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読書筋が鍛えられる良作 「悪人」吉田修一著・オーディブル レビュー

    積読ならぬ書きかけ積レビューが溜まっているのだが、前回レビューしたこちら。

    この続きで、今読み終えたばかりの吉田修一氏の小説のレビューを今回はお送りしたい。例によってネタバレ全くなし(というか内容にほぼ触れない)である。

    ちなみに恥ずかしながら自分にとって吉田氏の小説は本作が多分初めてである。妻夫木聡主演で2010年に映画になっているがこちらも観ていない。そこで吉田作品を多く知る方々にとっては、「そんなのこの作品だけじゃないし」とか「何を検討はずれな」というような戯言を言うかもしれない。ま、それは「ファースト・インプレッション」はこうなるのか、と先輩の温かい目で見守っていただき、さらには「だったら〇〇もオススメだよ!」とご自身のイチオシ作をお教えいただければめちゃめちゃ幸いである(一応次は「国宝」を読む予定)。

    それでは行ってみよう。

    作品情報

    悪人 新装版 (朝日文庫) 文庫 – 2018/7/6(単行本初版:2007年)
    吉田 修一(著)
    オーディオブック 14 時間 58 分
    田中 麗奈、中村 蒼 (ナレーション)


    オーディブル レビュー

    総合5 ナレーション5 ストーリー5
    (メキシコ時間2025/03/30 読了)

    読書筋が鍛えられる良作

    作者のエッセイから題名だけ知っていたこの本にやってきた。軽妙洒脱なエッセイの語り口との違いに最初ほんの少し戸惑ったが、すぐに慣れ、その物語世界に没入していき、後はもう最後のミツヨのセリフまで一気読みだった。

    調べたら2007年初版とのこと。なるほどそれもあるのだろうが、昨今の小説の主流である冒頭からポンポンと話が進んでいくエンターテイメントに全振りした描きぶりでなく、延々と舞台世界の説明が続く冒頭に、次々現れる特徴もなく共感も持てない人物たちのエピソードが淡々と語られる描きぶりに、こちらの読書筋力を試され、鍛えられている気がした。

    そう気を引き締めて読んでいくと一見無駄に見えるほどの何気ない描写や説明、シーンやセリフが、実はこの物語を構成する大事な1ピースであることに気づく。例えるならこの作品は「魅力的なキャラクター」や「驚きのストーリー展開」などをいくつか組み合わせて出来た2✕4ツーバイフォー建築ではなく、一つ一つは小さな特徴のないピースを緻密に組み立てたレンガ建築だ。そう、ここでは性描写すら単なる1ピースである。

    そうして作者は登場人物一人ひとりの「人間」を描こうとせず、もっともっと深く、包括的で根源的な意味での「人間」を描ききった。主人公ユウイチですら1ピース。そして読み終えたとき読んでいる自分自身までも1ピースとなっている。いやはや凄い。脱帽である。

    この作品世界にピッタリのお二人の抑えた朗読もいい。全てが満足の星5の体験だった。

    note追記

    単体としての人間(person)でなく、総体としての人間(human)を描いた他作品で、真っ先に思いつくのはこれだろうか。

    「沈黙」遠藤周作著(単行本初版:1966年)

    両作に共通しているもの。
    それは読後自分の身体の中に怒りとか哀しみといった簡単な言葉に置き換えることのできない茫然とした思いが充満すること。

    岡田斗司夫氏は自身のYou tubeで「人間から液を出させる(泣ける)作品は高級ではない。一番いいのは茫然とする作品」と語っているが、それでいうとこの二作は間違いなく超一級品である。
    人はその話やキャラクターの境遇に喜びの意味でも悲しみの意味でも共感している時に涙を流す。しかし、この二作はそんな簡単で安易な共感を拒む。
    人の醜さ、弱さ、狡さ、身勝手さ……ありとあらゆる「人の悪」が、音楽で言えばカノンのように、フーガのように、圧倒的な質量で迫ってくる。
    誰一人、またどの行為にも共感できない。
    理不尽で不条理で––––そしてそれらは最後まで解決されることがない。だから読者は暗闇に取り残され、ただ茫然とするしかない。

    だが二作品とも憎いのはきちんと「パンドラの箱の底」が最期に用意されていることである。茫然としたなかに一筋の希望の「存在」を感じさせてくれる。

    だからこそ。
    醜くて、弱くて、狡くて、身勝手で、どうしようもない自分でも、やっぱりどうしようもなく愛しく思えて、今日も何とかエッチラおっちら生きていけるのだろう。

    ここまで読んでくれて本当にありがとう。
    Hasta pronto! また会えますように!

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    ©️2025 naveotoevan 0007 読書筋が鍛えられる良作 「悪人」吉田修一著・オーディブル レビュー

     
     
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