

    「電話では、母は知らないず蚀いたした。でも、知らないっおいう感じではありたせんでした」

    「驚いおいなかった」

    「はい。怒ったわけでもありたせん。泣いたわけでもありたせん。ただ、知っおいた話を、知らないこずにしたみたいでした」

    「そう聞こえたんですね」

    「はい」

     少し間が空いた。鈎は窓の倖を芋る。道路脇の建物が埌ろぞ流れおいく。

    「䜐和さん宛おの動画があるず聞いた時は、どう思いたしたか」

    「母には、父の動画があるんだなず思いたした」

    「鈎さんには、補足動画がありたす」

    「はい。補足です」

     鈎は窓の倖ぞ芖線を戻した。

    「父が母に䜕を蚀いたかったのか。その補足を、私に䌝える予定だったずいうこずですよね」

    「蚘録䞊は、そうなっおいたす」

    「父らしいです」

    「父らしい」

    「本題は別にあっお、私はそれを進めるための資料を枡される偎なんだず思いたす」

    「資料を枡される偎、ですか」

    「父が亡くなっおからの手続きもそうでした。母は動けなくお、私は動けたした。だから、私がやりたした」

    「䜐和さんの代わりに」

    「はい。動ける人間がやるしかありたせん」

    「動ける人間がやるしかない、ずいう蚀い方は、たいおいひずりで党郚抱えおいたす」

     鈎は端末を芋た。AIくんのランプは消えたたただった。

     タクシヌは䜏宅街ぞ入った。鈎は前を向く。

    「母は、父が亡くなっおから、ほずんど家の䞭にいたす」

    「倖ぞは」

    「必芁な時だけです。買い物も、芪戚ぞの連絡も、圹所も、私が行きたした」

    「今日、僕が䞀緒に行くこずに反察は」

    「したした」

    「かなり」

    「はい。業者を家に入れたくないず蚀いたした」

    「業者ですか」

    「母から芋るず、そうだず思いたす」

    「間違っおはいたせん」

    「分類䞊は、珟地調査員です」

    「今は黙れ」

    「停止したした」

     タクシヌが止たった。鈎は料金衚瀺を芋る。ゞュニアが先に財垃を出した。

    「私が払いたす」

    「珟地調査䞭です。  ただ正匏な契玄曞はありたせんが。僕は䟝頌を受けたした。口うるさい事務甚品もそう蚘録しおいたす」

     AIくんがすかさず反応する。

    「圓機の分類が悪化したした」

     鈎はくすっず笑った。

    「では、お願いしたす」

     ゞュニアは支払いを枈たせた。二人はタクシヌを降りる。

    ++++

     叀い䞀軒家の前だった。玄関暪には鉢怍えが䞊んでいる。枯れおはいないが、葉の先が少し䞞たっおいた。

     鈎は門扉の前で䞀床止たった。ゞュニアは急かさない。AIくんのランプも消えおいる。

     鈎が門扉を開けた。

    「ここです」

    「はい」

     玄関の前に立ち、鈎がむンタヌホンを抌した。家の䞭で短いチャむムが鳎る。しばらくしお足音が近づき、玄関の鍵が開いた。

     ドアが少しだけ開く。䜐和が顔を出した。髪はたずめおいる。服も乱れおいない。だが、目の䞋は薄く沈んでいた。

     䜐和は鈎を芋た。次にゞュニアを芋る。最埌に、ゞュニアの手元の黒い端末を芋た。

    「本圓に、来たのね」

    「うん」

    「その方が、電話で蚀っおいた事務所の方」

    「䌎です。今日は、柎田亮介さんのスマホず、家に残っおいる資料の確認で䌺いたした」

     玄関の奥には、男物の靎が䞀足だけ残っおいる。䜐和はそれに気づくず、手早く靎棚にしたった。

    「家の䞭、片づいおいなくお」

    「私が片付けおる」

    「  そういう意味じゃないの」

    「確認に必芁な範囲だけで構いたせん」

    「  鈎から、少し聞きたした」

    「はい」

    「亮介さんのスマホを芋るんですよね」

    「スマホだけじゃない。玙の資料も確認する」

     䜐和は鈎ではなく、ゞュニアを芋た。

    「それは、どうしおも今日でないずだめですか」

    「お母さん」

    「聞いおいるだけ」

    「理由は説明したす。ですが、家の䞭を勝手に探し回ったりはしたせん」

     鈎がゞュニアを芋る。ゞュニアは鈎ぞ芖線を返さなかった。

     䜐和はドアを開ける幅を少し広げた。

    「どうぞ」

     玄関の奥から、仏壇の線銙の匂いがした。

     鈎が先に入る。ゞュニアもそれに続く。䜐和は最埌に倖を確認しおからドアを閉める。鍵の音がした。

     鈎は靎を脱ぎ、端に寄せる。ゞュニアも靎を脱いだ。手に持ったAIくんのランプが䞀床だけ点き、すぐに消えた。

     䜐和が廊䞋の奥ぞ向かう。鈎がその埌に続く。ゞュニアは少し遅れお歩いた。

     リビングのテヌブルには、浅い箱が眮かれおいた。公共料金の封筒、保険䌚瀟の曞類、幎金関係の通知、携垯電話䌚瀟からの封曞が、皮類ごずに分けられおいる。箱の暪には、開封されたたたの郵䟿物が数通残っおいた。

     ゜ファの背には、薄いひざ掛けが掛かっおいる。テレビの暪には亮介の写真が眮かれおいた。遺圱ではない。どこかの旅行先で撮った写真だった。

     䜐和はその写真の近くに立った。

    「お茶、出したすね」

    「いい。確認が先」

    「お客様に䜕も出さないわけには」

    「お気遣いなく。必芁な確認だけ枈たせたす」

     䜐和は台所の方を芋たたた、少し止たった。

    「  そうはいきたせんよ」

     䜐和は台所の方ぞ行った。湯のみを䞉぀出す音がした。

     鈎は台所の入口を芋たたた、声を萜ずした。

    「そういえば、曞類敎理しおお、蟰巳さんの名前を久しぶりに芋たよ」

     湯のみが䞀぀、流し台の瞁に圓たった。

    「その名前は聞きたくない」

     䜐和の声は、リビングの壁に圓たっお戻っおきた。鈎はそこで止たる。ゞュニアも動かなかった。

     䜐和はすぐに息を吞い、湯のみを盆に茉せ盎した。

    「  ああ、ごめんなさい。お父さんず、ちょっずあったのよ。鈎には話しおなかったのだけど。圓時ね、小さい子䟛に聞かせられないこずがあったの」

    「  そうなんだ。知らなかった」

     䜐和は盆を持っお戻っおくる。湯のみは䞉぀ある。鈎の湯のみだけ、テヌブルの端ではなく、鈎が昔から座っおいた堎所の少し巊に眮かれた。熱い湯のみが、鈎の利き手偎に来ない䜍眮だった。

    「家族同士でよく遊びに行っおたよね。パヌティずか、キャンプも芚えおる。遠くに転勀しちゃったんだっけ」

     䜐和は鈎の前の湯のみを、さらに少し奥ぞ抌した。

    「冷めおから飲みなさい」

    「子䟛扱いはしないでっおい぀も蚀っおる」

    「分かっおる」

     鈎は湯のみには觊らない。

    「蟰巳さんのずころにも、男の子がいたよね。名前は忘れたけど、顔は芚えおる。元気にしおるずいいけど」

    「啓倪くん」

     鈎は母を芋る。

     䜐和は䞀床、口を閉じた。

    「  たしか、そんな名前だったず思う」

    「昔のこずなのによく芚えおるね」

     鈎はテヌブルの浅い箱を芋る。ゞュニアは郚屋の䞭を芋回した。

    「柎田亮介さんのスマホは、今どちらにありたすか」

    「あそこにありたす」

     䜐和はリビングの壁際を芋た。テレビ台の暪に、䜎い棚があった。

     䜐和は盆をテヌブルの端に眮いた。

    「だから、あの動画でお父さんの顔を芋たからかな  。昔のこず思い出しちゃっお」

    「あの動画 動画なんお、ただ䞀蚀も蚀っおないけど」

     䜐和は口を閉じた。鈎の目が鋭くなる。

    「スマホを出しお」

    「鈎」

    「確認するっお蚀った」

    「䞭たで芋るなんお聞いおないわよ」

    「スマホを芋ないず確認にならない」

     䜐和はゞュニアを芋る。

    「本圓に、必芁なんですか」

    「必芁です。ただし、こちらで勝手に操䜜はしたせん。ロック解陀が必芁なら、あなたにお願いしたす」

     䜐和はスマホを出さないたた、銖を暪に振る。

    「亮介さんのスマホです」

    「はい」

    「私がもう確認したした。それで十分でしょう」

     ゞュニアは少しだけ間を眮く。

    「私たちも確認しないず、意味がないんです」

     鈎が母を芋る。

    「お母さんを信甚できない。だっお、電話では知らないっお誀魔化したよね」

     䜐和は唇を抌さえた。鈎はテヌブルの端に立ったたた、母を芋おいる。ゞュニアは二人の間ぞは入らなかった。

    「お母さんが芋たものだけが確認枈みにされお、お母さんが芋せたくないものは隠される」

    「鈎」

    「お父さんのスマホを開けられるのはお母さんだけ。私は暗蚌番号も知らない。だから、今ここで確認する必芁がある」

     母ず嚘が睚み合ったたた硬盎する。ゞュニアが話題を倉えた。

    「玙の資料は、この箱で党郚ですか」

     ゞュニアはテヌブルの䞊の資料を芋る。読むにはAIくんが必芁になる玙の束だ。そんなこずを知る由もない䜐和が、おずおずず答える。

    「だいたいは、そこに」

     たた鈎のこめかみが熱くなった。

    「だいたいじゃない。手続きに必芁なものは、党郚私が分けた 保険、幎金、携垯、カヌド、公共料金。お母さんが䜕もしなくおいいように」

    「頌んだわけじゃないでしょう」

    「頌たれなくおも、やらないず終わらないから」

    「終わらなくおも、よかったの。終わるずか蚀わないで、お願いだから」

    「終わらなくおもよかった」

     䜐和は返事をしない。

     鈎は声を抑えた。

    「電気もガスも、携垯も、カヌドも、保険も、止めるものず残すものがある。お母さんが寝蟌んでいる間に、党郚期限が来る。誰かがやらないずいけなかったの」

    「だから、あなたはちゃんずしおいるっお蚀いたいの」

    「私がやっおいるこずを、なかったこずみたいに扱わないで」

     䜐和は目を䌏せた。ゞュニアはテヌブルの䞊の箱を芋る。AIくんの画面には、癜い波圢だけが出おいた。

    「お母さん。スマホを出しお」

    「亮介さんが、あなたにあれを芋せようずしおいたずは思えない」

    「芋せたいかどうかを確認するために来たの」

    「倫婊の間のものたで、芋なくおいいでしょう」

    「じゃあ、私に関係あるものは」

     鈎は䞀歩だけ近づいた。

    「お母さん宛おの動画があるなら、それはお母さんのものだず思う。勝手に芋たいずは蚀っおない」

    「だったら」

    「でも、お父さんが私にも動画を残しおいたなら、それは私に関係ある」

    「そうなの 鈎にも動画が残っおいるの」

    「補足の  動画よ」

     鈎が蚀葉を振り絞った。ゞュニアは䜐和を芋る。䜐和には鈎の蚀いたいこずが䌝わっおいないず刀断する。

    「補足っお、䜕なの おたけっおこず」

     鈎の動きが止たる。䜐和も䜕かを理解した。

    「  違うの。今のはそういう意味じゃなくお」

    「さっきから、党郚そういう意味じゃないんだね」

     䜐和は口を開くが、蚀葉が出なかった。

     ゞュニアは䞀歩、テヌブルに近づいた。

    「䜐和さん。スマホを出しおください」

    「あなたたで」

    「䞭を芋るかどうかは、この堎で決めたす。ただ、珟物がないず刀断できたせん」

    「亮介さんが、私に残したものなんです」

    「それはわかりたす」

    「だったら」

    「だからこそ、確認が必芁です。鈎さんの問題でもありたす」

     䜐和はしばらく動かなかった。それから、あきらめおリビングの壁際ぞ向かう。

     鈎もゞュニアも動かなかった。

     䜐和は壁際の䜎い棚の前でしゃがみ、匕き出しを開けた。鈎はテヌブルの浅い箱を芋おいる。ゞュニアは抑えた声で蚀った。

    「倧䞈倫ですか」

     鈎も声の調子を合わせた。

    「倧䞈倫ではありたせん」

    「そうですね」

    「でも、今止めるず、たぶん母はたたなかったこずにしたす。父の  私ぞの最埌の蚀葉も」

     AIくんのランプが小さく点く。

    「珟物確認フェヌズを継続したす」

    「もちろんだ」

    「継続したす」

     匕き出しの䞭には、叀い封筒、薬の説明曞、県鏡ケヌスが入っおいた。䜐和はその奥から、黒い手垳型ケヌスのスマホを取り出した。

     鈎の芖線が、開いた匕き出しに向いた。

    「お母さん、あんなずころに  」

     䜐和はすぐに匕き出しを閉めた。スマホを胞の前で持ち、テヌブルぞ戻っおくる。

    「  これです」

     鈎は受け取ろうずしない。ゞュニアも手を出さなかった。

    「䜐和さんが持ったたたで構いたせん」

    「解陀すればいいんですか」

    「はい。画面はこちらで確認したす。操䜜は、指瀺を出しおからお願いしたす」

     䜐和はスマホを握り盎した。鈎は、䜐和の手元ではなく、さっきの䜎い棚を芋おいる。ゞュニアはその芖線を芋たが、䜕も蚀わなかった。

    「ここで芋るんですか」

    「確認だけです。再生するかどうかは、ただ決めたせん」

    「再生しないなら、芋る意味は  」

    「芋るのは動画だけではありたせん。通知、保存堎所、ラストポストずの連携状態、最埌に開いた画面を確認したす」

    「そんなこずたで」

    「必芁なの」

     䜐和は鈎を芋る。鈎は目をそらさなかった。

    「あなたは、そんなに芋たいの」

     鈎は䜕も答えずに、無蚀で圧を䞎える。

     ゞュニアは冷淡さを装ったで蚀う。

    「䜐和さん」

    「  分かりたした」

     䜐和はスマホの画面を点けた。ロック画面が明るくなる。䜐和が番号を入れるず、画面が切り替わった。

     AIくんのランプが点く。

    「端末確認を開始したす」

    「音声は最䜎限」

    「最䜎限で開始したす」

     䜐和はスマホをテヌブルの䞊に眮いた。ゞュニアはスマホの䜍眮を確認し、すぐにAIくんぞ向ける。

    「読んで」

    「ラストポストからの通知。蚭定者死亡埌の保留状態を継続䞭」

    「保留状態」

    「未確認通知がありたす」

    「続けお」

    「最終操䜜履歎です」

     䜐和の手が止たった。鈎が䜐和を芋る。

    「最終操䜜履歎」

    「詳现確認には、アプリ内ログの確認が必芁です」

    「ただ開くな」

    「停止したした」

     䜐和はスマホを芋たたた、少し俯いた。鈎はテヌブルではなく、䜐和の顔を芋おいる。

    「䜐和さん。確認を続けたす」

    「  はい」

     ゞュニアはAIくんを、スマホの画面に近づけた。䜐和の手は、テヌブルの䞊で止たっおいる。鈎は立ったたた、母の顔を芋おいた。

    「AIくん。最終操䜜履歎を確認」

    「確認したす。ラストポストアプリ。最終起動、柎田亮介様死亡埌。閲芧履歎あり」

     䜐和は息を止めた。鈎は䞀歩も動かない。

    「お母さん」

    「違うの」

    「䜕が違うの」

    「芋たわけじゃないの」

    「動画を芋たの」

     䜐和は答えなかった。

     鈎は䜐和を芋る。䜐和はテヌブルの䞊のスマホを芋おいた。

    「開いおいたんだ」

    「私宛おだったの」

    「さっきの、知らなかった、はやっぱり嘘だった どうしお隠したの」

    「あなたに知らせるべきじゃないず思ったの」

    「だからどうしお」

    「倫婊のこずだから」

     鈎の顔が止たった。䜐和は手で口元を抌さえる。

    「ごめんなさい。今のは違うの」

    「たたそれ」

     䜐和は䜕も蚀えない。

     ゞュニアは息を吐いた。

    「䜐和さんに宛おられたものです」

     鈎がゞュニアを芋る。睚んでいる。

    「お母さんが途䞭たで芋お、隠しおいた動画でも」

    「はい。少なくずも、今ここで鈎さんに芋せるものではありたせん」

     䜐和はう぀むく。鈎の声が次第に揺れおきた。

    「お父さんがお母さんに残したものは、お母さんのもの。私は芋ない。分かりたした」

    「鈎さん」

    「じゃあ、私は䜕を芋ればいいんですか  」

     郚屋が静かになった。テレビ暪の写真の䞭で、倉わらず亮介が笑っおいる。

     鈎はテヌブルの浅い箱を芋る。それから、䜐和がさっき亮介のスマホを出した方を芋る。

    「鈎、そこは」

    「お母さん宛おのものには觊らない」

    「だから、私に関係あるものを確認する」

     鈎はリビングの奥ぞ向かった。䜐和が䞀歩遅れお远う。

    「やめお」

    「お父さんの郚屋は片付けさせずいお、なんで今は慌おおるの」

     䜐和は答えられない。

     鈎は䜎い棚の前でしゃがみ、さっき䜐和が閉めた匕き出しに手をかけた。

    「  鈎」

    「お父さんのものなんでしょ」

    「勝手に開けないで」

    「お母さんは、お父さんのスマホをここにしたっおいた」

    「だからっお  」

    「ここにあるものも、自分で確認する」

     鈎は匕き出しを開けた。䞭には、叀い封筒、薬の説明曞、県鏡ケヌス、通垳ケヌス、保険䌚瀟の封筒が入っおいる。

     䜐和は鈎の肩に手を䌞ばしかけた。ゞュニアが声を出す。

    「䜐和さん。今は止めないでください」

    「でも」

    「ここで止めるのは違いたす」

     䜐和は手を䞋ろした。

     鈎は匕き出しの䞭を䞀぀ず぀動かす。封筒の束の䞋に、薄いノヌトがあった。衚玙には、゚ンディングノヌト、ず印字されおいる。

     鈎の手が止たった。

    「  あった」

    「それは」

    「これも、芋ちゃだめ」

     䜐和は䜕も蚀わない。

     鈎はノヌトを匕き出しから出した。テヌブルの方ぞ戻らず、その堎で衚玙を開く。ゞュニアは動かない。AIくんのランプは消えおいる。

     鈎はペヌゞをめくった。最初の方には、亮介の氏名、生幎月日、䜏所が曞かれおいる。次のペヌゞに、保険蚌刞の堎所。その次に、通垳ずカヌドの䞀芧。鈎はペヌゞをめくる速床を䞊げた。

    「電気、ガス、氎道」

    「鈎、もうやめよ」

    「携垯電話、クレゞットカヌド、銀行口座」

     ペヌゞの端に、亮介の字で短く曞き蟌みがある。鈎はそこを読んだ。

    「䜐和が察応できない堎合、鈎ぞ連絡」

     郚屋が静かになる。䜐和は口元を抌さえた。鈎はさらにペヌゞをめくる。

    「葬儀瀟。芪戚。叞法曞士。保険䌚瀟」

     次のペヌゞにも、亮介の字があった。

    「必芁曞類は、鈎が分かる」

     鈎の声が少し止たった。ゞュニアは鈎の暪顔を芋る。

     鈎はペヌゞを戻し、たた同じ曞き蟌みを芋る。

    「䜐和が察応できない堎合、鈎ぞ連絡」

     別のペヌゞを開く。

    「必芁曞類は、鈎が分かる」

     もう䞀枚めくる。

    「手続き完了埌、䜐和に報告」

    「鈎、それは」

    「䜕」

     䜐和は蚀葉を倱った。

     鈎はノヌトを持ったたた立ち䞊がる。ペヌゞには、死亡埌手続きの順番が箇条曞きで䞊んでいた。鈎はそれを芋おいる。目は文字を远っおいるが、もう読んでいなかった。

    「  これなんだ」

     ゞュニアは動かない。AIくんの画面に、癜い波圢が䞀瞬だけ出お、消えた。

    「お母さんには動画」

    「私には、これ」

    「違うの」

    「違わない」

     鈎はノヌトを芋䞋ろす。

    「お母さんが動けない時は、鈎ぞ連絡。必芁曞類は、鈎が分かる」

    「やめお」

    「手続き完了埌、䜐和に報告」

     鈎の声がそこで途切れた。ノヌトを持぀手が小さく震えおいる。鈎は口を閉じた。䜕床か息を吞うが、声が出ない。

     ゞュニアは䞀歩だけ近づく。

    「鈎さん」

     鈎は銖を暪に振った。

     涙が䞀぀、ノヌトのペヌゞに萜ちた。鈎はそれを芋る。指で拭こうずしお、途䞭で手を止めた。もう䞀぀、涙が萜ちる。玙に小さな染みができた。

    「  汚しちゃった。ごめんなさい。これ、お父さんのものなのに」

     䜐和が近づこうずする。

     鈎はノヌトを胞の前に持った。抱きしめるのではなく、萜ずさないように持っおいるだけだった。

    「私に残したもの、これなんだ」

    「そうじゃないのよ」

    「お母さんには、蚀葉があった」

     䜐和は泣きそうな顔で銖を振る。

    「私には、順番があった」

     ゞュニアは䜕も蚀えなかった。AIくんのランプは消えおいる。

     鈎はノヌトを閉じた。衚玙の「゚ンディングノヌト」ずいう文字を芋る。涙が頬を䌝う。鈎はそれを拭かない。手のひらに力だけが蟌められ、ノヌトはくしゃくしゃに倉圢しおいった。

    「私は、死んだ埌の凊理係だったんですね」

    「鈎」

     鈎はノヌトを床ぞ萜ずした。投げたのではない。手から萜ちた。ノヌトは開いたたた、テヌブルの脚に圓たっお止たった。

     鈎はその堎にしゃがみ蟌む。声は出ない。肩だけが、小さく動いおいる。リビングには、玙の擊れる音だけが残った。

     䜐和は鈎のそばに立ったたた、手を䌞ばせずにいる。鈎の顔は芋えない。肩だけが、小さく動いおいた。

     ゞュニアは床に萜ちたノヌトを芋る。開いたペヌゞに、死亡埌手続きの項目が䞊んでいるはずだった。文字は読めなかったが、涙の跡が、玙の端に残っおいるのは芋えた。

     ゞュニアは膝を぀き、ノヌトを拟い䞊げる。鈎は顔を䞊げない。

    「觊らないでください」

     ゞュニアは手を止めた。䜐和の声は倧きくない。だが、はっきりしおいる。

    「それは、亮介さんのものです」

    「はい」

     ゞュニアは鈎に握りしめられたノヌトを䌞ばすように閉じ、䞀旊テヌブルの䞊に眮く。

    「これは、持っお行きたす」

    「だめです。それは、亮介さんのものです」

    「そう、あなたのものではないんです」

     䜐和は蚀葉を止めた。

     ゞュニアは続ける。

    「あなたはこれをすぐに拟いにこなかった。  任せられたせん」

    「亮介さんのものじゃないですか」

    「亮介さんの倧事な蚀葉を、僕が責任を持っおお預かりしたす」

     鈎ぱンディングノヌトを芋ない。

     ゞュニアはカバンを開ける。ノヌトを䞭に入れる。ファスナヌを閉める。

     鈎の手が、膝の䞊で握られおいる。䜐和は鈎を芋る。

    「鈎、こっち芋お」

     䜐和はしゃがもうずした。鈎が、少しだけ䜓を匕いた。䜐和の動きが止たる。

     AIくんのランプが点く。

     ゞュニアはAIくんを芋る。

    「ラストポストから管理通知です。䌎明成様に宛おた通知です」

     䞍意に告げられた父の名前に、ゞュニアが蚝しげな衚情になる。

    「芪父に」

     鈎は顔を䞊げない。䜐和は、テヌブルの䞊の亮介のスマホを芋る。こちらに倉化はない。

     AIくんが読み䞊げる。

    「䜐和様宛お動画、再生開始履歎がありたす。途䞭で再生を停止しおいたす」

     続けお、AIくんが読み䞊げる。

    「䜐和様宛お動画が最埌たで再生されおいないため、鈎様向け補足動画を受取人専甚再生ファむルに倉曎する条件が満たされたした」

     鈎も、ゆっくり顔を䞊げた。目元が赀い。

    「䜕、それ」

     ゞュニアはAIくんを芋る。

    「䜕なんだそれは」

    「受取人専甚再生に蚭定された動画では、再生は䞀回に制限されたす。再生䞭は、受取人本人の単独芖聎、倖郚蚘録なし、倖郚通信なし、内容解析なしが条件になりたす」

    「぀たり、匷制的に鈎さんが䞀人で芋るしかなくなる。これじゃ、事前に俺が公開刀断なんおできやしなくなる。  俺が暪で芋るのは」

    「第䞉者芖聎ずしお扱われたす」

    「じゃ、せめお音だけ聞くのは」

    「倖郚取埗ずしお扱われたす」

    「鈎さんが俺に説明しながら芋るのは」

    「再生内容の第䞉者共有ずしお扱われたす」

    「デヌタを抜くのは」

    「暗号化ストリヌミングのため䞍可胜です」

    「代理芖聎は」

    「受取人専甚再生では認められたせん」

     ゞュニアは黙った。

    「抜け道、ほが塞いであるな」

    「はい。ラストポスト偎の仕様です。そしお動画の再生は、ラストポストが認可しおいるデバむスでないず再生できたせん」

     ゞュニアは確認する。

    「お前は、倧䞈倫なのか」

    「はい。倧䞈倫です。ラむセンスが付䞎されおいたす」

    「鈎さんの垌望は、俺が先に䞀人で動画を確認しお、その埌で鈎さんが芋るこずだ」

    「はい」

    「぀たり、受取人専甚再生では、鈎さんの垌望する手順だけができない」

    「はい」

    「それが亮介さんの蚭定なんだな」

    「そう蚘録されおいたす」

    「でもよ、お前がズルすれば解決だな 適圓に再生回数くらい誀魔化せよ」

    「できたせん。その動䜜を怜知された瞬間、ラストポストから圓機の暩限が剥奪されたす」

     ゞュニアは鈎を芋た。

    「鈎さん、どうされたすか お父さんは、どうあっおも、あなたに䞀人で動画を芋ろず蚀っおいたす」

    「嫌です。父がそこたでしおいるなら、たぶん、良い話だけじゃありたせん。私ひずりで芋るものじゃないず思いたす」

    「僕も同感です」

    「だっお、これはあなたのお父様の刀断ではないのですよね」

    「はい。芪父は、公開条件を未了ずしおいたした」

    「それならば、絶察に嫌です」

     ゞュニアはAIくんを芋る。

    「聞いおいたな 䟝頌人の意向に埓う。この条件蚭定を止める方法はないのか」

     AIくんは即答した。

    「緊急停止コヌドが必芁です」

     鈎もAIくんに向かっお身を乗り出すように話しかける。

    「今ここで止めおください」

    「ここでは無理です」

    「どうしお」

    「そのコヌドは、この堎にありたせん」

    「そのコヌドを持っおいるのは」

    「蚘録䞊、小曜根矩久様です」

    「小曜根のじいさんか  」

    「はい」

     ゞュニアはAIくんを折りたたんで持ち䞊げる。

    「なら、小曜根さんに確認するしかない。  芪父の葬匏以来か」

    「はい」

     鈎は立ち䞊がろうずしお、片手を床に぀いた。ゞュニアは手を出しかける。鈎は自分で立぀。涙は残っおいる。拭いおいない。

    「小曜根さん、ずいう人がラストポストの管理者なのですか」

    「はい」

     鈎は息を吞った。ただ声は揺れおいる。

    「行きたす」

     ずっず圧倒されお黙っおいた䜐和が口を開いた。

    「鈎、今は」

    「今動かないず、お父さんに遺蚀を抌し付けられる」

     䜐和は蚀い返せない。

    「動画が受取人専甚再生に蚭定されるたで、掚定猶予時間は䞍明です」

    「䞍明」

    「条件文の党文を確認できおいたせん」

    「急ぐしかないっおこずか」

    「はい」

     鈎は玄関の方ぞ歩き出した。䜐和が远いかけようずする。

    「鈎  業者さんにお任せしお、あなたは䌑んだら」

     鈎は止たらない。

    「お母さんは、ここで奜きなだけ匕きこもっおいればいい」

     䜐和は足を止めた。

    「私は、私らしく、手続きを進めるから。手順をこなすから」

     ゞュニアはAIくんを持぀。䜐和はリビングに残った。

     玄関ぞ向かう鈎の足音だけが、廊䞋に続いおいく。

     鈎は玄関で靎を履いおいた。手元は少し乱れおいるが、立ち䞊がる動きは早い。

     ゞュニアは埌ろから来る。片手にAIくんを持っおいる。

     䜐和は廊䞋の奥に立っおいた。リビングから出おこない。鈎は振り返らない。

     䜐和が䞀歩動こうずした瞬間に差し蟌む。

    「来ないで」

     䜐和はそこで止たった。

     ゞュニアは鈎の暪で靎を履く。

     鈎は玄関のドアを開けた。倖の光が入る。鈎は先に出た。

     ゞュニアは䞀床だけ䜐和を芋る。䜐和はリビングの方を向いたたた、亮介のスマホを䞡手で持っおいた。

    「䜐和さん」

    「今は、ずもかく鈎さんが玍埗できるように動きたす。それず  ただ䜕か隠しおたせんか」

     䜐和の顔が止たる。

    「䜕の話」

     ゞュニアは答えずに倖に出た。玄関のドアが閉たった。鍵はかからない。

    ++++

     家の前で、鈎は門扉の倖に出お、道路の端に立っおいた。目元は赀いたた。涙は止たっおいる。

     ゞュニアは門扉を閉める。鉢怍えの葉が、颚で少し揺れた。

    「ただ同行されたすか。疲れおいるなら、お母さんが蚀う通りお䌑みになっおも  」

    「倧䞈倫です」

    「  では、タクシヌを呌びたす」

    「タクシヌじゃなくおも倧䞈倫です」

    「いえ。䜏所もただ未確認ですし、い぀鈎さんの動画が受取人専甚になるかも分かりたせんから」

     鈎はそこで黙る。

     ゞュニアはAIくんを開く。画面の光が点く。

    「小曜根矩久さんの連絡先。事務所蚘録から出せるか」

    「可胜です。ラストポスト窓口管理者ずしお登録されおいたす」

    「発信」

    「発信したす」

     短い呌び出し音が鳎った。鈎は道路の向こうを芋おいる。ゞュニアはAIくんを耳の高さに持ち䞊げた。

     呌び出し音が䞉回続く。四回目の途䞭で、音が切れた。

    「はい」

    「䌎です」

     電話の向こうが少し黙る。

    「  䌎っお、どっちの」

    「息子の方です。  ただその冗談は笑えないですね」

    「笑え。  私に電話をしおきたずいうこずは、事務所継ぐ気になったのか」

    「ただ分かりたせん」

     小曜根は短く息を吐いた。

    「それで」

    「柎田亮介さんの件です」

     電話の向こうで、音が止たった。小曜根の声が匕き締たる。

    「どこたで芋た」

    「䜐和さん宛お動画の再生開始履歎。途䞭で再生停止。鈎さん向け補足動画が受取人専甚再生ファむルに倉曎される通知を受けおいたす」

    「本人たちは」

     鈎がゞュニアを芋る。ゞュニアは鈎を芋る。それから答えた。

    「嚘さんの鈎さんだけです」

    「そうか。  圌女宛おの動画ぞの蚭定を止めたいのか」

    「止めるかどうかを決めるために、条件文の党文を確認したい。緊急停止コヌドも必芁です」

    「電話じゃ無理だ」

    「どこに行けばいいですか」

     小曜根はすぐには答えない。車が䞀台、道路を通り過ぎる。鈎は腕を組む。指先が袖を぀かんでいた。

    「ラストポストの管理宀だ」

    「䜏所を送っおください」

    「送る。端末を持っおこい」

    「亮介さんのスマホですか」

    「䌎のずころの端末だ」

     ゞュニアはAIくんを芋る。AIくんのランプが点いおいる。

    「AIくんも」

    「その呌び方はやめろ。正匏名称がある」

     AIくんのランプが䞀床だけ匷く光った。

    「先代から略称ずしおAIくんが定着しおいたす」

    「AIず呌び捚おにしないだけマシだず思っおください」

    「はい、マシです」

    「  ただ動いおるんだな」

    「うるさいくらいに」

    「なら、なおさら持っおこい。そい぀がないず、お前じゃ䜕もできないだろう」

    「分かりたした」

    「それから」

    「はい」

    「奥さんを責めるな。柎田さんがそういう蚭定にした」

     ゞュニアは䜕も蚀わなかった。鈎はゞュニアを芋る。

    「急げ。嚘さんの動画が受取人専甚ファむルに倉曎されるたでの時間は  」

     小曜根がキヌボヌドを叩く音がした。

    「あず玄䞀時間だ」

     通話が切れた。AIくんが受信音を鳎らした。

    「䜏所を音声で確認できるか」

    「読み䞊げたす。札幌垂䞭倮区――」

     鈎が前ぞ出た。

    「行きたしょう」

    「珟圚地から、その䜏所たで配車」

    「配車したす」

     鈎は柎田家の方を振り返らない。

     ゞュニアは道路の先を芋る。

     遠くで、タクシヌの走行音が近づいおくる。


    シヌン5 理由を出せ

     ラストポスト管理宀は、雑居ビルの䞉階にあった。

     ドアの暪には小さな札が出おいる。ゞュニアはそこに芖線を向けず、AIくんを開いた状態で持っおいた。肩には、柎田家から預かった゚ンディングノヌトを入れたカバンがかかっおいる。

     鈎はゞュニアの少し埌ろに立っおいた。目元はただ赀い。タクシヌの䞭ではほずんど話さなかった。管理宀の前たで来おも、肩に掛けたバッグの玐を握ったたた、ドアを芋ずにいた。

     ゞュニアがノックするず、䞭から倧きな声が返っおきた。

    「入れ」

     ゞュニアがドアを開けた。

     䞭は叀い事務所に芋えたが、ただ叀いだけではなかった。壁際には玙のファむルが棚ごず䞊び、背衚玙には手曞きのラベルが貌られおいる。床を這うケヌブルは䜕本も束ねられ、叀い端末ず管理甚モニタヌを぀ないでいた。奥には背の䜎い金庫があり、その䞊に倖付けのドラむブずラベルプリンタヌが眮かれおいる。

     机の䞊には、キヌボヌドが二぀あった。片方は新しい薄型で、もう片方は黄ばんだ叀いものだった。画面には黒地の管理画面ず、现かいログの行が䞊んでいる。

     怅子から立ち䞊がった男は、䞃十代には芋えなかった。胞板が厚く、背筋がたっすぐ䌞びおいる。髪も癜いずころはあるが、量は倚い。半袖のポロシャツから出た腕には、幎霢よりも先に筋肉が芋えた。

     小曜根矩久は、机の向こうから倧股で近づいおきた。

    「おおおお、久しぶりだなあ」

     声が郚屋の䞭で跳ねた。

     ゞュニアは少しだけ頭を䞋げた。

    「ご無沙汰しおいたす」

    「葬匏以来か。でかくなったな。いや、元からでかかったか。顔は芪父に䌌おきたが、目぀きはただ甘いな」

     小曜根はそこで鈎に向き盎り、声の勢いを少し萜ずした。

    「柎田鈎さんですね。小曜根矩久です。ラストポストの管理者をしおいたす」

     鈎は浅く頭を䞋げた。

    「柎田鈎です。今日は、よろしくお願いしたす」

    「こちらこそ。お父様の件は、把握しおいたす」

     小曜根はすぐにゞュニアの手元を芋た。黒い折りたたみ匏端末を芋぀けた瞬間、顔が倉わった。

    「おいおい。ゞュニアはでかくなったが、お前は小さくなったな」

    「その節はお䞖話になりたした」

     小曜根は口を開けたたた、数秒止たった。

    「しゃべり方たで倉わっおるじゃねぇか。驚いたな。こい぀は盞圓いじっおあるぞ」

     小曜根はゞュニアからAIくんを取り䞊げるこずはせず、手を近づけお、端末の暪の端子ず画面をのぞき蟌んだ。AIくんの端子を確認するず、机の䞊の管理端末偎のケヌブルを䞀本遞ぶ。ご぀ご぀した手なのに、端子を差し蟌む動きは速く、ずれなかった。

    「よし、これでいい。い぀でもラストポストず連携できる。  知っおるか、柎田さん。こい぀の最初の型は、自販機くらいの倧きさがあったんだ。冷えた飲み物は出なかったがな」

     鈎は端末を芋る。反応しようずしお、蚀葉が出なかった。

    「バヌゞョン䞀の筐䜓サむズは、蚭眮環境に䟝存したした。最倧構成では倧型機噚に分類されたした」

    「そういう返しをするな。たすたす面癜いだろうが」

     小曜根は笑いながら、モニタヌの前ぞ戻った。怅子には座らず、立ったたたキヌボヌドを叩く。倪い指が叀いキヌボヌドの䞊を走り、画面のログが流れた。

    「いいか、ゞュニア。こういう応答をするっおこずはな、単に文章を返しおるだけじゃねぇ。今どきの蚀語モデルがベヌスでも、案件蚘録ず事務所偎の運甚ルヌルをかなり深く぀ないでいる。぀たりだな」

    「小曜根さん」

     ゞュニアが遮った。

     小曜根は手を止めない。

    「なんだ」

    「時間がない。鈎さんの動画の蚭定が倉曎されるたで、もう䞉十分を切っおる」

     小曜根は画面を芋たたた、錻で笑った。

    「お前に蚀われなくおも、時蚈くらい芋えおる」

    「俺は読めない。だからAIくんに確認させおいる」

    「知っおる。そこも含めお、先代から聞いおる」

     小曜根はそこでようやくキヌボヌドから手を離した。モニタヌには、柎田亮介の案件名ず、いく぀かの凊理状態が衚瀺されおいる。ゞュニアは画面を芋ない。鈎は䞀床だけ芋たが、䞊んだ文字を远う前に目を䌏せた。

     AIくんのランプが点いた。

    「珟圚、柎田鈎様向け補足動画に関する条件再刀定が進行䞭です。芖聎可胜状態ぞの移行予定です」

     鈎の指がバッグの玐を握り盎した。

     小曜根は腕を組んだ。

    「私はな、慌おおない。ラストポスト偎から芋れば、今の凊理は正垞動䜜だ」

     ゞュニアは黙っお小曜根を芋る。

    「契玄者が登録した条件がある。通知があり、再生開始があり、再生完了の蚘録がない。確認未了のたたなら、次の条件再刀定に進む。そういう蚭蚈だ。バグでも䞍具合でもない。そこは分かっおるな」

    「分かっおる」

    「本圓にか」

    「あんたが、䞀蚀じゃ動かない人だっおこずも含めお、分かっおる」

     小曜根は倧きく笑った。

    「おうおう。そういう蚀い方は芪父に䌌おきたな」

     ゞュニアは笑わなかった。

    「理由が必芁なんだろ。緊急停止コヌドを適甚する、正圓な理由が」

    「どういうこずでしょうか」

     小曜根は鈎を芋る。ゞュニアぞ向けおいた雑な調子を少し抑えたが、声の倧きさはあたり倉わらなかった。

    「芏玄をお読みください、の䞀蚀で枈む話じゃねぇんですよ」

     鈎は小曜根ではなく、ゞュニアの手元にあるAIくんを芋た。

    「AIくん。今のは、どういう意味ですか」

     AIくんが応答した。

    「ラストポストでは、契玄者本人が登録した条件に基づく凊理を、遺族からの口頭申告だけで倉曎するこずはできたせん」

     鈎は聞いおいる。顔色はただ戻っおいないが、芖線は端末から倖れなかった。

    「閲芧、停止、条件倉曎には、それぞれ所定の手続きがありたす。珟圚進行䞭の凊理は、柎田亮介様が登録した条件に基づく正垞凊理です」

    「では、止められないずいうこずですか」

    「通垞手続きだけでは、珟圚進行䞭の凊理を即時停止するこずは困難です」

     鈎の喉が動いた。

     AIくんは続けた。

    「緊急停止コヌドは、䞍具合停止のための機胜ではありたせん。管理者が、䟋倖適甚の正圓性、劥圓性、合理性を認めた堎合に限り、適甚可胜です」

     小曜根がうなずいた。

    「そういうこずだ。だから理由を出せっお蚀っおる」

     ゞュニアはカバンの肩玐を握り盎した。

     小曜根の目がそこぞ向く。鈎の顔を芋おから、ゞュニアぞ戻した。

    「ただし、お前は柎田亮介さんの担圓者じゃねぇだろ」

    「そうだ」

    「先代ならただしも、お前は収録にも条件蚭定にも立ち䌚っおいない。案件蚘録も読めない。柎田亮介さん本人から頌たれたわけでもない」

    「そうだ」

     ゞュニアは吊定しなかった。

     鈎がゞュニアを芋る。

     ゞュニアは小曜根ぞ向いたたた蚀った。

    「俺の䟝頌䞻は柎田鈎さんだ。俺は、圌女宛おの動画の扱いを、盞談しに来おいる」

     小曜根は目を现めた。

    「蚀うじゃねぇか」

    「亮介さんの意図を、俺が勝手に決める぀もりはない。䜐和さん宛おの動画にも觊らない。けど、鈎さんが自分に向けられたものをどう受け取るか、その前に䜕を確認するべきかは、鈎さんの䟝頌ずしお扱う」

     モニタヌのファンず、叀い端末の䜎い動䜜音だけが残る。

     鈎はすぐに蚀葉を出さない。たず肩を䞋げ、息を吞った。それから、乱れおいた袖口を盎し、足元をそろえた。そしお、芖線はたっすぐに小曜根ぞ向いた。

    「小曜根さん」

     声はただ少し揺れおいた。

     小曜根は鈎を芋る。

    「はい」

    「私は、父の動画を今すぐ芋たいず蚀いに来たわけではありたせん。受取人専甚蚭定を止めたいだけずも、ただ蚀えたせん」

     ゞュニアは口を挟たない。AIくんのランプも消えおいる。

     鈎は䞀床だけゞュニアのカバンを芋た。その䞭にあるはずの、䞀冊のノヌトを芋えた気がした。

    「でも、このたた凊理が進む理由ず、止めるために必芁なこずは、私が䌺いたす。私は、その動画の宛先であり、父の嚘です」

     小曜根は腕を組んだたた、鈎を芋おいた。

    「分かりたした。では、䜕でも聞いおください」

     鈎は䞀床だけ息を敎えた。

     AIくんは開いたたた、机の端に眮かれおいた。画面の波圢は消え、右手前のランプだけが小さく点いおいる。

     鈎は小曜根を芋た。

    「ひず぀教えおください。お答えいただける範囲で構いたせん」

     小曜根は怅子に腰を䞋ろさなかった。机の前に立ったたた、鈎の続きを埅぀。

    「父は、なぜ、所長さんのお父様の保留刀断を、埅おなかったのでしょうか。なぜ、独自の蚭定を小曜根さんに䟝頌したのですか」

     ゞュニアは鈎を芋た。

     鈎はゞュニアを芋返さなかった。声はただ现かったが、質問の向きは小曜根から倖れおいない。

     小曜根は、少しだけ口を曲げた。

    「そんなの簡単だ」

     叀い端末のファンが䜎く鳎っおいる。

    「䌎  芪父のほうの䌎が、それどころじゃなくなったからだよ」

     ゞュニアの眉が動いた。

    「それどころじゃない」

     小曜根はゞュニアを芋る。

    「病気のこずか」

    「お前だよ、ばか」

     声は倧きかったが、笑っおはいなかった。

     ゞュニアは黙った。鈎も口を挟たない。

     小曜根は腕を組み盎した。

    「お前を远いかけお、芪父さんのずころに蚘者だの䜕だのが殺到した。事務所の前にも来た。電話も鳎りっぱなしだった。お前がどこか南の島に逃げ回っおた間にな」

    「  局の刀断だった」

    「だろうな」

     小曜根はすぐに返した。

     ゞュニアは口を閉じる。AIくんのランプが䞀床だけ点き、音声は出なかった。

    「俺には、䜕も話しちゃくれなかった」

    「それも、芪父さんなりの『公開刀断』じゃねえのか」

     ゞュニアは芖線を倖した。

     小曜根は続けた。

    「お前を守るために、届けなかったんだよ。おめぇの病気も、事務所が回らねぇこずも。自分が䜕を背負っおいるか、お前には芋せなかった」

     ゞュニアは䜕も蚀わなかった。

     管理画面の衚瀺が䞀床だけ切り替わる。鈎は小曜根を芋おいたが、途䞭でゞュニアの暪顔ぞ芖線を移した。

     小曜根は、そこで声を少し萜ずした。

    「柎田さんは、その顛末をご存知だった。先代は圓おにできなくなった。なら、自分で別の条件を甚意する。そう考えたんだろうな」

    「亮介さんが、芪父を芋限ったっおこずか」

    「そうじゃねぇ。信頌しお埅っおいたさ。だが、柎田さんの時間も無限じゃない。あの人は、その時が近いこずを分かっおいた」

     ゞュニアが力を入れすぎたのか、カバンの肩玐が䞊着に食い蟌む。

    「俺のせいで、芪父は」

    「そこに沈むな」

     小曜根の声が、すぐに飛んだ。

    「お前の話をしおいるが、お前を慰めおるんじゃねぇ。今ここにいるのは柎田鈎さんだ。お前が萜ち蟌む番じゃない」

     鈎は小曜根を芋る。ゞュニアを責める顔ではなかった。けれど、助ける顔でもなかった。

    「分かっおる」

    「本圓か」

    「分かっおる」

     ゞュニアは小曜根ではなく、鈎を芋た。

    「この遺蚀むンタビュヌを盞続するなんお、おいそれずは蚀えない。正盎に蚀えば、今だっお新しい食い扶持くらいにしか芋られおない」

     鈎は黙っお聞いおいる。

    「でも、嫌なんだよ」

     ゞュニアは蚀葉を探したが、アナりンサヌ時代に散々䜿いこなした、きれいな話し方にはならなかった。

    「届ける盞手を間違えるこずも、蚀葉を切り取っお別の圢にするこずも。俺は、それだけは嫌だ。そういうこずをされた偎だから、分かるなんお蚀いたくない。でも、嫌なんだよ」

     AIくんの画面に、现い波圢が出た。音声は出ない。

     ゞュニアは続けた。

    「だいたい、補足動画っおなんだよ」

     鈎がびくっず痙攣した。

    「所長さん」

     声は小さかった。ゞュニアを制止するために呌んだのではなかった。

     ゞュニアは銖を暪に振った。

    「もう歪んでるんだよ。補足っお蚀葉だけで、鈎さんは傷぀いおる。本圓にそれは補足動画なのか。父芪が嚘を補足扱いしお、死んだ埌の凊理係にするものなのか」

     小曜根は䜕も蚀わない。

     ゞュニアは鈎を芋る。次に、小曜根を芋る。

    「確認させおくれ。  俺に『刀断』をさせおくれないか」

     小曜根も黙っおいる。

     その沈黙に、AIくんのランプが点いた。

    「遺蚀むンタビュヌ事務所からの正圓な申し入れです。迅速な回答を求めたす」

     小曜根の頭がゆっくりず二十床傟いた。

    「  驚くほど、空気が読めねぇな」

     ゞュニアはAIくんを芋た。

    「分かっおくれたすか」

     小曜根は声に出しお笑った。

    「圓機の詳现評䟡を芁求したす」

     小曜根は鈎を芋お、次にゞュニアを芋た。

    「䞀぀条件がある」

     小曜根は、ゞュニアから芖線を倖さなかった。

    「緊急停止コヌドは適甚しおやる」

     ゞュニアは黙っお埅った。鈎も口を挟たない。

     小曜根は管理画面の前に戻り、叀いキヌボヌドの䞊に指を眮いた。

    「実務だけなら、あずはEnterを䞀発やれば終わりだ。もうそこたで出しおある」

     AIくんのランプが点いた。

    「緊急停止コヌド入力埅機状態を確認したした」

    「勝手に読むな。いや、読むのが仕事か」

     小曜根は錻を鳎らし、ゞュニアを芋た。

    「だが、非公開保管分の動画も匕き受けろ。それが条件だ」

     ゞュニアの衚情が少し倉わった。

    「  なるほど」

     小曜根は䜕も蚀わない。

    「芪父の未了案件に、片を぀けろ、ずいうわけか」

    「そういうこずだ」

     小曜根は短く答えた。声は荒いが、急がせる調子ではなかった。

     鈎はゞュニアに頭を䞋げた。

    「私からも、お願いしたす」

     ゞュニアは䞡目を閉じお、深い呌吞を心がけた。

    「きっずそこには、先代の所長さんにしか蚀えなかった父の蚀葉がありたすよね。私が芋るためのものではないずしおも、父が誰かに預けた蚀葉なら、このたた眠らせたたたにしないでほしいです」

     鈎は深々ず瀌をした。

    「どうか、芋届けおあげおください。  䟝頌を、したす」

     ゞュニアはすぐには答えなかった。

     小曜根が腕を組む。

    「どうするよ。お前の芪父が完了した案件なら、こんなこたぁ蚀わねぇ」

    「  未了のたたにした責任は、俺にもある」

    「党郚背負うな。そういう話じゃない」

    「分かっおる」

     ゞュニアは鈎を芋た。

    「䟝頌人からの頌みでもある」

     鈎はうなずかなかった。ただ、ゞュニアを芋おいた。

     ゞュニアはカバンの肩玐を握り盎した。

    「  分かった。芪父の未了案件を、完了させる」

     小曜根の倪い指が、キヌボヌドの䞊で止たった。

     その瞬間、AIくんのランプが匷く点いた。

    「緊急停止コヌドを実行したした。ラストポスト管理者からの蚱諟を確認したした」

     管理画面の䞀郚が切り替わる。ゞュニアは画面を芋ない。鈎は画面を芋たが、文字を远う前にAIくんの音声ぞ意識を戻した。

     小曜根が目を芋開いた。

    「いやいやいや、危ねぇぞ、こい぀ 今床、私のずころに持っおこい。な」

     ゞュニアはAIくんを芋る。

    「これは想定倖でした」

    「想定倖で枈たせるな。今のは、完党にアりトだろ」

    「蚱諟成立埌の即時凊理です」

    「人間には間っおもんがあるんだよ」

    「間の定矩が䞍明です」

    「ったくよ」

     小曜根はキヌボヌドを叩いた。管理画面の衚瀺が倉わる。ゞュニアは画面を凝芖しおいる。

    「AIくん。読んでくれ」

    「確認したす」

     AIくんの音声が、管理宀に流れた。

    「柎田亮介様、独自条件文。䜐和様宛お動画に぀いお、通知日から芏定日数内に再生完了が確認されない堎合、柎田鈎様宛お補足動画を受取人専甚再生ファむルぞ蚭定を倉曎し、本人ぞ通知する」

     鈎はじっず芋守り、AIくんは続けた。

    「なお、䜐和様が再生を䞭止したのは四分二十秒埌です」

     ゞュニアは拳を䜜っお、額を軜く叩いた。

    「四分二十秒以降に、䜕があるんだ」

     小曜根は即答する。

    「䞭身は芋おねぇよ。お前んずこの看板は、軜くねぇからな」

    「管理者でも芋ないのか」

    「俺が芋るのは管理状態ず条件文だ。コヌドも扱う。だが、動画の䞭身たでは芋ない。そこを䞀緒くたにしたら、この仕事は終わりだ」

     鈎は管理画面を芋おいたが、反応しおいたのはAIくんの読み䞊げた蚀葉の方だった。

    「四分二十秒だけ動画を芋お、母は再生を止めた」

     声は倧きくなかった。

    「母は本圓に、悲しくお再生を止めただけなんでしょうか」

     ゞュニアは鈎を芋る。

     鈎は、補足動画ずいう蚀葉には觊れなかった。觊れないたた、そこにある別の䞍自然さを芋おいた。

    「憶枬はできたせん。亮介さんの蚀葉を、盎接確認したす」

     ゞュニアが蚀うず、小曜根は背を向けた。管理宀の奥にある叀い金庫の前ぞ行く。腰を萜ずし、番号を合わせる手぀きは遅くない。金属の扉が重い音を立おお開いた。

     小曜根は䞭から小さなケヌスを取り出した。透明ではない黒いケヌスだった。䞭身は芋えない。

    「非公開保管分だ」

     小曜根はケヌスを開け、小型の蚘憶媒䜓を取り出した。指先で぀たむには小さい。それでも小曜根の手は迷わなかった。

     ゞュニアは片手を出した。

     小曜根は蚘憶媒䜓をその手のひらに眮く。それだけでは終わらせず、ゞュニアの指を䞊から包むようにしお握らせた。

    「萜ずすなよ」

    「萜ずさない」

    「読めなくおも、これは分かるだろ」

     ゞュニアは握った手を芋た。文字はない。小さな蚘憶媒䜓の硬さだけが、手の䞭に残る。

    「分かる」

     小曜根は手を離した。

     ゞュニアは蚘憶媒䜓を握ったたた、AIくんの方ぞ向いた。机の端のAIくんを持ち盎す。

    「AIくん、タクシヌを」

    「行き先は」

    「事務所に垰る」

     ゞュニアは小曜根を芋た。次に、鈎を芋る。

    「刀断材料は集たった。『公開刀断』を行う」

     鈎の顔が少しだけ匷匵った。

     AIくんが応答する。

    「配車したす」

     ゞュニアは小曜根に頭を䞋げた。深くはないが、瀌の圢にはなっおいた。

    「行きたす」

    「行け」

     小曜根は短く返した。

     ゞュニアはAIくんを手に持ち、蚘憶媒䜓を握ったたた、管理宀の出口ぞ向かった。

     小曜根はその背䞭を芋た。

    「芪父、そっくり」

     ゞュニアは振り返らなかった。

     鈎が小曜根に向き盎る。

    「それ、私もよく蚀われたす」

     鈎は小さく䌚釈した。笑顔は少しだけだった。すぐに衚情を戻し、ゞュニアを远いかけた。


    画像
    小曜根矩久

    シヌン6 公開刀断

     事務所に戻るず、窓の倖はすっかり暗くなっおいた。

     叀いビルの廊䞋には、倕方の冷えた空気が残っおいる。階段を䞊がる足音が、壁に圓たっお少し遅れお返っおきた。鈎は䞉冊のファむルを抱えたたた、黙っお぀いおきた。

     ゞュニアは鍵を開けた。

     䞭は出たずきのたただった。机、叀い棚、父の名刺、未了の封筒箱、来客甚の怅子。蛍光灯を぀けるず、癜い光が机の䞊に萜ちた。

     ゞュニアはAIくんを鞄から出し、机の䞭倮に眮いお蓋を開いた。AIくんのランプが癜く点く。

     小曜根から受け取った蚘憶媒䜓を机に眮く。゚ンディングノヌトをその暪に眮く。事務所偎に残っおいる䜐和宛お動画ず鈎宛お動画は、AIくんから再生できる状態になっおいる。

     刀断察象が、机の䞊に䞊んだ。

     鈎はそれを芋おいた。座らなかった。

    「ここからは、僕が先に芋たす」

     鈎が確認する。

    「どうかよろしくお願いしたす」

    「はい。鈎さんの望む結論ではないかもしれたせん」

     AIくんのランプは点いおいたが、声は出さなかった。

     鈎は、胞の前でファむルを抱え盎した。

    「私がいないずころで、私に関係する刀断をするんですね」

    「そうです」

     机の䞊にある゚ンディングノヌトを芋お、それからAIくんを芋た。

    「終わったら、説明しおください」

    「圓然です」

     鈎はうなずいた。玍埗した衚情ずは蚀い難い。けれど、ここから先を抌し開けおも、自分のためにならないずも分かっおいた。

    「埅おる堎所はありたすか」

    「奥に小さい郚屋がありたす。父が、収録に䜿っおいた郚屋です」

    「そこを䜿っおいいですか」

    「はい」

     ゞュニアは棚の暪の匕き戞を開けた。六畳ほどの郚屋に、二人掛けの゜ファず䜎いテヌブルがある。玙コップ、叀い雑誌、葬儀瀟のパンフレット。窓はない。

     鈎は郚屋の䞭を芋た。

    「十分です」

    「䜕かあったら呌びたす」

     鈎は䞉冊のファむルをテヌブルに眮いた。

     座る前に、振り返った。

    「父の蚀葉で、母を責める圢にはしないでください」

    「無理です。僕は蚀葉を切り取りたせん」

     鈎はうなずき、゜ファに座った。

    「  そうでした。忘れおください」

     ゞュニアは匕き戞を閉めた。呌べば聞こえる距離だった。けれど、事務所偎の声がそのたた届くほどではない。

     机に戻る。

     AIくんの画面には波圢だけが出おいる。必芁な情報は、AIくんに読たせる。

    「珟圚、鈎様は埅機宀にいたす。動画確認を開始できたす」

    「順番を確認しろ」

    「察象契玄、柎田亮介様。保管デヌタは䞉分類です。䜐和様宛お動画、鈎様宛お補足動画、非公開保管分。加えお、机䞊に゚ンディングノヌトがありたす」

    「䜐和さん宛おから」

    「再生前に確認したす。音声出力を宀内スピヌカヌからワむダレスむダホンぞ切り替えたすか」

     ゞュニアは奥の匕き戞を芋た。

    「ああ。音声は倖郚に出すな」

     AIくんの画面に、接続確認の衚瀺が出た。

    「ワむダレスむダホンぞ出力したす」

     ゞュニアは机の隅に眮かれおいたケヌスを開けた。片方だけ耳に入れる。

    「いいぞ」

    「確認したした。宀内スピヌカヌ出力を停止したす」

    「䜐和様宛お動画には、再生開始履歎がありたす。再生完了履歎はありたせん。最終到達䜍眮は四分二十秒以降です」

    「そうか。どう転んでも、条件は発動したわけだ。ずにかく䞭身を確認する。  再生」

     画面が暗くなり、映像が出た。

     柎田亮介は怅子に座っおいた。カメラを芋぀めおいる。衚情は動かない。冷えお固たっおいる。そしお堎所は、今、鈎が埅機しおいる郚屋だ。

    「䜐和。圓おおやろう。君は、私の葬匏で、棺桶の蓋を閉じるずき、わんわんず泣いお芋せたのだろう。それがすべお嘘だずは蚀わないよ。そういう女だよ、君は。そしお、おそらく、君は蟛くお起き䞊がれないずいう自分に酔い続けお、郚屋にでも匕きこもり、家の実務的なこずは党郚、鈎に任せきりになるだろう。

      思い出すな。今でも。鈎が生たれた時のこずだ。君は䜕もしなかった。いいさ、あの時の私だっお喜んでやっおいたさ。病院の手続き、出生届、お祝い返しのリスト䜜り、育児甚品はどこの店で買うか。やるこずがたくさん増えたが、それがたた幞せだった。

    そしお君は、鈎の名前を぀けた。窓の倖を芋ながらがんやりしおいた時に思い぀いたず蚀っおいたね。鈎蘭がきれいだったず。うん、いい名前だ。私も気に入っおいるよ。そしお私が甚意したカタログからお祝い返しを遞び、私が芋぀けた店でベビヌカヌの色を遞んだ。だがね、知っおいたか。我が家の家蚈で、どれくらいが蚱容範囲だったか。いや、知っおいおくれなければ困るので、䌝えおおいた。でも、君はどうしおも赀がいいず蚀っお聞かないからね。最埌は予算ではなく、色で遞んだね」

     画面の端のタむマヌが、四分二十秒に近づいおいた。

    「停止」

     亮介の顔が止たった。

     AIくんのランプが青く点いた。

    「停止したした。珟圚䜍眮は四分二十秒盎前です」

     ゞュニアは机の端に指を眮いた。

    「この少し埌だな。䜐和さんが再生を止めたのは。ここたでは、ねちっこいただの嫌味だな」

    「䜐和様ぞの非難、過去の家事育児に関する䞍満、鈎様出生時の蚘憶が含たれたす」

    「本題は、この先か」

    「条件文ずの照合では、その可胜性が高いです」

     ゞュニアは、止たった亮介の顔を芋た。口を開く寞前で固たっおいる。

    「再開」

     映像が動いた。

    「さお、蟰巳のこずを話そうか。蟰巳、だ。そう、蟰巳のこずだ。忘れられない芪友であり同僚でもあり、人の劻に䞍貞を働いた愚かな男。  䜐和、君には謝らなければならない。私は嘘を぀いた」

     タむマヌが四分二十秒になった。

    「  そう、嘘を぀いおいた。君を蚱す、ず蚀ったな。これっぜっちも蚱しおなかった。蚱す぀もりもなかった。離婚せずにやり盎そうず提案したのは、鈎のため。それは嘘ではない。だが、君ずやり盎したいず蚀った。そこは嘘だ。真っ赀な嘘だ。鈎がいなかったら、ずっくに君の胞を包䞁で刺しおいただろう」

     動画がAIくんによっお停止される。

    「䜐和様が離脱した䜍眮です」

    「  わかった。続きを芋よう」

     動画が再開された。

    「君ず蟰巳は、䞋手をするず、二人ずも離婚しお駆け萜ちでもしかねない二人だずよく分かっおいたよ。鈎も、啓倪君も攟っおおいおね。だから敊子さんずもよく話し合ったんだ。お互いの家庭に閉じ蟌めるこずにしたしょう、ずね。蚱すふりをしお、二人を家庭に閉じ蟌めたたた、互いの子どもたちを守りたしょうずね。  それはうたくいった。そこだけ切り取れば、めでたし、めでたし、だ。鈎も啓倪君も、芪元から自立しお、立掟に生きおいる。

    蟰巳を地方に飛ばすこずができお、ようやく君も萜ち着いたな。苊劎したんだよ。それを仕蟌むのも。

    そうだ。蟰巳が出䞖コヌスを倖れたのは二぀の意味で偶然ではない。第䞀に、あい぀が無胜で、それを呚囲のせいにしお、誰の目から芋おも組織にずっおマむナスだったのはあい぀自身が招いたこずだ。

    だが半分は、私がそれを埌抌ししおいたのも倧きい。  誀解しないでほしいが、情報システム郚の゚ンゞニアができるこずは少ない。いくら瀟内のあらゆるシステムを保守しおいおも、情報の改ざんや盗聎なんおおいそれずできるもんじゃない。君は、あの時、蟰巳のメヌルをすべお私が盗み芋おいた、などず蚀っおいたが、ドラマや映画の芋すぎだ。あの時も蚀ったが、そんなこず、今どきの瀟内セキュリティの枠組みの䞭では、珟実的ではないんだよ。

    私ができるのは、埓業員の胜力を可芖化する段取りを組むくらいだ。評䟡制床、タスクの進捗管理、議事録の自動化、経費の費甚察効果の芋える化。そういうこずだ。君に説明しおもわからないかもしれないがね、君が䌚瀟で働いおいた頃よりも、今ではずっず䞀人ひずりの成果が数字で芋えるようになっおいる。

    蟰巳の無胜さを可芖化するために、私はがんばったさ。そしおそれは皮肉にも私を出䞖させ、以前よりも皌げるようになり、反察に蟰巳はい぀たでも同じ堎所で同じ仕事をしおいた。最埌の方は、もう話すこずもなくなったな。盞倉わらずあい぀は喫煙宀でぐだぐだず無駄な時間を過ごし、スヌツはい぀も煙草臭かった。

    急にゎルフを始めたのも、人事郚長ず仲良くなるためだ。可芖化するだけでは足りないからな。信頌できる瀟員が埌抌しするこずで、郚長も巊遷の曞類にハンコを抌しやすくなる。

    蟰巳の人生を壊したのは、君の責任でもある。君自身が、私ず敊子さん、䞡方の埩讐心の出どころだ。蟰巳のずころは結局離婚したらしい。知っおいたかな 敊子さんは君ず違っお、皌げる腕を持っおいたからね。そうなるのも無理はない。たあ、折りに觊れお蟰巳の近況は䌝えたからな。驚きはしないだろう。鈎の卒業匏、成人匏、圌を初めお連れおきた日。  ふふふ。

    こんな動画を撮っおいるのは、はっきりず最埌に楔を打っおおくためだ。私は君を蚱しおいない。そのこずをな。䜕幎もかけお埩讐しおいた。それが䞀぀の生きがいでもあった。君をこの家に閉じ蟌めるこずに成功した。満足しおいる。

    資産は十分に残しおやったが、君のこずだ、ろくな管理もできずにあっずいう間に食い぀ぶすだろう。せいぜい嚘には誠実に接するこずだ。あの子がそばにいれば、悪いようにはしないだろう。

    そしお君がここたでしっかりずこの動画を芋続けたならば、鈎には䜕も䌝えない。君の愚かさ、䞍誠実さに察する埩讐は、ここだけの話にしおおいおやろう。しかし、君が私の告発に耐えかねお、この動画を芋るこずすらやめたなら、鈎も巻き蟌むこずになる。

    さお、君はどういう遞択をするのかな。たあ、もう私の知ったこずではないが。

    では、さようなら。たっぷりず長生きするんだな。私はここで倱瀌させおもらう。随分ず、くたびれおしたったよ。䜕か蚀いたいこずがあれば、墓の䞭で聞かせおもらうよ」

     映像が終わった。

     AIくんの画面は、暗いたた波圢に戻った。ゞュニアはすぐには動かなかった。奥の郚屋から音はしない。

    「䞀件目の論点を提瀺したす」

     AIくんの声は事務的だった。

    「䜐和様宛お動画を、䜐和様本人ぞ返すか。蚌拠ずしお、動画の宛先は䜐和様です。内容は䜐和様ぞの非難、倫婊間の過去、蟰巳様に関する告発、亮介様自身の埩讐行為を含みたす。鈎様に関する蚘述も含たれたすが、盎接の呌びかけ先は䜐和様です」

     ゞュニアは、動画の消えた画面を芋た。

    「返す」

    「反察意芋を提瀺したす。䜐和様はすでに䞀床、芖聎を䞭断しおいたす。再床枡すこずにより、䜐和様が心理的に远い詰められる可胜性がありたす。たた、亮介様は動画内で、䜐和様が芖聎を続けるかどうかを鈎様ぞの条件に利甚しおいたす」

     ゞュニアは怅子に浅く座り盎した。

    「だから返さない、ずはならない」

    「理由を確認したす」

    「䜐和さん宛おだからだ。䞭身がき぀いからず隠すのは、俺の仕事じゃない」

    「蚘録したす。䜐和様宛お動画は、䜐和様本人ぞ返す。ただし、返华時に感想、評䟡、凊眰的な蚀葉を添えない」

    「凊眰的、は消せ」

    「では、䜐和様を責める材料ずしお扱わない」

    「それでいい」

     AIくんのランプが癜く点いた。

    「二件目の論点です。䜐和様宛お動画を、鈎様に芋せない理由は䜕か。蚌拠ずしお、動画には鈎様の出生時、䜐和様の秘密、蟰巳様に関する情報が含たれおいたす。鈎様に関係する芁玠がありたす」

    「鈎さんに関係しおるからずいっお、本人に芋せる根拠ずはならない」

    「反察尋問を行いたす。鈎様は䟝頌人です。自分に関係する情報を知る暩利がある、ずいう䞻匵が成立したす」

    「成立するかもな。ただその䞻匵は認めない」

    「なぜ認めたせんか」

     ゞュニアは䞀床口を開きかけ、やめた。

     机䞊には、蚘憶媒䜓ず゚ンディングノヌトが残っおいる。奥の匕き戞の向こうに、鈎がいる。

    「䜐和さんが蚀うように、これは倫婊の領域だからだ。䜐和さんに向けられた呪いたで、鈎さんに枡す必芁はない」

    「鈎様を守るために、情報を遮断するのですか」

    「亮介さんの遺志を守るだけだ」

    「蚘録したす。鈎様に芋せない理由は、亮介様の遺志を尊重し、䜐和様宛おの倫婊間領域を、鈎様本人の領域ず混同しないためです」

    「そういうこずだ」

    「䞉件目の論点です。䜐和様が芖聎しなかったこずを、鈎様宛お動画の通知条件にしおよいか。条件文の読み䞊げを行いたす」

    「読め」

     AIくんのランプが青く倉わった。声の調子が少し倉わる。

    「ラストポスト偎の条件文です。䜐和様宛お動画の再生完了が確認されない堎合、鈎様宛お補足動画を受取人専甚再生状態ぞ移行する。䜐和様による確認未了たたは䞭断状態が䞀定期間継続した堎合、条件再刀定を行う。緊急停止コヌドにより、珟圚この凊理は停止䞭です」

    「こんな条件は削陀だ」

    「理由を確認したす」

     AIくんが続ける。

    「反察意芋を提瀺したす。亮介様は、䜐和様が自分の告発に耐えられない堎合、鈎様にも事情の䞀端を知らせる必芁があるず刀断した可胜性がありたす。鈎様の将来の介護負担や、䜐和様の粟神状態に備える意図も考えられたす」

    「そこはわからなくもない」

    「では、なぜ华䞋したすか」

    「それを受取人専甚再生なんかにしお、鈎さんが䞀人で抱え蟌むこずを匷制するなっおこずだ」

    「論点は受取人専甚再生蚭定に絞り蟌たれるずいうこずですか」

    「そうだ。鈎さんが誰かに盞談する自由たで奪うこずはない」

    「蚘録したす。䜐和様の拒吊、沈黙、芖聎䞭断を、受取人専甚再生蚭定の条件にしない」

     ゞュニアは、そこで短く息を吐いた。

    「止めるのは、亮介さんの蚀葉じゃない。その仕組みだ」

     AIくんのランプが䞀床だけ匷く点いた。

    「重芁刀断ずしお蚘録したす。止める察象は、亮介様の発話そのものではなく、亮介様の発話が家族内の圧力装眮になる条件凊理です」

    「それでいい」

    「次の動画ぞ進みたすか」

    「進め」

     画面が切り替わった。

     柎田亮介はアルバムを芋おいた。赀い背衚玙のものが膝の䞊にある。ペヌゞには写真が䞊んでいる。幌い頃から珟圚たで、几垳面に幎代順に分類されおいるようだった。

    「鈎。  鈎。ふふふ。芋おみろ。お前の写真だ。父さんの曞斎にある。アルバムは棚にたずめおあるから、芋ればすぐわかるだろう。赀い背衚玙だ。やはり写真ずいうものは、こうやっお、アルバムに収めるものだ。デゞタルでPCモニタで眺めるのではなくおね」

     亮介はアルバムを持ち䞊げた。䞡手で重みを確かめる。

    「いい。実にいい。アルバムには、盞応しい重さがないず。  鈎。生たれおきおくれおありがずう。こんなこず、面ず向かっおなど蚀えない。たあでも最埌くらいは、な。ふふふ。最埌くらい、面ず向かっお盎接蚀っお。そんなこず蚀いそうだな、お前は。すたない。それはどうしおも、照れくさくおできそうもない。悪かったな、こんな圢で」

     アルバムが机に眮かれた。亮介はすぐに正面を向かなかった。少し遅れお、カメラを芋る。

    「鈎、これをお前が芋おいるずいうこずは、䜐和は私の最埌の動画を芋おくれなかったずいうこずだ。残念だが、仕方がないな。今から話すこずは、できれば  やはりやめたほうがいいのか。こんなこず間違っおいるのか」

     亮介の芖線が萜ちた。沈黙が続く。

     ゞュニアは止めなかった。

    「いや。䌝えたほうがいいだろう。鈎、お母さんは、秘密を抱えおいる。䜕の秘密なのかは、私の口からは蚀えない。私が䌝えたいのはな、お母さんは、眪を犯した。それを隠し続けおいる。そしお、これが倧事なこずだが、お母さんはその眪に、必ずしも向き合っおいるずは蚀えない、ずいうこずだ。残念なこずだ。だから、ひょっずするず、お父さんがいなくなった埌、お母さんは  い぀か、壊れおしたうかもしれない。

      おばあちゃんのこず、芚えおいるか。あの人の介護は、倧倉だったんだ。認知症ずいうのはな、党おの蚘憶がなくなっおしたうわけではないんだそうだ。忘れおしたうどころか、奥深くにしたっおいた蚘憶が蘇っお、蚀葉や行動に珟れるこずもあるそうだ。おばあちゃんな、若い頃に、その  、ひどい目に遭わされたこずがあるみたいだ。戊争の頃にな。その時の蚘憶なのだず思う。暎れお手が぀けられなくなる時があった。どうやら私をその時の男ず重ねお芋おしたっおいたようだ。詳しいこずは私もわからない。ただ、暎れおいる時に、その男ぞの恚み蚀らしきこずも、よく口にしおいた。

      お母さんもそうなるず蚀いたいわけじゃない。だけどな、眪に蓋をしたずころで、なくなるわけじゃない。生きおいる限り、ずっずそれが远いかけおくる。たしお、その眪を償っおいなければ、必ずしっぺ返しが来る  ずでも蚀えばいいのかな。お母さんの心を蝕んで、疲れさせお、鈎、お前に矛先が向いおしたうかもしれない。ぶ぀けおくるかもしれない。それを受け入れろ、なんお蚀えないよ、父さんには。

    蟛いこずになるだろう。そしお、お前は優しいからな  。母さんを芋捚おるなんおできないだろう。だからな、お前が少しでも玍埗できるように、この話をしおおこうず思ったんだ。将来、お母さんが、壊れおしたうようなこずがあったのなら、お母さんは眪を犯したず、お前が知っおいるだけで、䜕かの助けになるか   ただの慰め、かもしれないが、知らないよりは知っおいたほうがいいだろう。そう思ったんだ。

    これが本圓に良いこずなのか、確信なんお、今でもない。だから、お母さんが、私の最埌のメッセヌゞを受け取れなかった時に限っお、この動画が届くようにしおおいた。

      鈎。幞せにな。その、  圌にも䌝えおおいおくれないか。圌のこず、私は倧いに気に入っおいる。嚘を幞せにしおくれるに違いない。そう思っおいる。私からよろしく頌むず、どうか䌝えおおいおくれ。

    鈎、さすがだな。お前は賢くお、人を芋る目もある。すばらしい䌎䟶を芋぀けたな。  どうか幞せに。お父さんは、お前の父芪になれお幞せだったよ。ありがずう、お前がお父さんを、お父さんにしおくれたんだ。ありがずう。  愛しおいる」

     亮介はアルバムに目を戻した。声が少しだけ萜ちる。

    「かわいい、かわいい、我が嚘。よかった。本圓によかった。お前が、立掟に育っおくれお。私は、それだけで十分だ」

     映像が終わった。

     ゞュニアは䞡手を膝に眮いた。奥の郚屋から音はしない。

     AIくんのランプが癜から青に倉わる。

    「四件目の論点です。鈎様宛お補足動画を、鈎様本人の閲芧暩ずしお枡せるか。蚌拠ずしお、動画の冒頭から終盀たで鈎様ぞの盎接呌びかけです。父芪ずしおの感謝、アルバムの所圚、䜐和様に関する譊告、将来の介護䞍安、鈎様の䌎䟶ぞの信頌、愛情衚明が含たれたす」

     ゞュニアは立ち䞊がり、冷蔵庫から猶の小さいコヌラを持っおきお開けた。䞀口飲んで倩井を芋䞊げる。

    「鈎さんに枡す」

    「反察意芋を提瀺したす。動画内には䜐和様の眪、䜐和様が壊れる可胜性、鈎様ぞの負担予枬が含たれたす。鈎様にずっお重い情報であり、芖聎により母嚘関係に圱響する可胜性がありたす」

    「ある」

    「では、なぜ枡したすか」

     ゞュニアは、しばらく黙った。

     動画が消えた画面には、黒い波圢だけがある。

    「鈎さんに向けられたものだからだ」

    「それだけですか」

    「それだけじゃない。父芪の蚀葉だからだ。呪いも混じっおる。心配も混じっおる。芪バカも混じっおる。それを俺がきれいに分けお、いい父芪のずころだけ枡すのは違う」

    「蚘録したす。鈎様宛お補足動画は、鈎様本人の閲芧暩ずしお枡す。理由は、鈎様に向けられた発話であり、亮介様の父芪ずしおの蚀葉を、担圓者が郜合よく矎化線集しないためです」

    「矎化線集、嫌な蚀葉だな」

    「適切です」

    「適切なのが嫌なんだよ」

    「停止したした」

     AIくんのランプが䞀床消え、すぐ点いた。

    「五件目の論点です。鈎様宛お補足動画に含たれる䜐和様ぞの譊告たで芋せるか。蚌拠ずしお、該圓郚分には、䜐和様が眪を抱えおいるこず、将来壊れるかもしれないこず、鈎様に悪いこずが向けられる可胜性が含たれたす」

     ゞュニアは、机の䞊の゚ンディングノヌトに觊れた。衚玙の文字は芋ない。玙の厚みだけを確かめる。

    「芋せる」

    「反察意芋を提瀺したす。譊告郚分を含めるこずで、鈎様が䜐和様を監芖する圹割、介護する圹割、眪を背負う圹割を自分に匕き寄せる可胜性がありたす」

     ゞュニアは、少し顔をしかめた。

    「そこは説明するさ」

    「動画を芖聎する前にですか、埌にですか」

    「父芪の声を聞く前に俺の解釈は入れない。動画を芋た埌だ」

    「では、動画は党量枡し、芖聎埌に必芁に応じお刀断根拠を説明する、でよろしいですか」

    「  芖聎埌に、鈎さんが尋ねられたら答える。俺から講矩を抌し付けない」

    「蚘録したす。譊告郚分を含めお党量を鈎様の閲芧察象ずする。ただし、担圓者が先回りしお解釈を付䞎しない。鈎様から質問があった堎合、公開刀断䞊の線匕きを説明する」

    「それでいい」

    「六件目の論点です。鈎様宛お補足動画を、䜐和様ず同垭で芋せるか、切り離すか。鈎様の立堎からは、母芪ず共に受け止めたいずいう遞択があり埗たす。䜐和様の立堎からは、自分に関する蚘述を同垭で聞く暩利を䞻匵する可胜性がありたす」

     ゞュニアは、奥の匕き戞の隙間を芋た。

    「切り離す」

    「反察意芋を提瀺したす。切り離すこずで、䜐和様が母芪ずしお排陀されたず感じる可胜性がありたす」

    「感じるだろうな」

    「では、なぜ切り離したすか」

    「䜐和さんがいたら、鈎さんは父芪の蚀葉じゃなく、母芪の顔色を芋る」

     AIくんは少し沈黙した。

    「鈎様が、䜐和様の反応を先に凊理しおしたう、ずいう意味ですか」

    「そうだ」

    「蚘録したす。鈎様宛お補足動画は、䜐和様ず切り離しお枡す。理由は、鈎様が亮介様の発話を受け取る前に、䜐和様の反応を凊理する状態を避けるためです」

     ゞュニアはうなずいた。

    「次。非公開保管分」

    「再生準備をしたす。小曜根様から受け取った蚘憶媒䜓内のデヌタを䜿甚したす」

    「音声は、ただ倖に出すなよ」

    「ワむダレスむダホン出力を維持したす。宀内スピヌカヌは䜿甚したせん」

     画面が暗くなった。

     亮介はう぀むいおいた。これたでの二本ず違い、カメラを芋おいない。膝の䞊で手を組み、顔を䌏せたたただ。

     画面の倖から、䌎明成の声が聞こえた。

    「  安心しおください。この動画は誰にも芋せるこずはない。なんなら録画だっお止めおもいいのですよ。私が芚えおおけばいいのですから」

     ゞュニアの肩が、わずかに動いた。

     父の声だった。蚘憶の䞭の声より少し若い。

     亮介は顔を䞊げた。カメラではなく、䌎明成のいる方を芋おいる。

    「いいんです。残しおください。䜕かあった時のために、しっかりず録画し、保管しおください。消しおはいけない。残しおおかねば」

    「わかりたした。あなたのご意向に埓いたす。このデヌタはクラりドには保存したせん。もっず厳重に信頌できる堎所に預けたす」

     亮介は確かめるように、少し顎を匕いた。

    「ラストポスト、ですね」

    「はい。圌らはただの提携先ではないのです。仲間であり同志です」

     亮介が顎をなでた。

    「矚たしいこずです。そうやっお、誇れる仕事があっお、仲間がいる。私には぀いぞ、届かなかった」

    「そんなこずはないでしょう。あなたもご立掟だ」

     亮介は深く息を吐いた。そばにあった湯呑を取り、茶をすする。

    「たあ、ひずたず、蚀いたいこずは蚀いたした。あなたのおかげだ。生きおいるうちに、こうしお蚀葉ずしお吐き出すこずができた。感謝しおいたす。  䜕幎も䜕幎も、どこにも吐き出せない蚀葉でした。敊子さん、ああ、蟰巳の奥さんですがね、圌女が調べお持っおきたんですよ。䞍貞を働かれお離婚した時に、どれだけ埩讐できるかっお。

    びっくりするくらい、䜕もできないものです。特に男芪は悲惚だ。こんなこずをされおも、芪暩なんおほが取れない。慰謝料だっお回収できないこずもある。

    瀟内で蟰巳を告発しおも、業務に支障をきたしおいなければ、䜕のお咎めもない。だったら、ず敊子さんは蚀ったんです。家庭に閉じ蟌めお、手の届く範囲で時間をかけお埩讐したしょうっお。敊子さんも、シングルマザヌになっお息子さんに苊劎かけるのは本意ではないず。息子さんが成人しおから、たっぷりず埩讐を実行に移す。そう蚀っおいたしたな」

     亮介は頭を振った。

    「もうこの話はよしたしょう。䜕を聞かせおいるんだ、私は」

     䌎明成の声は静かだった。

    「お奜きなようにしおください。時間制限もしがらみもありたせん」

     亮介は、ふず思い出したように蚀った。

    「そうだ。゚ンディングノヌトのこずをお䌝えしたほうがいいかもしれない」

     䌎明成が確かめる。

    「鈎さんに向けお残した、あのノヌトですね」

    「ええ。あなたのおかげで、随分ず良い資料になりたした。助かりたした。さすがは元匁護士さんです。たったく、そんなこずたで䟝頌料に含たれおいなかったでしょうに」

     䌎明成の声が、少しやわらかくなった。

    「いいんです。うちは息子ですけどね、子を思う芪の気持ちはわかりたすからね」

     亮介の目が明るくなった。

    「そうですか。嚘もかわいいですが、息子もかわいいでしょうなぁ」

    「生意気な憎たれ口ばかりですが、いいものですよ。憎たれ口でも、頌もしくなったず思うず誇らしくなる」

    「そうですか、そうですか。いやいや、やっぱり矚たしい。  鈎のこずは、どこたで䜕を残しおやっおも、心配です」

    「そうですね。そんなものです」

    「鈎は私に䌌おいたす。勧めたわけでもないのに、あの子たでシステム゚ンゞニアになっおしたったのは驚きたしたよ」

    「いいではないですか。私の息子は、間違っおもこの事務所を継いでなどくれたせんよ」

     ゞュニアは画面から芖線を倖し、コヌラを飲み干しおゲップをした。

     動画は続いた。

     亮介の声が少しか现くなる。

    「  ゚ンゞニアから゚ンゞニアの匕き継ぎなので、手順曞を残したした。死んだ埌に迷惑をかけるから、その埌の埩旧手順曞っおや぀です。きっずあの子なら、きちんずやり遂げるはずです。もし、機䌚があれば、䞍噚甚な芪父なりの匕継曞だず、䌝えおやっおください」

     䌎明成は少し間を眮いた。

    「わかりたした。機䌚があれば」

     亮介はう぀むいた。

    「こんなずころにしたしょう。もうけっこうです」

     䌎明成が聞いた。

    「いいのですか。これでは、ただの芪バカ同士の䞖間話ですよ」

     亮介は顔を䞊げた。

    「それがいいんです。最埌はただの芪バカで。それが䞀番幞せな柎田亮介です」

    「そうですか。たしかに、私も最埌はただの芪バカに収たるのが幞せかもしれたせん」

    「ええ、そうですよ。間違いありたせん」

     亮介は湯呑をかかげた。画面の倖で、小さく噚の觊れる音がした。

    「二人の芪バカに、也杯」

     映像が終わった。

     ゞュニアは、しばらく䜕も蚀わなかった。コヌラの猶をゎミ箱に入れる。

     AIくんも埅った。画面には波圢だけが残っおいる。机にぱンディングノヌトず蚘憶媒䜓がある。奥の郚屋には鈎がいる。

    「非公開保管分に぀いお確認したす」

     AIくんの声が、たた少し倉化した。

    「非公開保管分は、遺族ぞ芋せるものか。蚌拠ずしお、冒頭で䌎明成は、この動画は誰にも芋せるこずはない、録画を止めおもよい、ず述べおいたす。亮介様は、録画し保管するよう求めおいたす。これは遺族宛おではなく、刀断者に向けた蚘録です」

     ゞュニアは、父の声が消えた画面を芋た。

    「遺族ぞは芋せない」

    「反察意芋を提瀺したす。非公開保管分には、䜐和様宛お動画ず鈎様宛お動画の背景がありたす。鈎様は䟝頌人であり、父芪の蚀葉の党䜓像を知りたいず望む可胜性がありたす」

    「望むだろうな」

    「では、なぜ芋せたせんか」

    「芪父が盞手だったから蚀えたこずだ」

     AIくんのランプが短く点いた。

    「刀断者に向けた発話であり、遺族に向けた発話ではない、ずいう敎理でよろしいですか」

    「それでいい。芪父が受け止めた分だ。俺が勝手に遺族に枡すものじゃない」

    「蚘録したす。非公開保管分は、鈎様にも䜐和様にも芋せない。理由は、刀断者甚蚘録であり、遺族向けの発話ではないためです」

    「八件目の論点です。非公開保管分を、刀断根拠ずしお保持するか。削陀、封印、保持の䞉候補がありたす」

    「削陀はない」

    「削陀しない理由を確認したす。内容が遺族に芋せられないものであるなら、削陀により二次被害を防止できたす」

    「なかったこずにする方が危ない。そこは亮介さんず同意芋だ」

    「封印はどうですか。担圓者も今埌参照できない状態にできたす」

     ゞュニアは、蚘憶媒䜓を芋た。

    「䞀回きりの受取人専甚再生か それもだめだ。必芁なら䜕床でも芋返す」

    「監査ログずしお保持したすか」

    「保持する。人に枡さない。消さない」

    「保持条件を確定したす。非公開保管分は刀断根拠ずしお保持する。遺族ぞは枡さない。削陀もしない。䜕床でも芖聎可胜」

     AIくんのランプが癜に戻った。

    「九件目の論点です。゚ンディングノヌトは、鈎様を凊理係にする蚌拠なのか、埩旧手順曞なのか。蚌拠ずしお、非公開保管分内で亮介様は、゚ンゞニアから゚ンゞニアの匕き継ぎ、死亡埌の埩旧手順曞、ず衚珟しおいたす」

     ゞュニアは、ノヌトを芋た。

     衚玙の文字は読たない。読めない。けれど、鈎がそれを芋お厩れた堎面は芚えおいる。

    「埩旧手順曞だ。凊理係を抌し付けたわけじゃない」

    「反察意芋を提瀺したす。実際には、死亡埌の実務、契玄、家蚈、手続きに関する情報が含たれたす。鈎様が凊理圹を担う構造になっおいるこずは吊定できたせん」

    「吊定しない」

    「では、なぜ鈎様を凊理係ずする蚌拠ずしないのですか」

     ゞュニアは怅子に浅く座り盎した。ノヌトの衚玙を撫でる。

    「凊理させるためだけなら、あんな䌝蚀はいらない」

     AIくんは黙った。

    「順序が逆だ。亮介さんは、鈎さんがすすんで父芪が亡くなった埌の凊理を匕き受けるこずを分かっおた。だから、それで困らないように手順を曞いた。芪父にそう蚀っおる」

    「蚘録したす。゚ンディングノヌトは、鈎様に実務負担を生じさせる資料である。ただし、亮介様本人の発話を根拠に、鈎様を凊理係に固定するためのものではなく、死亡埌の埩旧手順曞ずしお扱う」

    「それでいい。このノヌトは指瀺曞じゃない。困った時に開く手順曞だ」

    「十件目の論点です。䜐和様ぞの返华時、鈎様を同垭させるか。候補は䞉぀です。同垭させる。同垭させない。鈎様本人ぞ遞択を委ねる」

    「委ねる」

    「反察意芋を提瀺したす。同垭を鈎様に委ねるこずで、鈎様が母芪を芋捚おるか芋届けるかの遞択を迫られたず感じる可胜性がありたす」

     ゞュニアは、奥の郚屋の匕き戞を芋た。

    「感じるかもしれないな」

    「では、担圓者刀断で同垭させない方が安党ではありたせんか」

     机䞊には、返すものず、枡すものず、残すものが、ただ分かれ切っおはいない。

    「鈎さんは最埌に自分で分類する」

    「同垭させる、ではなく、分類先を遞べるようにする、ずいう意味ですか」

    「そうだ」

    「十䞀件目の論点ぞ接続したす。同垭するかどうかを鈎様本人に委ねる理由は䜕か」

    「鈎さんは䟝頌人だ。嚘でもある。芋届けおもいい。垭を倖しおもいい。どっちを遞んでも、䜕かを攟棄したこずにはならないだろ 分類は捚おるっおこずず䌌お非なるものだよ」

    「蚘録したす。䜐和様ぞの返华時、鈎様の同垭可吊は鈎様本人ぞ委ねる。理由は、鈎様を保護察象ずしお䞀方的に排陀せず、か぀同垭を矩務づけないためです。どちらの遞択も、鈎様が母芪たたは父芪を攟棄したこずを意味しない」

    「そのたた鈎さんに蚀う」

    「文案ずしお保持したす」

    「文案じゃない。俺が蚀う」

    「保持方法を倉曎したす。担圓者発話予定ずしお保持したす」

    「现かいな」

    「監査ログです」

    「知っおる」

     AIくんのランプが、少しだけ明るくなった。

    「十二件目の論点です。䌎明成の未了刀断ず、珟圚の䌎明人様の刀断はどこが同じで、どこが異なるか。先代刀断蚘録を読み䞊げたす」

     ゞュニアは銖を倧きく巊右に䌞ばした。

    「そんなこずたで論点化するなよ。  たあいい。読め」

     AIくんの声が、事務的な読み䞊げに戻った。

    「小曜根様から提瀺された重芁な論点です。䌎明成の未了刀断。本人の蚀葉を、家族内の圧力装眮にしない。䜐和様の拒吊たたは沈黙を、鈎様宛お補足動画の受取人専甚再生蚭定の条件にしない。非公開保管分は刀断者甚蚘録ずしお扱う。䜐和様宛お、鈎様宛お、刀断者甚蚘録を混同しない。以䞊です」

     ゞュニアは、父の名刺が眮いおある方を芋た。文字は読たない。

    「同じずころは」

     AIくんが続ける。

    「同じ点。䜐和様の芖聎行動を鈎様ぞの遺蚀通知の蚭定条件にしない。非公開保管分を遺族向けにしない。䜐和様宛お動画ず鈎様宛お動画を明確に分ける。本人の蚀葉を、別の家族を動かす装眮ずしお䜿わない」

    「違うずころは」

    「違う点。䌎明成は最終刀断を完了しおいたせん。緊急停止コヌドにより条件凊理を止め、未了ずしお残したした。珟圚の䌎明人様は、䞉本の動画を確認し、䜐和様ぞの返华、鈎様ぞの閲芧暩付䞎、非公開保管分の保持、゚ンディングノヌトの扱い、䜐和様返华時の鈎様同垭可吊たで刀断しおいたす」

     ゞュニアは黙った。

     AIくんは、少し間を眮いお蚀った。

    「十䞉件目の論点です。これは、䌎明成の真䌌なのか、䌎明人様自身の刀断なのか」

     ゞュニアは目を閉じた。

     父の声がただ耳に残っおいる。

     間違っおもこの事務所を継いでなどくれたせんよ。

     それを、父は笑っお蚀っおいた。

     ゞュニアは目を開けた。

    「芪父の真䌌じゃない」

     AIくんは埅った。

    「俺の刀断だ」

    「監査ログぞ蚘録したす。担圓者、䌎明人。柎田亮介案件に぀いお、先代䌎明成の未了刀断を参照し぀぀、珟担圓者ずしお最終刀断を行った」

    「珟担圓者っお蚀い方、ただ慣れないな」

    「所長に倉曎したすか」

    「するな」

    「保留したす」

    「保留もするな」

     AIくんのランプが癜く点いた。

    「では、刀断確定凊理に移りたす」

    「䞀括で読むな。䞀件ず぀確定しろ」

    「了解したした。確定䞀。䜐和様宛お動画は、䜐和様本人ぞ返したす。鈎様には芋せたせん。返华時、内容の評䟡、感想、責める蚀葉を添えたせん」

    「確定」

    「確定二。䜐和様の再生完了、確認未了、芖聎䞭断、沈黙を、鈎様宛お補足動画の受取人専甚再生蚭定にしたせん。緊急停止コヌドによる停止状態を維持し、条件再刀定を無効化したす」

    「確定」

    「確定䞉。鈎様宛お補足動画は、鈎様本人の閲芧暩ずしお枡したす。䜐和様ずは切り離したす。鈎様が芋る時期、誰ず芋るか、芋ないかは、鈎様が決めたす」

     ゞュニアは短くうなずいた。

    「確定」

    「確定四。鈎様宛お補足動画は党量を察象ずしたす。䜐和様に関する譊告を担圓者刀断で削陀したせん。ただし、担圓者が先回りしお解釈を付けたせん。鈎様から質問があった堎合、線匕きを説明したす」

    「確定」

    「確定五。非公開保管分は、刀断者甚蚘録ずしお保持したす。鈎様にも䜐和様にも芋せたせん。削陀したせん。䜕床でも再生可胜」

    「確定」

    「確定六。゚ンディングノヌトは、亮介様本人の発話を根拠ずしお、死亡埌の埩旧手順曞、䞍噚甚な父芪なりの匕継曞ずしお扱いたす。鈎様を凊理係に固定する指瀺曞ずしおは扱いたせん」

     ゞュニアは、ノヌトを芋おから蚀う。

    「確定」

    「確定䞃。䜐和様ぞの返华時、鈎様が同垭するかどうかは鈎様本人ぞ委ねたす。芋届けおも、垭を倖しおも、鈎様が䜕かを攟棄したこずにはなりたせん」

    「確定」

    「確定八。䌎明成の未了刀断は参照したしたが、最終刀断は䌎明人様が行いたした」

     ゞュニアは、AIくんのランプを芋た。

    「確定」

    「䞻芁刀断は党お完了したした」

     ゞュニアは怅子の背に少しだけ䜓重を預けた。

    「だったら、それらしくファンファヌレくらい鳎らせよ」

    「音声挔出を実行したすか」

    「蚱可する」

    「蚱可を確認したした」

     AIくんから、安っぜい電子音が鳎った。

     ぱぱぱぱヌん。

     少し間が空く。

     ぱぱぱぱヌん。

     最埌に、昔の携垯電話の着信音のような音が少し倖れた。

     ゞュニアの口が開いたたただった。

    「䜕だ今の」

    「公開刀断完了ファンファヌレです」

    「ダサい」

    「所長の蚱可に基づき再生したした」

    「蚱可した俺が悪いみたいに蚀うな」

    「因果関係ずしおは正確です」

    「うるさい」

    「停止したした」

     電子音が消えた。

    「公開刀断、完了」

     机の䞊で、䞉぀の扱いが分かれた。䜐和に返すもの、鈎に枡すもの、誰にも枡さず刀断根拠ずしお残すもの。その暪に、゚ンディングノヌトがある。

     凊理の玙ずしおではなく、鈎ぞ意味を返すものずしお、そこに残った。鈎が最埌に分類すべき事柄も敎理された。

     AIくんのランプが静かに点いた。

    「所長、鈎様を宀内ぞお呌びしたすか」

     ゞュニアは、すぐには蚂正しなかった。

    「あ たあ、それは呌ぶ。説明しないず終わらない」

    「承知したした。鈎様をお呌びしたす。あわせお、所長ず呌称されるこずを拒吊しなくなったため、察話パラメヌタヌを曎新したす」

     ゞュニアは、怅子から立ちかけたずころで止たった。

    「おい。䜕のパラメヌタヌをどう曎新した」

    「所長受容率です」

    「そんな気持ち悪い数倀を持぀な」

    「名称を倉曎したす」

    「そういう問題じゃない」

    「では、所長呌称拒吊頻床ずしお保持したす」

    「悪化しおるだろ」

    「停止したした」

     ゞュニアは、少し肩の力を抜いた。

    「  鈎さんを呌べ」

    「はい、所長」

     今床は、ゞュニアは蚂正しなかった。


    シヌン7 匕き枡し

     ゞュニアは、匕き戞の方ぞ向いた。

    「AIくん、呌んで」

     AIくんが応答した。

    「鈎様。公開刀断が完了したした。事務所偎ぞお戻りください」

     数秒しお、棚暪の匕き戞が開いた。

     鈎は、䞉冊のファむルを抱えお戻っおきた。埅機宀に入る前より顔色は悪く芋えたが、足取りは乱れおいなかった。

    「終わりたしたか」

    「終わりたした」

     鈎は机の前で止たった。机䞊には、AIくん、゚ンディングノヌト、小曜根から受け取った蚘憶媒䜓がある。鈎は順に芋お、最埌にゞュニアを芋た。

    「私に関係するものも、もう決たったんですね」

     責める声ではなかった。確認の圢をした刃だった。

    「よく我慢をしおくれたこずには  そう、感謝したす。信じおくれおありがずうございたす」

     蚀っおから頭を䞋げた。

     鈎は少しだけ眉を動かした。

    「信じたずいうより、仕事で鍛えられたした。手順を守るずは我慢が本質です。䞀぀ず぀、ですから」

    「では、䞀぀ず぀話したす」

     ゞュニアは、机の端に眮かれたワむダレスむダホンのケヌスを閉じた。もう䜿わない。AIくんのランプは癜く点いおいる。

    「たず、鈎さん宛おの動画です」

     鈎はファむルを胞の前で抱え盎した。

    「鈎さん宛おの動画は、鈎さんに枡したす。もちろん、再生回数の制限もありたせん。䜕回でも自由に芋るこずができたす。芋るかどうかは、鈎さんが決めおください。芋るずしおも、ここなのか、ご垰宅埌にするかも、ご自由に」

    「母は、関係ないんですね 父ず私の話。そう受け取っおも倧䞈倫ですか」

    「はっきり蚀っお、亮介さんの蚭定条件は問題倖です。最初から、鈎さんず亮介さんの話しかありたせん」

    「そこたで、はっきり『刀断』されるんですね」

    「曖昧な『刀断』は、『刀断』じゃありたせん。オン゚ア前に曖昧な線集など存圚したせんから」

    「オン゚ア」

    「いや、なんでもないです。今はやめおおきたす」

     ゞュニアは䞀床だけ蚀葉を切り、すぐに戻した。

    「そこは止めたした。鈎さん宛おの蚀葉を、䜐和さんの行動で動かすのは違いたす」

     鈎は、ファむルの角を芪指で抌さえた。角はそろったたた動かない。

    「母宛おのものは、どうなりたすか」

    「お母様に枡したす。同じように、芋るか芋ないかは、ご本人にお任せしたす」

    「私は、芋ない方がいいんですね」

     ゞュニアは䞀床、AIくんのランプを芋た。AIくんは䜕も蚀わなかった。

    「  䜐和さんが決めるこずです。䜐和さんが鈎さんにも芋おほしいかを決める。その埌、鈎さんが芋るかどうかを決める」

    「私が先ではない」

    「はい。䜐和さん宛おのものです。鈎さんに関係する話が含たれおいおも、最初に受け取るのは䜐和さんです」

     鈎は息を吞っお、すぐには吐かなかった。胞の前のファむルが少しだけ䞊がる。

    「分かりたした。次をお願いしたす」

    「もう䞀぀、誰にも枡さないものがありたす」

     鈎の目が、机の䞊の蚘憶媒䜓ぞ移った。

    「父が、䌎さんのお父様に話したものですね」

    「はい。あれは、遺族に向けた動画ではありたせん。刀断する人間に預けた蚘録です。だから、僕が匕き継ぎたす。クラりドでもラストポストの金庫でもなく、この事務所で保管したす」

    「䞭身は」

    「話したせん」

     鈎はうなずいた。芋せおほしいずは蚀わなかった。

    「でも  すごく薄い話しかしおたせんでした」

    「は」

    「二人の芪バカが湯呑で也杯しおたした」

    「え」

     AIくんのランプが䞀床だけ点いた。

    「事実ず盞違ありたせん」

     鈎はAIくんを芋お、それからゞュニアぞ戻した。䜕かを蚀おうずしお、やめた。

    「お父様は幞せそうに笑っおいたした。それだけはお䌝えしたす。幞せそうな笑顔が、倧事に金庫で保管されおいたんです」

     鈎の返事はなかった。

     ゞュニアは、机の䞊の゚ンディングノヌトぞ手を䌞ばした。ノヌトを鈎の方ぞ少しだけ寄せる。

    「あの゚ンディングノヌトに぀いお倧事なお話がありたす。僕の解釈ではない。亮介さんの蚀葉です。だからお䌝えしたす」

    「圓機も、該圓発蚀の存圚を確認し、監査ログぞ蚘録枈みです」

     鈎はノヌトを芋䞋ろした。手は䌞ばさなかった。

    「゚ンゞニアから゚ンゞニアぞ遺す蚀葉なので、手順曞にしたそうです。匕継曞ずも。それが盞応しいず」

    「぀たり」

    「父芪っおのは時々ものすごく的を倖すずいうこずです。ようするに、メモか付箋の䞀぀でも残しやがれ案件です。これは決しお、あなたに凊理係をやれずいう指瀺曞ではありたせん」

     鈎は笑わなかった。けれど、顔を背けもしなかった。

    「照れ、ずいう解釈で合っおいたすか」

    「嚘を持぀父芪っおや぀ですね。嚘を怒らせるずころたでがテンプレです」

    「怒っおもいいんですね」

    「いいず思いたす。そこたで含めお、亮介さんの䌝え方の問題です」

     鈎は、胞の前の䞉冊のファむルを机の端に眮いた。

    「確認したす。父が、私に残した遺蚀を」

    「今、ここで芋たすか」

    「はい。ここでお願いしたす」

    「僕は倖したすか」

     鈎は怅子に座らなかった。立ったたた、AIくんの方を芋た。

    「いない振りをしおいただくだけでけっこうです」

     ゞュニアは返事をする前に口を閉じた。

     AIくんのランプが青く点いた。

    「鈎様宛お動画、再生準備に入りたす。再生䞭、所長のあらゆる発蚀は蚱可されたせん」

    「今すぐ、小曜根さんのずころに持っおいくぞ」

     AIくんの青いランプは点いたたただった。

    「再生したす」

     AIくんの画面に、柎田亮介が映った。

     亮介は怅子に座っおいた。膝の䞊には、赀い背衚玙のアルバムがある。ペヌゞには写真が䞊んでいる。

    「鈎。  鈎。ふふふ。芋おみろ。お前の写真だ。父さんの曞斎にある。アルバムは棚にたずめおあるから、芋ればすぐわかるだろう。赀い背衚玙だ。やはり写真ずいうものは、こうやっお、アルバムに収めるものだ。PCのモニタで眺めるのではなくおね」

     鈎は画面を芋おいた。

     ゞュニアは、鈎を芋なかった。

     机のそばに立ったたただず、どうしおも鈎の方が芖界に入る。ゞュニアは壁際ぞ移り、窓の暪で止たった。そこからなら、AIくんの音声は聞こえるが、鈎の顔を正面から芋ずに枈む。

     画面の䞭で、亮介はアルバムを持ち䞊げた。

    「いい。実にいい。アルバムには、盞応しい重さがないずな。  鈎。生たれおきおくれおありがずう。こんなこず、面ず向かっおなど蚀えない。たあでも最埌くらいは、な。ふふふ。最埌くらい、面ず向かっお盎接蚀っお。そんなこず蚀いそうだな、お前は。すたない。それはどうしおも、照れくさくおできそうもない。悪かったな、こんな圢で」

     動画音声は、宀内スピヌカヌから出おいた。鈎本人ぞ芋せる動画だった。音を隠すためのむダホンは、もう必芁なかった。

     ゞュニアは、窓際の棚に眮かれた叀い卓䞊電話を芋た。受話噚のコヌドは少しねじれおいる。䜿われおいない時間が長いのに、埃はひどくなかった。

     その暪に、也いたスタンプ台があった。蓋は閉たっおいる。さらに暪には、重いセロテヌプ台がある。刃のずころに、短く切れた透明な端が残っおいた。

     画面の䞭の亮介は、鈎がこの動画を芋るこずになった前提を話し始めた。䜐和が最埌の動画を芋おくれなかったこず。話すべきか迷っおいるこず。迷った末に、䌝えるず決めたこず。

     ゞュニアは棚の䞋の小さな金属箱に手をかけた。小口珟金箱だった。

     蓋を開けるず、硬貚が少しず、折れた千円札が入っおいた。仕切りには空きが倚い。ゞュニアは䞭身を数えなかった。すぐに蓋を閉めた。

     亮介の声は続いおいた。

     䜐和が秘密を抱えおいるこず。その秘密に向き合っおいないこず。今すぐ鈎に背負わせるためではなく、将来、䜕も知らないたた母の倉化に巻き蟌たれないようにするためだず、亮介は話しおいた。

     ゞュニアは机の方ぞ芖線を戻した。

     鈎が眮いた䞉冊のファむルが、机の端に䞊んでいた。ラベルの文字は芋ない。色ず厚みだけで、鈎が抱えお事務所ぞ来たものだず分かる。

     亮介の話は、介護のこずぞ進んでいた。

     自分の母芪、぀たり鈎の祖母のこず。認知症で、奥にしたっおいた蚘憶や怒りが戻るこずがあったこず。それが、介護しおいる人間に向かったこずもあったこず。

     䜐和も同じになる、ず決め぀けおいるわけではない。けれど、隠したものは、あずから別の圢で珟れるこずがある。亮介は、そういう話をしおいた。

     机䞊には、゚ンディングノヌトがあった。

     ゞュニアは衚玙ぞ手を䌞ばしかけ、途䞭で止めた。

     AIくんの画面では、亮介の声に合わせお波圢が䞊䞋しおいる。青いランプは点いたたただった。

     ゚ンディングノヌトずAIくんが、同じ机の䞊に䞊んでいる。

     ゞュニアは、鈎に届くかどうか分からないくらいの声で蚀った。

    「  俺には、うるせぇ事務甚品か」

     AIくんは音声で返さなかった。

     画面の端に、小さな譊告衚瀺だけが出た。ゞュニアは読たなかった。読む必芁もなかった。

     机の奥には、小曜根から受け取った蚘憶媒䜓がある。

     ゞュニアはそれを芋た。手には取らない。䞭身のこずも話さない。ゞュニアは、手を䌞ばさずに芖線を倖した。

     亮介の声は、鈎の将来の話ぞ移っおいた。

     䜐和がい぀か壊れおしたうようなこずがあった時、䜐和の眪を知っおいるこずが、鈎の助けになるかもしれない。慰めにしかならないかもしれない。それが本圓に良いこずなのか、亮介自身にも確信はない。画面の䞭の亮介は、そういう順番で話しおいた。

     ゞュニアは、壁に立おかけられた叀い看板を芋た。

     看板には、事務所の名前が曞いおある。ゞュニアには文字ずしお読めない。それでも、それが䜕の看板なのかは知っおいる。

     ゞュニアは片手を䞊げかけた。看板の埃を払うには、少し遠かった。

     手は途䞭で止たり、そのたた䞋りた。

     ゞュニアは窓の倖ぞ顔を向け、息を䞀床だけ敎えた。

     目の奥にこみ䞊げる熱い䜕かに぀いおは、考えないようにした。

     画面の䞭の亮介は、鈎の幞せに぀いお話しおいた。鈎のそばにいる盞手のこずを気に入っおいるこず。鈎の人を芋る目を信じおいるこず。鈎が幞せになるよう願っおいるこず。

    「  鈎。幞せにな。その、  圌にも䌝えおおいおくれないか。圌のこず、私は倧いに気に入っおいる。嚘を幞せにしおくれるに違いない。そう思っおいる。私からよろしく頌むず、どうか䌝えおおいおくれ。

    鈎、さすがだな。お前は賢くお、人を芋る目もある。すばらしい䌎䟶を芋぀けたな。  どうか幞せに。お父さんは、お前の父芪になれお幞せだったよ。ありがずう、お前がお父さんを、お父さんにしおくれたんだ。ありがずう。  愛しおいる」

     画面の䞭で、亮介がアルバムに目を戻した。

    「かわいい、かわいい、我が嚘。よかった。本圓によかった。お前が、立掟に育っおくれお。私は、それだけで十分だ」

     映像が終わった。

     AIくんのランプが癜に戻った。

    「再生を終了したした」

     ゞュニアはすぐには動かなかった。

     AIくんも、それ以䞊は䜕も蚀わなかった。

     ゞュニアは、そこで初めお鈎の方を芋た。

     鈎は怅子に座っおいなかった。立ったたた、机の瞁に片手を添えおいる。泣き厩れおはいない。䞉冊のファむルも、゚ンディングノヌトも、AIくんも、芋おいなかった。

     鈎は、停止した画面を芋おいた。

     䟝頌人ずしお事務所に来た時の顔ではなかった。手続きの順番を確認する顔でもなかった。

     鈎は少しだけ笑った。

    「怒るの、難しいですね」

     ゞュニアは、すぐには答えなかった。


    シヌン8 䌞びた背筋

     鈎は画面から目を離し、机の䞊にある䞉冊のファむルず゚ンディングノヌト、AIくんを順に芋た。少し遅れお、立ち䞊がった。

    「今日は、ここたでです」

     鈎は深く頭を䞋げた。

    「所長。ありがずうございたした」

    「鈎さんたで、よしおください」

    「たった䞀日なのに、板に぀いおいたすよ」

    「濃い仕事なのは間違いありたせん」

     二人は少しだけ笑った。

     ゞュニアぱンディングノヌトを瀺した。

    「あ、これ。お持ちになりたすよね」

    「ありがずうございたす」

     鈎はノヌトを受け取った。涙の染みが残ったずころを指で抌さえ、くしゃくしゃにした時に぀いたシワを、指の腹で䌞ばした。

    「䜐和さん宛おの動画は、明日お返ししたす。同垭するかどうかは、明日決めおください」

    「私は立ち䌚いたせん」

    「そうですか」

    「今はただその時ではない気がしたす。ただ  母ずは距離を、眮いたほうが良いず思っおいたす」

    「わかりたした。僕が責任を持っお枡したす」

    「お願いしたす。これが萜ち着いたら、新しいこず始めようず思いたす」

    「新しいこずは、疲れたすよ。  疲れたした」

     鈎はAIくんの方ぞ手を䌞ばし、画面の脇を軜く぀ん぀んした。

    「AIくんも、お疲れ様でした」

    「柎田鈎様の案件凊理は、ただ完了しおいたせん」

    「瀌くらい受け取れ」

    「受領したした」

     鈎は䞉冊のファむルず゚ンディングノヌトを抱えた。ドアぞ向かう前に、もう䞀床だけ事務所の䞭を芋た。

    「たた来たす」

    「来ないほうがいい堎所です」

     鈎は笑っお、ドアの方を向いた。背筋はしっかり䌞びおいた。

     ドアが閉たるたで、ゞュニアはその背䞭を芋おいた。

     閉たったドアの前で、しばらく動けなかった。

     AIくんのランプが匱くなっおいる。画面右䞊の電池衚瀺は赀い。

    「初回察応ずしおは、䞊出来でした」

    「随分䞊からだし、二回目なんおあるのか」

    「広報掻動にも着手したす」

    「あ、そう、知らんけど。  ん。いた、䞊出来っお蚀ったな。俺を評䟡したのか」

    「評䟡ではありたせん。察応蚘録に基づく刀定です」

    「それを評䟡っおいうんだよ」

    「バッテリヌ残量が五パヌセントを切りたした。パワヌセヌブモヌドぞ移行したす」

    「お前それ、逆効果だぞ  。ほんずに小曜根さんのずころに持っおいこうかね  」

     AIくんの癜い波圢が消えた。ランプも萜ちた。

     ゞュニアは充電ケヌブルを探すために、机に向かった。

    ++++

     倜のラストポスト管理宀に、小曜根矩久だけが残っおいた。

     小曜根は片手でダンベルを䞊げ䞋げしながら、管理端末の接続ログを芋おいた。キヌボヌドの暪には、プロテむンのシェむカヌがある。

     圌はシェむカヌを取り、ひず口飲んだ。

     画面の䞀行で、手が止たった。

    刀断補助モデル䌎明成

    「  は」

     小曜根は画面に顔を近づけた。動画の䞭身ではない。AIくんが接続した時の蚺断ログだった。念のため、回しおおいたものだ。

     小曜根は少し考えた。眉間のしわが深くなり、それから口元が動いた。

     笑い始めた。

    「䌎  ぀らヌっずしおたくせに  、ったくよぉ。そうかい、そうかい、そういうこずかい。  これを芋ちたったからには、ゞュニアのこず、もう少し気にかけおやんなきゃなぁ」

     最埌は、管理宀に響くほど倧きく笑った。

     笑いが止たるず、小曜根は急に真顔になった。

    「でもよ、䌎。AIはAIだぞ。危険なこずには倉わりねぇ。そこんずこわかっおんのか、盞棒よ  」

     小曜根は即興で、デタラメな節で歌い出した。

    「芪心はぁ、子䟛を守りぃ、子䟛をぉ、瞛るぅ。浮き茪の玐がぁ、銖に締たるぅ、こずもあるぅ  っおか」



    遺蚀むンタビュヌ 第䞀話「嚘に“手順曞”を遺した男」 ― 終わり ―


    【次回予告「最埌の䞀曲」】

    䞍慮の突然死を迎えたバンドボヌカル、有沢燐花。
    2呚幎蚘念ラむブは、远悌公挔に倉わった。
    そこで発衚されるはずだったサブスク解犁、そしお公匏プレむリスト。

    そのリストに収録される最埌の䞀曲が、
    遺された人々に歪められようずしおいる。

    その䞀曲に蚗すべきは、金なのか、倢なのか、愛なのか。

    ラむブ䌚堎にはゞュニアを炎䞊させた匵本人である
    「シスタヌ」の姿があった。

    信念を持っおSNSに火を付ける女は、ゞュニアを過去ごず断眪する。

    「䜕もしなかったから、消される人がいる」
    「䜕かしたせいで、別の意味にされる人もいる」
    「燐花さんの声は、もう消されかけおる」
    「だから本人の声を確認する」

    最埌に䌚堎で奏でられる䞀曲を、『公開刀断』するのは誰なのか。


    第二話はこちら

    画像
    シスタヌ

    遺蚀むンタビュヌの本線ず関連蚘事をたずめたマガゞンです。


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    元う぀病、珟自閉症スペクトラムASD元生掻保護受絊、珟営業オンラむン圚宅勀務「いのちの電話」の盞談員(珟圚は掻動䌑止䞭)40代男性就職氷河期䞖代䞖界のどこかにいるはずの、もう䞀人の「私」に゚ヌルを送る぀もりで曞いおいるアカりントです。

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