
『鳴石』 その9
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そしてまた、眠れば朝になり、うっすらと明るくなった部屋で目を覚ましてから、時間を確認し、ひとまず布団を出て台所に向かう。
昨夜は軽く済ませてしまったので、ご飯も味噌汁もなかった。
とりあえず、お湯を沸かし、沸くまでの間に特になにか思いつくこともなかったので、そのままコーヒーをいれる。
図書館に来てみれば、あいにく年末の休業に入っていた。
「調べてから来るんだった」
とりあえず他に行く先も思い当たらず、遥子はなんとなく海岸に出てみた。以前は居なかったが、サーフィンをする人たちが居て、しばらくそれを眺める。
車の外に出てみるが、間違いなく寒い。
世の中は年末で、遥子ももう休みで差し支えなかった。
「帰ろう」
車に乗った瞬間に里美からメッセージが入る。
「移動しているので、おちついたら返事します」
そう返して鳴石に向かう。
帰宅を知らせるとすぐに「そっちはどう?」という里美からメッセージが入る。
返事を書いているうちに、里美から着信がある。
「どう?」
「まぁ、捗ってる」
「それはそれは。レシピは大丈夫」
「了解」
「田舎はどう?」
「どうって言っても、一人で片付けてるだけだし」
「わずらわしいことはないんだ」
「どっかで聞いたみたいなのはね」
「そりゃいいね」
里美は一度離婚してから、もう何年も実家に戻っていないそうだ。
「みんな、一緒なことしか言わないからね」
里美との通話を終えて、なんとなく足りなかった雑談をした様な気分にはなった。ただ、遥子はとにかくこのまま気分を変えようと思い、玄関まで出て、みたが、あいにくみぞれ模様だった。
空を見上げると、みぞれを降らせている雲は、そんなに大きくもない様で、いつもの様な、全天を重苦しい雲が覆う冬空ではなかったが、この明るさが曇天を単調なものにして、空をただの蓋にしていた。
期待していたのは、どうしようもなく微細な灰色のわずかな色の差で層を作る暗い空だが、今はそうではなかった。
録音を再生する。
遥子はまた、里美のバックヤードでのアルバイトの話しを聞く。アルバイトの話しは、世界の終わりの話しに続いていく。
「昨日ちょっと考えたんだけど、世界が終わることと、世界が変わることの違いってなんだろうって思ったんだけど、そもそもどうしてそんなことを考えたのか……」
「うん」
世界が終わらなかった経験から、里美は世界の終わりについて考えている。
「偶然があって、あれこれ決めて……。パターンと、好みと……」
里美にとって、最も大きかった世界の変化は、間違いなく、離婚して、そこから料理教室を始めるまでの紆余曲折だった。
世界は終わるのではなく、変わるのだと、里美は変わったものについて手を止めて語り、あれは確実に世界の終わりみたいな何かだったと断言する。
「なんだろうね」
「わからない」
「わからないか」
そして、里美が鍋を片付け、あれこれ取り出し始める。
「きっかけが思い出せない……。あ、そうだ。アンゴルモアシンドローム」
「アンゴルモア?」
「1999年がなんでもなく過ぎて、どうしたもんかなぁってなる感じを、そう言おうって」
「へぇ、ピンとこない」
「うん」
「ところでですね」
「うん?」
「玉ねぎが入ったところで、おかわりがほしいです」
「おい」
「はい」
「コロッケの写真を撮るんだよね」
「そうです先生」