
「フォロワー0の配信者」
深夜2時。
コンビニ帰りの夜風が、やけに冷たかった。
高校二年の相沢 湊(あいざわ みなと)は、スマホの画面を見ながらため息をつく。
配信終了。
視聴者数、0人。
今日で18日連続配信だった。
「……はは」
乾いた笑いだけが出る。
ゲーム配信。雑談。ショート動画。
できることは全部やった。
それでも、誰も来ない。
通知欄は静かなまま。
SNSを開けば、同年代の配信者たちが笑っていた。
「登録者1万人突破!」「初収益きた!」「夢だった配信一本で生活します!」
その投稿を見るたび、胸の奥がズキッと痛む。
スマホをポケットにしまい、湊は夜道を歩いた。
「向いてなかったのかな」
その言葉が、最近ずっと頭から離れない。
翌日。
学校でも、頭の中は配信のことばかりだった。
昼休み。
クラスメイトが楽しそうに話す横で、湊は一人スマホを見る。
再生数12。
昨日より少ない。
「また編集変えるか……」
小さくつぶやいた時だった。
「それ、面白い?」
声をかけてきたのは、隣の席の女子、白石 結月(しらいし ゆづき)だった。
「え?」
「その配信。君が楽しそうじゃない」
心臓が少し跳ねる。
結月は、クラスでも静かなタイプだった。
でも時々、妙に核心を突くことを言う。
「いや、別に……」
「伸びることばっか考えてる顔してる」
図星だった。
湊は言い返せない。
結月はスマホ画面を覗き込みながら言った。
「“誰かに見てもらう”って、 意外とバレるよ」
「……じゃあ、どうすればいいんだよ」
すると結月は、少しだけ笑った。
「“誰か1人に届ける”なら、 見え方変わるかもね」
その夜。
湊は配信タイトルを変えた。
【誰も来なくても、今日も話す】
半分ヤケだった。
どうせ誰も見ない。
そう思って、マイクを入れる。
「こんばんは」
いつものように、静かなスタート。
でも数分後。
画面右上に、数字が出た。
視聴者 1
湊は思わず固まる。
すぐ消えると思った。
でも、消えなかった。
コメントが流れる。
『なんかタイトル気になった』
心臓がドクンと鳴る。
たった一人。
でも、初めて“誰か”がいた。
湊は少しだけ笑って言った。
「……来てくれて、ありがとう」
その瞬間だった。
なぜか、涙が出そうになった。
そこから、急に人気者になったわけじゃない。
視聴者1人の日もあった。3人の日もあった。
でも、少しずつ変わった。
「今日学校しんどかった」「この配信落ち着く」「また来ます」
そんなコメントが増えていった。
湊は気づく。
数字だけを追ってた時より、今の方がずっと楽しい。
深夜2時。
コンビニ帰りの風は、相変わらず冷たい。
でも、スマホの通知が小さく鳴った。
『今日も配信待ってます』
湊は立ち止まり、少しだけ空を見上げる。
そして、静かに笑った。
「……もう少しだけ、やってみるか」