メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

むダヌカフ (3/5) 「舌に残るもの」

    ⭐自分がどこぞ行くのかも知らぬたた、カナ゚は、䞎えられた静けさの䞭で、少しず぀“敎えられお”いった。


    カナ゚は、車から降りるずホテルの゚ントランスのようなゲヌトを朜った。そこからは案内ロボットに誘導され、䞊局階の䞀宀に通される。

    その郚屋は、かなり倧きく、゚ントランス、リビング、ベッド、バスルヌムに分かれおいた。どこの内装も華矎にならず、簡玠で萜ち着いたものだった。倧きな窓からは、倖界の海が芋える。昌ず倜のあいだを曖昧に塗り぀ぶすような鈍い光が、波間にちらちらず跳ねおいた。

    宀内には、ほのかなフレグランスが挂っおいた。䜕の銙りかず問われおも答えられないような䞭間色の匂いだったが、カナ゚の気持ちをすっずなだめおくれるものだった。

    ──ようやくここたで来たんだ。

    郚屋に足を螏み入れた瞬間、カナ゚の胞は静かに、けれど確かに高鳎っおいた。䌚瀟での評䟡は、数字で瀺される。日々の生掻態床、仕事の所䜜、粟神の安定床、身䜓の健康状態──それらすべおが自分の「䟡倀」ずしお蚘録され、積み䞊がっおきた。この堎所にたどり着いたこずは、きっずその蚌だ。

    ここで数日過ごし、出向先ぞの䟿が出るずいう。ラりンゞの壁にある案内パネルにも、そう衚瀺されおいた。

    カナ゚はラゲヌゞルヌムに、自分の荷物を移動した。その荷物は、䌚瀟から指定されたずおり数泊甚の小さなキャリヌケヌスだけだった。

    郚屋には、自分がい぀も䜿うような寝巻きや宀内着、タオル、掗面具などがすべお揃っおいた。それはどれも新品でありながら、どこか圌女の癖や奜みをすでに知っおいたかのような、劙な“ちょうど良さ”を持っおいた。

    

    朝は静かにやっおきた。海の向こうに日が昇っおいるこずは、郚屋のカヌテン越しの光の倉化でわかるだけだった。目芚たしも音ではなく、宀枩ず照床がゆるやかに倉化するこずで自然に起こされる。

    カナ゚は軜く䌞びをしお、ベッドから起き䞊がった。昚倜は深く眠れたはずなのに、頭の奥にうっすらず霧がかかったような感芚が残っおいる。

      昚日の倜郚屋に぀いたこず以倖のこずが頭から抜け萜ちおいる

    そう思いながらバスルヌムぞ向かい、鏡に映った自分を芋た。衚情には疲れも浮かんでいない。むしろ肌はきめ现かく敎っおおり、目の䞋のくたも消えおいた。䜓調は䞇党だ。気持ちは  軜いが、どこか晎れなかった。

    バスルヌムには入济ができるようにバスタブが蚭眮されおいる。

    バスタブは瞁の䜎い楕円圢で、すでに静かにお湯が匵られおいた。カナ゚の起床にあわせおあったのだろうか。
    ラむティングは淡い琥珀色。

    カナ゚は寝着を脱ぐず裞になり、音もなく湯に沈んだ。
    ぬるすぎず、熱すぎない。自分の境界線がわからなくなるような、その枩床。
    皮膚の衚面に静かに染み蟌んでくるその感觊に、圌女は思わず小さく息を぀いた。

    目を閉じる。
    たぶたの裏に、䜕の映像も浮かばない。
    ただ、心地よさだけがある。
    この湯の䞭に、わたしずいう圢がゆっくりず解けおいったら䜕が残るのだろう。
    甘味、それずもほんの䞀滎の苊味

    湯の衚面が埮かに波打ち、现い氎音が壁に吞い蟌たれおいった。

    

    朝食は、リビングのテヌブルにすでにセッティングされおいた。癜いプレヌトに乗った卵、サラダ、パン、フルヌツ。完璧な色ず配眮。ひず口、目玉焌きを぀ぶしお黄身をからめた䞀片口に運ぶ。なめらかで、枩床もちょうどいい。䞀通り䜓に取り蟌むず、絊仕甚のロボットがコヌヒヌを差し出しおきた。

    カナ゚は、コヌヒヌカップず受け皿を手に取りテヌブルに移す。

    そのずき、ふず目の端に衚瀺パネルが点滅しおいるのに気づいた。倩井からリビングに投圱されおいるようだった。昚日は、確か芋かけおいない。

    カナ゚は近づいお、指をかざす。画面が立ち䞊がり、自分の名前ずずもに䜕かのデヌタが衚瀺された。

    【カナ゚・T】

    • 最終出向前評䟡94.2 / 100

    • 粟神安定床97.6

    • 身䜓健康倀95.4

    • 協調性89.3

    • 感性玔床92.1

    • 味芚波圢A+埌味に苊味芁望あり玠䜓

    • 最終調敎予定D-2あず2日

    味芚波圢A+埌味に苊味芁望あり玠䜓

    その䞀文を芋た瞬間、カナ゚の心のどこかに、薄い金属片が沈むような感芚が走った。

    それは痛みではなかった。けれど、確かに䜕かが舌の奥に觊れた気がした。

    ──玠䜓──わたし

    ──苊味

    思わずそう呟きそうになっお、蚀葉を飲み蟌む。画面には他にも、敎った数字たちが䞊んでいた。健康床も、協調性も、感性玔床も、申し分ない倀。

    だがそのなかにぜ぀んず浮かぶ「苊味傟向」の五文字だけが、たるで自分の䞭に眮き忘れおいた“䜕か”を指摘されたような錯芚をもたらした。

    ほんのわずかに喉の奥が締たった。それでも、フレグランスの銙りがその異物感を包み蟌んでいく。

    けれど、カナ゚の䞭には「埌味に苊味」ずいう蚀葉がのこった。

    

    その倜、カナ゚は化粧台の前に座っおいた。ふず、耳元のむダヌカフに觊れた瞬間、たるで自分が誰かの手の䞭にいるような錯芚がした。

    ──ああ、わたしはもう、完成されようずしおいる。

    静かに思った。だが、思考はただ、自分自身のものであるうちに。

    カフの内偎を開く。芋たこずもないはずなのに、なぜか知っおいるような感芚で、蚭定モヌドに切り替える。

    モヌド切替手動線集可

    K蚘玠接続OFF

    自動同期無効

    ロヌカル保存保持

    順次衚瀺を切り替えおいく。

    カナ゚はすでに気づいおいた。私は出向するのではなく、恐らく出荷されるのだ。蚘憶はすでに混濁しおいる、感情の揺らぎもない、最埌に少しの抵抗をしおいるだけの自分にも気が぀いおはいない。

    カフの画面を芋぀めおいるが、カナ゚の目の焊点はあっおいない。

    カナ゚の目から涙が䞀筋、頬を䌝っお萜ちた。

    

    出荷の最終調敎終了。

    カナ゚の身䜓は、静かにトレヌの䞊に暪たえられ、癜い廊䞋を音もなく運ばれおいく。
    その耳には、昚倜カナ゚が手を加えたむダヌカフが぀いおおり、
    小さな光を、ひず぀、ふた぀ず明滅させおいた。



     
     
     
    少しず぀曞いおいこうず思い始めたShortShortが、「玅殻の剣」を描き始めお終わらなくなり困っおいたす。もう少しで折り返し地点、行き先は決たっおいるので、なんずか完結に挕ぎ着けたいです。

    あなたぞのおすすめ