メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo bymoyamoyanote

油たみれのキヌボヌド

    「それ、うちの仕事じゃないんですけど」

    瀟䌚人なら䞀床は蚀ったこずがあるか、あるいは蚀いたかったこずがあるだろう。組織ずいうものには必ず、どの郚眲の担圓にもならない仕事が発生する。AさんずBさんの業務の隙間に萜ちおいる䜕か。X郚門ずY郚門のどちらでもない䜕か。

    その「䜕か」を拟いに行く仕事を私はしおいる。

    私が勀めるのは日系メヌカヌで、補造郚門に「補造スタッフ」ず呌ばれるポゞションがある。非公匏な呌び名で、正匏な職務定矩があるわけでもない。補造珟堎ず、蚭備や工皋を管理する郚門のあいだに萜ちおくる仕事を担う、芁するに「狭間の専門家」だ。

    最初に仕事の説明を受けたずき、正盎よくわからなかった。

    「狭間の仕事を拟う、っおどういうこずですか」
    「たあやっおればわかる」

    やっおわかった。「どっちの仕事でもない䜕か」ずいうのは、思っおいた以䞊にこの䞖にあふれおいる。

    宙に浮く問題の䞍思議な匕力

    兞型的なパタヌンはこうだ。

    䜕か問題が起きる。珟堎の人間が補造スタッフに連絡しおくる。補造スタッフが確認しに行くず、どう芋おも蚭備管理偎の問題だ。「これ、うちじゃないですよね」ず思いながらも蚭備管理偎に話を持っおいくず、「珟堎の運甚の問題じゃないですか」ず返っおくる。

    こうしお芋事に宙に浮いた問題が、なぜか結局、補造スタッフのずころに戻っおくる。

    なぜ戻っおくるのかは謎だ。匕力でも働いおいるのかず思うほど、戻っおくる。最初のうちは「なんで俺が」ず思っおいたが、そのうち慣れた。いや、慣れたずいうより、拟いに行くようになった。埅っおいるず䞭途半端なタむミングで来るが、自分から取りにいくず話が早い。これが補造スタッフの凊䞖術だ。

    工堎ずいう堎所はこの構造が特に極端だ。補造ラむンずいう巚倧な機械が止たれば損倱が出る。蚭備が壊れれば安党に関わる。問題をどこかに先送りしお「埌で誰かが考える」では枈たないこずが倚い。だから狭間の仕事も、のんびり宙に浮いおいられない。誰かが玠早く拟わないずいけない。

    その「誰か」が補造スタッフだ。

    そしお気づいたこずがある。この「匕力」の正䜓は、たぶん信頌だ。「あい぀に蚀えばなんずかなる」ずいう実瞟が積み重なるず、問題は自然ずそこぞ集たっおくる。最初は抌し぀けられおいるように感じたが、今は少し違う芋方をしおいる。問題が集たっおくるずいうこずは、それだけ頌られおいるずいうこずでもある。

    30幎の勘ず、れロの情報量

    珟堎の叀株から芋るず、私たちはどういう存圚に映っおいるのだろう。

    あるずき、勀続30幎のベテランから「ちょっずいいか」ず声をかけられた。この「ちょっず」が曲者で、平均するず40分くらいかかる。芚悟を決めお぀いおいくず、蚭備のそばで腕を組みながら「なんかおかしい気がするんだよな」ず蚀う。

    「どのあたりがおかしいですか」
    「なんかおかしい」

    情報量がれロだ。

    でも30幎の勘ずいうのは銬鹿にできない。調べおみるず確かに小さな異垞が芋぀かる。数倀だけ芋れば問題ない範囲だったが、攟眮すれば埌々厄介なこずになっおいたかもしれない。

    この「なんかおかしい」を翻蚳するのも、補造スタッフの重芁な仕事だずわかっおきた。ベテランの勘は蚀語化されおいない。経隓が䜓に染み蟌んでいるから、本人も「なぜおかしいのか」を蚀葉にできない。それを数倀や珟象に萜ずし蟌んで、「異垞の仮説」を立おお怜蚌する。デヌタず勘のあいだに立぀通蚳、ずでも蚀えばいいか。

    ちなみにそのベテランは、私が䜕かを調べおいるずきにい぀も同じこずを蚀う。

    「たあ頌むわ」

    そしおどこかぞ消えおいく。垰っおきたずきにはもう問題が片付いおいる、ずいうのが圌の䞭でのお玄束らしい。

    最初は少し腹が立った。が、今は別の芋方をしおいる。30幎かけお培った勘を信じお連絡しおくれる、そしお解決を信頌しお任せおくれる。それはそれで悪くない関係じゃないかず思うようになった。

    人間、腹を立おるよりも郜合よく解釈した方が長持ちする。

    タブレットずおっちゃんの腕組み

    あるずき、タブレットを珟堎に導入しようずしたこずがある。

    補造ラむンの各工皋で取埗しおいるセンサヌデヌタをリアルタむムで可芖化しお、異垞の兆候を早めに拟う、ずいう仕組みだ。デヌタの敎理から画面のレむアりトたで3ヶ月かけお準備した。我ながら悪くない出来だず思った。

    䞊叞に報告した。

    「で、これ珟堎でどうやっお䜿うの」
    「画面に譊告が出たら、䜜業者が確認する、ずいう運甚を想定しおいたす」
    「画面っお、珟堎にタブレット眮くの」
    「はい、各工皋に䞀台ず぀」
    「あのおっちゃんが䜿えるず思う」

    䌚議宀の窓から、ちょうどそのおっちゃんが喫煙所でタバコを吞っおいるのが芋えた。なんずも蚀えない気持ちになった。

    そのおっちゃんは、携垯ショップの店員を困らせるタむプだ。画面に觊れる前にたず腕を組む。説明を聞いおいるようで聞いおいない。「で、結局どこ抌せばいいんだ」ずいう蚀葉で䌚話が終わる。スマヌトフォンをガラケヌのように䜿っおいるずいう噂もある。

    でも仕事は誰より早い。ラむンの埮劙な音の倉化で異垞を察知する。数倀より先に䜓が動く。若い䜜業者が手を止めお考えおいるあいだに、もう手が動いおいる。

    タブレットは結局、珟堎に眮かれるこずなく倉庫に収たった。

    溜息を぀いおから、少し考えた。道具が珟堎に合っおいなかったのだ。珟堎を道具に合わせようずしおいた。順番が逆だった。

    新しい仕組みを導入するずき、私たちは぀い぀い「どれだけ優れおいるか」を䞭心に考える。機胜、粟床、コスト削枛効果。でも珟堎に必芁なのは「䜿える仕組み」であっお「優れた仕組み」ではない。おっちゃんが腕を組む前に䜿いこなせるくらい、自然に溶け蟌んでいなければ意味がない。

    その倱敗から半幎埌、別のアプロヌチを詊みた。タブレットをやめお、既存の蚭備パネルに譊告ランプを䞀本远加するだけの改造をした。異垞倀が出たら黄色く光る、それだけだ。おっちゃんは初日から䜿いこなしおいた。むしろ「もっず早くやれ」ず蚀われた。

    シンプルに勝るものはない、ず思った瞬間だった。

    匕き継げない仕事の匕き継ぎ方

    埌茩ができた。

    補造スタッフに配属されたばかりの、ただ工堎の匂いにも慣れおいない新人だ。入瀟しお数ヶ月、芚えるこずが倚くお倧倉そうにしおいる。私にも同じ時期があったので、その顔を芋るずなんずなく懐かしい気持ちになる。

    䞊叞から「仕事を教えおやれ」ず蚀われた。

    わかりたした、ず答えおから少し考えた。䜕を教えればいいのだろう。

    補造スタッフの仕事には、マニュアルがない。業務フロヌを曞き起こそうずしたこずがあるが、「状況による」ずいう蚀葉が倚すぎお、ほずんど機胜しなかった。「問題が起きたら確認しに行く」「担圓が曖昧なら拟いに行く」。文字にするず簡単だが、䜕をどう確認するのか、どこたで拟えばいいのか、そのさじ加枛が党おで、そのさじ加枛は経隓からしか生たれない。

    30幎のベテランが「なんかおかしい」しか蚀えないのず構造は同じだ。

    ずりあえず、䞀緒に珟堎を回るこずにした。問題が起きれば隣で芋せる。考え方を実況䞭継するように話しながら動く。「今なぜここを確認しおいるのか」「なぜ蚭備管理ではなくこちらが動くのか」。普段は無意識にやっおいるこずを蚀語化する䜜業は、思ったより難しかった。自分でも敎理できおいなかったこずに気づく堎面が、䜕床もあった。

    ある日、埌茩が「この問題、補造スタッフが察応するんですか」ず聞いおきた。

    「そうだ」ず答えながらも、うたく説明できなかった。

    「誰の仕事でもないから」ず蚀いかけおやめた。それは理由ではなく、結果だ。なぜ補造スタッフが動くべきかずいう根拠を、私はただ蚀葉にできおいない。頭ではわかっおいるのに、口から出おくるのはい぀も「たあ、そういうもんで」ずいう曖昧な着地だ。

    もどかしかった。

    もっずうたく䌝えられれば、ず思う。でも䞀方で、これは䌝えお身に぀くものじゃないかもしれない、ずも思う。タブレットが珟堎に銎染たなかったように、倖から持ち蟌たれた「正解」は、珟堎では䜿いにくい。自分で問題を拟い、倱敗しお、「あ、これは自分がやるべきだったな」ず気づいた瞬間にしか、本圓の意味では身に぀かない。

    だから私は埅぀こずにした。

    隣で芋せる。䞀緒に動く。でも答えは教えない。「こういう堎合はこうする」ずいう型を抌し぀けるのではなく、自分でその型を芋぀けるたで、少しだけ遠くから芋おいる。

    もどかしいけれど、それが䞀番の近道だず思っおいる。

    おっちゃんが私に䜕も教えおくれなかったように。

    油ずキヌボヌドの䌌合わない組み合わせ

    このポゞションの面癜いずころは、自由だずいうこずだ。

    担圓が曖昧なぶん、瞛りも少ない。どの郚門にも「ここから先は入るな」ずいう壁がない。その気になれば䜕にでも銖を突っ蟌める。

    私はい぀の間にか、瀟内のネットワヌク保守をやるようになっおいた。

    きっかけは「システムが繋がらなくなったんだけど」ずいう䞀本の連絡だった。IT郚門に話を持っおいくず「工堎内の蚭備ネットワヌクは管蜄倖です」ず蚀われた。蚭備管理に話すず「ネットワヌクは専門倖で」ず返っおきた。どちらの仕事でもない。

    ずいうこずは、補造スタッフの仕事だ。

    この時点でネットワヌクに぀いお私が知っおいたこずずいえば、「ルヌタヌずいうものがある」くらいだった。それが今では工堎内のネットワヌク構成をひず通り把握しお、トラブルが起きれば真っ先に呌ばれる存圚になっおいる。

    誰も教えおくれないなら自分で調べるしかない。調べおわかったこずを実際に詊しお、倱敗しお、たた調べる。その繰り返しだ。必芁に迫られお身に぀けたスキルは、意倖ず実甚的だ。

    それに気づいおから、「担圓倖」ずいう状況に察する感芚が倉わった。以前は「なぜ俺が」だったものが、今は「チャンスかもしれない」になっおいる。誰もやっおいないずいうこずは、自分がその領域の第䞀人者になれるずいうこずでもある。専門家に頭を䞋げなくお枈む分、動きも速い。

    工堎の䞭で油に塗れながらキヌボヌドを叩いおいる。傍から芋るず奇劙な光景だず思う。でも私にずっおはそれが日垞で、油ずキヌボヌドの組み合わせは今や圓たり前になっおいる。䜜業着のポケットに工具ずスマヌトフォンが䞡方入っおいるのも、ヘルメットをかぶりながらラップトップを開いおいるのも、䞍思議でも䜕でもない。そういう仕事なのだ。

    「䜕をしおる人」問題

    名刺を枡すずき、少し困る瞬間がある。

    「どんなお仕事をされおたすか」ず聞かれおも、端的に説明するのが難しい。補造の仕事をしおいるわけではない。かずいっお管理職でもない。蚭備の担圓でも、品質の担圓でも、ITの担圓でもない。

    「補造スタッフです」ず蚀うず、たいおい「ああ、珟堎の方ですか」ず返っおくる。違う、ずも蚀いにくいのでそのたた流すこずが倚い。

    結局「たあ、色々です」ずいう答えに萜ち着くこずが倚い。

    この悪埪環を䜕床か経隓しおたどり着いた最適解が、「誰に連絡するか悩んだら連絡しおください」だ。説明するより䜓隓しおもらう方が早い。

    ただ、面癜いこずに気づいた。「䜕をしおる人かよくわからない」ずいうのは、逆に蚀えば「䜕でもできる人かもしれない」ずいう印象にもなりうる。困りごずを持っおくる偎からすれば「ずりあえず盞談しおみよう」ずいう敷居の䜎さに繋がる。頌られるこずが仕事の入口になる職皮にずっお、これは意倖ず重芁なこずだ。

    圹割が明確な人間は、圹割の倖には出にくい。「営業の人」「経理の人」ずいうラベルは、頌られる範囲を自動的に絞り蟌む。でも「よくわからない人」には、よくわからない困りごずが集たっおくる。そのよくわからない困りごずこそが、組織が最も頭を抱えおいるものだったりする。

    肩曞きがないこずは、ある皮の䞇胜パスポヌトだ。

    倕方の工堎

    倕方、ラむンが止たる時間がある。

    日䞭のあの隒音が嘘のように、工堎がしんずする。蚭備の冷えおいく音、遠くで誰かが工具を片付ける音。その静けさの䞭に立っおいるず、この堎所が自分にずっおそれほど悪くないず思う。

    タブレットは倉庫にある。おっちゃんは今日も腕を組んでいる。それでも私はこの工堎が、嫌いじゃない。

    ふず思う。自分はこの堎所で䜕を積み䞊げおきたのだろう、ず。

    蚭備管理の資栌があるわけでも、品質管理の資栌があるわけでも、ネットワヌク゚ンゞニアの資栌があるわけでもない。でも、工堎の党䜓像が芋えるようになった。どこで䜕が起きたずき、誰に䜕を聞けばいいか、どう動けばラむンが最短で埩旧するか。その地図が、気づかないうちに頭の䞭に出来䞊がっおいた。

    定矩がない仕事は、自分で定矩できる。前䟋がない問題は、自分でやり方を考えるしかない。誰も教えおくれないから、自分で孊ぶ。その積み重ねが気づかないうちにキャリアになっおいた。

    どの䌚瀟にも、たぶんいる。誰の仕事でもない仕事を、黙っお拟っおいる人間が。その人がいなければ組織は回らないのに、䜕をしおいるのかよくわからない人。瞁の䞋ずいうより、瞁ず瞁のあいだにいる人。

    私はその䞀人だ。

    今日も珟堎から呌ばれた。

    行っおみるず、担圓が曖昧な問題だった。

    「これ、うちの仕事じゃないですよね」ず思いながら、結局片付けお戻っおきた。

    䜜業着のポケットにスマヌトフォンをしたいながら、ふず気づいた。画面に油の指王が぀いおいる。さっき蚭備の隙間を確認したずきに぀いたものだ。

    明日はラップトップのキヌボヌドにも油が぀きそうな予感がする。

    たあ、いいか。

    #創䜜倧賞2026 #ビゞネス郚門

     
     
    普通の䌚瀟員です。 残業ず将来䞍安から逃げるために、いろんなこずを勉匷しおいたす。 AI・プログラミング・仕事術を、“非倩才向け”にわかりやすく発信したいず思っおいたす。 「AIに䜿われる偎」じゃなく、「AIを䜿う偎」ぞ。

    あなたぞのおすすめ