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【長線ファンタゞヌ小説】氎底の珠宝#7

    あらすじ

    成人の儀匏で、村の泉で身を枅めた矎倜の顔にあざが珟れた。あざは穢れのしるしず恐れられ、村で暮らせなくなった矎倜は幌銎染の蒌甫ず隣町の神官槻圊の元を蚪ねる。槻圊は氎韍の話をし、郜を治める氎の巫女に䌚いに行くよう助蚀した。そしお、あざは䟝代のしるしであるず語った。守衛の磐圊に案内され蚪ねた瀟殿で、氎の巫女は村が氎に沈むかもしれないず矎倜に告げ、衝撃を受けた矎倜は湖に向かう。雚の湖に氎韍が珟れ、䟝代は韍たちず話せるだけで、顔にあざが珟れた矎倜にはその重みに耐えうる魂がある、村に垰るようにず矎倜に告げる。


    二人は村に戻る前に再び町に立ち寄り、叔父倫婊ず槻圊぀きひこを蚪ねた。手玙の瀌を䌝え、郜での出来事ず、村に戻るこずを報告するためだった。
    朚々の青々ずした若葉が陜射しず戯れるように揺れ、鳥たちは楜しげに声を亀わしおいた。蒌甫は叔父ず叔母に隌人の近況を䌝えお、郜の土産の干菓子ひがしを枡した。矎倜はもうあざを隠しおいなかったから、叔父も叔母も少し驚いた様子だったけれど、叔母は矎倜に優しく声をかけた。

    「もう倧䞈倫なのかい二、䞉日泊たるなら、今床は四人で食事をしながら、ゆっくり話を聞かせおもらいたいもんだね」

    「ありがずうございたす。ぜひそうしたいです」

    「明日は神官の槻圊のずころに行きたす。叔父さん、叔母さん、本圓にありがずう」

    蒌甫は深く頭を䞋げた。

    その晩は、楜しい倜ずなった。叔父はずっおおきの食材を甚意し、叔母が腕を振るった。倧盛りの癜い飯に、野菜ず肉がたっぷりず入った汁、川魚に挬物ず、小ぶりな枇杷の実も䞊んだ。立ち䞊る味噌の銙りが皆の箞をすすめ、腹が満たされるほど、口も滑らかになった。叔父ず叔母は二人の話に目を䞞くし、叔父は村に垰る決断を喜んだ。

    「村では倧倉なこずも倚いだろうが、分かっおくれる人はきっずいる。二人でなら倧䞈倫だな」

    矎倜はその晩初めお、頭の䞭で槻圊に話しかけた。

    『郜から戻りたした。氎の巫女ず䌚っお、韍の声を聎いた  。明日䌚いに行きたす』

    『  あい分かった』


    ◇


    ただ凛ずした朝の空気が残る時刻に、二人は槻圊の元ぞ向かった。空は青く、頬に圓たる颚が心地よい。鳥居をくぐるず神域の空気は冷たく感じたけれど、もう矎倜の背䞭に寒気が走るこずはなかった。螏みしめた足から空に向かっお自分がどこたでも広がっおいくような感芚を芚えた。

    槻圊は蒌甫が以前蚪れたずきず同じように、簡玠な装束で井戞を磚いおいた。槻圊は二人に背を向けたたた、声をかけた。

    「埅っおいたぞ。そこで少し埅ちなさい」

    入念に井戞を磚いた槻圊は、それが終わるず、振り返った。

    「氎の巫女ずはあたり話せなかったのだな。わたしもあれから瀟やしろの奥に眠っおいた曞物を匕き、氎韍のこずを調べた。入りなさい」

    そう蚀っお小屋に二人を招いた。郚屋の隅にはたくさんの曞物や巻物が重ねられおいた。

    「氎韍は黒くお、この倩井の韍ず䌌た姿をしおいた」

    矎倜は倩井の韍の絵を眺めながら぀ぶやいた。

    「曞物によれば、氎韍は土ず氎を操り、その姿を珟すそうだ。その日は雚が降っおいただろう」

    「氎韍は足に茝く珠を持っおいお、雚がやむず、それが月になった」

    「韍たちは氎のある堎所に棲んでいる。だが、もずをただせばこの土地を巡る倧きな流れに連なっおいるのであろう。珠が月に倉わるなら、月が䞀぀であるように、韍たちも根ではたた䞀぀に぀ながっおいるずいうこずかもしれぬな」

    槻圊は広げた巻物を指し瀺しながら続けた。

    「あざは氎にも反応するが、䟝代よりしろの心の動きでも倉化するらしい。自分からも人からも芋えぬ堎所にあざがあれば、己の心を知るこずも難しい。だが矎倜、お前は自分からは芋えぬが人から芋える堎所にあざがある。人の目にさらされながら、己の心を埋しなくおはならない。お前は手鏡を持っおいるか」

    「村に倧きな銅鏡が䞀぀あるけど、私は持っおいたせん」

    「そうか、ではお前にこれをやろう」

    そう蚀っお槻圊は懐から、薄い玫に銀の氎王の刺繍が入っおいる垃に包たれた䞀枚の小さな銅鏡を出すず、それを矎倜に枡した。

    「心が乱れたずきは、その鏡であざを確認するずいい。己の心の動きずあざの倉化を泚意深く芋れば、おのずず自分のすべきこずもわかっおくるだろう」

    「ありがずう。自分の心を芋倱わないようにしたす」

    「手助けが必芁ならたたい぀でも来なさい」 


    ◇


    叔父の家に数日滞圚したあず、村に着いたのは小雚の降る倕暮れだった。薄暗い田んがのあちらこちらでカ゚ルが鳎いおいる。二人は連れ立っお村長むらおさの家に向かい、村を出おからの出来事をすべお話した。そしお二人で村の倖れに氎韍を祀る小さな瀟を建おそこで暮らすこず、若い嚘たちのために泉ぞの道を敎備する぀もりであるこずを長に䌝えた。

    「二人ずも無事で䜕よりだ。村の嚘たちのために道を敎えるこず、わしが皆に代わっお瀌を蚀おう。だが、本圓に倧倉なのはこれから先かもしれんぞ」

    「わかっおいたす。だからわたしたちは自分の生たれた家には戻らない。村の人が皆すぐにわかっおくれるずも思いたせん。このあざが珟れたせいで蟛いこずはたくさんあったけれど、町や郜でいろんな人を芋お、芋知らぬ人に助けられた。わたしが人を守る番です」

    ほんの少し悲しみを含んだ矎倜の目には、もう埌には匕かない決心があった。蒌甫は長に頌んだ。

    「新しい瀟を建おるたで、空き家を䜿わせおください。旅の途䞭で貯めたお金も少しならある。しばらくの間道づくりの手助けをしおくれる磐圊いわひこずいう人が䞀人、郜から来たす」

    「そうか。泉ぞの道の近くに䞀軒、広い空き家がある。そこを䜿いなさい。手を貞しおくれる者は客人だ。工事が終わるたではわしが食べ物を工面しよう」


    ◇


    村長の家を埌にするず、矎倜ず蒌甫はそれぞれの䞡芪の元ぞ向かった。矎倜の家のそばに怍えられた暫の朚の暪にある小さな窓から、行灯あんどんの灯りがもれおいた。

    「矎倜です」

    䜕よりも䞡芪の顔を芋るのが怖かった。自分のあざのせいで小さくなっお暮らしおいる人たち。――静かに扉が開いた。

    「矎倜  」

    今にも泣きそうな顔で母は矎倜の名を呌び、その䜓を匷く抱きしめた。声を出さずに二人は泣いおいた。霧雚が二人を柔らかく濡らした。郚屋の奥にいた父芪が、衚情を倉えずに矎倜を郚屋に入るよう促した。

    「無事だったか。お前が出お行っおからずっず、自分の䞍甲斐なさを恥じおいた。お前を守っおやれなくお悪かった。よく垰っおきたな」

    「お父さん、お母さん、ごめんなさい。わたしはもう逃げたせん。村の女の子たちのために泉ぞの道を敎える」

    「そうか  。今たでの話を聞かせおくれるか」

    矎倜は䞀晩䞭䞡芪ず話をした。矎倜ず母はたたったものを吐き出すように思い切り泣いお、少しだけ笑った。父はそんな二人を柔らかなたなざしで眺めた。


    ◇


    二人が泉ぞの道のそばの空き家に䜏たいを移した日の倜、矎倜は泉ぞ向かった。その日も満月だった。蒌甫は仮の䜏たいに残り、生掻するために郚屋を敎えおいた。

    泉ぞの道は暗く、矎倜は歩きながらあの、あざができた倜のこずを思い出しおいた。今たで儀匏を行った嚘たちも同じように暗い道を怯えながら歩いたのだろう。儀匏の意味も分からずに、暗く険しい道を歩くこずさえ女になるために必芁なこずだず、そんな颚に思った嚘もいたのかもしれない。


    把さかきをたどっお、泉に぀いた。玅葉に圩られた秋の泉ずは違っお、葉は月明かりに青く照らされ、呚囲は静謐な空気に包たれおいた。矎倜は泉に棲む氎韍に、道を敎える男たちが泉に近寄るこずを報告するためにここを蚪れたのだけれど、どうしたら氎韍が珟れるのか確信がなかった。以前は氎に觊れたずき氎韍の圱を芋たから、たた氎に觊れればいいのだろうか――。

    儀匏のずきに着た麻の着物に着替え、泉の氎にそっず手を觊れた。――䜕も起こらなかった。泉の氎に觊れたからあざが倉化しおいるかもしれない、ず懐から鏡を出した。鏡に反射した月の光が目に入った瞬間、泉に映る月が揺らめいた。そしお氎の䞭の月は霧のような癜い圱に包たれ、その霧は光る珠を抱く韍の圢ぞず倉化した。その姿は郜の湖で芋た氎韍よりも小さかったけれど、淡く光るその姿はこの䞖ならぬ存圚であるこずを感じさせた。

    矎倜はその月の圱を抱く癜い氎韍を芋぀め、心の䞭で唱えた。

    『泉ぞの道を敎えたす。女の子たちのために――』

    霧の氎韍は呌吞するように䞀床倧きく膚らみ、あたり䞀面が癜い霧に包たれた。そしおその癜い茪郭はそのたた闇に溶け、霧は薄れおいった。空には満月が䜕事もなかったような顔をしお浮かび、矎倜の手鏡ず泉にはその月が映っおいた。


    ◇


    梅雚も明けようずしおいた。道を敎えるために汗をかきながら草を刈っおいる二人の耳に、長ずずもに珟れた磐圊の倧きな声が響いた。

    「やっおいるなこれからは俺が手䌝う。そう時間はかかるたい」

    矎倜は顔をあげ、笑顔で答えた。

    「ありがずう磐圊わたしたちの村ぞようこそ」


    了


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