【解説】冷たいガラスの向こう側
……歌をつくっていると、思いがけない瞬間に出会う。
頭の中にある”切なさ”を……どうにか音楽に落とし込もうとしていた、
……あの雨の日の夜……。
——そう投稿した、
【歌詞】ねぇ、私もいつか笑えるのかな……
その歌詞を、まだこみ上げる感情のまま……無造作に紡いでいたその時、ふと自分の中に浮かんだ……「鏡」というモチーフ。
……その仕掛けを思いついたとき、自分でも思わず鳥肌が立った。
この歌詞の前半は、あえて一つの「ミスリード」から始まる。
いつもあなたは泣いているね……
なぜだろう 笑うことはできないのかな
でもダメなんだ、だってあなたは私と一緒だから……
このフレーズに触れたとき、
誰もが「同じ傷を負った、身近な誰か」に語りかけているように感じるはずだ。
……しかし、サビの瞬間にその景色は一変する。
ーー私はそっと手を鏡に伸ばす。
あなたは私……
目の前で泣いていたのは他人ではなく、
……他ならぬ「自分自身」だった。
人間は決してバラバラの人格で生きているわけではない。
……けれど、私たちの心の中には常に——
「冷徹に現状を見つめるもう一人の自分(観察者)」と、
「傷つき、感情に溺れている自分(当事者)」の二人が同居している。
正常を保とうとするもう一人の自分が、ボロボロになった自分にそっと寄り添い、励まそうとする。
——それは私たちが本来持っている、尊いセルフケアの機能そのものなのだ。
2番のBメロでは、こんな一幕を描いた。
じゃあ一度だけ、笑ってみようかな
あなたの笑顔みたいから
多分無理だけど、ねぇ
私は笑ってみた、目の前のあなたに向かって
自分のためではなく、「鏡の中のあなた(傷ついた自分)の笑顔が見たい」という動機。
……けれど、いざ笑ってみても鏡の向こうは泣いている。
もちろんそれは、……私が笑えなかったから……。
その、そうしようとする私と、できない私との……残酷なギャップ。
……そして、どうしようもできない……もどかしさ。
——それでも、《物語》の終盤でかすかな光が見えてくる。
◆歌詞本文
(※本作用省略版、全文は文末リンクから)
(1番 Aメロ)
いつもあなたは泣いているね……
なぜだろう 笑うことはできないのかな
なぜだろう……楽しいこと、ないのかな
ねぇ誰でも上手くいかないことあるよ、だから
(1番 Bメロ)
ねぇ誰でもなんか楽しみあるよ、そう、なんか見つけて
そしたら明日はいいことあるかもね
でもダメなんだ、だってあなたは私と一緒だから……
だから絶対変わらないよね、絶対変われないよね
(1番 サビ)
ーー私はそっと手を鏡に伸ばす。
あなたは私……
今まで一度も笑顔見せたことないね
そうだって私、笑ったことないから
冷たいガラスの向こう側……
微かに写る姿に問いかける

(2番 Aメロ)
いつもあなたは泣いているね……
なぜだろう 笑うことはできないのかな
(2番 Bメロ)
じゃあ一度だけ、笑ってみようかな
……あなたの笑顔みたいから……
多分無理だけど、ねぇ
私は笑ってみた、
目の前のあなたに向かって
(2番 サビ)
そしたらあなたは泣いていた
……やっぱり無理なんだ、私には……
でもその口元は、口元だけは微かに笑っていた
あなたは私、私が泣けば泣いている
あなたは私、
私が笑ってれば笑っている……そのはずだよね……?
(間奏 - セリフ)
「……どうして私こんなんなの……
どうして私こんなんなの……どうすればいいの……?
どうすればいいの、さみしい苦しいよ、
……どうすればいいの……
……でもよかった……あなたがそばにいるから。」
(Cメロ)
上手くいかない日々に溺れて、
自分を嫌いになりそうな夜も——
変わりたいと願うその微かな光がいま、
確かに動いた気がしたから
(ラストサビ)
……ねぇ、あなたから微笑んでくれないの?
だったら私も、きっと笑えるのに……
暗闇の中の私へ、静かに問いかける
——泣き虫な私たちが、本当の笑顔になれるまで
(アウトロ)
いつもあなたは泣いているね……
でも、口元だけは微かに、笑っていた。
ねぇ、いつも私のそばにいてくれてありがとうーー
ねぇ、私もいつかちゃんと笑えるのかな……
fin.
ここで視点は、決定的な変化を迎える。
まずラストサビ冒頭——
……ねぇ、あなたから微笑んでくれないの?
だったら私も、きっと笑えるのに……
——”鏡に先に笑って”と問いかける。
——それは一見すると、文字からは無理難題に思えるかもしれない。
……けれど、そこからみえてくるのは、鏡の中の私に甘えているような、切なくも——微かに温かさを感じさせる心音。
……そう、もう一人の私を感じることで、
たとえ「それでも……結局、一人だけど一人だけど……」
と、それでもそれは鏡だからと感じ孤独の底にあっても、
鏡の向こうの”あなた”から、微かに癒される私がいる。
そして、ついにラストサビの最終章——
——泣き虫な私たちが、本当の笑顔になれるまで
——いままでの「私」から、
「私たち(=自分と鏡のなかの自分)」という複数形へのシフト。
そして、それだけではなく——この瞬間、
この歌は「ひとりの孤独な人間の独話」という枠を飛び越える。
画面の向こうで、同じように生きづらさや自己否定感を抱えながら生きている「あなた(リスナー)」の心と、私の境界線が溶けていく。
——私たちは皆、自分の中に泣き虫な「もう一人の自分」を抱えている。
だからこそ、この歌の最後に響く「ありがとう」は、劇的な解決や大逆転のハッピーエンドではなく、
……傷だらけの自分と手を取り合って生きていくための……
——「静かな和解と再生の祈り」だ。
泣き虫な私たちが、本当の笑顔になれる日まで。
今日も、もう一人の自分とともに、歩幅を合わせて生きていこうと思う。
【関連するSDGs:目標3 すべての人に健康と福祉を】
~「心の健康(セルフケア)」や「孤独との向き合い方」~
いつもあなたは一人じゃない、自分を見つめる自身と、そして……
……ここには、この”場所”には、……仲間がいるから……。
経介
※本作は、本サイトである記事投稿サイトnoteのコラボ企画
「文藝春秋SDGsエッセイ大賞2026#未来のためにできること」
への——”セルフ”協賛企画作品です。
(これも応募しようと思ってここまで書いてたら、
なんと気づいたら規定文字数を1000文字も!、超えてしまったので……
慌ててコンテスト”セルフ”協賛企画にしました(笑)……)
▼応募作品はこちら
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