
んの魔法 | 長編小説 | 第7章 僕の心の中のライオン(第18話)
この瞬間、僕の心にはきっと仮面が現れたんだと思う。
強がりの仮面が。
これは、言葉と記憶と心をつなぐ、僕の再生の物語。
始めから読む方はこちら → 序章 海辺のバス停(第1話)
前回のお話はこちら → 第7章 僕の心の中のライオン(第17話)
本編はここから
それから2週間くらいは、どうやって過ごしたのかよく覚えていない。
初めての自己紹介は、全く声を発することができなかった。
本読みを当てられた時は、本から目を離さず、早口で読み終えるようにしたり、体育のサッカーでは、声をかけられてもボールを誰にもパスできなかった。
転校生だというだけで、最初は僕の周りにいっぱい人が集まってきたけれど、そのうち誰も来なくなり、気づいたら、僕は教室で一人、自分の席に座って、休み時間を過ごすようになった。
あの日、社会科の教科書を忘れてしまった日。
資料に従って、地図を書く授業だったけど、どうしようもないので机につっぷしていたら、隣の席の女の子が、僕の机をトントンとつついてきた。
「ねえ、教科書忘れたの?」
僕がだまっていると、さらに机を寄せてきた。
「これ一緒に見ようよ。」
そう言って、教科書を半分、僕の机に広げたけれど…。
「ほっといてよ!」
僕は、その教科書を思わず手で払いのけた。
その途端「パシッーっ!」と派手な音が教室に響いて、クラス全員が僕たちに目を向けた。
先生がびっくりして、立ち上がる生徒たちを制している。
「うるさいっ!」
みんなの目が恐ろしくて、思いもよらない声が、僕の口から飛び出した。
多分その時、きっと僕の方が恐ろしい目をしていたんだろう。
その女の子は、小さな笑顔を作りながら「ごめんね。」と言った。
その顔は……ああ!さっき一緒にいた、僕の知っている“りん”の顔にそっくりだった!
どうして…⁈
ンタンタンに、「何かから逃げている」と言われて、思わず反論したけど、
本当の気持ちはもう、わかっているんだ。
僕はあの教室から逃げ出したかったんだから…。
ずっと仮面をかぶって頑張ってきたけど、もう限界だ…。
ふと部屋を見渡すと、隣部屋の暖炉の近くまで歩いて来ていた。
暖炉のそばに布製の大きなソファが置いてある。
その上には何個かのぬいぐるみがあって、
その中の茶色のライオンと目があった。
その目はライオンなのに、なぜか悲しげで頼りなく見える。
僕の心にそっくりだ、と思った。
虚勢を張っているけど、本当は弱い自分。
いじっぱりな自分。
こんな自分はもういらない!
あの時は、周りなんて全く見えていなかった。
教室の隣の席の女の子は、本当にあの“りん”だったのかもしれない。
あの子は何にも悪くないのに、僕が意地をはったせいで、あんなひどいことをしちゃったんだ。
今度会ったら、ちゃんと謝りたいな…。
そう思ったその時、ソファにあったライオンのぬいぐるみが、スポンと消えて、手に持っていた僕の本がズシッと重たくなった。
「ライオン」の絵は、強がっていた「仮面(かめん)」?
とうとう僕は、仮面という名の、最後の防壁を——脱ぎ捨てた。
「し、師匠っ~~!大変ニャ~~!」
僕の後ろにマフがいて、急に大声を上げた。
「ライオンが、勝手にスポンしたニャ~~!」

次はいよいよ、第8章 喜怒哀楽が無くなってしまったら…?(第19話)につづきます。
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