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Photo bysyuka_sakura

【NOVEL】アートマン 第6話

    中道「まず、前提として、一般的な成熟の基準に関してだが、分別年齢や通過儀礼、出産や子育てなどを通じたものである。だが、ここで考えていただきたいのは、そのようなイベントではなく、責任ある行動が取れるかどうか、あるいは人を愛し結婚できるかなど、要求された文化に対する内面的な部分にある。

    世間一般では、学校というものは、若い人を指導するという観点から、成熟のための下準備であるに違いない。社会に出て半人前扱いされるのは、その後だろう」

    悲観「ただ、私が思うに、成熟とは、大人になってしまえば終わりではないという点にある。それはピークではなく、生涯わたって進行するプロセスにある。すると、どうであろう。教壇に立ち、未熟を相手にする教師自身も、自分が成熟していると言い切れるほど立派なものとは言い難い」

    短気「まぁ、人間とは、成熟する過程で他人の成長に携わるのだ。当然だが、それは学校現場だけではない。教育業だけではなく、社会全体がそうなのだ」

    中道「少し話がそれてしまうが、その昔、オデッセウスが自分の子の教育を託したとされる、メンターという人物をご存知だろうか。人間という生き物は他の動物とは大きく異なり、守られて生きており、成長からの成熟はただ待っていればよいというものでもない。彼は、良き指導者に自分の子を預けたことより、子はやがて人間としての模範となったらしい。

    これとは逆に、生育環境によっては、一見成人に見えるが、単にガワだけが良い、デカくなった子どもとなるケースも多々ある。何歳になっても半人前であったりする」

    青春「うん、もしかすると、この器には学生の身分でありながら、良きメンターモデルの不在が大きく関係していた気がする」

    一同「…」

    そのとき、口火を切るのは【虚栄】だった。

    虚栄「この器に関してだが、論理的思考力は確かにある。ただ、彼の場合、彼自身の活動を認め、ともに行動し、有能感を持たせていく他者の存在がなかった。友人や上司、教師との関係性を結びつけたとき、『あんな大人になりたい』という目標…理想像が、この器にはいたのだろうか」

    中道「うん、他者との結びつきが希薄だったことは確かだ。そもそも、人間関係の構築というものは、ロジックでどうこうするものではない。

    ここで、著名人の言葉を引用するので恐縮だが、とある女性心理学者の著書『成熟について』によると、成熟とは次のように記載されている…

    『人間が自分の行動に自信を持つようになり、自己決定の能力を高め、周囲の人々の成長を促進する能力の高まりが成熟であり、個人の身近な人々との関わりの中で醸成される』とある」

    【中道】が話を止め、再びの沈黙の中、後頭部をぼりぼりと掻きながら話し出したのは【短気】であった。

    短気「差し当たって、この器は真逆の道を歩んでいたのだ。論文か何だか知らないが、大学での日頃の研究による成果が出ないため、自分の行動に自信がなくなり、決断力に欠ける。その上、協力者がいないとなれば気が病むのだ」

    【短気】の否定的な発言を察してか、話題を本筋へすぐさま戻したのは、彼との対話が一番多い【悲観】だった。

    悲観「だが、先程から成人や大人、メンターなど様々な社会的人間モデルが挙がっているが、これらはすべて成熟過程の手前…となると、世間一般の『大人らしい』『社会人らしい』とされる存在そのものが危うくなるのではないか」

    この意見に、すぐさま同意したのは【虚栄】だった。

    虚栄「うん、どうだろう、もしかすると、成熟した人間、すなわち大人というのは獏(ばく)や鵺(ぬえ)のように、まるで幻獣のような、想像上の生物なのかもしれない。現実には存在し得ないが、それでも人間社会を成立させる手前、彼らは責任を担うかのような枷のある生き物かもしれない」

    一同、失笑。

    悲観「言い方に難あるが、同意見だ。巷の伝承によると、大人というものは、小さなことでくよくよしなかったり、歳を取ることを楽しめたり、様々な理不尽を許せたりする。まるで、超人的な力を持っているようだが、あくまでも人間の理性や自律心を具象化したものに過ぎない」

    短気「…まるで俺の存在が矛盾しているかのように聞こえるが」

    中道「だが、気の短さはそもそも観点の問題であって、当人からすれば決して短いわけではない。要するに、着火の度合い、あるいは発散速度の違いだと思う」

    短気「…」

    続けて【悲観】が口を開いた。

    悲観「どうだろう…人間とは、成長し、成人した後、老衰するように見えるが、実のところ、子どもから大きな子どもへと成り合う生き物なのかもしれない。カブトムシやセミ、チョウやカエルのように変態するわけではない。たまに、自分が大人になったと称する人間が現れることがあるが、それは『大人』という憑き物をまとっているに過ぎない」

    【虚栄】はうんうんと頷き言葉を返した。

    虚栄「確かに、社会的責任を伴う役割においては、一時的なトランス状態に入り、想像上の生き物であるはずの『大人』のように人間は振る舞うことができる。だが、彼らはひとりぼっちの夜を過ごしたり、誰かに批判されたりすることで憑き物が簡単に落ちてしまう」

    二人の会話に指を鳴らして締めるのは、やはり【短気】であった。

    短気「なるほど、その証左となるのが、昨今の情報源である様々なソーシャルメディアだ。発信者となる彼らは、大人、子ども関係なく、活発に、無邪気に発信する。それこそ、さらけ出しにふさわしい。時にはアイデアを!時にはルーティンを!そこには子どもでもない、大人でもない、成熟しようともがく人間の本性である!」

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    ここまで読んでいただきありがとうございました。第7話は近日投稿するのでよろしくお願いします。

     
     
     
    北海道で教師をしています。世の中に対する自分の考えや健康に関すること、短編小説やエッセイなど9つのマガジンをベースに発信しています。個人的な体験・経験による疑問を解くために、書籍や漫画、動画などを参考にしながら、一般的な答えに落とし込む帰納性を心掛けています。

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