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第一話 義経伝説時を超えた殺意 

    小鳥遊の祖父の家の古い蔵から、剣と古文書が見つかる。詳しく調べてもらうため博物館に預けたのだが、それが鎌倉時代の源義経の物らしいと言う事がわかった。おまけに、古文書には新たな事実が記されていた。調査を続けつつ剣の特別展示が始まる。しかし、展示されていた剣が忽然と消えてしまった。時を同じくして、研究のために博物館を訪れていた藤堂が鎧武者によって殺害されてしまう。犯人は誰なのか?剣はどこに消えてしまったのか?義経をめぐるミステリーが幕をあける。

    平泉の歴史博物館は、その静かな雰囲気と貴重な鎌倉時代の資料があることで知られていた。
     特に最近発見された、義経のものとみられる剣は、その真偽を含め大変な話題となっており、多くの人の注目を集めていた。

    「やっと終わった!」
     小鳥遊 渚は、大きく伸びをすると、目の前の筆記用具やノートを急いでかばんに入れ始めた。
     明日から夏休みという事もあり、教室には、どこか華やいだ空気が漂っていたが、そんな同級生をしり目に急いで廊下に出ようとした所で
    「小鳥遊君、これから行くのか?」
     不意に後ろから声をかけられた。
    きゃっと何人かの女子生徒の黄色い悲鳴があがる。
     振り返ると、九条準教授が立っていた。
     九条 翔馬(29歳)女子生徒人気No1で、190センチはあるだろう高身長に、スーツの上からでも判る鍛えられた肉体、おまけに切れ長の瞳に、すこし口角があがった口元、纏う空気まで輝いて見える程に超絶イケメン。
     おまけに性格もとても温厚で、男女問わず学生みんなから慕われている。
     九条先生を見ていると、自分のコンプレックスを多少刺激されるものの比べる器がでかすぎて、嫉妬すらしない。
     きっと、この大学の女子生徒全員が九条先生のファンなんだろう?かく言う俺も、ちょっとだけ見とれてしまったりする、イケメンて凄いな。
     などと、くだらない事を考えていると
    「小鳥遊くん、疲れてる?」
     と、九条先生が気づかわしげに聞いてる。
    「あっ、すいません。大丈夫です。これから博物館に行きます。九条先生の口利きで博物館でアルバイトをさせてもらえるんです。頑張りますね。」
     俺はそう言いながら軽く頭を下げ、急いで博物館へと向かった。

     渚が博物館に着くと、すでに多くの人でにぎわっていた。
     昨日から特別展示が始まったおかげで、普段より倍以上の人が訪れていて、いつもの静寂な雰囲気も影を潜めている。
     目玉の展示は何かって?それはもちろん新たに見つかった義経の剣だ。
     実はこの剣、俺の祖父の家の古い蔵から古文書と共に発見された物だ。
     見つけた時は義経の物とは思ってなかったのだが、詳しく調べて貰うため博物館に預けた。
     その後古文書を読み解くにつれ、どうやら剣は義経の物らしいし、さらに新たな真実も記されているらしい。
     詳しい調査を継続しつつ、せっかく見つかった剣を少しの間でも、みんなに見てもらおうという事になり、急遽特別展示が決まった。
     剣の事は、全国ニュースにまでなったので、この賑わいという訳だ。
     到着後裏口からロッカーへ行くと、素早く荷物をしまい、スタッフジャンパーを羽織り、首から身分証をぶら下げながら事務所へと向かう。
     途中、警備主任の青木さんに会った。
    「やあ渚君、お疲れ様」
     警備の青木さんは、俺が面接に来た時から親切にしてくれた人だ。
    緊張していた俺を見て、肩の力抜きなよって飴をくれたり、大丈夫だよって背中を押してくれた。
     ずんぐりむっくりな体系で、いつも笑顔を絶やさない。話すと元気になれる、俺にとっての癒し系キャラだ。
     青木さんに挨拶を終えて事務所の扉を開けると、館長の斎藤さんがパソコンで作業をしていた。
    「お疲れ様です。今日もよろしくお願いします。」
    と挨拶をすると
    「今日も忙しいと思うけど、よろしくね。展示室に行って貰えるかな。お客さん多いから誘導お願いね」と素早く指示かでた。できる上司って感じだ。
     俺は頷くと足早に展示室へと向かった。

     博物館は長方形の形をしており、内側に部屋があり、外側をぐるっと廊下が一周続いている、ちょっと変わった作りだ。
     廊下にも小さめの展示品や、平泉の自然を写した写真などが飾られており、展示室を見た後、廊下を一周して、エントランスに戻ってる通路が設定されている。
     普段の空いている時は自分のペースで好きな所を見てもらってもいいのだが、今回みたいに混雑時は基本、通路に従って進んでもらっている。
     展示室は想像通り大勢の人であふれていた。
     危なくないよう列の整理をしていると、あっという間に時間が過ぎて、気が付くと閉館のアナウンスが流れていた。
     さすがにこの時間になると、お客さんもまばらになってきたのだが、さっきから剣の前を通り過ぎては、また戻ってくる男がいる事に気がついた。
     別に何回見てもらっても構わないのだが、こんなに何度も来る人も珍しいし、おまけに人が居なくなったとたん、その場に居座り始めた。
     閉館のアナウンス聞こえないのかな?と思いつつ
    「すみまさん。そろそろ閉館の時間なので」
    と、なるべく丁寧の声を掛けてみるが、無視をされた。
     あれ、聞こえてない?
    「あの、閉館の時間になります!」と、さっきより語気を強めて話しかけると、男はビクッと肩を揺らし一瞬俺を睨み、足早に展示室を出て行った。

     渚が一通り掃除を済ませて事務所に戻ってくると、中には館長と九条先生と知らないおじさんが談笑をしていた。
     九条先生が俺に気づき「お疲れ様。」と声を掛けてきた。
    「あっお疲れ様です。」
     と、あいさつをし返すと、先生の隣にいた、知らないおじさんと目があってしまった。
     館長が、にこやかに笑いながら
    「こちら考古学者の藤堂 亮介、実は僕の学生時代の同級生。今回見つかった剣や古文書を調べてもらうのに協力してもらう事になって、平泉まで来て貰ったんだよ」
    「で、この子が今回発見された家の、小鳥遊 渚くんです」
    と、軽く紹介をしてくれた。
     藤堂さんは「そうか君が小鳥遊君か、よろしくね」と言いながら手を差し出してきたので、その手を握り返しながら
    「こちらこそよろしくお願いします」とちょっと緊張しながら返事を返すと、そんなに固くならないでよと、笑われてしまった。
    ・・・そう言われても、学者さんとか偉い先生でしょ?緊張するよ・・・
     藤堂さんは見た感じ、インドア系ではなく、髭をはやしていて森の中に住んでそうなワイルド系おじさんで、アウトドアが似合いそうな感じ。
     一方斎藤館長は、白髪まじりのせいか、年齢より上に見えてしまうので同級生って言うのにはちょっと驚いてしまう。因みに二人の年齢は60歳らしい。
    「早速、剣と古文書を見せてもらおうかな」
     と藤堂さんが館長に話しかけたので、いったん会話が終わった。
    「じゃぁ、俺は帰ります。」と会釈をしながら、事務所を後にした。
     
     深夜、博物館の静寂を破るように、けたたましい警報音が鳴り響いた。
    「おい、展示室のカメラに何も映ってないぞ!とにかく見に行ってくる。」
     と、警備員の橋本が警備室を出たところで
    「うわぁぁぁ!」と叫び声が聞こえてきた。
     橋本ともう一人の警備員、松木は一瞬顔を見合わせ
    「そう言えば資料室に、まだ藤堂さんが残っていたな、よし俺は資料室に行くから、松木は展示室に行ってくれ!」
    そう言いながら、それぞれ現場に向け走り出した。

    「藤堂さん。大丈夫ですか?開けますよ!」
     橋本が話しかけながら、資料室のドアを開けると
     そこには、仰向けになり胸に矢が刺さった藤堂が横たわっていた。
    「ヒェッ!!」
     あまりにも凄惨な現場に、橋本が固まっていると
    「どうした。何かあったのか?!」
     と館長が叫びながら駆け寄ってきた。
     橋本が無言で資料室の中を指でさしている。
     館長が資料室を覗くとそこには変わり果てた姿の藤堂が横たわっていた。
    「藤堂!」
     名前を呼びながら館長が藤堂の傍にかけよると、すぐに頸動脈に手を当てる。
    「し、死んでる!」
     館長の声を聞いた橋本が、慌てて資料室に入ろうとしていた所を
    「こちらに来てはだめだ!」
     と一喝し橋本の動きを制して、自分が部屋から出ると静かに資料室のドアをしめた。
     その時、展示室に行っていた松木が息を切らせながらやってきた。
    「大変だ、剣が無くなっている!」
     しかし、そこで固まっている同僚の橋本と館長の姿を見て
    「藤堂さんは、どうしたんです?」
     と、強張った表情で聞いてきた。
     館長は、一息つくと静かに話し始めた
    「とにかく落ち着いて聞いて下さい。藤堂が中で死んでいます。」
     館長の言葉を聞いて、松木がとっさにドアを開けようとしたが、館長がそっと動きを制して、首を横に振った。
    「これは殺人事件です。現場を荒らさない方がいい」
     呆然とする二人を見て、館長がゆっくり語りかける。
    「お二人にお願いがあります。警察には私が連絡するので、君たちは怪しい人がいないか見回ってきてほしい・・・しかし、犯人はまだ近くにいるかもしれない。くれぐれも気をつけて、必ず二人一緒に行動するんだ」
    「しかし、それでは館長が一人になってしまい、危険じゃないですか?」
     松木が心配そうに聞いてくる。
    「いや中には、藤堂以外誰も居なかった。隠れる場所もないので、ここは大丈夫だ」
     その館長の言葉を聞いて
    「わかりました。館長も気を付けてください!」
     橋本と松木は頷くと、慌てて走り出す。
     静かだった博物館の中に、警備員達の足音が響きわたっている。
     こうして事件は、慌ただしく幕を開けた。


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