
#232. コスメ・コスモ・コスモスの語源 [*ḱens-]
cosmetic:化粧品
cosmic, cosmo-:宇宙の、宇宙的な
cosmos:秋桜 (コスモス)
語源はひとつ
一見すると全く関係ないような単語だが、同じ語源だ。いずれもギリシャ語の κόσμος (kósmos) から来ているが、共通する概念は「整っている」ことだ。反対の意味の概念は「χᾰ́ος (khắos) 」chaos カオスである。
ギリシャ語名詞 κόσμος (kósmos) から派生した 英語の形容詞 cosmic や 連結形 cosmo- は「世界的・宇宙的」を意味する。
一方、英語の名詞 cosmetic は κόσμος (kósmos) の動詞形 κοσμέω (kosméō)「整える・飾る」に、「良く~した」を意味する形容詞語尾-τῐκός (-tĭkós) をつけた、κοσμητικός (kosmētikós) から来ている。意味は「整える・飾ることに秀でた、良く整った・良く飾られた」である。そこから、名詞化して「化粧品」となった。
花の名前の cosmos は、花びらの並びが「秩序良く整っている」から κόσμος (cosmos) と名付けられたか、あるいは、花びらが「宝石のよう」な形をしているので、宝石を意味する κόσμημα (kósmima) から名づけられたようだ。宝石 κόσμημα (kósmima) も 動詞 κοσμέω (kosméō)「整える・飾る」から来ているので、いずれにしても同語源だ。
印欧語根
ギリシャ語名詞 κόσμος (kósmos) の印欧語根は KDEE (研究社 英語語源辞典) によると、*kes- で、cosmos 以外の語との関連は示唆されていない。一方、Wiktionary では「布告・声明する・整える」を意味する語根 *ḱens- につながるようだ。「布告 (to order)」によって整えられる「秩序整然としたもの (in order)・調和のとれたもの」を指し、「飾り・美しさ」など広い意味の語彙で、文脈によって「世界」や「秩序」また「宇宙」と訳すことができる。
同じ語根 *ḱens- 関連する語彙はほかにどんなものがあるだろう。
ラテン語
ラテン語の cēnsēre [ケンセーレ] は、「布告する」や「評価する」という意味だが、市民の登録や財産の評価など、公的な評価を行うという意味で、「国勢調査」を意味する英単語 census の語源になっている。
サンスクリット
インド語派の言葉は何だろう。「褒める・評価する」の意味を持つ शंस् (śaṃs) が同語根のようだ。ケントゥム←→サテムの関係を考慮に入れると、*ḱens- の [ḱ] が [ʃ] になって、[ケンス] と [シャンス] が対応していることが良く分かる。サンスクリットの動詞 शंसति (śáṃsati) から派生した प्रशंसा (praśaṃsā) [プラシャンサー] は、現代ヒンディー語で तारीफ़ (ターリーフ) とともに「褒める・高く評価する」という意味でよく使う単語だ。
人間は「整っている」ものに「美しさ」を感じる。満天の星空の美しさの背後にも整然とした物理法則があり、人は無意識にそのことに惹かれるのかもしれない。