
【短編小説】忘失ヴァンパイア(1)
※この作品には、一部暴力的な表現、身体的・精神的苦痛を伴う描写が含まれています。
苦手な方は、閲覧をお控えください。
あらすじ
二年間、人を傷つけずに生きた吸血鬼、蛭間かや。
彼女は、数日前に出会った吸血鬼狩りの男、朝比奈たいように悩まされていた。
連夜、退治しようとしてくる吸血鬼狩りに無害であることを証明するため、二人はデートをすることになり……。
吸血鬼と吸血鬼狩りの執着を描いた短編小説です。
寒夜の路地は暗かった。少ない街灯に、シャッターが下りた個人商店。その隣に設置された自販機の青白い光が、大層眩しく思える程だった。
女はそんな路地を歩いていた。薔薇の花束とリングケースを抱え、片手に小さな貴金属を持ち、何かを呟いている。かなり浮かれた様子で、辺りは闇夜というのに目を輝かせ、自分の世界に浸っていた。
そんなだったから、女は背後に迫る脅威に気付かなかった。
現代の夜は明るい。大通りは街灯が多く、車のライトや、まだ営業しているお店の明かりの一つ一つが鈍く見えるほどだ。点在する監視カメラは、すれ違う人々の往来を映し出している。
高度に発達した情報化社会で、怪異や妖怪が昔のように振る舞うことは難しいだろう。
吸血鬼として生きて早2年。未だ私は食事が出来ずにいる。
しかし、そんなことはさして問題ではない。
何故なら何も食べなくても、こうして何かを探し求めて、街道から路地に至るまで彷徨い歩くことができるからだ。
だから食事の必要はない。
じゃあ、何が問題なのか。
目下、一番の問題は、私の背後にいるこの男。
「こんばんは。かやさん。」
この男は出会うたび、食事に使われる銀のナイフを、私に突き立てようとしてくる。
そう、私を退治しようとする男の存在だ。
「今日は公園に行かないの? いつもこの時間は星空を見上げているのに。」
今日もうすら笑いを浮かべながら、私にナイフを向けてくる。
朝比奈たいよう。
数日前、この男はいきなり私の前に現れ、退治しようとしてきた。
『かや。蛭間かやさん。貴女は吸血鬼……ですよね。』
そう言って真剣な面持ちで、銀のカトラリーを私に向けた。
ただの通り魔かと思えば、自ら名を名乗り、『吸血鬼狩り』と自称した。
それから毎日、この男は退治しにくるようになった。
「言ったはず。私は今まで一度も人間を傷つけていない。だから退治される筋合いはないんだって。」
「そう。昨日、貴女からそれを聞いて、色々考えたんだ。俺だって、退治しなくていいなら、退治したくない。けど、今後も人を傷つけないとは限らない。」
男の言うことは、もっともだと思う。しかし、私はまだやることがあるのだ。
「だから。」
男が口を開くたび、私の瞳孔が開いていくのがわかる。
「今夜、俺とデートしませんか。」
聖水が入った水鉄砲で、顔を撃たれた気分だった。
「……でーと?」
「デート。」
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