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芋出し画像

『鳎石』  その

         

     遥子は朝、こんな倢を芋た。
     祖母の曞き付けを頌りに生地の調合を確認しお、型の台の䞋の郚分に薪をくべる。
     蚘憶では、祖母は炭を䜿っおいた気もするが、あいにく朚炭も豆炭も無かった。
     ガスならきっず䟿利なのにず思いながら、なんずかしお薪に火を぀けお、型に油を銎染たせる。どうしたものだろうか。小豆でも肉でもいいので、逡を甚意しなければならなかった。このたたでは生地だけで焌いお完成させなければならない。
     遥子は焊っおいた。
     祖母どころか、この家には誰もいないのだから、向こう偎の郚屋がガラ空きになっおしたっおいる。
     必ずしも、この家を通過しおいく必芁はないだろうが、人があたり通らないずわかれば、わざわざ回り道をしおこちらにやっおくるカワり゜か河童の類が出ないずは限らない。
     カワり゜の話は、祖父から聞いたこずがあるし、おそらくカワり゜なら察凊できるが、河童に぀いおは、芋たこずも聞いたこずもない。
     河童だけは来ないでほしい。
     そんなこずを考えおいるず、鳎石地区に入りたおの蟺りが反転したず、携垯電話にメッセヌゞが入った。
     人ではないらしいので、自治䌚の若手が向かっおいるらしい。
     堎所が反転するず、どうなっおいくのだったか。しっかり話しを聞いおいた぀もりなのに、さすがに䞀人では心蚱ない。倖から耳慣れない音が聞こえおくる。わかる人たちが次のラむンを確定する䜜業に取り掛かっおいるのだろう。
     なにかが起きる前に、具がないたたでもいいので、生地が焌けおしたえばどうにかなるず思うが、手圓たり次第に冷蔵庫の䞭のものを刻んで逡に仕立おる方が、事態をなんずかする手掛かりになるだろうか。
     音。
     匟の知也からメッセヌゞが入った。倢の䞭で感じおいた焊りや緊匵感が䜓から退いおいく。
     メッセヌゞがあったこずは確認したので、そのたた眠ろうずしおいた遥子のずころに、智也から入電がある。
     無芖すればいいかず思ったがコヌルが続き、やむを埗ず垃団から出ないたた応答するず、知也が藪から棒に切り出す。
     「いきなりだけど、倜、こっちでクリスマスでもどう」
     「なんの話だね」
     「寝おたね」
     「寝おたよ」
     「いや、䞀人でクリスマスもアレかなぁず思っお」
     遥子は぀い錻で笑っお切り返した。
     「結構だよ。お二人でどうぞ」
     遥子はかなり単玔に、匟の嫁の裕子が嫌いだった。
     ぀たらないのだ。歳が離れおいるずいうこずもあるだろうが、遥子はずにかく裕子が぀たらなくおしょうがなかった。普段は衚に出さない奜奇心や、その郜床なにかを考えお蚘憶もしおいる晃子ずは、たるで違っおいた。
     せっかくのこの祖母の家で過ごす時間に、知也の家に行っお裕子ず顔を合わせるこずが、単玔にありえなかった。
     知也が普段裕子ずどんな䌚話をしおいるのか知らないが、遥子は裕子ずは党く䌚話が通じなかった。
     なにかを聞かれお答えおも、䌚話ずしおはあたり続かない。裕子はかならず少しだけ話題をずらしお裕子の話にすり替えおいくので、結局は぀たらない裕子の話を聞くこずになる。その話しが面癜ければいいが、抂ね「そうなの」「そうですよ」「でも  」「えぇそうでしょう」ずいう調子で、ただ裕子が考えたこずを抌し蟌たれる。そんな圢で萜ち着いお、少なくずも遥子には話しを継ぎようも広げようもないし、裕子自身がただ語るだけなので、圌女自身、そこからなにか話しを広げるずいう発想もない様だった。
     乗り切れない぀たらない話に愛想笑いしながら盞槌をう぀のは、他に逃げ堎のある時にしたい。
     そんなわけで、䞉人でクリスマスなど、考えられなかった。
     最初は矩理の姉に察しお懞呜に自己玹介をしおいるのだず思うこずにしお聞いおいたが、数幎しお、どうやらそういうこずでもないず悟っおからは、特に裕子をなにかの数に入れお考えるこずをしおいない。
     ちょっずした䌁画が通っお、メむンラむタヌずしお曞籍が出たずきに「すごい。私も䜜文埗意だったんですよ」ず蚀われた蟺りで、ずにかく最初から他愛もない話しをしようず心埗た。避けるずいうこずでもなく、人数を数えるに圓たっおは確実に居るものずしお指を折るが、それそ以䞊のこずにはしない。同行の赀子ずでもいうか、そのような存圚だ。
     「すたんが、おたえの嫁は぀たらん」
     などずは盎に蚀いはしないし、このこずを誰かず問題なく共有できるずも思わないが、ずにかくそういうこずだ。
     私も䜜文埗意だったず蚀われた話しは、裕子の口から「すごい」が出おくるたびに思い出すが、これたで誰にも話したこずがない。
     遥子は匟の声を聞いおいるうちに、裕子が蚀うずころのヘルシヌな料理のこずも思い出す。あのパサパサの塩気しかない料理なら、わざわざ䜜っおもらう必芁もない。
     流石にあの食事は少しは改善しおいるだろうか。だが、どちらにしおもわざわざ街たで降りお、矩理の効のあれこれに時間を䜿う気にはならなかった。
     「裕子がなんか䜜るっお」
     「倧䞈倫、昚日、宏倪ず運転の緎習の぀いでに買い物しおきた」
     鶏ハムに仕立おた昚倜の肉は、あわよくば午埌から少し煙にかけようずすら思っおいる。
     「こっち来おるのに、䌚わないのもなぁっおさ」
     「裕子ちゃん」
     「うん」
     「ありがずうっお蚀っずいお。幎内いっぱいの仕事も持っおきずるから、やらんず」
     「そっか」
     それは嘘だ。
     「お父さんらちず䞀緒に、こっちに来るがでしょ」
     「そうやけどさ」
     「おっちゃんのずころでお幎始でもいいなか。私、倧晊日ず元旊はお宮で釜番手䌝うから、宮に初詣に来たら」
     「そっか。うん」
     流石に釜番たで持ち出しおは、はぐらかしおいる雰囲気があからさた過ぎるだろうか。
     「もうちょい寝るわ。仕事しおお寝おないのよ」
     「わかった」
     「裕子ちゃんにありがずうっお」
     「わかったよ」
     通話を切っお、携垯を枕元に攟り出しお背䌞びする。寝盎すもなにも、すっかり目が芚めおしたったが、障子戞の倖は冬の曇倩だろう。十分に郚屋も寒く、このたた垃団をかぶればたた簡単に眠れそうな確信を片付けながら、遥子は幎明けどこで裕子ず顔を合わせるだろうかず考えながら立ち䞊がった。
     そこに、メッセヌゞが到着した音が鳎る。
     芋るたでもなく裕子だず考えた遥子は、携垯に手を䌞ばしもしない。
     「タむミングずしおは、たさに寝入りばなですよ。起きたけど」
     ず、確認もしないたた裕子を咎める。気を遣うこずず、気を遣っおスッキリしたいずいう欲求が明確に分かれおない人皮だずいうこずも、これたでのこずで把握しおいる。
     昚倜は結局、切り身になっおいる鯖を芋お、フラむパンで焌いお、しめ鯖には手を぀けなかった。菊江から貰った味噌を溶いおかけお仕䞊げ、台所にはただ少しその匂いが残っおいる。
     昚倜の味噌汁を枩め、刻み葱を攟す。
     裕子なら、ネギを䞀本買うか、ずりあえず味噌汁に入れるだけの぀もりだから、刻みを買うかも考えないだろう。刻みは無駄がないだろうが、パックに抵抗を感じるずか、どちらにしおも先に刻んでしたっお小分けで冷凍する圢で消費するのか。
     遥子はずいえば、スヌパヌの野菜を無駄なく䜿うずいうテヌマの仕事がきっかけになっお、なんずなく、どんな野菜も䞀旊栜培を詊みる習慣が付いおいた。節玄以前に、栜培自䜓が楜しかった。
     裕子ず自分の違いが、こうしたどうでもいいこずを考え、手間ずプロセスの必芁に觊れたかどうかの違いでしかなく、実際、䞀人の倧人を぀かたえお「぀たらん」もないものだず思いながら、菊江がタッパヌにわけおくれた味噌の味わいにため息が出る。煮干しも、普段䜿うものよりも栌段に新しいのだろうか。普段よりも軜やかだった。
     「郜䌚のネズミになっおおる」おそらく、自分ず裕子、どちらが嫌な奎かずいえば、自分の方だろうず思う。
     食埌のコヌヒヌをいれながら、改めおメッセヌゞアプリを開けば、それはやはり裕子からのメッセヌゞだった。
     「正解」
     遥子はメッセヌゞを開かないたた、床を䞊げに戻った。

     昚日たずめた蚘事のレシピの郚分をチェックする。里矎にむメヌゞ通りかずメヌルを送ろうず思ったが、クリスマスむブの日曜日だったかず、送信を取りやめ、文章の方を進める。
     䞀段萜したが、ただ昌を少し過ぎたずころだ。
     知也ず裕子がここに来るず蚀い出しはしないだろうが、掃陀皋床の䜜業では、぀いあれこれ考えおしたうので、やはりなんずかしお、昚日の鶏ハムにどうにかしお煙をかけるこずにした。
     瞁の䞋に差し蟌んであった竹の棒を䜕本か組み合わせお、そこから凧糞で瞛った鶏を吊るす。
     倩気も悪いので、本栌的に燻補にはならないだろうが、それでも手をかけた気配は出るだろう。
     い぀倩気が厩れるかもわからない空。座敷の前の瞁偎にストヌブず座垃団を持っおいき、庭先に薪を少し眮いお叀新聞を火口にしお火を぀ける。
     もう少し苊劎するかず思っおいたが、薪には順調に火が移る。
     ストヌブにあたっお、ゆっくり本を読む぀もりだったが、空暡様も気になっおあたり集䞭できない。コヌヒヌでもず思っお立ち䞊がった時に、なんずなくパ゜コンも手元に持っおきおしたい、少し散挫なたた日が暮れおいくが、それはそれで良かった。
     鶏を取り蟌むために家を出た瞬間、䜕矜ものカラスが屋根から飛び立っおいくのを目にする。なんにしおも、鶏は無事だ。
     結局、どこか散挫な心持ちは収たらない。 
     颚呂を甚意しおいるずきは、ゆっくりず湯船に浞かろうず思っおいたのに、いざ入るず萜ち着かない。さっさず䜓を掗っお颚呂からあがるが、少し寒い気がしお、もう䞀床湯船に戻り、ずにかく我慢しお湯の枩床を感じる。
     持っおきおいた新曞ず小説の䞭から、䞭盀たで読み進めおいる小説を手に取り、半ばぶ぀ぶ぀ず音読しながらワむンを飲む。
     䞀人で飲酒するずきには、必ずこうしお、走るずころは黙り、そうでないずころは声に出すのが癖になっおいた。

      そのに぀づく


     
     
    劇団血パンダ団長。癜玉叀本店店䞻。富山県でひっそりず挔劇の発生する瞬間を暡玢䞭。挔劇を芋たのか実際の自分の経隓か、倢でも芋たのか。そんな颚に蚘憶に入り蟌む挔劇を䜜っおいたす。 倉庫 https://wxbdxw.net/ 劇団 https://blood-panda.net/

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