
【オリジナル小説】感想屋さんはじめました。 ⑤ あかちゃん毛布さん、初めての同人誌編
『あかちゃん毛布』というPNで二次創作活動をしているOLが主人公です。
最初は『あなたの作品、褒めてあげます』というタイトルで連載していたのですが、主人公の性格に合わないと感じ、タイトルを変更しました。
内容は変わりませんので、よろしければ引き続き読んでいただけたら嬉しいです!
前回はこちらです!
これまで連載してきた『あなたの作品、褒めてあげます』の第二部、『あかちゃん毛布さん、初めての同人誌編』になります。
〔これはどこにでもある、ありふれたお話です……だって失恋なんて、とてもありふれたことでしょう?〕
(あれ? 20超えてる……!?)
スマホの通知を確認し、私は目を瞬いた。
昨夜、数ヵ月ぶりに『あつまれ!』に投稿した私のいなうら小説は、ジャンルも落ち着いてきている時期だからと期待しないようにしていたのに、これまでの作品よりもブクマが速いペースで伸びていた。
(私なんて忘れられてると思ってたけど……!)
嬉しくて、誰がブクマしてくれたのか気になったが、もう出る準備をしないと、いつもの電車に間に合わない。私はちょっとフワフワした気持ちで身支度を終え、しっかり施錠すると家を出た。
通勤ラッシュの電車の中は、とてもスマホでBL小説への反応など見られる環境ではない。できるのは吊り革に掴まり、電車が揺れるたびに、倒れないよう踏ん張ることだけだ。
昼休みになって、ようやくスマホで『あつまれ!』のマイページを確認できた。ブクマの数は既に30に迫っていて、今までにないペースだ。どうにも気になってエゴサをしてみて、ようやく腑に落ちた。
『あかモフさんの新作だー! とても良い! 本にしましょう!!!』
いぶりがっ子さんが、元気なコメントとともに、私の新作を『あつまれ!』へのリンクつきで紹介してくれていたのだ。
(いぶりがっ子さんがたまたま目に留めてくれて良かったなぁ……!)
私は嬉しくて、いぶりがっ子さんが住んでいるであろう北方に向けて手を合わせた。
『いぶりがっ子さん、ご紹介ありがとうございます! お陰様でたくさんの方に見て頂けました!』
『は~い。良かったからねぇ、本当に』
ブクマは30を超え、今もじわじわと増え続けている。
『本にするなら相談に乗るよ〜』
反射的に(えっ! 本気で勧めてくださっていたのですか!)と返信しそうになり、慌てて取りやめた。
いぶりがっ子さんは普段から息をするように『本にしましょう!』と言っているので、これは彼女の挨拶のようなものだと思っていたのだ。
(同人誌か……そう言えば私は出したことないなぁ)
長く活動していた『春待ち』はマイナージャンルで、本を出してもとても捌けるとは思えなかったのだ。また、多くの書き手さんに埋もれてしまった『いなうら』でも、私の本なんか手に取る人などいないと思い、諦めていた。
でも、ベテラン同人誌作家のいぶりがっ子さんがそう言うのなら、もしかして本当に本にしても大丈夫かも……!?
(たまたまブクマの伸びがいいからって、自意識過剰だよ!!)そう思いながらも、私の中でむくむくと(本にしたい!)と言う気持ちが育ち始めた。散々迷ってから、私はいぶりがっ子さんにリプライした。
『やっぱり、最初はコピー本ですよね? コンビニの複合機で製本する系の……それともコピー屋さんに行った方が良いのでしょうか?』
『コピー本もいいけど、PDFが作れるなら断然オンデマお勧め~! キレイで楽だよ〜〜』
(オンデマンド印刷かぁ……)
それでもやはり敷居は高い。『春待ち』で本を出したくて調べた時も、いくら小部数向けとは言え、20冊くらいは刷らないとまともな値段はつけられない感じだった。
『オンデマで刷るほどは捌けないと思うんですが……』
『オンデマ扱う印刷屋さんも増えてきたからねぇ。今なら5冊とか10冊から安いところとか、1冊でも安いところとかあるよ~~』
『そうなんですか!?』
俄然、同人誌を出したくなってきた。
『とにかくあかモフさんが本出してくれるなら嬉しいッスよ! こっからは犬山案件だな……ちょっと連絡とってみるから待っててね〜〜』
『あかモフさん、初めまして。犬山です。不躾ながらフォローさせていただきました。いぶりがっ子さんからお噂は伺っております。オンデマンド印刷の話ですね? お手数ですがフォローバックしていただき、DMにてやり取りしたく存じます』
(犬山さん、実在したんだ……!)
私は犬山さんをフォロー返ししながら、大量に冷や汗をかいていた。
犬山さんの名前はいぶりがっ子さんのツイートに度々出るが、ジャンルも違うため本人を確認したことがなく、『確定申告……ここからは犬山のターンだ!』『ページ数が合わない! 犬山に連絡しなきゃ!』などのツイートを見ながら、私は彼女のことをいぶりがっ子さんが頑張るときに出てくるイマジナリーフレンド的な存在だと思っていたのだ。
実在するとわかったのが今なので、私は彼女の活動ジャンルも知らない。
(犬山さんのホームから『あつまれ!』に飛んで確認しておかなきゃ……)
私は連絡を待ちながら、ボロを出さないように頭を高速回転させていた。
『あかモフさんは同人誌を持ってますか?』
『『春待ち』と『いなうら』の本はかなり持ってます!』
犬山さんの問いかけに、私は嬉々として答えた。学生時代からコツコツと買い貯めたこれらの本は、ファイルボックスに入れ、いつでも手に取れるよう、デスクの近くに置いてある。成人向けの本も含むので、来客があったらクローゼットに仕舞うようにしていた。箱に纏めているのはそのためでもある。
『同人誌っていろいろな判型があるでしょう。小説ならA5サイズ二段組みとか、新書とか、文庫とか、いろいろですよね』
『はいっ、そうですね!』
『あかモフさんはどれが好きですか?』
『えっと……どれも好きですが…』
『A5判なら大抵の印刷屋さんにありますが、文庫と新書は得意な印刷屋さんが限られるので、作りたいときはご相談くださいね』
『は……ハイ!』
『本を出すとしたら、この『あつまれ!』に投稿された『宝石になれなかった』ですか?』
(ヒェーッ! 恥ずかしい!!)
『そ……そうです! でもこれだけではアッサリしすぎなので、続きなども書けたら……と思っております』
『いいですね。それでは執筆されつつ、どんな形の同人誌にしたいか、考えておかれるといいと思います。好きな装丁の同人誌をご覧になりながら、奥付の印刷屋さんを確認したり、読みやすいと感じた本の文字数と行数などをご確認なさるといいと思いますよ』
『はい、ありがとうございます!』
犬山さんはその後、少部数向けの印刷屋さんをいくつか教えてくれた。
(あ、キラキラ星さんのツイートだ!)
犬山さんとのDM会議を終え、TLに戻ると『感想屋さん』で知り合ったキラキラ星さんが新作をアップしていた。最近ジャンル友達が増えて楽しそうだ。
『じゅんもは聖なるカップリング……だが、最近暗黒なるじゅんもからのいざないも感じる……!』
(暗黒なるじゅんも!)
キラキラ星さんにとって雲母亘は一貫して聖母であり、神聖なる花嫁だった。暗黒なるじゅんもとは、一体なんなのだろう。私は好奇心を抑えきれず、リンクから『あつまれ!』の小説ページに飛んだ。
〔純は内なる悪の声から耳を塞ごうとした。純を悪辣の世界に誘う亘は、美麗な微笑みを浮かべ、邪悪なる黒光りせしシーツの海に沈んだ。純はクラクラとよろめき、ついに敗北を喫して自らも黒きシーツの海にダイブした〕
(暗黒だとシーツも黒になるんだ!)
〔ドクンドクンドクン! 心臓を口から吐き出してしまいそうなほど、狂おしいハートビートが純を襲った。亘の目が完璧なアーチ状に弧を描く。悪魔の微笑みとはこのことだった。暗黒なる世界に沈んだ純は、亘の悪辣なる魅力に完璧に敗北した。しなやかな亘の脚が、影横たわる寝室の中で、純にしどけなく絡んだ〕
二万字を超える大作を読み終え、私は大いに満足した。
(相変わらず天才だった……! 受けがリードしているのもすごく良い!!)
ニコニコしながらキラキラ星さんの最新作『暗黒なる輪舞曲』をいいねしてブクマする。そして作品を告知しているツイートも、当然リツイートした。
最近、二次創作を読んだり、感想を書いたりするときのフットワークが軽い。感想までいかなくても、面白かった二次創作には、積極的にいいねや拍手を押すようになった。
拍手を押すだけでも、「良かったです!」と一言送信するだけでもいい。自作に反応が来るのは本当に嬉しいし、そのたった一つのタップが、人を救うことだってあることを、私は身に染みて知っている。
他の書き手さんに気軽に反応することは、全然軽々しいことではない。『感想屋さん』を始めてから、二次創作の世界でお高くとまっているのは、全く無益なことだと思うようになった。
『キラキラ星さ~ん! 最高ですっ!!! てか、暗黒なるじゅんもの話が出てからまだ何日も経ってないですよね!? こんなに早く大作をアップしてくださるなんて、神~!!!』
TLでキラキラ星さんに話しかけているのは『ともピ』さん、最近できたキラキラ星さんのジャンル友達だ。ともピさんも『あつまれ!』にじゅんもの小説を投稿している。
『エヘヘ、頑張っちゃいました!』
『これっ! 本にしましょうよこれ!!!』
『ありがとうございます、これかどうかはまだ未定ですが、暗黒なるじゅんもで一冊何か出したいですね』
『ウワ~!!! 楽しみにしてます~!』
私はフフっと笑いを洩らしながら、二人のリプを見守った。
(そうだ、キラキラ星さんってどんな本を出しているんだろう)
私は好奇心を覚え、キラキラ星さんのプロフィールから、『狢の穴さん』のサイトに飛んでみた。キラキラ星さんのショップには、華やかなイラスト表紙の本が並んでいる。サイズを見るとみなA5サイズのようだ。
(イラストをバーンと載せるなら、やっぱりA5だよね!)
私は絵は描けないし、表紙に絵を載せたければ誰かに頼むしかないだろう。そういった場合は謝礼も必要だろうし、今度犬山さんに訊いてみようと思った。
次回はこちらです!