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いぬがしゃべりたした ㉚【1200幎隠された歎史】あず10話

    シオツマ

    「ある日突然、むヌがしゃべったなぜ」
    䞭女子 桃々ず犬のサトヌさんが、謎を解明するふしぎな幎間。
    「犬ず話したい」ず倢芋る方にお莈りする、冗談みたいなお話です。
    ※第話ぞ

    第話「1200幎隠された歎史」


    双子の八ツ橋さん姉効に案内され、小さな集萜を歩く。
    あぜ道の现い川を枡るず、昭和にタむムスリップしたかのような叀い日本家屋が䞊んでいる。今は閉たっおいるであろうすたれたお店には、ガラス戞の䞭がカヌテンで芆われ、叀い蚊取り線銙の錆びたホヌロヌ看板や、レトルトカレヌの看板がぶら䞋がっおいる。ひそやかながらも、人々の穏やかな暮らしぶりをうかがわせた。
    私たちがゟロゟロ歩くものだから、家から顔をのぞかせる人がちらほら。目が合うず、笑顔でペコリ。

    民家の衚札を芋るず、

    「『八ツ橋』、『八ツ橋』 、八ツ橋さんず同じ名前が倚いですね。」

    「この蟺は芪戚が倚くおねぇ。今は蟲家だけやのうで、街に出おる勀め人もおりたす。ちなみに姉の私もここに䜏んで京郜垂内に小さい法埋事務所をやっずりたす。」

    「お姉さん、匁護士すごい方なんですね。」

    「いやん、もっずホメお。 た、ずにかく、ここは䞍䟿な堎所やから、よそから来る人はほずんどおらぞんのよ。」

    ” ワンワン ”

    どこかのお宅から犬が吠える声がした。よそ者の気配を察したのか、䞀斉にあちこちから次から次ぞず茪唱のように隒ぎ出す犬たちの声。

    「犬この町にはたくさんいるんですか」

    「ひぃ、ふう、みぃ 」指を折る。「今は0匹くらいやろか。私が子どもの頃の昔は、50頭ほどもおった時代もあったんやけど。ここではずっず、人知れずひっそりず『お犬さた』たちず暮らしおきたんどす。 1200幎間。」

    「1200幎たじか」

    「私たちの家系では代々、” お犬さた “ ず呌ばれる特別な血筋の犬ず共に暮らしお、芋守っおきたした。だいぶ枛っおしもうたけど。」

    「もしかしお、ここの犬はしゃべるんですかサトヌさんみたいな犬が他にも」

    「それはそれは賢い血筋でね。でも、ここにいる子はしゃべりはしたぞん。さすがにサトヌはんほど流ちょうに話す子は初めおどす。この1200幎の䞭でも、ダントツ䞀番。 ああ、ここですわ。」

    小さな叀びた幌皚園。「や぀はし神瀟幌皚園」ずある。
    塗装のはげたゞャングルゞムなど遊具があるが、園児の気配は感じない。ずいぶんず静かなたたずたいだ。

    奥に、ずいぶんずこじんたりずした神瀟があった。党囜にある神瀟保育の類らしい。

    「これが神瀟の本殿どす。」
    「え、これ」

    幌皚園舎の隣に䞊ぶのは、本殿ずいうより祠ずいうべきか。
    前に匵り出した瓊屋根ず、正面に参拝するための階段こそし぀らえおあるが、よれよれの玙垂に守られた小さな芳音開きの栌子戞からは、人が䞀人入れるほどのスペヌスしかなさそうだ。かなり幎代を感じさせるほど、ずころどころ朜ちかけ、黒ずんだ矜目板や柱は、正盎期埅しおいたよりみすがらしく感じた。

    「これが、八ツ橋神瀟 。」

    私たちがずっず探し求めおいたものは、意倖なほど質玠なものだった。
    ここに䞀䜓どんな秘密があるずいうのだろう。

    「ほなどうぞ園の䞭ぞ。人目に぀くさかいに。東京からあんたたちを嗅ぎ回っおる奎らがおるみたいや。」
    そのたた園舎ぞずうながされる。
    アルミサッシの匕き戞に手をかけた。幌皚園らしくカラフルなかわいい切り玙がたくさんガラスに匵り付けおある。

    「すっかり子どもも枛ったさかい、今は䜿っおないんよ。その代わり 。」

    “ ガラガラッ “

    開け攟぀。途端に、癜い犬が飛びかかっおきた

    「わわっ」
    私がびっくりしおいるず、八ツ橋さんに飛び぀いおペロペロ甘える。

    『オぅオぅ りぁりぁ。』
    なにかを䌝えようず必死に声を絞り出す。たるで蚀葉のようだ。

    「あらあら、アラレちゃん。お友達が嬉しいんやね。」私たちに振り向き、「この子がここで今䞀番賢い子どす。可愛い女の子でっしゃろ。」

    教宀の䞭は新しく明るい雰囲気。郜䌚のビルに入っおいる今どきの宀内幌皚園のように小ぎれいに装食されおいる。宀内ドックランがあっお、数匹の犬が思い思いに遊んでいる。
    トヌキングボタンを噚甚に前足で抌しながら意志を䌝える犬。タブレットで簡単なゲヌムをしお『りぉりぉ』ず笑う犬。文字の曞かれた積み朚やオモチャを床に䞊べお遊ぶ犬。
    ラむカもすぐに溶け蟌んで、楜しそうに远いかけっこをしおいる。


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    八ツ橋さんは、舌を垂らしたアラレの銖を撫でながら、
    「芪戚に工務店がおりたしおね。リノベヌションっおいうんどすか、やっおもらいたしおん。ふふふ。」ず少女のように茶目っ気たっぷりに笑った。

    壁に食られるたくさんの写真。
    さたざたな皮類の犬たち。広堎で遊んでいたり、園児たちず無邪気に觊れ合う写真など。おそらく最近撮ったであろう新しいショットから、写真機が貎重だった時代の癜黒写真たで、この地の長い歎史を感じさせる写真がたくさん食っおあった。確かに50匹ほどの集合写真や、筆をくわえお曞初めをする者も。
    「あ、これ 。」
    私たちが持っおいる ” 狛犬の像 “  の写真も食られおいる。明治時代の写真だずいう。


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    サトヌさんは気になっおいた。「僕のお母さんもここに」

    「そうどす。名前はキナ子っおいいたしおん。あんたはんにそっくりでしたわ。ほら。」

    指さした䞀枚。
    写真には賢そうな、サトヌさんず同じ癜ずベヌゞュのブチの犬がいた。矎しい切れ長の目ず錻筋がよく䌌おいる。

    「あんたのお母さんどす。」

    「これが お母さん」思わず立ち䞊がっお壁に前足を぀いた。目をうるたせながら、「母は、しゃべれたんですか」

    「いいえ。あんたほどではおたぞん。そやけど、ほんたに賢い犬やった。私らの話す蚀葉を少し理解しおたし、文字もひらがな皋床は少し読めおはった。」

    「だから、あの倧文字山のマヌクが描けた 。䌚っおみたかったな、䞀床でいいから。」
    懞呜に錻を䌞ばし、写真を嗅ごうずする姿が切なかった。匂いなんおするはずもないのに。

    写真を眺めながら、パパがふず疑問に思った。
    「どうしおここの犬は知胜が高いんですか八ツ橋さんはその理由を」

    「いえいえ、私らはなにも知りたぞん。賢い理由に぀いおもあたり探るこずはしおきたせんでした。わたしら八ツ橋家の務めは、代々お犬さんず䞀緒に暮らすこずだけ。ただひず぀決たりがあっお、決しおこの子らが賢いこずは䞖の䞭に知られおはいけない。それだけどす。」

    「どうしお理由は知りたくなかったの」私は䞍思議だった。

    「知らん方がええこずもありたす。うちの家に䌝わる蚀葉で『知らずは、灜い知らず。』ずいわれおきたした。秘密を知らなければ、灜いに巻き蟌たれるこずもない。」

    続いお案内されるたた廊䞋の䞀番奥ぞ぀いおいくず、“ 職員宀 “ ずいうプレヌトが衚瀺されおいた。
    カギを取り出し、南京錠を開けながら、

    「ここが資料宀どす。 おっず、気い぀けお。」
    「な、なんですか」
    「ここから、説明れリフが倚発したっさかい。」
    「はあ 。」

    電気を灯すず、䞭は職員宀の面圱はなく、図曞通のように叀い本棚が䞊んでいた。今は姉の八ツ橋お萩さんが、ここの管理を続けおいる。長い間閉め切っおいただろう遮光カヌテンをシャッ、シャッ、ず䞡手で開けおいく。長幎空気がよどんでいる、そんな叀い玙類の匂いが挂う。

    「これたでの蚘録を密かに保存しおいたす。1200幎分ありたす。もずもずは隣の本殿に詰たっずったんですが、雚挏りがひどくおね。カビが生えるもんやから、20幎前にここぞ移したしおん。どうぞ、奜きなだけ芋おっおください。あんたはんなら、お犬さたの血筋の秘密にたどり着けるかもしれぞん。サトヌさんにはその暩利がおたす。その時が来たんどす。」

    八ツ橋さんの話によるず、賢い犬の蚘録は、叀くは飛鳥時代から残っおいるずいう。
    聖埳倪子のパヌトナヌずしお、䌚話したずされる犬『雪䞞』の䌝説から始たり、日本曞玀やそのほか倚くの文献で、頭の良い忠犬の蚘述が残されおいる。

    ふぅっずホコリを吹き飛ばし、棚から叀い本を取り出した。皮の衚玙に真蚀宗の歎史曞ずある。芪指を䞋唇でペロリず湿らせ、ペヌゞを手繰る。

    「京に郜が移っおからですわ。うちらのご先祖さんがここに䜏んだのは。その時、飌っおいた犬がたいそう賢かったそうどす。匹おっお、癜ず 」

    「黒もしかしお、空海の」サトヌさんがピクリず耳を立おた。

    二匹の犬ず空海の出䌚いを描いた、高野山の奉玍額絵のペヌゞを私たちに芋せ、


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    「ようご存知で。平安時代初期。匘法倧垫、空海を導いたずされる癜い犬ず黒い犬。お察しのずおり、匹の犬はここの子らの祖先です。ほヌんたに頭が良かったそうでね。人の蚀葉を理解したず蚀われずりたす。連れおいた猟垫ちゅうのは、うちらのご先祖はんどす。」

    以来、ご先祖は代々、この血筋の犬ず暮らし続けた。
    長い幎月の間には、ごくたれにずおも賢い “ お犬さた “ が生たれるこずがあった。蚀葉を少し発し、文字を理解するこずができる優秀なタむプ。そんな” お犬様 ” は疫病がたん延した時、地震・氎害の時、飢饉の時、人々に知恵を授けおくれた。
    八ツ橋家は、この犬たちず共に生きるこずで生かされおきたずいう。

    「そやけど、䞍思議なこずが倚くおね。蚀葉を理解するほど頭のいい “ お犬さん ” は、100幎に䞀床しか生たれぞんかったんどす。」

    これらの血筋はなぜか回の劊嚠で〜匹しか生たれず、身䜓も匱いためすぐ死んでしたう子犬もおり、1200幎の間、それほど増えるこずもなかったそうだ。攟っおおけば貎重なお犬さたの血が絶えおしたう。

    だから、ひっそりず犬の亀配をくりかえしお、100幎の䞖玀ごずに䞀床蚪れる賢い犬の登堎を芋守るこずを八ツ橋家の秘密ずしおきた。代々の犬の名を蚘した系譜も資料ずしお残っおいる。

    しかしなぜか、珟代に近づくに぀れ頭のいいお犬さたが生たれるペヌスが䞊がっおいる。江戞末期の最近になっお50幎ごずになり、30幎前に匹、15幎たえに匹、そしお幎前にサトヌさんが生たれた。

    「このこずっお、䞖の䞭には 」

    「知られんようにしおきたした。お犬さんは最初は喜ばれるんどす。倖敵から畑や家を守っおくれお、台颚やら地震を教えおくれるさかい。そやけどそれも、最初だけ。」

    これたでの歎史を顧みるず、はじめは物珍しさでもおはやされる。
    しかし、やがお気味悪がられ、『悪霊だ。』などず呌ばれお人間にずっお脅嚁ずなるものずしお殺されおきた。

    「ひどい 。」

    「人間はいいように利甚しお、ポむですわ。そやから八ツ橋家では、そんなこずにならんように、お犬さんを守っおきたんどす。私ら姉効も、物心぀いたずきからお犬さんを守るよう育おられたした。」

    ずっず秘密にし、脈々ず静かに守られ続けた。この『巊倧文字山』のふもずで神瀟を隠れ蓑ずしお、犬神さたを厇めおいるず装うのが䞀番安党だったのだ。

    「巊倧文字山のふもず 。」

    サトヌさんのヒゲがアンテナのようにピクリず反応した。「もしかしお、倧文字山の山頂にか所だけ、昔の火床のあずがありたしたが、それっお 」

    「そうどす。さすがサトヌはん、よく気づかはりたした。」姉の八ツ橋お萩さんは満足そう。

    「倧文字焌きの『倧』ずいう文字は、䞀説には䞡手を広げた人の圢を暡したずされおたすけど、実は 。」

    おもむろにお萩さんが壁にかかっおいる黒板いっぱいに癜いチョヌクで、コンコンコンず『倧』の挢字を倧きく綎った。そしお、

    「もずもずは、ここにひず぀、点があったんどす。」
    ず、ゆっくり『倧』の文字の肩に点を眮く。その文字こそが 、


     『犬』だ。


    「そう。倧文字山には元々 『犬』ずいう文字が描かれおおったんどす。匘法倧垫さんを導いた『犬神様』を祀るために護摩焚きが行われおいたした。」

    思わず芋盎した黒板には、堂々ずしたチョヌクの筆運びで『犬』が映えおいる。
    黒板がたるで挆黒の山に思え、倜空に揺らめく぀の『犬』の火文字を私は想像した。
    「ぷぷっ、犬文字山。」ず、うっかり吹き出しお、「桃々、しっ。」ずママにたしなめられお銖をすくめた。

    「だから、倧文字山は぀必芁だった 。」サトヌさんが぀ぶやいた。

    「はいな。察しがよろしいこず。癜い犬ず黒い犬。匹の犬を衚しおいたした。そやけど、䜕癟幎も前に、点の郚分にあたる火床は撀去されたした。この土地を人目から隠すために。お犬さたを守る䞀心で。」

    たしかに今日、倧文字山の頂䞊で、サトヌさんが劙な堎所に火床の跡を芋぀け、䞍思議がっおいた。

    「そういえば、あの東京の深川にある神瀟はサトヌさんが拟われた『风宮神瀟』。ここ八ツ橋神瀟ずどういう関係なんですか」

    「あそこは、たた別の血筋のお犬さんが祀られおいたす。」

    効の八ツ橋団子さんが䞍敵に口角を䞊げながら、「それに぀いおはこちら。」ず、本棚の䞋の倧きな箱にかかった垃をするっずずった。「风宮神瀟の資料どす。」

    「あっ消えた箱」ママず私は思わず声をそろえた。

    江戞資料図曞通で跡圢もなく消えおしたった风宮神瀟の資料だ。なんのこずはない。叞曞の八ツ橋さんが自䜜自挔で隠しおいたのだった。


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    「あのずきは、サトヌはんが本圓に血を匕いた子孫なのか圱響が出るほど賢いのか確信が持おぞんかったんで、私が安党なここぞ運びたした。」

    「防犯カメラも」

    「はい。自分で消去したしたわ。千巻さんにバレんようにするんは骚を折りたしたわ。」

    「あれが挔技だったっお。八ツ橋さん 。」ママがあきれたように笑った。

    「おぞぺろどす。」いたずらっ子のように舌を出した。「さあ、ここからは、サトヌはんのお話をせなあきたせん。䞀䜓どういう境遇で生たれ、どうしお今たで孀独やったんかずおも悲しいお話どす。」

    悲しいお話
    思わず私はサトヌさんの顔を芋た。
    毛で芆われた圌の目は、少し緊匵の色をにじたせおいた。



    ぀づく あず話 


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