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無垢な火種(JTCの理・マトリックス編 第六話)②

    午後、チームがざわついていた。
    何かが起きているらしい。

    断片的に聞こえてきた単語に、胸の奥が少し沈んだ。

    ――あれ、また同じタイプのアラートだ。

    どうして、これが失敗するのだろう。
    どうして、同じバグが別のどころで再発するのだろう。

    上司に呼ばれた。

    「何が起きてるかわかる? どう直せる?」

    わかるも何も、昨日改善してコメントしておいた部分と同じだ。
    理由を説明しながら、愚痴りそうになったけれど、やめた。
    結局、自分で修正して復旧させてしまった。
    忙しいから、早く終わらせたかった。

    もう、これ以上は触れたくない。
    だから、バックログだけじゃなくてわざわざメモ書きまで挟んでおいた。
    これで、さすがにもう間違わないだろうと思いたい。

    けれど、この作業が評価されることはない。
    構造の中では、
    “問題を未然に防ぐ人”より
    “問題を解決した人”のほうが可視化される。

    自作自演型の人なら、
    アラートが上がった瞬間に騒ぎ、
    自分で火をつけて、自分で消して、
    上層部に“頑張った”と見せるのだろう。

    でも、火種を残している本人は、
    自分が火種だとは思っていない。
    ログの揺れにも気づかない。
    ましてや、自分が誰かの時間を奪っているなんて、
    夢にも思わない。

    火が大きくなるほど、
    復旧はもっと大変になる。
    そんなこと、もう何度も見てきた。

    気づけば、子どもの迎えの時間が迫っていた。
    今日もまた、誰にも知られないまま、
    ひとつの負債を吸収して帰る。

    アラートは消えた。
    でも、誰もそのことを知らない。

    それでいいのだと思いながら、
    端末を閉じた。


    二つのパラレルワールド

    🏮 JTCの理 ― 憑き物落とし篇 組織の澱みを「怪異」として解剖する、京極夏彦的作品へのリスペクトを込めた物語。

    🕶️ JTCの理 ― マトリックス篇 システムのバグを「アノマリー」として捉え直す、SF映画的世界観の物語

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