#36|【遠距離介護を仕組みで回した③】 父の終活を司法書士に相談した
前回、
近くに頼れる身内がいない両親の緊急連絡先を
どう解決したかについて書きました。
今回は、遠距離介護の場合、
その先を
どう仕組みで回したかについてのお話です。☘️
日常を支える仕組みは見つかった。
でも、将来への不安は、まだ残っていた。
父の判断能力がさらに低下したら、
資産管理はどうなるのか。
万が一の時の手配や、その後の手続きも、
私ができなかったらどうするのか。
調べていくうちに、
任意後見制度と死後事務委任契約という仕組みがあることを知った。
緊急で日本に帰ってきても多分48時間はかかる。
でも葬儀の段取りを委託できる。
介護が始まるまで、私にはまったく縁のない世界だった。
司法書士の先生にメールで相談を始めた。
何度もやり取りを重ね、夏の帰省に合わせて面談の日程を調整した。
そして帰国中に、父と一緒に死後事務委任契約を結ぶことができた。
さらに、父の遺言書の作成も同じ司法書士の先生にお願いした。
きっかけは、前回の帰省で友人に言われた一言だった。
「兄弟の仲が良くないなら、遺言書は作っておいた方がいいよ。」
私は、それまで遺言書のことを真剣に考えたことがなかった。
相続人は兄と私の二人だけ。
法定相続どおりになるだろうし、残る財産もそれほど多くはないだろう。
そう思っていた。
でも、友人は言った。
「お母さんが先に亡くなるとは限らないでしょう。」
言われてみれば、その通りだった。
私にとって大切なのは、どれだけ財産を相続するかではなかった。
兄と音信不通の状態でも、万が一の時に手続きが滞らない仕組みを作っておくことだった。
そのことを司法書士の先生に相談し、遺言書を作成して、遺言執行者もお願いすることにした。
夏の帰省では、司法書士の先生に同行してもらい、父と一緒に公証役場で手続きを終えた。
最初は、この先生に任意後見人もお願いしようと思っていた。
ところが、先生はこう言った。
「Naoさんのお父様の場合は、法定後見(成年後見)で十分だと思います。」
意外だった。
成年後見制度には、
「お金が自由に使えなくなる。」
「毎月、高い報酬がかかる。」
「一度始まったら、もうやめられない。」
そんなマイナスのイメージしか持っていなかったからだ。
後見人も、家庭裁判所が決めるものだから、
自分では選べないと思っていた。
知らない人に財産を管理してもらって、
出費も拘束されるのは不安だった。
すると先生は説明してくれた。
「最終的に選ぶのは家庭裁判所ですが、
私を後見人候補者として申し立てることはできます。
特別な事情がなければ、そのまま選任されるケースも少なくありません。」
さらに、こう続けた。
「成年後見制度が不便だと言われるのは、
ご家族の意見が対立している場合に感じられることが多いんです。
後見人は、ご本人の財産を守る立場なので、ご家族全員の希望をそのままかなえることはできません。
そのため、ご家族の意見が食い違うと、『自由が利かない』と感じることがあります。
でも、Naoさんのケースであれば、ご家族の状況を考えても、
大きな問題になるとは考えていません。」
我が家は、兄妹間で意見をすり合わせる状況ですらなかった。
もう、兄とは連絡すら取れない。
皮肉なことに、その状況が手続きをシンプルにしていた。
少しだけ、肩の力が抜けた。
成年後見制度に対する私のイメージは、少し変わった。
任意後見契約は、契約時に公正証書の作成費用や契約費用がかかる。
さらに制度が始まると、任意後見監督人が選任され、
その報酬も必要になる。
一方、法定後見は、判断能力が低下し、本当に必要になった時に
家庭裁判所へ申し立てる仕組みだ。
家族が後見人になれば無報酬という選択もある。
でも、海外に住む私には、その選択肢は最初からなかった。
将来、成年後見制度が必要になった時も、
引き続き同じ司法書士の先生に相談できる。
海外に住む私にとって、一人の専門家に継続して支えてもらえることは、
何より心強かった。
そして先生に聞いた。
「今日、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業で金銭管理をお願いしていますが、成年後見制度は、どんな時に必要になるのでしょうか。」
先生はこう答えた。
「例えば、施設への入居契約を結ぶ時、銀行の窓口で本人による手続きが必要な時、不動産の売買や遺産相続などですね。」
その話を聞いて、私は改めて父の状況を整理してみた。
実家はすでに売却していて、不動産は残っていない。
父が遺産相続をする可能性があるのは、母が先に亡くなった場合だけだ。
ケアハウスへの入居手続きも終わっている。
その時も、行った手続きは口座振替依頼書を記入して、
施設へ提出したくらいだった。
今は、社協で銀行口座の金銭管理や支払いをお願いしている。
それなら、今後銀行の窓口で本人による手続きが必要になる場面も、
定期預金の解約以外には、あまり考えられなかった。
考えてみれば、成年後見制度が必要になることの多い場面は、
すでにいくつもクリアしていた。
もちろん、将来必要になる可能性はある。
でも、それは今すぐではない。
父の認知症の進行は、母とは違って、幸いにもゆるやかだった。
必要になった時に申し立てればいい。
そう思えたことで、不安はずいぶん軽くなった。
私は、自分ですべてを抱え込む必要はなかった。
困るたびに解決策をAIに聞いた。
制度のことは、ケアマネや施設の相談員、司法書士が教えてくれた。
そうやって、一つひとつ答えが見つかっていった。
遠距離介護を始めた頃、私は、フランスからたった一人で両親を支えていると思っていた。
でも、違った。
私の周りには、支えてくれる人がいた。
そのための制度も、すでに整っていた。
私は、それを知らなかっただけだった。
一人でやっていると思っていた。
でも、一人ではなかった。
