創作大賞2026応募作品『砂丘の竪琴』夢と無意識が語りかける物語⑥涙|夢日記|夢分析|ユング心理学|無意識|深層心理|HSP|トラウマ|イメージワーク|AIアート|前世|小説|ラノベ|プロトタイプ神話|物語|ファンタジー
※本投稿は
創作大賞2026応募作品
『砂丘の竪琴』
夢と無意識が語りかける物語⑤
の続きです。
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前回の投稿はこちら▼
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ぜひ併せてお読みください。
小さな違和感
初めはほんの些細なきっかけだった。
これまでどこに行っても
熱狂的な歓迎を受けていたリオーだったが、
ある時から小さな違和感
を感じるようになった。
最初に感じたのは
日常的によく接していた
砂丘の竪琴の運び役や警護役たちだ。
急に態度がぎこちなくなったのだ。
リオーと向き合う時、
探るような視線や
含みのある言葉を感じる。
これまでは感じなかった
かすかにゆがんだ笑顔も増えた。
その視線や言葉の裏に、
これまでには無かった
男性特有の雄の気配が漂う気がして、
リオーは胸の奥がざわついた。
一番、信頼関係がある
警護役長に聞いてみると、
陰湿に広がりつつあったうわさ話が
原因らしいことが分かった。
最初は気にしていなかったが、
そのうち間接的にも
耳に入るようになった。
リオーが初めから
王や大臣のお気に入りだったのは
身体を売って取り入ったからだ。
所詮、市井の楽師に過ぎない。
そういうやり方はお手の物だろう。
一介の楽師だった頃に
まやかしの法や
魔性の術を覚えたらしい。
リオーが演奏を始めると
竪琴が光り出すのは、
幻惑の魔法によるものだ。
気を付けた方がいい。
などなど。
全くリオーには身に覚えのないのに、
気が付いた頃には
その噂は隠微に広がっていて、
もはや打ち消すのは至難であると
竪琴の警護長は困ったように言った。
リオーは困惑したが
所詮、根も葉もないうわさ話に過ぎない。
自分に非は無いのだから、
堂々としているしかない。
警護役長のように、
私を心から信頼してくれる人もいる。
そう思うと背筋が伸びた。

しばらくすると
久し振りに大臣から呼び出された。
そういえば最近は遠隔地に
演奏に出ることは増えていたが、
王や大臣から砂丘の竪琴の演奏を
請われることが無くなっていた。
大臣室に向かうと、
やんわりと遠隔地への演奏は
しばらく控えるようにとの指示だった。
民からの演奏依頼は
ひきりなしに続いているのに。
何故ですか?
そう問おうとして
いったん、口をつぐんだ。
恐らく警護役長の言っていた
うわさ話が宮廷の上部まで
届いているのだろう。
本当は、
そんなはずありません!と
声を大にして否定したかった。
でもこの指示が本当に
うわさ話のせいなのか分からない。
急激に湧きあがった気持ちを
落ち着かせて答えた。
ーかしこまりました。
ー演奏会の要望は多く、
今も続いております。
また再開できますよう
お力添えをよろしくお願いいたしします。
とだけ伝え、
お辞儀をして退室する。
そのため、その日
久し振りに空きの時間が持てた。
数か月ぶりの空白の時間だった。
思えば竪琴の下賜が決まってから、
怒涛のような毎日だったと、
リオーは、ふと思った。
1人きりの演奏会
遠方への遠出のために
下準備が必要なことが多く、
以前からリオー用にあてがわれた
宮殿内の専用の小部屋に向かう。
歩きながら、ぼんやりと、もしかして、
自分は何かを見落としているのではないか。
と思ったが、その答えは浮かんでこなかった。
小部屋の入り口には
警護役長が見張りに立っている。
目だけを交わし合い、
リオーは小部屋に入っていった。
そこには砂丘の竪琴が用意してあった。
窓からの光に照らされて
竪琴は優雅な姿で立っていた。
ー今日の演奏会は無くなってしまったわ…。
ーせっかく準備してたのに、ごめんなさいね。
竪琴にふれながら、
大切なパートナーに伝えるように
そうつぶやく。
自分でも思いのほか、
疲れた声が出た。
この時、初めて
味方が減っていることを意識した。
一瞬だけ、
小さく竪琴が瞬いた。
まるで、それでもいい。
2人で一緒に過ごそう。
そう言われた気がして、
自然とリオーは
竪琴をいつものように構えた。
気が付くと竪琴を奏でだしていた。
密やかに、でも優しく。
かすかな哀しみをも帯びた音色だった。
自分のためだけに弾く。
もう何か月もそんなことは忘れていた。
今の想いがそのまま
音に表れた即興曲だった。
リオーは自分が
涙を流しているのにも気づかず、
無心に竪琴を奏で続けていたが、
指先が冷えて重く感じられて
我に返った。
いつのまにかリオーの周りには
いつものように竪琴から立ち上がる
湯気のようなオーラが漂っていた。
そのエネルギーに包まれていると、
身体が温まるような気がしたが、
すぐに打ち消そうとした。
ー馬鹿ね。こういうことがあるから
変な噂を立てられてしまったのに。
ポツリとこぼれたリオーの言葉は
砂丘の竪琴にだけは届いていて、
彼を切なくさせた。
ー俺のせいなのかもしれない。
ーリオーのためになると思っていたのに。
竪琴は生まれて初めて自分を責めた。
それはじわじわと広がる
後悔という気持ちだと、
竪琴も少しずつ理解していった。
リオーの1人きりの演奏会は、
その後もしばらく続いていた。
その音色は
小部屋の前で見張りをしていた
警護役長にだけは聞こえた。
彼はその音に哀しみや
孤独感が含まれていることを
うすうす感じ取っていた。

涙の目覚め
私が目を開けると、
一瞬、ここが
どこなのか分からなかった。
ゆらりと目の前に影が現れ、
ミルアが優しい笑顔で見下ろしている。
「ミオラ……もう大丈夫だ」
ベッドで横になったまま
名前を呼ばれて彼の方をぼんやり見ると、
両目から静かに涙がこぼれた。
ミルアの手が私の頬に触れ、
涙をぬぐってくれた。
ミルアの指先を感じると
次々と涙が溢れて止まらなくなった。
私はその時、
ずっと泣いていたのだ
と初めて気が付いた。
重い両手をあげて顔を覆う。
この涙は私のものだろうか?
遠い砂の国にいた
リオーのものだろうか?
そう感じて、このままでは
あの世界に飲み込まれるかもしれない。
自分がどちらの存在なのか、
分からなくなりそうだった。
気をしっかり持たなければ。
深く呼吸し、自分の芯を感じるよう
ゆっくりと身体を動かしていった。
(つづく)
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これまでのエピソードは
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