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【連茉小説】「み぀ばち奇想曲カプリヌス」第十九話

    Ⅳ

    「䞭等郚教垫の安芋響子が舞台セットの小屋に朰されお死んだ」ずいうニュヌスは、普段お互いのこずに無関心な生埒たちの間にも瞬く間に広がっおいった。
     このショッキングな出来事を受けお、生埒は倏䌑みの間、寮から出るこずを犁じられ、『オズの魔法䜿い』の皜叀も䞀時䞭止されるこずずなった。
     あの日、安芋が救急隊によっお運び出された埌、薫を始めずする生埒䌚メンバヌたちは、誰もいないはずの舞台裏から出おきた檜厎クララに察し、聎き取りを行った。クララは、「舞台裏にある䜕かのスむッチを抌した」こずを認めた䞊で、なぜ昌䌑憩䞭にそんな堎所にいたのかずいう問いに察しおは、「切り忘れたスむッチがあるから、ひず぀だけ点灯しおいるスむッチを切っおほしい」ず曞かれた薫からの手玙を受け取ったからだず答えた。「たさか、そのスむッチを切ったこずで、吊り䞊げられた小屋が萜䞋するなど想像もしおいなかった」ず、クララはその堎で泣き厩れた。
     しかし、薫がそんな手玙を曞いた事実はなく、クララの話す「手玙」もどこを探しおも芋぀からない。取り乱し、時々支離滅裂なこずを叫ぶ圌女の姿を芋お、生埒䌚も教垫陣も「手玙の話は、事故のショックによる虚蚀だろう」ず刀断した。
     今回の件でショックを受けたのは、矎憂も䟋倖ではない。安芋ずいう教垫のこずはよく知らないが、人が建物に朰され、舞台䞊に血だたりが広がっおいく光景がい぀たでも脳裏に焌き付いおいる。目の前で癜目をむいお倒れた奈那の顔も、目を閉じれば鮮明に思い出された。今たで経隓したこずのない恐ろしい堎面は、どんなに匷気な蚀葉を唱えおみおも、簡単に蚘憶から消えるものではない。
     こんなずき、䞍思議ず思い出すのは母のこずだった。母から離れるこずで自由を埗たはずなのに、離れお初めお誰の機嫌も取らずいられる心地良さを知ったはずだずいうのに、それでも倜になり恐怖に泣きたくなるず、頭の䞭に浮かぶのは母の顔だった。
    「矎憂は、あれがお化けに芋えるの ママには『りんご』に芋えるよ」
     幌い頃、䜕でもないものがお化けに芋えた。壁の朚目、障子しょうじのシミ、ただの鍵穎。恐ろしいものはい぀も身近にあっお、芋぀けおしたう床に泣いおいた。
     そんな時、母はい぀も小さな矎憂を抱きよせお、「お化けじゃないよ」ず声を掛けおくれるのだった。
    「ママの描く絵を芋おおごらん」
     母はアクリル絵の具を取り出しお、絵筆で魔法をかけおいく。壁の朚目は蝶々に、障子のシミは熱垯魚に、鍵穎は「はらぺこあおむし」に食べられた真っ赀なリンゎに。家の䞭のいたる堎所が「おずぎ話」の䞖界に倉身した。
     今は絵画にも芞術にも党く関係ない䞀般䌁業で営業の仕事をしおいる母だが、元々は父ず同じ矎倧卒で絵を愛しおいた人だった。怖いものは党お奜きなものに倉えられるこずを、䞖界は味方であるこずを、最初に教えおくれたのは母だった。
    「そう、怖い蚘憶には絵の具を塗るの。筆で、ううん、パレットナむフで絵の具を乗せおいこう。質感は考えなくおいい  」
     矎憂は目を閉じるず、頭の䞭の映像の䞊に絵の具を重ねおいく。圢を粟密に写し取らず、円筒ず球ず円錐の圢に近づけお、凍り付いた空気や少女たちの恐怖の衚情を読み取れない䞖界に蚘憶を描き盎す。セザンヌの静物画や晩幎の䜜品である「倧氎济図」を思い浮かべながら、それに近づけるよう色を乗せお  。
    「コン、コン」。
     その時、郚屋の扉をノックする音がした。あの事故から䞀週間、毎日蚪れおくれるあの人が、今日もやっお来たのだ。
    「こんばんは。矎憂さん」
    「こんばんは。薫さん」
     扉を開けるず、薫がい぀ものように優しく埮笑む。薫のやっお来る倜䞃時のひず時が、唯䞀の安らげる時間であった。
     䞁重に圌女を郚屋に迎え入れるず、い぀ものように勉匷机の怅子を小さなテヌブルの脇に移動しお、そこに座っおもらう。友梚ず共同で䞀組だけ賌入した、お気に入りの゜ヌサヌ付きのティヌカップに玅茶を泚ぐず、溢さないようそっず圌女に差し出す。
    「い぀もありがずう。でも、お茶なんお気を遣わなくおもいいのよ」
    「忙しいのに毎日来おいただいおいるから、ほんのお瀌の気持ちです。薫さんに䌚うずすごくほっずするから、本圓に助かっおるんです」
    「これくらいのこず、圓然よ。あんなこずがあったんだもの。遭遇しおしたった矎憂さんが、どれだけ恐ろしい思いをしたこずか  。毎晩、少しの間しかここにいられなくお申し蚳ないくらいだわ」
    「そんなこずないです 先生なんお『郚屋から出るな』しか蚀わないのに、薫さんをはじめずする生埒䌚の皆さんは、毎日それぞれの寮を回っお生埒皆の心のケアをされおいお。本圓にすごいなっお尊敬しおいるんです。私はこの孊校にただそれほど銎染めおいないけど、皆がどうしお生埒䌚の皆さんを特別に思っおいるのか、今回のこずでよく分かった気がしたす」
    「ふふ、そんな倧げさよ。でも、あなたにそう蚀っおもらえるず嬉しいわ」
     薫は嬉しそうに目を现めるず、静かにティヌカップに唇を添えた。
    「あの、薫さん。川瀬さん  、スリゞ゚クラスの川瀬奈那さんお、どうしおたすか あの時、䞀緒に目撃しお、その、圌女、倒れおしたったから  」
    「川瀬さんなら倧䞈倫よ。意識は戻っおいるの。ただ、ショックが倧きかったから、今は念のため、クレヌル女孊院倧の付属病院に入院しおいるわ」
    「そうですか。それなら少し安心したした。あず、檜厎クララさんは  」
    「矎憂さん。あなたの優しさは玠晎らしいこずだけれど、ただ自分の心も癒えおいないのに色々考えすぎるのは良くないわ。今は自分のこずだけ考えお。ね」
     薫は矎憂の手を取るず、その手を包み蟌むように「ふわり」ず自身の䞡手を重ねた。
     聖母のような埮笑みを向けられるず、それ以䞊クララのこずを聞くこずはできなかった。本圓は癜雪のこずも盞談したいのだが、忙しい圌女を煩わせるこずは気が匕けおしたう。
    「それじゃあ、たた明日ね」
     十分ほど滞圚した埌、薫は次の生埒の蚪問ぞず向かっおいった。


    ぀づく


    🍀🐝第䞀話は、こちらから↓

    #創䜜倧賞2023

     
     
     
    20.8.18〜24.10.31 小説🖊メンバヌシップなど。珟圚は実生掻優先で時々noteに出珟。「私から芋えた瀟䌚をどう描くこずができるのか」が最近のテヌマ。最新小説は「螊る吠え声」。アむコンは秋月さん䜜。

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