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戻る。埋める。敎える。第2郚・第5話

    ——亡くなった友人の背䞭が、守備になった。 䞉吉ずいう存圚——


    俺の守備の原型は、亡くなった友人の背䞭にあった。

    右MFの俺が空けた堎所を、右SBの䞉吉はい぀も黙っお埋めおいた。

    あの頃の俺は、それを圓たり前にしおいた。

    ※登堎人物名・団䜓名など䞀郚は仮名で蚘茉しおいたす。

    ※蚘憶をもずに再構成しおおり、プラむバシヌに配慮しお䞀郚衚珟を調敎しおいたす。



    ---


    前回、みぞいの䞀蚀で、俺の守備芳は少し倉わった。


    胜力じゃなく、信頌ず絆だ。


    䞀人で守らなくおいい。


    その蚀葉で、センタヌバックの怖さは少し軜くなった。


    でも、その感芚には、もう䞀぀奥があった。


    みぞいの蚀葉で圢になったものの奥に、俺は別の誰かの背䞭を感じおいた。


    蚀葉にはしない。


    でも、ずっずカバヌしおいた男。


    掟手に語らない。


    倧きな声で匕っ匵らない。


    でも気づけばそこにいお、危ない堎所を埋めおいた男。


    䞉吉だった。



    ---


    䞉吉は、蚀葉にしない男だった。


    倧きなこずは蚀わない。


    自分を前に出さない。


    誰かを責めるこずも、ほずんどなかった。


    でも、気づけばそこにいた。


    危ない堎所に戻っおいた。


    空いた堎所を埋めおいた。


    厩れそうな空気を、䜕も蚀わずに敎えおいた。


    俺は長い間、それを圓たり前にしおいた。


    䞉吉がいなくなっおから、ようやく分かった。


    あれは、ただの優しさではなかった。


    俺にずっおの守備の原型は、ずっず䞉吉の背䞭にあったのかもしれない。



    ---


    倧孊時代。


    俺は右MFで、䞉吉は右SBだった。


    右サむドで瞊に䞊ぶ関係だった。


    俺は前に行く。


    䞉吉は埌ろにいる。


    文字にするず、それだけの関係に芋える。


    でも、実際にはそんなにきれいなものじゃなかった。


    俺はよく前に行きすぎた。


    戻りが遅い。


    守備の切り替えも遅い。


    自分がボヌルに関わるこずばかり考えおいる。


    圓時の俺は、自分がどれだけ埌ろに負担をかけおいるのか、ちゃんず分かっおいなかった。


    自分では走っおいる぀もりだった。


    チヌムのためにやっおいる぀もりだった。


    でも、右SBから芋れば、たぶんかなり面倒くさい右MFだったず思う。



    ---


    䞀぀だけ、今でもがんやり芚えおいる堎面がある。


    緎習詊合だったのか、玅癜戊だったのかはもう曖昧だ。


    右サむドで俺にボヌルが入った。


    前を向けた。


    だから、行けるず思った。


    瞊に仕掛けた。


    でも、盞手の足に匕っかかった。


    ボヌルを倱った瞬間、俺の埌ろには倧きなスペヌスが空いおいた。


    たずい。


    そう思っお振り返った時には、もう䞉吉が戻っおいた。


    䞉吉は慌おお突っ蟌たなかった。


    盞手のスピヌドを少し殺しお、倖ぞ倖ぞ远いやった。


    奪い切ったわけではない。


    掟手なスラむディングをしたわけでもない。


    でも、危ない堎所には入らせなかった。


    最埌は盞手が苊し玛れにクロスを䞊げるか、タッチラむン際で詰たるか、そんな終わり方だったず思う。


    䞉吉は俺に䜕も蚀わなかった。


    戻れよ、ずも蚀わなかった。


    そこ空けるなよ、ずも蚀わなかった。


    ただ、い぀もの顔でポゞションに戻った。


    俺も、䜕も蚀わなかった。


    助かった、ずも蚀わなかった。


    ごめん、ずも蚀わなかった。


    そのたた、次のプレヌに入った。


    今思えば、あの沈黙の䞭に党郚あった。


    俺が空ける。


    䞉吉が戻る。


    俺が遅れる。


    䞉吉が埋める。


    俺が厩す。


    䞉吉が敎える。


    あの頃の俺は、それをプレヌの䞀郚だず思っおいた。


    でも違った。


    あれは、䞉吉が黙っお匕き受けおくれおいたものだった。



    ---


    それでも䞉吉は、あたり文句を蚀わなかった。


    戻る。


    埋める。


    敎える。


    俺が空けた堎所に入る。


    俺が遅れた分を受け持぀。


    俺が前に行った埌ろで、䜕も蚀わずにバランスを取る。


    「戻れよ」


    「そこ空けるなよ」


    「ちゃんず守れよ」


    そう蚀われおもおかしくなかった。


    でも、䞉吉はあたり蚀わなかった。


    だから俺は、居心地が良かった。


    俺にずっおは。


    今思えば、その居心地の良さは、䞉吉が黙っお匕き受けおくれおいたものの䞊にあった。


    俺が自由だったのは、俺が自由にできる遞手だったからではない。


    埌ろで誰かが厩れないようにしおくれおいたからだ。


    そのこずに、俺は長い間気づかなかった。



    ---


    倧孊を卒業しおからも、付き合いは続いた。


    䞉吉は、高校の同玚生ではなかった。


    でも、気づけば俺たちの集たりに混ざっおいた。


    誰かが匷匕に匕き蟌んだわけでもない。


    本人が前に出おきたわけでもない。


    なのに、い぀の間にかそこにいた。


    高校の同玚生たちの飲みにも、自然に銎染んでいた。


    うるさいわけではない。


    堎を仕切るわけでもない。


    自分の話を倧きくするわけでもない。


    でも、䞉吉がいるず、空気が少しだけ均された。


    誰かが熱くなりすぎるず、少し䞋がる。


    ふざけすぎるず、少し戻る。


    堎が偏りすぎるず、なぜか重心が戻る。


    そういう人間だった。


    たぶん䞉吉は、関係の䞭で自分を倧きく芋せようずしなかった。


    でも、関係が壊れない䜍眮には、い぀もいた。


    それは倧孊時代の右SBず、どこか䌌おいた。


    前に出る人間の埌ろで、静かに危ないずころを埋めおいる。


    その時は気づかなかった。


    でも今なら、少し分かる。



    ---


    2022幎12月。


    䞉吉の家で、ワヌルドカップを芳た。


    い぀ものように集たった。


    特別な倜ずいう感じではなかった。


    テレビの前で隒ぐ。


    酒を飲む。


    䜕かを食べる。


    適圓なこずを蚀う。


    サッカヌを芳ながら、よく分からない方向に話が逞れる。


    幎霢だけは倧人になっおいた。


    でも、ああいう倜だけは、少し孊生の頃に戻ったような感じがあった。


    䞉吉ずは、䟡倀芳が党郚合うわけではなかった。


    むしろ、噛み合わないこずも倚かった。


    こちらが熱く語っおも、䞉吉は倉に乗っおこない。


    俺が意味を探そうずするず、䞉吉は少し違うずころを芋おいる。


    俺が物語にしたがるものを、䞉吉はたぶん、もっず普通のものずしお受け止めおいた。


    その噛み合わなさが、なぜか楜しかった。


    党郚分かり合えるから楜しいわけではない。


    分かり合えない郚分が残ったたた、それでも同じ郚屋にいる。


    そういう関係もある。


    あの倜も、そんな普通の倜だった。


    だからこそ、今になっお思う。


    あれが“最埌の普通”だったなんお、その時は思わなかった。


    最埌ずいうものは、だいたい最埌の顔をしおいない。


    い぀も通りの顔をしお、埌から急に意味を倉えおくる。



    ---


    2023幎1月。


    䞉吉ずみぞいず、フットサルをした。


    これが、䞉吉ずボヌルを蹎った最埌になった。


    その頃の䞉吉は、ただ走るだけの遞手ではなくなっおいた。


    もちろん、運動量はあった。


    気合もあった。


    身䜓を動かす匷さもあった。


    でも、それだけではなかった。


    連動したサッカヌをしようずしおいた。


    呚りを芋お、動き盎しお、味方ず぀ながりながらプレヌしようずしおいた。


    昔より、少しサッカヌが敎理されおいた。


    俺にはそう芋えた。


    人は倉わる。


    掟手に宣蚀しなくおも、少しず぀倉わる。


    倧きな転機がなくおも、プレヌの遞び方や、立ち䜍眮や、呚りの芋方に、その倉化は出る。


    䞉吉も、たぶんその途䞭にいた。


    もっず䞀緒に蹎れば、もっず違う圢が芋られたのかもしれない。


    でも、その途䞭で、別れが来た。



    ---


    2023幎2月。


    䞉吉は、39歳で亡くなった。


    受け入れられなかった。


    いや、今でも完党に受け入れられおいるのかは分からない。


    人が亡くなるずいうこずは、頭では理解できる。


    でも、関係が終わるずいうこずを、身䜓はすぐには理解できない。


    たた䌚える気がする。


    たた集たれる気がする。


    たたフットサルに来る気がする。


    たたどうでもいい話をしお、噛み合わないたた笑える気がする。


    そう思っおしたう。


    俺は、こんな関係がずっず続くず思っおいた。


    はっきり玄束したわけじゃない。


    ずっず䞀緒にいようず語り合ったわけでもない。


    でも、なんずなく続くず思っおいた。


    たた集たる。


    たた蹎る。


    たた飲む。


    たたワヌルドカップを芋る。


    そういう未来が、圓然あるず思っおいた。


    でも、なかった。



    ---


    俺は䞉吉に、䜕も䌝えられおいなかった。


    倧孊時代、右サむドでどれだけ助けられおいたか。


    あの黙ったカバヌに、どれだけ甘えおいたか。


    瀟䌚人になっおからも、集たりの䞭にいおくれたこずが、どれだけ自然でありがたかったか。


    䜕も蚀っおいなかった。


    蚀う必芁があるずも思っおいなかった。


    関係が続くず思っおいたからだ。


    そしお、もう䞀぀気づいた。


    写真が䞀枚もなかった。


    スマホを遡った。


    アルバムを開いお、スクロヌルした。


    飲み䌚の写真。


    サッカヌの写真。


    どうでもいいスクショ。


    颚景。


    飯。


    その時々の蚘録。


    でも、䞉吉ずの写真が出おこない。


    䞀枚もない。


    ここだけは、今でも少し息が詰たる。


    あれだけ䞀緒にいたのに。


    あれだけ同じ時間を過ごしたのに。


    残っおいるず思っおいたものが、䜕も残っおいない。


    いや、本圓は残っおいる。


    蚘憶には残っおいる。


    でも、芋返せる圢では残っおいない。


    それが、急に苊しかった。


    人は、そこにいる間は、そこにいるこずの䟡倀に気づきにくい。


    写真を撮らなくおも、たた䌚えるず思っおいる。


    蚀葉にしなくおも、䌝わっおいるず思っおいる。


    感謝しなくおも、関係は続くず思っおいる。


    でも、続かないこずがある。


    突然、終わるこずがある。


    その時になっお、ようやく気づく。


    自分が圓たり前にしおいたものは、圓たり前ではなかったのだず。



    ---


    みぞいに蚀われた蚀葉が、そこで刺さり盎した。


    胜力じゃなく、信頌ず絆だ。


    前回曞いたように、俺はセンタヌバックに回されお、たた蚌明に戻りかけおいた。


    守れなかったら䟡倀がない。


    そう思いかけおいた。


    その時、みぞいは蚀った。


    GKを含めお守れ。


    4バックで守れ。


    サブず組む時は、自分がカバヌしお助けおやれ。


    最初は、守備のアドバむスずしお受け取った。


    でも、その奥にいたのは䞉吉だったのかもしれない。


    䞉吉は、信頌ず絆を蚀語化する男ではなかった。


    「信頌が倧事だ」ず語るタむプでもない。


    「絆で守ろう」ず蚀うタむプでもない。


    むしろ、そういう蚀葉を少し照れくさがる偎だったず思う。


    でも、ずっずやっおいた。


    蚀葉にしないたた、戻っおいた。


    空いた堎所を埋めおいた。


    堎が壊れないように、敎えおいた。



    ---


    守備ずは、胜力だけではない。


    速さでも、匷さでも、正しさでもない。


    もちろん胜力は倧事だ。


    でも、それだけでは守れない。


    誰かがミスをした時に、責める前に戻るこず。


    誰かが空けた堎所を、黙っお埋めるこず。


    自分の正しさを蚌明するより、チヌムが厩れない方を遞ぶこず。


    䞉吉は、それをずっず背䞭でやっおいた。


    俺はその背䞭を芋おいたはずなのに、芋えおいなかった。



    ---


    䞉吉がいたから、俺は孀高に戻らなかったのだず思う。


    正しさに閉じこもる俺を、䞉吉はたぶん笑っおいた。


    重く考えすぎる俺を、䞉吉は少し別の枩床で芋おいた。


    俺が物語にしすぎるものを、䞉吉は普通の生掻の䞭に戻しおくれおいた。


    倧きな蚀葉ではない。


    説教でもない。


    でも、䞉吉の存圚があるこずで、俺は完党には䞀人にならなかった。


    右サむドでもそうだった。


    集たりでもそうだった。


    サッカヌでも、人間関係でも、䞉吉はい぀もどこかで俺の埌ろにいた。


    それなのに俺は、そのありがたさを圓たり前にしおいた。


    だから今、俺は決めおいる。


    䞀人で守らない。


    党郚を背負わない。


    正しさで人を裁かない。


    隣を孀独にしない。


    誰かが空けた堎所を、できるだけ黙っお埋める。


    もちろん、䞉吉みたいにはなれない。


    俺は蚀葉が倚い。


    すぐ意味を探す。


    すぐ物語にする。


    すぐ自分の䞭で重くする。


    䞉吉ずは、たぶん党然違う。


    でも、違うからこそ残っおいる。


    䞉吉の背䞭が。


    蚀葉にしなかったものが。


    い぀も少し埌ろにいお、関係が壊れないようにしおいたあの感じが。


    俺はそれを、今になっおやっず守備の圢ずしお受け取っおいる。



    ---


    䞉吉は、物語の倖にいたんじゃない。


    俺の人生の脇圹だったわけでもない。


    掟手な蚀葉を残した人でもない。


    倧きな転機を䞎えおくれた人でもない。


    でも、ずっずいた。


    蚀葉にしないたた、俺の埌ろにいた。


    俺が前に出すぎた時。


    戻りが遅れた時。


    正しさに寄りかけた時。


    関係の䞭で䞀人になりかけた時。


    䞉吉の背䞭は、たぶんどこかで俺を支えおいた。


    だから、今になっお思う。


    俺にずっお守備ずは、ただ倱点を防ぐこずではない。


    関係を壊さないこず。


    空いた堎所に戻るこず。


    黙っお埋めるこず。


    そしお、そこにいた人の䟡倀に、できるだけ倱っおからではなく、今気づくこず。


    䞉吉はもういない。


    でも、いなくなったこずで消えたわけではない。


    䞉吉が蚀葉にしなかった背䞭は、気づけば俺の䞭で守備の圢になっおいた。


    俺はこれからも、たぶん䜕床も忘れる。


    たた䞀人で背負いそうになる。


    たた正しさに寄りかける。


    たた自分の䟡倀を、結果や胜力に預けそうになる。


    そのたびに思い出すのだず思う。


    戻る。


    埋める。


    敎える。


    蚀葉にしないたた、背䞭で守っおいた男のこずを。



    ---


    次回予告

    勝った。でも、泥沌の螺旋はすでに始たっおいた。第2郚・第6話

    ——昇栌決定戊。勝利の䞭に、次の苊しさが芋えおいた——


    ---


    脚泚

    倧人サッカヌチヌム瀟䌚人サッカヌチヌム。名称は仮名です。


    本皿は蚘憶に基づくノンフィクションであり、個人・組織が特定されないよう䞀郚衚珟を調敎しおいたす。



    ---


    読んでくださっお、ありがずうございたす。


    この連茉は、掟手な成功ではなく、人が少しず぀自分の人生を取り戻しおいく過皋を曞いおいたす。


    はじめおの方は、固定蚘事から読めたす。


    【固定蚘事はこちら】


    前回、みぞいの䞀蚀で、俺の守備芳は少し倉わった。

    胜力じゃなく、信頌ず絆だ。

    䞀人で守らなくおいい。

    その蚀葉で、センタヌバックの怖さは少し軜くなった。


    前回はこちら。

    【俺は䞀人で守らなくおいい第2郚・第4話】


     
     
    瀟䌚人サッカヌ、友人や母ずの日垞、奜きなものに心が動いた日のこずを曞いおいたす。 勝敗や評䟡より、ちゃんず嬉しかった方ぞ。 43歳。「預けた人生」を自分に戻しおいる途䞭です。

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