
【オリジナル小説】感想屋さんはじめました。 ⑨ ケース5 春眠さんの場合
『あかちゃん毛布』というPNで二次創作活動をしているOLが主人公です。
最初は『あなたの作品、褒めてあげます』というタイトルで連載していたのですが、主人公の性格に合わないと感じ、タイトルを変更しました。
内容は変わりませんので、よろしければ引き続き読んでいただけたら嬉しいです!
前回はこちらです!
初めての同人誌を出そうと奮闘するうちに、二週間などあっという間に経つ。『感想屋さん』のお仕事にもそろそろ取り掛かったほうがいいだろう。
今回の依頼は、乙女ゲーム要素もある錬金合成系のゲーム『ヒルドと森の工房』の二次創作だ。この手のゲームはたまにやりたくなるし、最近発売されたものなので、TLでもプレイしている人をちょいちょい見かける。既に購入してゲーム機にDLしてあるので、楽しみながら依頼ができそうだ。依頼をくれたのは『春眠』さん、依頼文はなかなかのものだった。
『私は『ヒル森』で、チュートリアル役の妖精さんと主人公のカプにハマってしまいました。ニニENDがないのに友好度だけは上がるので、気が狂いそうです……!』
『私はこんなにもニニヒルが好きなのに、友好度百のニニと一緒に、他のキャラとラブラブしているヒルドのENDを何度迎えなければならないのでしょうか!?』
感想を頼まれたのは五万字に届きそうな大作、『五回目の夏のおはなし』だ。私にはとても書けない文字数で、これから読むと思うだけで、背筋が伸びるような思いだ。そして最初は彼女がハマったカプの物珍しさから面白がってしまったが、事態は思った以上に深刻だった。
『公式にENDが存在するカプではないので、『あつまれ!』に投稿しても、ブクマが少ないのは予想していました。でも、世の中にたった一つのニニヒル小説を生み出したくて書いたのに、匿名で『この小説、生理的に気持ち悪いです』というコメントが届いたんです』
あまりのことに、私は息を呑んだ。
『わかるんです。私もこの二人を恋人にしてしまうのは、少しグロテスクな気分になりましたから。でも、こんなことまで言われるほどのことなんでしょうか? なんなんでしょう? もう消した方がいいかなって思っていますが、その前にせめて一度だけでも感想をいただきたくて、ご連絡させていただきました』
私は(消しちゃダメだよ!!!)と強く思った。どう受け取られようと、『好きだ』と思って書かれた二次創作は、決してこの世から消えてほしくない。
とにかく、春眠さんの気持ちを理解するためにも、私はこのゲームをやってみることにした。
採取地で魔物と戦いながら素材を集め、手伝ってくれる仲間との友好度を上げ、工房で様々なアイテムを合成する。『ヒルドと森の工房』は、そんなRPG要素と乙女ゲーム要素、錬金合成要素の入ったゲームだ。
主人公のヒルドは銀髪に青い目で、ちょっと浮世離れした女の子。魔法使いとして独り立ちするために、魔法使いの里を出て、十四歳から一九歳まで、人里に近い森の工房で、修行をするという設定だ。
『チュートリアル役の妖精さん』と言うのはヒルドのお目付役のニニと言う妖精で、ティンカー・ベルみたいなのを想像していたが、見たところは人間の少年で、背中に透き通った羽根が生えていた。本人は最初から成人男性であると言い張っている。
口コミでは『なにもかもが中途半端』という厳しめの評価も見たけれど、私は各要素のバランスが取れていると感じた。音楽もいい。ゲームを始めて、やり方がわかってくると、わりとサクサク進んだ。一つのENDを迎えるのに、休日なら一日あればなんとかなるボリュームだ。
(本当だ……! ニニと友好度百近いのに、友好度七八のペーターとエンディングを迎えてしまった……!)
プレイしてみると、ニニヒルは幼馴染みっぽい感じで、血縁があったりするわけでもない。だけどカプにするには少し距離が近いし、私の感覚では男女ということが意識しにくかった。だけど、好きな人は好きだろうなと思うし、ニニENDがないことについては、純粋にファンが気の毒だ。実際友好度も上がるわけだし、作ってあげればよかったのに、そう思った。
ニニENDはないとわかっているので、ペーターENDと通常END、それにトゥルーENDをクリアした時点で、私は依頼された小説を読み始めた。
〔「なんたってヒルドはオレが好きだからな!」
「もう! ニニったらそればっか! 少しは感謝してちょうだい!」
「ありがとう! うぉっ、このキノコ美味そう!」
「気をつけてね! 貴重な毒消しを食当たりなんかに使いたくないわ」〕
読み始めてすぐ、(読みやすいな……)そう思った。五万字という文字数から、難解な小説を想像していたが、会話文を中心に、ゲームの設定もさりげなく取り込まれ、日々の描写が重ねられている。二人の会話に、私は何度も笑ってしまった。
このままほのぼの原作テイストが続くのかな、そう思っていたが、三年目、ヒルドが一七歳になった日のことだった。『誕生日おめでとう!』向日葵を持って工房に駆け込んできたニニから花を受け取り、ヒルドはこう告げる。
〔「私はもう大人よ、ニニ」
ニニはキャッキャと笑いました。
「なーに言ってんだい! ヒルドはたったの一七歳で、まだ修行も終わってないじゃないか!」
普段は言い返すヒルドですが、今日はそうしませんでした。
「どうして魔法の里には魔女しかいないんだと思う? そして、どうして妖精の里には男しかいないんだと思う?」
ニニの目がまん丸くなります。
「ずっと思ってた。そして確信したわ。妖精と魔女は、男と女だからよね」
「な、何言ってんだい、ヒルド……その…」
ニニは笑おうとして失敗しました。〕
私は目を瞠った。もちろん、こんな設定は原作にはない。だけど、ゲームで開示されている原作設定に背いてもいない。なんて巧みな設定なんだろう。
〔何も言えないニニに、ヒルドは言いました。
「いいよ……出て行って。ごめんね。お目付役は誰か他の妖精を寄越して。さよならニニ、もう会わないわ」〕
ニニが泣きながら出て行ってから、ヒルドはペーターやドロテアと協力しながら、魔物を狩り、様々なアイテムを作り、淡々と日々を重ねていった。ヒルドは冒険者としても魔法使いとしてもどんどん強くなっていった。三年目の夏と、比べられないほどだ。そして修行も終わりが近づいた五年目の夏のことだ。
〔目の前に向日葵の花がありました。
「誕生日おめでとう、ヒルド。もう大人になったね。まだオレが好き?」
ヒルドは言葉を失い、ニニを抱きしめました。〕
私はベショベショに泣きながら、このお話を読み終えた。どうなるんだろう、どうなるんだろう、そう先を急いで読んでしまったので、絶対にまたこのお話を読み返したい。だけど、今、この気持ちも書き残したい。そんな思いが、胸の中に渦巻いている。
[尊いお話をありがとうございました。若干の背徳感はありましたが、気持ち悪いとは思いませんでした。私が元々、異種族間の恋が好きだからなのかも知れません]
[私の我が儘ですが、この作品を消さずにいて頂けたら嬉しいです。春眠さんは、ニニENDがない悲しみから、この作品を書かれたのですよね。これこそが素敵なニニENDでした。私にも体験させてくださり、本当にありがとうございます。]
[このゲームは私もとても気に入ったので、まずは全てのキャラのENDを見てみたいです。]
春眠さんからの返信を見て、私はホッとした。
『ご感想を頂き、目が溶けるくらい泣きました。ありがとうございます』
『この作品は、消さずに置いておこうと思います。書いて良かったと思いました。また、他にも書きたいストーリーがあるので、細々と書いていきたいです』
春眠さんは本当に、ニニヒルが成立しないと生きていけない人なんだろう。二次創作の原点がここにあると思った。『こんなお話を読みたい』という思いを叶えるには、自分の手で書けばいいのだ。
次回はこちらです!