5章 第4話 決着
大型異形の一体が、地響きを立てて崩れ落ちた。
残るは二体。
盾列は、まだ立て直されていなかった。
荷馬車の列の先頭に、森から回り込んだ巨体が現れた。
そこには、ユウがいた。
「ブォォォォ!」
異形が叫びながら、大きな拳を振り下ろす。
「ユウ!」
誰かの声が上がった。
一瞬、直撃したかのように見えたが、異形の拳は地面を叩いた。
ユウはわずかに身体をずらしていた。
異形が続けて、両腕を大きく振りかぶる。
――その瞬間。
爆発的な踏み込みで、ユウが距離を詰めていた。
丹田の奥に、熱く仄かに光る何かが灯り、光を宿したユウの拳が放たれる。
拳が異形の腹に深くめり込み、光が背中近くまで走った。
「グ……ォ……」
巨体がゆっくりと傾く。
ユウはその側面に回り込み、静かに残心の構えを取った。
ユウは、自分の拳を見つめる。
「……今のは」
だが、考える暇はない。
◇
同じころ――後方の荷馬車を守るカレンへ、もう一体が近づいていた。
異形は近くに落ちていた太い枝を掴み上げる。
丸太ほどもある太い枝をカレンめがけて振り下ろした。
盾を上に構えたカレンの足腰が、深く沈み込む。
腹の辺りに、とてつもない力が宿った。
ドォン――!
凄まじい衝撃。
それでも、カレンは倒れなかった。
盾の表面に、淡い光が浮かぶ。
次の瞬間。
バキンッ!
異形が握っていた木が、真ん中から折れた。
「はあぁっ!」
カレンが片手で振り抜いた樫の棒が、異形の横腹をえぐった。
「グァァ……」
黒い結晶が舞い、巨体が音を立てて倒れた。
カレンは荒い息をつきながら、盾を見る。
薄く残っていた光が、ゆっくりと消えていった。
◇
荷馬車の中では、シンがミカを諭していた。
外からは怒号と、何かが倒れる音が聞こえている。
「ミカ、ニコラオスさんと合流するんだ」
「だめだよ。一人にはしておけない」
「おれは大丈夫だ。……生きて帰る。約束だ」
ミカは迷いながらも頷き、荷馬車を降りた。
シンは手元のナイフを二本取り、ゆっくり起き上がる。
どこか、空気の流れがおかしい――頭の中に、強い違和感が走っていた。
そのとき、荷馬車の内側の影から、溶け出すように人影が現れた。
纏った闇。漏れた瘴気。赤く染まった目。
「ルイス……!」
「よく分かったね。……この間の続きだ。死んでもらう」
ナイフと小盾を構え、ルイスは音もなく踏み込む。
小盾で刃を防ぎ、ときには盾そのものを打ちつけてきた。
攻防一体。
ナイフと合わせた流れるような攻撃を、シンはかろうじて受け流した。
「なぜ俺を狙う?」
「どのみち死ぬ君が知っても仕方ないけど……。
君が付けているルミナのクリスタルが欲しかった」
再び白刃が走る。
「けれど、君も仲間も、ルミナの覚醒の種を宿してしまったようだから……。
全員、始末されることになるだろう」
ルイスが踏み込み、再び斬り合いになる。
シンの背中の傷がわずかに開き、呼吸が乱れた。
「君はイシヒアの出身か? ルミナはあそこにあったはずだが」
「それがどうした」
ルイスの口元がわずかに歪んだ。
「そうか。君は、あの男の息子か」
「あの男?」
「腕の立ちそうな男だったよ。
だから影に潜んで、背後から刺した」
シンの呼吸が止まった。
「何だと?」
「倒れながら、何か言っていたな」
ルイスは記憶を探るように目を細める。
「……シン。と」
背中を斬られ、地面に伏していた父の姿が蘇る。
短刀を握る指に、激しい力が入った。
「貴様……!」
踏み込もうとした瞬間――父の声が、頭の奥で響いた。
『焦るな。獲物より先に、自分の心を静めろ』
足が止まる。
白刃を受け流しながら、必死に呼吸を鎮めた。
『獲物を見るな。動く先を見ろ』
父の言葉が、重ねて響く。
極限の中で、世界の動きが遅くなったように感じた。
呼吸、足音、刃の角度。
次の動作が見えた――喉元への突き。
握った刃に、淡い光が滲むように宿る。
ルイスが動くより先に、シンは動き出した。
突きの軌道を外して踏み込み――白く光る切っ先が、ルイスの首から胸にかけて奔った。
――時間が戻った。ルイスは仰向けに倒れる。
「ばかな……。動く……前に……合わせるだと」
傷口から結晶が舞い、やがてその姿は霧散するように消えていく。
「父さん……」
張りつめていた力が抜ける。
膝が崩れた。
シンはナイフを握ったまま、意識を失って倒れた。
◇
離れた木の枝で、鳥の姿をした異形が、この戦闘を見つめていた。
やがて静かに翼を広げ、どこかへ飛び去っていく。
その瞳には、冷たい知性が宿っていた。
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5章 第5話は準備中です✨
ルミナ・パルス第1話
一人では小さな光でも——これは「光」が集まっていく物語。
