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第二話 義経伝説時を超えた殺意

     翌朝、スマホの呼び出し音で渚は目覚めた。
    「誰だよ、こんな時間に。まだ4時台じゃないか・・」
     眠い目をこすり、まだ寝ぼけながら電話にでると
    「九条です。朝早くにすまない。実は大変な事になった。落ち着いて聞いてほしい。」
     電話の向こうで、先生が自分を落ち着かせるように深呼吸をしている。
     その空気に何か物凄くいやな予感がして
    「はい、何かありましたか?」と、緊張しながら聞くと
    「実は、剣が盗まれたらしい。それと、藤堂さんが亡くなった・・」
    「えっ?盗また?それと、藤堂さんが亡くなったって、何で?昨日あった時は元気そうだったじゃないですか!」
     予想外の先生の言葉に、軽くパニックになりながら矢継ぎ早に言葉を繰り出すと
    「剣が盗まれたのも藤堂さんが亡くなったのも、深夜の事らしい。それと、藤堂さんはどうやら誰かに殺されたらしいのだが。実は私にも詳しいことはわからないんだ。なので、これから博物館に行こうと思っている。警察の人が来ているから事情を聴けるかもしれない、後、関係者から話が聞きたいとの事らしいので、君も今から来れるか?」
    「わかりました。すぐ行きます!」
     俺は震える手で電話を切ると急いで着替え、慌てて家をでた。

     ちなみに、家から博物館までは普段自転車で30分くらいなのだが、気持ちが急いているのと、朝早くで人も車も少なかったのが功を奏して、20分程で到着した。
     今までで一番早い新記録がでたが、今はそれどころじゃない。
     俺が博物館に着くと、もう数台のパトカーと警察官、九条先生と館長、後は警備員の人が話をしていた。
     九条先生が俺に気づくと手招きをしてくれたので、すぐに先生の所に駆けよると、その隣には疲れた様子の館長が、ぐったりとうなだれて居る。 
     その憔悴しきった姿を見て、思わず
    「あの、大丈夫ですか?」
     と声を掛けたのだが、大丈夫な訳がないよね。でも、こんな時なんて声を掛ければいいのかわからなくて・・・
     そんな俺の様子をみて、力なく笑った館長は
    「大丈夫だよ」と言ってくれた。
     気を使わせてしまったらしい。

    「お話し中すみません。ちょっとよろしいですか?」
     振り返ると、スーツ姿のスラっとした体形の男の人が、警察手帳を見せながら
    「岩手県警の佐藤です。少々お話をお聞きしたいのですが」
    と話しかけてきた。
     その刑事を見た途端、それまで難しい顔をしていた先生が表情を崩し
    「あれっ佐藤?佐藤 肇だろ?久しぶりだなあ!」
     と、驚いたように声を掛ける。すると佐藤刑事も
    「へっ翔馬!?翔馬っちじゃないっスか!」
     と、急に砕けた表情になり話しはじめた。
    「元気だったすか?久しぶりっス!」
     それまでの重苦しい雰囲気が少し和らいだが、見てるこちらは現状について行けずポカンとしていると、それに気づいた先生が
    「大学の時の同級生なんだ」と教えてくれた。
     ・・・なるほど、同級生ですか。
     細身で童顔で、独特の話し方から、佐藤刑事の全身からは同級生というより、後輩感が強く醸し出されている。
     すると俺の視線に何かを感じた佐藤刑事は、コホンと小さく咳ばらいをすると
    「昨夜の出来事について一人ひとりお話を聞かせてくだい」
     と敬語になりながら、神妙な顔つきに戻った。
     あっさすがにさっきの話し方は封印したみたいだ。
     切り替えのは速さは、さすが警察だなと、感心してしまう。

     先ずは、藤堂さんを発見した館長から話を聞かれる事になり、その間、俺と九条先生と佐藤刑事は防犯カメラを確認するため、警備室へと向かった。
     ちなみに、館長の事情聴取は他の刑事さんが担当してくれるらしい。
     道すがらの佐藤刑事と九条先生は、すっかり昔馴染みに戻ったかのようだった
    「しっかし本当に久しぶりっス。翔馬っちは全然変わってないっスね。俺なんて仕事に振り回されてすっかりくたびれちゃったス。」
     佐藤刑事が、自虐的笑いながら話しかける。
    「そうか?肇もそんなに変わってないぞ?髪型以外は・・・」
     先生は懐かしむように目を細めながら話す。
    「いやー、童顔のせいか、よく補導する学生になめられちゃうっス。だから、すこしでもなめられないようにオールバックにしてるっス。ピシッとね!」
     ・・・なるほど、確かに童顔だと大変そうだ・・・。実際、俺と同級生と言われても通じそうなのだ。
    「肇は刑事になったんだな、昔から正義感強かったからな」
    「まあ正直、正義感だけじゃやってられないのが本音っスよ」
     そう言う、佐藤刑事の背中からは少し哀愁が漂っている感じがした。
     やっぱり苦労は多いのだろう・・・
    「本当に俺の苦労をみんなねぎらって欲しいっス。そうだ翔馬っち、今度一緒に飲みに付き合うっス!」
    「唐突なさそいだな。まぁ行くか?」
     先生が軽く握った手を佐藤刑事の前に出す。それに呼応し、佐藤刑事も先生の握った手に軽くグーパンチした。
    「そうこなくっちゃっス」
     二人の雰囲気のお陰か、朝から張りつめていた空気が、少しだけ和らぎ息がしやすくなった気がした。
      

     警備室のモニターには、防犯カメラの映像が映し出されていた。
     ちなみに防犯カメラは、正面入り口、展示室、裏口の3か所に設置されている。
     しかし、展示室のモニターだけが、真っ暗でなにも映してはいなかった。
    「小鳥i遊君は、昨日博物館のバイトをしてたんスね。バイト中なにか気づいた事はなかったスか?怪しい人がいたとか・・」
     佐藤刑事が手慣れた様子でパソコンを操作しながら聞いてきた。
    「いや、怪しい人って言っても、すごい数の人が来ていたので・・・。でも、一人閉館間際まで剣を見てた人なら・・・いや、でも刀マニアの人とかいるから、やっぱり怪しい人と言われてもわからないですね・・・」
    「そうか、ありがとうっス。もし、他にもなにか思い出した事があったら教えてほしいっス」
     そう言ってパソコンの手を止めると
    「先ずは剣が盗まれた展示室から見てみるっスか」
     佐藤刑事の声を合図に全員の視線がモニターに注がれる。
     モニターには、静まり返った展示室の様子が映し出されていた。少し早送りをしながら警報音が聞こえた時間まで見ていると、次の瞬間、信じられない光景が映し出されていた。
     先ほどまで、あったはずの剣が一瞬で姿をけした。
     あっけにとられていると「誰かきたっス。」と佐藤刑事が言った。
     そこには一瞬、落ち武者の姿が映し出されたのだ。
     が、次の瞬間落ち武者が何かスプレー的なものをカメラに向かって掛けたため、画面が真っ暗になってしまい、その後は音声だけが収録されていた。
     ケースが壊されたような音と、その少し後に人の叫び声が入っている。
    「まって、剣が消えた・・落ち武者と・・・藤堂さんの・・・」
     俺は、先生と佐藤刑事の方を見て
    「これ、お化けなんじゃ・・・」
     自分で言葉にした事で、つぶやきが現実味を帯びた気がして、背筋と心臓が冷たくなっていくような気がした。
     そんな様子を見た先生が、俺の肩に手を添えながら
    「大丈夫か?」と気づかわしげに声をかけてくれる。
     俺は、なんとか頷くと、事件後の暗くなった画面を眺めていた。
     一度聞いた、叫び声が頭の中で何度も響いていた。

    「なあ翔馬っち、どう思うスか?」
     佐藤刑事が落ち武者の映像を再度流しながら
    「窃盗事件と藤堂さん殺害、両方とも、この落ち武者が関係してると思うっスか?」
     と、九条先生に問いかける
     先生は、手を組みジッと画面を見ながら
    「これだけでは判断できないけど、こんな短時間に事件が起きてる事を考えると、何かしらの関係はあるだろうね」
     と難しい顔をしながら言った。
    「それに、消えた剣の秘密も解き明かさないと・・・」
     そんな先生の表情を見ながら、佐藤刑事は語り掛ける。
    「ふっふっふ、翔馬っち、俺たちで事件を解くっスよ!俺は覚えてるっス。翔馬っちの鋭い推理力!なんせ、学生の時はその推理力で何度か助けられたっスからね。あの、女の子の盗聴を疑われた時も、女の子の物が無くなった時も、俺の疑いを、翔馬っちが見事に真犯人を言い当てて、事なきを得たっス。」
     ・・・なぜ全て女の子がらみなんだろう・・・
    「今回も、俺たちで華麗に事件を解決するっス!」
     そう言って九条先生を力強い眼差しで佐藤刑事は見つめながら、手を差し出した。
    「ああ、俺でよかったら協力させてくれ。」
     その言葉を受けて、二人はがっつり握手していた。
     二人の息の合ったやり取りを関心しながら見ていたが、俺はまだ、お化けの線を捨てられずにいる・・・
     でも、この二人は事件には犯人がいると思っている。
     剣が消えたのだって、どういうトリックを使ったか考え始めている。
     熱い男の友情を目の前で見ながら、俺も考えを修正した。
     そうだ・・手品みたいじゃないか?手品だったらタネが存在する!
    「俺も、協力させて下さい!絶対にトリックを暴いて見せます!」
     佐藤刑事は、よろしく頼むっスって笑顔で応じてくれた。基本良い人なんだなぁ。

     警備室から出ると、ちょうど斎藤館長と警備主任の青木さんが通りかかった。
     青木さんは俺を見ると
    「渚君、大変な事になったね。」と心配そうに声を掛けてきた。
     俺は青木さんに挨拶をしながら
    「青木さんも呼ばれたんですね」と応じた。
    「そうなんだ、館長から電話をもらってね。でも電話での様子がおかしかったから、急いで来たら大変な事になってて、驚いてるよ」
    「俺もです。青木さんは、事件の時は居なかったんですね?」
    「そうなんだ。僕は早番だったから、夕方5時には退勤したんだ。まさか盗難事件だけじゃなく、藤堂さんが殺されたなんて・・・」
     そこまで言って青木さんが言葉を詰まらせた
     黙りこんだ俺たちを見た佐藤刑事が
    「小鳥遊君は一度帰ってゆっくり休んだ方がイイッス。何かわかったら翔馬っちから連絡行くと思うっスから」と気遣うように口を開いた。
     しかし、俺はまだ事件の詳しいい内容を知らないし、何もわからない事が不安で仕方がない。帰れと言われても素直に帰れる精神状態ではないのだ。        
     そんな俺の様子を見た先生が、そっと肩に手を掛けながら
    「事件については、後で僕が教えよう。佐藤刑事からも情報を貰えるし、今日のところは警察にまかせて、君は一度家に帰って休みなさい」
     と諭されてしまった。学生だからかな、子ども扱いは仕方がない。
    「わかりました。今日は失礼します。でも先生、明日でいいので事件の事を教えてください」そう言って頭を下げた。
    「もちろん、明日僕の研究室で待っているよ」
     その言葉を聞いて、俺は少し安心して家路についた。


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