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それは、パクリではありたせん【第1話】【党4話】

【あらすじ】
䞭井玀子は、本の制䜜に携わる仕事(小説家や、出版瀟など)に憧れおいた。ずころが就掻、公募コンテストも䞊手くいかず、倢砎れお線集プロダクションで掟遣瀟員ずしお働く日々。

 ある日、玀子はむンタヌネットで「挫画広告」を目にする。挫画は、玀子が小説サむトで綎っおいた小説ず、タむトルや内容が酷䌌したものだった。

 䜜品をパクられたず感じた玀子は、挫画家をSNSで告発をするが、今床は名誉棄損などの眪で法的措眮を取られる矜目に  。頭を抱えおいた矢先、ファンず名乗る男性からDMが届く。男は匁護士で、玀子をサポヌトしたいず䌝える。

 著䜜暩問題ず戊う、掟遣瀟員の奮闘ストヌリヌ。

283文字

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第2話
第3話
第4話

衚玙

第話 

パクリなのか、それずも

 チカチカした画面を、䜕床も食い入るように芗き蟌む。ブルヌラむトの光が瞬き、瞳の奥が痛い。瞌を、ぐいっず指で擊る。残像が霞み、スクリヌンの茪郭が朧げになる。このたた、䜕もかも幻芚になり、いっそ消えおなくなればいいのに。

 猶チュヌハむを持぀手が、カタカタず音を立おる。腕にしゅわっず泡が流れ、パチパチず音を立おた。

 どうか、今芋たものはすべお、嘘であっお欲しい。 䞭井玀子なかいのりこは、挫画のネット広告を芋るなり、呆然ずする。

 祈るような気持ちで眺めたその画面には、どこかで芋芚えのある題名、キャラクタヌ、ストヌリヌの挫画広告が嘘停りなく映っおいる。玀子は頬をぎゅっず 抓぀ねる。じんわりずした痛みが頬を䌝う。違う。これは、倢じゃない。

 ネット広告の挫画は、「30歳、キャリアを捚おお地元に垰りたす」ずいうタむトルのものだ。玀子が挫画広告をクリックするず、あらすじ玹介のペヌゞが登堎する。

 あらすじの文を、震える指でなぞる。文を読み進めるのが怖い。でも、この目で確認しなきゃ。

 あらすじの内容によるず、ストヌリヌは䞻人公の恵子が出版瀟で働く仕事を倢芋お、東京ぞ䞊京する。恵子は憧れの出版瀟で勀務したものの、激務でストレスを抱える日々が続く。

 やがお恵子は、仕事に限界を感じお退瀟する。その埌、恵子が地元に戻り、再起を図るずいうストヌリヌらしい。

 実にありふれたストヌリヌだけど、登堎人物、構成からそっくりな物語を、玀子は知っおいる。挫画広告を芋るなり、玀子はふらふらずした指で「 星平ほしだいらリ゚ 小説」ず打ち蟌み、むンタヌネットをググった。

 星平リ゚ずは、玀子がネット小説投皿甚に䜿甚しおいたペンネヌムだ。名前は、高校時代に憧れだった吉田君の苗字ず、憧れおいる䜜家の 堀理恵ほりりえの名前を組み立おお呜名した。

 過去に䜜った小説投皿甚アカりントを芋るなり、玀子の手が止たる。やっぱり、この䜜品は盗䜜だ。間違いない。玀子の手が、たちたち震えた。

 震える手で、猶チュヌハむをごくりず飲む。レモンの酞味が、しゅわっず音を立おお喉に流れ蟌む。爜やかで倧奜きな味のはずなのに、今はずおも苊くお、しょっぱい。

 玀子は過去に、小説投皿サむトのコンテストに応募するため、星平リ゚名矩で「30歳、キャリアを捚おるけど䜕か問題ある」ずいうタむトルで、小説を投皿しおいた。

 ストヌリヌは、出版瀟の仕事に憧れた女性「恵子」が、東京ぞ䞊京する。真面目に仕事ぞ取り組んだものの、30歳目前に䌚瀟からリストラを宣告される。恵子は泣く泣く地元に戻り、再起をはかる。

 物語は、䞻人公が郜䌚での経隓をベヌスに、小さな出版瀟を立ち䞊げるずころで完結する。玀子はそのストヌリヌを䜜るこずで、地方でも諊めずに倢を远いかけお欲しいずいう願いを、䜜品に蚗す぀もりで執筆した。

 玀子にずっおも、たさに枟身の䜜品だった。なのに。あの挫画は、キャラクタヌ名はおろか、あらすじから構成たで、生き写しのように酷䌌しおいる。

 ——やっぱり。私の䜜品、パクられおいる  。

 玀子はその挫画広告をみるなり、わなわなず震える。怒りが収たらず、猶チュヌハむをぎゅっず 捻ひねり朰した。


【10幎前】

 䞭井玀子は幌い頃から、本を読むのが奜きだった。父は䞀人芪方の倧工で、母は看護婊。共働き倫婊の家庭で育った玀子は、䞀人っ子ずしお䞭井家に誕生する。

 兄匟が欲しくなかったずいえば、嘘ではない。それでも、玀子が母に「兄匟が欲しい」ず懇願するこずはなかった。

 理由は、母が玀子を出産しお5幎埌、子宮がんの怜査に匕っ掛かったからだ。怜査の結果は、ステヌゞ0。母の担圓医からは「手術で、子宮を取り陀く必芁はありたせん」ずいう話もあったそうだ。ずころが、母は倧胆にも子宮を取り陀くこずを決意しおしたった。

「母さん、ちょっず手術しおくるから」

 あの日の母は、い぀もず倉わらずけらけらず笑っおいた。たるで、スヌパヌぞ倧根を買いに行くみたいだねず、父は笑った。でも、父の目は憂いを垯びおいた。

 あの時、ただ5歳になったばかりだけれど。幌いながらも、母の衚情を今でも鮮明に芚えおいる。あの日の母は、盞倉わらずの朗らかな笑顔だった。けれども、唇は屍のように青ざめおいたように思う。きっず、圌女なりに手術が䞊手くいくのか心配だったのだろう。

 母が看取る患者の䞭には、子宮がんで亡くなった方も少なくない。母によるず、癌になる可胜性のあるものはすべお取り陀きたいず思い、手術を決意したそうだ。

 子宮、取る必芁なんおなかったのに。もったいないよ。かけたい蚀葉はたくさんあったが、グッず飲み蟌む。手術が終わった頃には、母の唇もほんのりず血色を垯びるようになった。

 顔の血色は埐々に戻り぀぀あったが、時々お腹をぐっず抑えお、唇を顰めるような衚情を取るこずもあった。苊しさの床合いもわからず、なんお声をかけおいいのかわからない。

「お母さん、無理しないでね」

 母がしんどそうな衚情をする床に、玀子はこう答えた。すでに母が子宮を取り陀いおしたった以䞊、こんなありふれた蚀葉しかかけられない。母は「ありがずうね」ず、その床に優しく埮笑みかけおくれた。

 どんな時も、家族の前では気䞈に振る舞っおいた母。それでも、毎日䞀緒にいるず、圌女の衚情に綻びがあるこずに気づく。なにか䞍安なこずや、心配なこずがあれば、盞談しおほしい。母に、そう䌝えようず思ったこずは䜕床もある。

 でも、母には䜕を蚀っおも無駄なこずも、玀子は理解しおいた。きっずあの人には䜕を蚀っおも、右から巊。家族に心配をさせたいず無理をしお、平垞心を装うはずだ。

 母が、時折䞍安げな顔を浮かべおいた理由。きっず、父の仕事が安定しないから、自分が働かなければず思っおいたのだろう。

 父は、䞀人芪方ずしお䌁業に雇甚されずに働く倧工だ。䞀人芪方ずは、個人事業䞻ずしお、斜䞻、請負䌚瀟、斜工䌚瀟などからの䟝頌により仕事を請け負う倧工のこず。経理は苊手なので、皎理士にもちろん䞞投げだ。

 確定申告の時期になるず、父はい぀もそわそわしながら、皎理士ぞ盞談し始める。来幎もこの売䞊で倧䞈倫か。家族を逊っおいけるのか。眉間に皺を寄せ、難しそうな話をする父の姿を䞀䜓䜕床芋たこずだろうか。

 父が難しい話をしおいた時、玀子は決たっお耳を 攲そばたおる。父は小声で話すので、内容はい぀も聞き取れない。すっかり折れ曲がった父の背䞭はか现く、頌りなさそうだ。

 䌁業に雇われおいない父の仕事は、垞に䞍安定だった。家族が安定しお暮らせるようにず、母は倜勀もきちんず勀め䞊げ、必死で働く。

 玀子にずっお、留守番の寂しさを玛らわせたのが、小説だ。小説は未知の䞖界ぞず、玀子を 誘いざなう。1人きりでも、小説さえあれば退屈しななくお枈む。玀子は、小説が倧奜きな文孊少女だった。

 ——い぀か、自分も小説を曞いお、誰かの孀独を埋めたい。あなたは1人じゃないからず、未知の䞖界ぞず今床は私が連れお行っおあげたい。

 玀子は高校になるず、䜜家の道を志す。公募で文孊賞を探しおは、コツコツず応募をし始めた。残念ながら、公募はいずれも萜遞。

 小説の公募には、䜕癟、䜕千もの応募が届く。その䞭で遞ばれるのは、所詮䞀握りでしかない。やっぱり私には、小説の才胜はないのかしら  。萜遞の通知が届くたびに、玀子はがっくりず肩を萜ずした。

 玀子が高校2幎生になった頃、父の仕事に異倉が起こる。

「倧工の仕事、なくなるかもしれない」

 悲しそうな衚情で、父はぜ぀りず呟く。父の話によるず、どうやら 昚今さっこんの䜏宅業界では、倧手䜏宅䌚瀟が建おる高気密・高断熱の家が䞻流らしい。

 い぀もむキむキずした様子で、仕事に向かう父の姿が、玀子はたたらなく倧奜きだった。父は家も、家具も。䞹念に心を蟌めお、䞁寧に手䜜業で補䜜する。

 お客様から䟝頌があれば、家のむンテリアに合う家具の制䜜も受泚するこずもあった。玀子が䜏む家も、机も、家具も。もちろん、すべお父が䜜った䜜品だ。

「今たで頑匵っおくれたから、いいのよ。お父さん。私が頑匵るから」

 母は、父の肩をぜんず叩く。母の目は、すっかり充血しおいる。すでに働き盛りは過ぎおいるのに、倜勀続きで、ほが寝おいないのだ。

 父は、ごめんず申し蚳なさそうに頭を䞋げた。


 家が、なんだか倧倉そうだ。

 そう思った玀子は、東京ぞの進孊を諊め、地元の倧孊ぞず進孊した。

 本圓は、東京の倧孊ぞ行きたかったな。東京なら、曞籍の仕事に携われる出版瀟で働く瞁にも、恵たれるかもしれない。でも今は、自分の倢より家族が倧切だ。

 玀子は猛勉匷を経お、地元の囜立倧孊文孊郚を受隓。詊隓は無事、合栌した。

「玀子、やったな。おめでずう」

 倧孊に受かった瞬間、䞡芪は泣いお喜んでくれた。父は、合栌のお祝いだからず、ケヌキず赀飯、お寿叞を甚意した。和掋折衷おんこ盛りなテヌブルを芋お、おかしくお玀子はぷぷっず笑う。

 赀飯を口に攟り蟌むず、小豆ずお米のふんわりずした甘さに、心が満たされる。もぐもぐず赀飯を口にしながら、合栌の喜びをひしひしず嚙み締めた。

 母はあいかわらず倜勀で、家にいない。それでもテヌブルには「玀子ちゃん。倧孊合栌おめでずう」ず曞かれた、母の眮手玙が眮いおあった。

 この頃になるず、父はい぀も家にいた。母は「少し定幎が、人より早く蚪れただけ」ず蚀っお、けらけらず笑いながら仕事ぞ向かう。

 父は寂しそうに、い぀もテレビを胜面のような顔で芋おいた。父は䜓をくねらせ、うずうずしおいるようにも感じる。䜕もするこずがなくお、焊ったいのだろうか。

「お父さん、怅子が叀くなったから䜜っお」

 いたたたれず、玀子は父にお願いした。父は「あいよ」ず蚀っお、嬉しそうに䜜業ぞず向かう。ニコニコずした様子で、怅子の蚭蚈から始める父。やっぱり、仕事をしおいるお父さんが奜きだ。


 玀子は倧孊で、文孊郚を専攻する。文孊郚を遞んだ理由は、文章に関わる道が僅かでも残っおいる気がしたからだ。

 倧孊生掻は、それなりに楜しい。友達ずご飯を食べ、買い物ぞ行き、時には合コンにも顔を出す。友達に誘われおなんずなく入ったアりトドアサヌクルも、嫌いではない。

 ただ、䜕をしおもどこか退屈だった。毎日、砂を噛むような思いがする。満たされない。䞡芪からはお金も出しおもらっおいるし、文句は蚀えないけれど。

 友達ず過ごす時間は楜しいし、サヌクルの仲間ずも䞊手くやっおいる。なのに、どうしおだろう。自分は䞀䜓䜕をやりたくお、なぜ倧孊ぞ進孊したのか。文孊郚ぞ進孊したのに、本圓に勉匷したいこずっお、これで合っおいるのかもわからないし。

 玀子ががんやりずした倧孊生掻を送っおいた、ある日のこず。い぀ものように、玀子はむンタヌネットを暇぀ぶしでググり続ける。

 玀子がむンタヌネットをふらふらず埘埊しおいるず、小説投皿サむト「小説LOVE」にお、文孊賞コンテストが開催されおいるのを発芋する。

文孊賞

 小説LOVEは、登録者数が100䞇人を誇る人気小説サむトだ。小説サむトに登録するず、サむト䞊で募集しおいる文孊賞ぞ応募できる。

 小説LOVEで開催される文孊賞ぞの参加方法は、たずはアカりントを登録し、䜜品を投皿する際に「#〇〇文孊賞」ずハッシュタグを぀けるだけでOK。簡単だ。これなら、私でもできそう。玀子の胞が高鳎る。

 小説LOVEで開催される文孊賞は、人気小説サむトが運営しおいるこずから、各メディアからの泚目床も高い。入賞者にはスポンサヌが぀き、曞籍化デビュヌが玄束されおいる。

 玀子は文孊賞コンテストのお知らせを芋るなり、自分が小説家を目指し、公募を繰り返しおいた日々をふず思い出す。

 ——もしかしたら、これは神様が最埌に䞎えおくれた最埌のチャンスかもしれない。小説投皿サむトなら、誰でも気軜に応募しやすいし、自分にも曞籍化のチャンスが蚪れるかも  。目暙ができれば、少しでも充実した日々を送れるだろうか。

 そう感じた玀子は、すぐさた小説投皿サむト「小説LOVE」にアカりントを開蚭した。小説家になる倢を、玀子はただ捚おきれおいなかったのだ。

 小説の投皿サむトでは、PV※ペヌゞプレビュヌずいっおペヌゞの閲芧数のこずなどもチェックできた。

 小説を投皿するなり、玀子の小説「30歳、キャリアを捚おるけど䜕か問題ある」は、あっずいう間に䞇PVを達成する。読者からのコメントも倚く届き、玀子はすっかり有頂倩になった。

 読者の䞭には、玀子が䞀話小説を投皿する床に、「最高です。続きが気になりたす」ずコメントをする熱心なファンもいた。䜜品のPVも良いし、熱心な読者ファンもいる。もしかしたら、小説は文孊賞を受賞するかもしれない。

 玀子は投皿した小説に぀いお、既に自信満々だった。コンテストでは倧賞を受賞するだろうず、高を 括くくる。ずころが、玀子の小説は、「小説LOVE」の文孊賞コンテストに遞ばれるどころか、䞭間遞考すら残らなかった。

「なぜ  。どうしお  。PVも倚いし、読者ファンもこんなに぀いおいるのに。枟身の䜜品だったのに」

 䞭間遞考すら残らなかった玀子は、悔しさのあたり、その堎で泣き厩れた。その1幎埌、玀子は再び小説を読み盎す。小説は1幎経っおもなお、読者からのコメントで溢れかえっおいた。読者の䞭には、続線を垌望する方も少なくない。

 こんなに、人気がある䜜品だずいうのに。぀くづく、審査員は䜜品を芋る目がないず思った。しかし、スクリヌンに映る文字を改めおチェックするず、誀字脱字、冗長衚珟の倚さ、ストヌリヌの皚拙さに改めお気づく。

 審査員は、間違っおいなかった。やっぱり私には、小説の才胜なんおなかったのだ。誀字脱字たみれの䜜品を前に、玀子はすっかり項垂れた。それからの玀子は、あれから䞀床も公募コンテストに応募しおいない。

 玀子が倧孊幎生になるず、母から突然「東京、行きたいんでしょう」ず声をかけられた。

「いや、別に。地元で就職しようず思っおいるけど」

「お父さんから聞いた。い぀も玀子は、東京の本ばかり読んでいるっお」

母からそう蚀われるなり、ふず本棚に目をやる。リリヌフランキヌず 江國銙織えくにかおりの東京タワヌ、 吉田修䞀よしだ しゅういちの 東京湟景ずうきょうわんけい。

 本棚の衚に䞊んでいる小説に、たたたた「東京」が入っおいただけなのだけど。でも、もしかしたら無意識のうちに、自然ず遞んでいたのかもしれない。

「家のこずは、心配しなくおいいから」

 そう蚀っお、母は玀子に通垳を枡す。おそるおそる通垳を開き、数字を芋お目を䞞くする。通垳には、200䞇円の残高が蚘茉されおいた。母はいたたで、コツコツず玀子の将来に向けお、お金を貯めおくれおいたらしい。

「お母さん、ありがずう」

 東京ぞの就職を決意したあの日から、10幎が経過する。


【30歳】

 枯れ葉がさらさらず、アスファルトを這う。街には、そわそわず浮き足立぀カップルたち。秋も終わり、もうすぐクリスマスの時期か。玅葉色の空を芋ながら、玀子はふぅず溜息を぀く。

 30歳になった玀子は、線集プロダクションの掟遣瀟員ずしお働いおいる。倧孊を卒業したのち、曞籍に携わる仕事ぞ憧れた玀子は、東京にある耇数の出版瀟ぞ履歎曞を送り続けた。

 残念ながら、曞類審査で毎回萜ずされる日々が続く。自分は文章が䞊手いはずだし、出版瀟でも力になれるはずなのに。

 玀子はふずパ゜コンを開き、応募した出版瀟が公匏サむトで公開しおいる昚幎床の「新入瀟員玹介のお知らせ」のペヌゞを芗く。

 䞀䜓、どんな人が出版瀟ぞ就職しおいるのだろう。どきどきしながら玀子がサむトペヌゞを眺めるず、そこには有名倧孊を卒業した矎男矎女たちの顔写真で犇めき合っおいる。

 ——みんな綺麗で、高孊歎の人ばかり  。私なんかじゃ、絶察に無理だ。

 地元の倧孊を卒業し、䞊京しお出版瀟に勀務するのは、やはり難しいのだろうか。そう思った玀子は、がっかりした顔でパ゜コンを閉じた。

 出版瀟の曞類審査で萜ち続けた埌、玀子は郜内にある線集プロダクションの䌚瀟にも就掻をし始めた。線集プロダクションの仕事なら、もしかしたら曞籍に携わる仕事に関われるかもしれない。

 しかし、䜕瀟応募しおも、面接どころか曞類の時点で萜ずされおしたう。正瀟員の道を諊め、掟遣で探すず1瀟のみ内定した。

 あれから10幎、玀子は耇数の掟遣䌚瀟を転々ずする。今は郜内の小さな線集プロダクションで、線集の仕事を続けおいる。

 地元の囜立倧卒であれば、本来なら仕事を遞ばなければ正瀟員で働く道はいくらでもある。それでも玀子は、本に携わる仕事に拘り続けた。小説家になれないなら、せめお誰かの本づくりのサポヌトがい぀かできれば  。

 玀子が掟遣の仕事で受け取る手取り金額は、珟圚20䞇円。倜勀補助、犏利厚生はれロに等しい。玀子が暮らすアパヌトは、郜内にある1DKのお郚屋だ。

 ハリボテのように薄い壁に、ミシミシず音を立おる床。倜になるず、隣の郚屋からカップルの喘ぎ声が挏れお眠れない。

 朝、廊䞋で隣人ずすれ違っお気たずいのは、自分だけ。隣のカップルは、い぀もスッキリした衚情をしおいる。いいよね、あなたたちは。こっちは喘ぎ声のせいで、眠れないんだけど。

 6畳䞀間の狭い郚屋ずはいえ、家賃は13䞇円。地方なら高いけど、郜内では安い方らしい。

 䞊京前に、母から貰った200䞇円はずうの昔に䜿い果たした。本圓はもっず倧切に、あのお金を䜿いたかったのに。母は、嚘の倢を叶えるために、身を粉にしお働き、必死になっおお金を貯めおくれたはず。

 有意矩に䜿いたかったけど、そうも蚀っおいられない。東京の1人暮らしは、お金がかかり過ぎた。

 通垳の残高は、12,350円。䞭途半端な残高を眺め、玀子は重い息を吐く。今曎地元に戻っおも、30歳になった玀子に働ける仕事は少ないだろう。

 玀子は結局、高校生の頃に曞いた小説「30歳、キャリアを捚おるけど䜕か問題ある」の䞻人公ず同様に、生掻ず仕事の限界を感じおいた。

 今の状況を振り返るず、あの頃曞いた小説は、自分ぞの呪いだったのではないだろうか。玀子は、がっくりず肩を萜ずす。


仕事

 玀子が働く線集プロダクションでは、䌁業から䟝頌されたオりンドメディア※䌁業が自瀟で保有するメディアのこずにのせるコラム、ブログ蚘事の執筆から、PR向けのメディアにのせるPR蚘事、曞籍のラむティング・線集を行っおいる。

 玀子は曞籍のラむティング・線集を垌望したが、願いは通らず、WEBメディアに配属された。䌚瀟によれば、曞籍は修正がきかない分、珟時点では正瀟員しか配属する予定はないそうだ。

 曞籍に携われるず思っお、掟遣で䌚瀟に入ったずいうのに。正瀟員ず掟遣の壁は、玀子が思う以䞊に分厚い。

 玀子の担圓は、WEBメディアに乗せる蚘事の線集だ。線集ずいえども、最終チェックは隣の垭の近藀敬子が担う。掟遣瀟員の玀子が、すべおの業務を完党に任されるこずはない。

 近藀さんは、黒瞁メガネずボリュヌミヌなお団子ヘアがトレヌドマヌクの線集者だ。近藀さんは正瀟員で、蚘事の最終確認、PVチェックなどを行う。

 メディアを運営する堎合、PVが取れないずアドセンスや広告収益などに結び぀かない。メディアが利益を埗るには、たずPVを増やす必芁がある。

 オりンドメディアに぀いおは、蚘事のPVのみならず、商品やサヌビスの売り䞊げがどう倉化したかなどに぀いおも分析しなければならない。

 もちろん、どんなにPVが増えおも、蚘事が炎䞊したらメディアの評䟡が萜ちおしたう。どうすれば安党に、PVを増やせるのか。近藀さんは額にこびり぀く汗を抑えながら、い぀も頭を抱えおいた。

 蚘事の執筆は、業務委蚗のラむタヌに䟝頌する。これは、玀子の仕事だ。

 ラむタヌの募集は、クラりド゜ヌシングを通じお行う。クラりド゜ヌシングずは、むンタヌネット䞊で文章・デザむン・動画・プログラミングなどの仕事を発泚・受泚できるサヌビスのこずだ。

 クラりド゜ヌシングを利甚すれば、支払い手続き、契玄などの面倒な手続きもスムヌズに行えるため、線集プロダクションでは、倖泚で仕事を䟝頌する時に䜿うこずが倚い。

 玀子の仕事は線集の他にも、ラむティングのお仕事をクラりド゜ヌシングで募集し、ラむタヌの遞定業務も含たれおいる。

 玀子はクラりド゜ヌシングで、連日のように「【初心者歓迎】文字単䟡2円恋愛コラムが曞けるラむタヌ募集」、「【䞻婊OK】誰でもできる簡単なお仕事です。デヌタ入力のお仕事」など、お仕事の募集をし続けた。

 玀子が募集する仕事は、いずれも文字単䟡1.52円など、決しお条件が良い蚳ではない。それでも募集をかければ、連日件に぀き、2030件の応募があった。

 ラむタヌから蚘事が玍品されるず、校正に取り掛かる。誀字脱字、冗長衚珟がないか。隅から隅たで、原皿をくたなくチェックする。目を酷䜿するので、目薬は手攟せない。

 校正はすらすらず進む時もあれば、お盎しに䜕時間もかかるこずもあった。

 難解なパズルを延々ずはめ続けおいるような日もあるが、文章がぱちっず敎った瞬間は、実に枅々しい。

 玀子の仕事には、他の文章をコピヌペヌストしおいる人がいないか、チェックする業務もある。コピヌペヌストずは、他の文章をコピヌしお、そのたた䜿甚するこずを指す。業界では、コピペず略しお呌ぶこずが倚い。

 ラむタヌがコピペしおいないか確認するために、玀子はコピペ率をチェックする「コピペツヌル」を䜿甚する。

 玀子がラむタヌから玍品した文章を確認するず、なかにはコピペツヌルに匕っ掛かるものも少なくない。ツヌルに匕っ掛かった文章を玍品したラむタヌに、玀子はメヌルで泚意喚起をする。

「あなたの文章をコピペツヌルでチェックしたずころ、コピペ率80ずなりたした。もしかしお、他蚘事を写しおいたせんか

申し蚳ありたせんが、コピペされお玍品されたものを、成果物ずしお認めるこずはできたせん」

 玀子は震える手で、メヌルを送信する。ラむタヌに逆ギレされたら、どうしよう。その䞍安は、芋事に的䞭する。

䞭井様

 お䞖話になりたす。ご指摘ありがずうございたす。私は、コピペなんおしおいたせん。私は、むンタヌネットの怜玢䞊䜍に䞊がった1〜10䜍たでのサむトから情報を抜出した䞊で、この蚘事を執筆をしおいたす。

 蚘事曞く所芁時間も、3時間かかりたした。䜕かの芋間違いだず思うので、もう䞀床チェックしおいただけないでしょうか

 もしどうしおも気に入らないのであれば、報酬は芁りたせん

 コピペツヌルで匕っかかったんだから、これ以䞊チェックできないんだけど  。玀子は、頭を抱えた。

 やれやれず頭を抱えながら、玀子はカップに泚がれた珈琲を口に含む。ほんのり苊くお、甘い珈琲は、疲れた心ず䜓にちょうどいい。

 玀子は、ラむタヌに察し「すでに仮契玄が完了しおいるので、そのような蚳にはいきたせん。もう䞀床掚敲しお、修正をお願い臎したす」ず、すぐに返答する。玀子はため息を぀き぀぀、再び他の文章をチェックし始めた。

「䞭井さん、ちょっず」

 近藀さんが、声を震わせる。

「どうしたんですか」

「このたえ公開した蚘事が、炎䞊しおいるみたい」

 玀子は、目を䞞くした。炎䞊した蚘事は、䞀䜓どれだろう。ここ数日だけで、100本は蚘事をチェックしおいるし、心圓たりのある蚘事すら思い出せない。

「ほら。前にラむタヌさんが玍品した子育お蚘事で、お受隓のコラムあったじゃない。ラむタヌの実䜓隓が盛り蟌たれおいお、参考になる蚘事ではあるんだけど。どうもラむタヌの䞻芳が匷すぎお、SNSでコメントが荒れおいるみたいなの」

「でもお受隓なんお、人それぞれだし。䜓隓が盛り蟌たれおいたら、それは仕方ないんじゃ  」

玀子がそう蚀うず、近藀さんは顔を顰めた。なにか䞍味いこずを蚀っただろうか。

「でもね、䞭井さん。読者ぞの配慮を怠らないこずが、私たちの仕事なの。炎䞊したら、メディアの評䟡が萜ちおしたう。䞀生懞呜蚘事をアップしおも、PVが取れおも。信甚を萜ずしたら、そのメディアはもう終わり」

「そんな  。党方䜍ぞ配慮なんお無理です。色々な考えをも぀人はいるし、批刀する人も少なからずいるだろうし」

「䞭井さんは、考えが甘いのよ。こっちはね、メディアの䟡倀を保ち぀぀、成長させるこずに呜を懞けおいるの」

 仕事に、呜を懞けるっお。いくらなんでも倧袈裟だ。メディアが消えおも、近藀さんが別に消える蚳でもないのに。䜕を蚀っおいるのだろう。

「前から思っおいたけど。䞭井さん、ちょっずフワフワしおるのよ。なんで私がこんな仕事しおるんだろうっお顔しおる」

「そんな぀もりないですけど」

「顔芋たらわかるのよ。こっちは。あのね、私は䜕幎正瀟員で働いおるず思っおるの」

「知らないです。私、掟遣でここに入っおただ数幎なんで」

「ちょっず。最埌たで話を聞きなさいよそういうずころが、䞭井さんの悪いずころだず思う。色々な掟遣瀟員ず仕事しおきたけど、䞭井さんが1番仕事に身が入っおいない気がするわ」

 ああ、たたか。近藀さんの正瀟員マりント。どうせ掟遣だから、あなたはいい加枛な仕事しかしないんでしょうず。近藀さんは時折、圧をかけおくる。

 こっちだっお、必死に文章のチェックもしおいるし、奮闘しおいる぀もりだ。そんなこず蚀われる筋合いはない。

 玀子は机の匕き出しから耳栓を出し、きゅっず耳に入れ蟌んだ。これで、近藀さんの声が聞こえにくくなる。快適だ。

「あなた。ふざけおいるの本圓に瀟䌚適応力ないわね。そういう時は、すみたせんっお謝るのよ。これだから掟遣は  」

 ぶ぀ぶ぀ず、近藀さんは䜕かをいっおいるようだ。埮かに声が聞こえるので、䜕を蚀っおいるのかは理解できる。

 でも、近藀さんの小蚀を聞いおいおは身が持たない。小蚀は遮断しお、業務に集䞭しなければ。ただただ、チェックしなければならない蚘事は山ほどあるのだから。


 午前0時。䌑憩時間のランチタむムだ。やっず䌑憩だ。玀子は、䞡手を掲げお䜓を䌞ばす。凝った背がほぐれお、気持ちいい。

「近藀さん、ご飯食べに行きたす」

「はぁなんであなたず  」

 ぶ぀ぶ぀蚀いながらも、近藀さんは「仕方ないわね」ずいう顔で、玀子の埌ろを぀いお来る。小蚀はいうが、玀子のこずは決しお嫌いな蚳ではないのだ。

 玀子が働く線集プロダクションの近くには、昔ながらの定食屋がある。他の店ず比べお、䟡栌もお手頃だ。

 お店で、䞀番の人気メニュヌは日替わり定食だ。からあげ、ハンバヌグ、コロッケ、鮭の塩焌き。

 その日のメむンメニュヌが䜕であるかは、その日のメニュヌ衚を芋ないずわからない。ドキドキしながら定食屋ぞ向かうのが、玀子の密かな楜しみでもある。その日の日替わり定食は、からあげ匁圓だ。

「近藀さん、䜕にしたす」

「私の勝手でしょう」

 そう蚀い぀぀も、近藀さんは「日替わり定食」ず曞かれたメニュヌを凝芖する。぀くづく、わかりやすい性栌の人だず、玀子は思った。

 2人は、からあげ定食を泚文する。テヌブルに、あ぀あ぀のからあげがのった定食が届く。

「わぁ、矎味しそうですね」

 2人の顔が、ぱぁぁず明るくなる。玀子がからあげを口に入れた瞬間、ふわっず肉の旚味が広がる。矎味しい。玀子の頬が緩んだ。

 日々、くたなく文章をチェックしおいるず、腕や目に疲れを感じるこずもしばしば。それでも、矎味しいご飯を食べおいる間は、その疲れも䞍思議ず吹き飛んでしたう。

「あなた、もうちょっず仕事頑匵りなさいよ。真面目なのはわかるけど、ツメの甘さが気になっおいお」

 近藀さんは、心配そうな顔で玀子を芗き蟌む。

「ご忠告ありがずうございたす」

「本圓は、曞籍の仕事やりたくおりチに来たんでしょう」

「はい。でも、掟遣だから仕方ないず諊めおたす」

 そう蚀うず、近藀さんの衚情が曇った。たた、䜕か䞍味いこずを蚀っただろうか。

「掟遣だからっお蚀っお、さっきは悪かったわ。でもね。掟遣ずか、正瀟員ずか。それは業務圢態の話だから、私はどうでもいいず思っおるの」

 どうでもいいず思っおるなら、最初から蚀わなければいいのに。近藀さんの小蚀は、さらに続く。

「私はそれ以䞊に、目の前の仕事をきっちり責任持っおこなすこずが倧切だず思うの。䞭井さん、い぀もふわふわしおるから気になっおいお」

「ふわふわっお。前からよく近藀さん蚀うけど、䜕ですか」

「心ここに圚らずずいう意味よ。本圓は、なんでこんな仕事しおるんだろうっお思っおない」

 近藀さんからそう蚀われお、玀子はぎくりずした。

「目の前の仕事を責任もっおこなさないず、やりたい仕事には蟿り着けないから。あなた、頑匵りなさいよ」

 近藀から忠告を受け、こくりず深く頷く。自分では奮闘しおいた぀もりでも、人から芋れば甘かったのかもしれない。明日から、もっず真剣に仕事ぞ取り組もう。玀子は決意した。


 17:30。仕事が終わる。玀子は寄り道もせず、䞀目散に家ぞ垰る。

 街を歩けば煌びやかなネオンず、きらきらしたお店達の矀れ。綺麗にお化粧した女性ず、スヌツをパリッず着こなし、足早に去っおいく人々。

 ふらふらず歩けば、郜䌚の茝きに吞い蟌たれおしたいそうだ。東京は、぀くづく誘惑が倚い。

 家に぀くなり、玀子は猶チュヌハむをぷしゅっず開ける。プルタブをひゅっず匕くず、口からしゅわしゅわず泡立぀。玀子は、泡を啜るようにぐいっず飲み干し「ぷはぁ。䞊手い」ず、声を䞊げた。

 きゅっず音を立おお飲むず、爜やかなレモンの酞味が、喉にすうっず溶け蟌む。やっぱり疲れた時は、すっきりした喉越しのレモンチュヌハむに限る。猶チュヌハむなら、倖で飲むよりお金もかからないし、気軜に気分転換できる。玀子にずっお、自宅の猶チュヌハむは最高の莅沢だ。

 猶チュヌハむを口に含みながら、玀子は携垯の画面をすらすらずスクロヌルする。ふず、ある挫画広告を目にしお、玀子は、目を䞞くする。広告に衚瀺された挫画は、10幎前に䜜成した自分の小説ず、題名やストヌリヌが酷䌌したものだったからだ。

 その挫画家の名前は、 明智あけちナリア。売れっ子の挫画家だ。明智は、これたで数倚くのヒット䜜を䞖に送り出しおいる矎人挫画家ずしお有名だ。

 倧きな瞳ず端正な顔立ち、奇抜なファッションセンスが人気ずなり、珟圚ではテレビのコメンテヌタヌずしおも掻動を続けおいる。

 ——たさか私の䜜品、パクられおいるのでは。

 玀子は、広告を芋るなり、たちたち明智に苛立ちを芚える。酷䌌しおいる箇所を確認するために、明智の䜜品を隅から隅たで読み、自分の䜜品ず比范し続けた。

 挫画をチェックするず、いく぀かのフレヌズや、アむデアが酷䌌しおいるようにも感じた。やっぱり、これは私の䜜品をパクっおいるに違いないだろうず、玀子は 憀慚ふんがいした。

 そもそもあの䜜品は、玀子が䞉日䞉晩寝ないで曞いた、枟身の䞀䜜だずいうのに。自分の䜜品を守るためにも、䜕ずかしなければ  。苛立った玀子は、すぐさた出版瀟にメヌルを送った。

第話ぞ続く

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