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いぬがしゃべりたした ㉘【秘密の入口】

    シオツマ

    「ある日突然、むヌがしゃべったなぜ」
    䞭女子 桃々ず犬のサトヌさんが、謎を解明するふしぎな幎間。
    「犬ず話したい」ず倢芋る方にお莈りする。冗談みたいなお話です。
    ※第話ぞ

    第話「秘密の入口」


    勢いよく車のドアを閉め、走り出す。背埌に遠のいおいく倧文字山。
    ” 犬がしゃべる秘密 ” を求め、探しおいた堎所はここではなかった。じゃ、䞀䜓どこに向かうずいうのだろう

    揺れる車内で、サトヌさんがパ゜コンを芋ながら前足でナビを指した。

    「衣笠氷宀町。パパ、ここぞ向かっお。」

    汗だくになったパパがタオルで銖をふきふき、「はいよ。」ず信号埅ちでナビを操䜜するのを暪目に、私はもどかしかった。その衣笠氷宀町には䞀䜓䜕があるずいうのだろう
    い぀もサトヌさんは、「どうせ理解できないでしょ。」なんおもったいぶっお、なかなか教えおくれない。

    「なにこれどこあんた頂䞊で䜕を芋たの教えおよ。」

    「いやあ、うっかりしおいた。もうひず぀あったのを思い出したよ。」
    ず片方のヒゲを曲げおニダリずした。負け惜しみもいちいち腹立぀。
    「もうひず぀だから䜕がもうひず぀ 。」

    むラ぀きながら埌郚座垭のサトヌさんを小突いたずき、パパが叫んだ。

    「あったたあの車」

    車
    振り返っおリアりむンドりに目を移した。
    たくさんの埌続車の隙間に、黒いワンボックス車が䞀瞬姿を珟す。たさか昚日の
    思わず背もたれに身を隠し、「ほんずそんなわけ 。」おそるおそるヘッドレストの隙間からのぞいたら、

     品川の「わ」ナンバヌ、あの車だ

    ずっず埌を付けおきたの昚日の倜、東京からダバくないっおか、䜕者

    「なんなんだアむツらよし、パパが行っお 」
    ギアに手をかけセカンドに入れようずしたら、ママが制した。
    「危険よ。盞手がだれか分からないうちは。こっちには子どもたちもいるし。」

    「 あ、ああ、そうだね。捕たえる぀もりなら、ずっくに捕たっおるわな。」あきらめるように、ギアをドラむブを戻し、「ずりあえず、振り切ろう。」アクセルをふかした。

    サトヌさんはラむカの背をかばうように「揺れるから気を付けお。」ず寄り添う。

    垂バスや車で混雑しおいる今出川通り。すき間を軜自動車でぬうように飛ばす。
    远いかけおくるワンボックスカヌ。ぎったり台分埌ろに぀けおいる。加茂倧橋を枡った瞬間、信号が赀になった。远手は匕っかかるタむミング。

    「そこ曲がっお」サトヌさんの指瀺が飛ぶ。

    急な巊折でタむダを鳎らす
    鎚川にたっすぐ沿った川端通りでスピヌドを䞊げる。足止めを食らったワンボックスは姿が芋えなくなった。
    キラキラ光る川面でのんびり散歩する人々はこんな逃走劇が繰り広げられおいるなんお気づいおいない。
    「よしっ撒いたぞ」
    「やった」

    皆で喜んでいるのも束の間、
    赀信号で埅ちのはずのワンボックスは、橋の手前からわき道をショヌトカットしたのか、我々のすぐ埌ろに躍り出た

    「うわっやばいやばい」

    逃げる私たち。远うワンボックス。どんどんスピヌドを䞊げ、私たちの埌ろを突っ぀くようにピッタリ぀けおいる。これでは逃げきれない

    もはやこれたでかず、あきらめかけたその時、

    「あぶないっ」パパが叫んだ

    突然どこからからずもなく、いきなり芋知らぬ「ベヌゞュ色の圱」が飛び出しおきた。
    私たちの埌ろギリギリに暪入りしお、驚いたワンボックスが急ブレヌキをかける

    “ キヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌッ “

    事故なのか小さなベヌゞュの車䜓が車線を暪にふさぐ。ワンボックスは足止めを食らい、激しくクラクションを鳎らしおいる。おかげで私たちは圌らを残し、䞀気に先ぞず走り抜ける。


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    窓から顔を出すず、小さな䞞いベヌゞュの倖車ず、その埌ろで動けないワンボックスの姿がどんどん遠くぞ小さくなっおいく。
    私たちは、すぐにわき道にそれ、䜕床も角をゞグザグに曲がっお自分たちでもわからなくなるほど違う方向ぞず足を延ばした。ベヌゞュちゃんの乱入のおかげで、すっかり远手の姿を芋るこずはなかった。

    「ずりあえず撒いたっぜいね。」
    「っぜいね。」
    パパず私がほっず胞をなでおろしおいるず、ママが怪蚝な顔。

    「おかしいわ 。いえ、そんなはずないわ。そんなはず。」

    い぀も家族の誰よりも萜ち着いおいるママが、めずらしく動揺の色を隠せない。髪をかき䞊げ、誰もいない埌ろを䜕床も振り返っおいる。

    「䜕がおかしいの」
    「私の芋間違いよ。きっず。」
    「䜕を芋たの」
    「暪から割り蟌んだベヌゞュの車 おかげで助かったんだけど。運転垭に乗っおた人の顔。あの人に芋えた、ような気が 。」
    「あの人っお誰」

    リアりむンドりに釘付けになっおいたママが、蚀うか蚀うたいかためらった末に振り向いた。

    「 八ツ橋さん。図曞通の。」


    「ぞい぀もカヌディガンが食い蟌んでる関西匁のおばちゃんのあの八ツ橋さん」

    「    。」

    あたりに信じられず、蚀葉にならないのだろう。黙っおコクリずうなづいた。

    「助けおくれたのおか、ここたで远っおきたのママのズル䌑みを怪しんで」

    「 いや、ないわ。ないない。そんなわけ。芋間違えたんだわ。きっず。」

    自分の疑念を打ち消したいのか、私たちを䞍安にさせたくないのか、力なく埮笑んだ。

    ◆

    信号埅ちで、パパがナビの画面パネルを指先でコンコンずはじいた。
    「あず5分で着くよ。京郜っお意倖に狭い街なんだね。」
    そう蚀うのを埅っおいたかのように、サトヌさんが埌郚座垭から進行方向を指した。

    「ほら、芋おごらん。」

    たっすぐきれいにのびた芋通しの良い西倧路通。右前足の向けられた方を芋るず、ゆっくり北䞊する私たちの先には、芋慣れた山圱が芋えた。

    倧文字山だ。
    暪に広がる「倧」の文字が遠くでもハッキリず読める。

    「あれ、倧文字山戻っおきちゃったの」
    「別の山だよ。倧文字山は぀あるんだ。ここは『巊倧文字』ず呌ばれる。」
    「ひだりだいもんじ぀スペア」
    「『京郜五山の送り火』っお呌ばれるのは聞いたこずあるでしょ」
    「うヌん。」

    がんやりした私の顔に、あきれお耳をペタンず䞋げた。さしずめ人間なら ”やれやれ” ず肩をすくめたようなものだろう。仕方なく説明しおくれた。

    「送り火っおのは、いく぀も皮類があるの。有名な『倧文字』でしょ。それに挢字の『劙』『法』。図圢の『船圢』ず『鳥居圢』。そしおもう䞀぀が向かっお巊にある『巊倧文字』。」
    「知らんかった。」
    「垞識。」

    むか。

    「なんで倧文字だけコなの䜙蚈じゃない。」
    「どうしおかは、謎だ。」

    ほお。たあいい。
    ずにかくサトヌさんよ、あんた埗意げにりンチクたれおるけど、肝心の話をしおないよね。

    「どうしお巊倧文字に来たのここに犬の像があるっおの今床は本圓なんだろうねえ。」
    いやみっぜく指で぀ん぀ん突っ぀くず、「フン」ずそっぜ向きながらも、埌ろ足でタブレットをくるっずこちらに向けた。

    「僕を生んだ母の残しおくれたメッセヌゞ。思い出しおごらん。」

    おばあさんの神瀟で撮った画像が衚瀺されおいる。
    风宮神瀟の瞁の䞋。薄暗い䞭、スマホラむトに照らされた本の柱。
    それぞれに倧文字山を暡した『むカマヌク』が匕っ掻くように刻たれおいた。


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    これは䜕床も芋おいる。それがどうしたずいうのだろう。
    「だから倧文字山を衚しおるんでしょ。」

    「ずっず気になっおたんだ。母は、どうしお぀マヌクを描いたのかっお。」
    「たたたたじゃないの」

    「倧文字の山の䞊から、遠くの巊倧文字山が芋えた。その時、思い出したんだよ。」
    「なにを」
    「マヌクは぀の倧文字山を衚しおいた。そしお、母のおしっこマヌキングの匂いが残っおいたのは、向かっお巊偎の柱。぀たり、もしかしたらこの巊倧文字山。それを僕に䌝えたかったんじゃないだろうか。」

    サトヌさんは遠くにそびえる巊倧文字山をあらためお芋䞊げた。
    お母さん犬がどれくらい賢かったのかはわからない。
    だけど、粟䞀杯䌝えたかった気持ちはわかったよ。このこずだったんだね。ママがサトヌさんの小さな肩を抱いた。
    「お母さんは、䞀生懞呜描いおくれたのよね。い぀かあなたをここに呌びたくお。」

    「お母さん 。」

    「しんみりしおるずきになんだけど。」
    私は芋逃さない。
    「うん」
    「っおこずはさ、埀埩時間もかけお山に登る必芁なかったっおこず」
    「おっずぉ。」
    「おっずぉ、じゃねヌよ」

    パコン。

    ◆


    金閣寺や竜安寺ずいったメゞャヌ玚に有名な芳光地が䞊ぶ゚リア。
    そんな䞭、ここ巊倧文字山の衣笠登山口だけは、人圱もなくひっそりずしおいた。気たぐれなハむキング客さえもいない。今日のような寒い冬の平日にはなおさらだ。

    きれいに舗装された坂をのがるず、ほどなく土道の入口が私たち家族を迎えおくれた。叀い石暙には、「倧北山倧文字山」ず曞かれおいる。ホントはそんな名前の山らしい。

    さあ、ここから本栌的な登山道の入口だ。现い山道が先たで続いおいる。「やだな、たた登るのかぁ。」
    ネットの投皿によるず30分くらいで山頂だずいう。半ばあきらめ気分で、足銖ず膝をキコキコずストレッチしおいたら、あい぀の姿がない。

    「あれサトヌさんは」
    「さっきそこの茂みに入っおいったわよ。」
    ママが指す方を芋るず、登山口から数メヌトル離れたずころにこんもりず雑朚林が生い茂っおいる。

    ”ガサガサッ”

    いきなり藪の葉っぱたちが揺れたず思ったら、ひょっこりずサトヌさんずラむカが顔を出した。
    「あのねヌ、ルヌトはそっちじゃないでしょ。道草食っおないでさっさずやっ぀けようよ。」

    「面癜いものを芋぀けたよ。」
    「は」
    「誰かが通った跡がある。䜕人も。昔から。」

    道なき道に人の歩いた痕跡を感じ、ラむカが足跡の匂いに誘われお茂みに迷い蟌んで行ったずいう。
    枯れかけたアカガシずワラビがこんもりず茂った堎所。ひざ䞋くらいに葉っぱがポッカリ開いた小さなトンネルがある。

    「もしかしおここ入るの䜕があるの」
    「むダならいいけど。」

    およそ誰も入ろうなどずは思わないような小さな葉っぱのトンネル。
    しゃがんで四぀ん這いになるず、手のひらずひざに冷たい土ず枯草の柔らかさを感じた。ペモギの匂いが錻をくすぐる。のぞくず日に照らされた出口の向こう偎たでメヌトルもありそう。

    「たじかぁ。」

    サトヌさんに続いお進む。ずんがったシダの葉ず枯れ枝が頭ず身䜓にひっかかる。
    「いおおおお。サトヌさんゆっくり進んで。」
    顔のすぐ前では、サトヌさんのお尻の尟っぜが揺れる。錻先が぀きそう。
    「オナラしないでよ。」

    茂みの出口には、日が射すケダキ林がひらけおいた。
    「よっこら。」
    立ち䞊がっお膝に぀いた枯葉を払っおいるず、鋭い逆光で遮られた行く先に、䜕かが立ちすくんでいる気配がする。

    「ん」

    人に芋えたのは、鳥居だ。

    荒削りの朚でできた叀い小さな鳥居が静かにたたずんでいる。
    頭䞊の笠朚に老朜化したしめ瞄を垂らし、颚で緩やかに揺れおいた。

    さらに鳥居の暪にもうひず぀。
    小さな祠ほこらがある。

    私の胞くらいの高さのこじんたりした石の祠。たるで守り神のようにひっそりず眮かれおいる。
    しっかりずした四角い基瀎の䞊に、䞉角屋根をかぶせた小さな箱のような石がちょこんず乗っおいた。角が少し欠け䞞みをおびた颚化具合から、かなり叀いこずがうかがえる。
    長い幎月を思わせる苔がうっすらず党䜓を芆っお、祠ず鳥居を尊ぶかのように冬の朚挏れ日がたぶしく照らし、幻想的な光景をかもしおいた。


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    「これ、なに」

    「芋おごらん。」

    近寄るず、祠の郚分に䜕か四文字が圫っおある。長幎の雚颚でかなり厩れおおり、読みにくい。

    「なんお曞いおあんのこれは だ 『倧』かな」

    「これが匘法倧垫堂だよ。巊倧文字山の。」

    「ぞあの犬神様の」

    逆光の朚挏れ日を党身に济びながら、
    サトヌさんが振り向き、蚀った。


    「ようこそ。秘密の入口ぞ。」




    ぀づく 


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