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第2話 旅立ち 『ルミナ・パルス』


狩人のシン、薬師の娘ミカ、華奢だが力の強いカレン。



村が異形に襲われたその夜。

生き延びた村の者たちは、広場に集まっていた。

煤けた灯の下で、孤児院の院長――
カレンの育ての父が、古びた羊皮紙の本を開いた。

「“闇(ペルニキエス)が生まれ世界を包む時。
光(ルミナ)は、生きる者たちの心より立ち上がるであろう。
光は闇に奪われしものを、再び地上へと還す”」

院長は古びた文字を指でなぞった。

「『奪われしものを地上に還す』が何を指すのかは、分からん。
死者が蘇ると約束した言葉ではない。

しかし、村を襲った異形が言い伝えのペルニキエスによるものなら、
光――ルミナも存在するかもしれん……。
皆はどう思う?」

広場に沈黙が落ちた。

「……亡くなった人は、もう帰ってこないかもしれない」

シンは顔を上げた。

「それでも」

「村を襲ったものの正体は何か。
そして、ルミナは本当に存在するのか。
俺は確かめたい」

シンは、焼け残った村を見渡した。

「同じことを、また起こさせないためにも」

カレンが静かに頷いた。

「私も、母や村のみんなを奪ったものの正体を知りたい」

俯いていたミカは、膝の上で両手を握った。

「……どうして、お父さんたちがこんな目に遭わないといけないのか。私も知りたい」

院長はしばらく三人を見つめ、やがて本を閉じた。

「ならば、城塞都市を目指せ」
「城塞都市……?」
「大きな教会もある。何か手がかりが得られるかもしれん」

「私たちはここに留まり、動ける大人と共に別の道を探す。」

カレンは孤児院の子どもたちに目を向けた。

(ここに置いていって、いいのだろうか?)

「お姉ちゃん、僕たちもがんばるよ」

子どもたちが、小さく頷いた。

「……心配するな、子どもたちは儂が守る」

院長は言った。

カレンは唇をきゅっと結び、院長に頭を下げた。

それから、子どもたちへ微笑み返す。

「必ず、戻ってくるからね」

シンとミカへ振り返る。

三人は目を合わせて、頷いた。

◇

翌朝。

空はまだ薄暗く、村には焦げた匂いが残っていた。

崩れた村の門の前で、村人たちが三人を見送りにきていた。

彼らはなけなしの食料を持たせてくれた。

保存のため二度焼かれた麦パン。
布に包まれたわずかな塩。
そして、野営に使う古い毛布。

「でも、それは皆の……」

「持っておいき。あの先生の娘を、空腹のまま送り出せないよ」

診療所に通っていた老人が、ミカに穏やかに言った。

カレンが深く頭を下げる。

「……ありがとうございます。必ず、この子を守ります」

老人は短く頷いた。

シンも深く頭を下げると、村人たちに背を向けた。

◇

都市へと続く古い道を進む。

あまり人が通らないため、草が腰の高さまで茂っていた。
朝露が、靴と服の裾をびしょ濡れにする。

「二人とも、疲れていないか?」

シンが歩調を緩めた。

「歩くのが遅くてごめんね」

カレンが歩調を早めようとした。

「いや……慣れない山道だ。あの倒れた木まで行ったら休もう」

シンは静かに答えた。

◇

道すがら、古い小屋を見つけた。

小屋から少し下ったところに細い沢が流れていた。
シンは、辺りに異形の痕跡や、獣の死骸が無いことを確かめた。

「今日は早めに野営の準備をしよう」

シンはカレンとミカを見た。

◇

カレンが運んだ鍋いっぱいの水を、ミカが重ねた布に通し、落ち葉や細かな土を濾していく。
水は鍋で沸かして、夕食用と明日の飲み水に分けた。

夕食は硬い麦パンを湯で煮崩したスープ。
わずかな塩と、近くに生えていたアサツキが加えてある。

パチパチと火の爆ぜる音が、静かな夜に響いていた。

シンは薪の位置を直し、カレンは空いた椀にスープを足す。
ミカは両手で椀を包んだまま、立ちのぼる湯気を見ていた。

誰も、村のことを口にしなかった。

それでも、温かい食事が喉を通るたび、冷えていた体は少しずつほぐれていった。

夕食後、シンは小屋を出て森に入った。
獲物の足跡や糞から、通り道を読み取り、罠を数箇所仕掛けた。

◇

翌朝。                                     
仕掛けておいた罠に、兎が一匹かかっていた。
シンは手を合わせ、祈りを捧げた。

兎を捌いていく。
火が通りやすい前脚や肋骨まわり、肝と心臓は朝食用に。
残りの肉は焚火で焼き、携帯食用にした。

鍋の湯に肉と塩を入れると、やがて湯気に混じって肉の匂いが広がった。

ミカは近くの草むらでニンニクガラシを摘んでいた。

葉を一枚、指先で揉んで匂いを確かめる。
まだ茎が伸びていない、若い葉だ。

「……この草は傷口に使う薬にもなるし、血の巡りをよくする。
滋養もあるって、父さんが言っていたな……」

そっと呟いて、それからシンとカレンの元に歩き出した。

ニンニクガラシのピリッとした風味が、野生の兎肉の臭みをやわらげた。
硬い麦パンも一緒に煮込んだスープは、とろりとして、すっきりとした味に仕上がった。

三人は鍋を囲み、スープを口に運んだ。 

カレンの顔が、ぱっとほころんだ。

「……美味しい!
ミカ、すごいね。
お腹の奥がポカポカしてくる」

「いえ……お肉はシンが獲って、煮てくれたのはカレンさんです」

ミカも少し照れたように笑った。

「……いい薬師(くすし)になれる」

シンがミカの頭を軽く、ぽんと叩いた。

小屋の隙間から朝の光が差し込んでいた。

森はまだ、静かだった。

都市へ続く道は、深い森の向こうまで伸びている。

それでも、昨日よりも少しだけ、歩き出せる気がした。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

第3話に続きます!


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